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「総論第5章 鑑定評価の基本的事項」について
1.対象不動産の確定について
(1)鑑定評価の条件設定の意義
鑑定評価に際しては、現実の用途及び権利の態様並びに地域要因及び個別的要因を所与として不動産の価格を求めることのみでは多様な不動産取引の実態に即応することができず、社会的な需要に応ずることができない場合があるので、条件設定の必要性が生じてくる。
条件の設定は、依頼目的に応じて対象不動産の内容を確定し(対象確定条件)、設定する地域要因若しくは個別的要因についての想定上の条件を明確にし、又は不動産鑑定士の通常の調査では事実の確認が困難な特定の価格形成要因について調査の範囲を明確にするもの(調査範囲等条件)である。したがって、条件設定は、鑑定評価の妥当する範囲及び鑑定評価を行った不動産鑑定士の責任の範囲を示すという意義を持つものである。
(2)鑑定評価の条件設定の手順
鑑定評価の条件は、依頼内容に応じて設定するもので、不動産鑑定士は不動産鑑定業者の受付という行為を通じてこれを間接的に確認することとなる。しかし、同一不動産であっても設定された条件の如何によっては鑑定評価額に差異が生ずるものであるから、不動産鑑定士は直接、依頼内容の確認を行うべきである。
- ① 対象確定条件について
- ア 未竣工建物等鑑定評価は、価格時点において、当該建物等の工事が完了し、その使用収益が可能な状態であることを前提として鑑定評価を行うものであることに留意する。
- イ 「鑑定評価書の利用者」とは、依頼者及び提出先等(総論第8章第2節で規定されるものをいう。)のほか、法令等に基づく不動産鑑定士による鑑定評価を踏まえ販売される金融商品の購入者等をいう。
- ウ 対象確定条件を設定する場合において、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがある場合とは、鑑定評価の対象とする不動産の現実の利用状況と異なる対象確定条件を設定した場合に、現実の利用状況との相違が対象不動産の価格に与える影響の程度等について、鑑定評価書の利用者が自ら判断することが困難であると判断される場合をいう。
- ② 地域要因又は個別的要因についての想定上の条件の設定について
- ア 想定上の条件を設定する場合において、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがある場合とは、地域要因又は個別的要因についての想定上の条件を設定した価格形成要因が対象不動産の価格に与える影響の程度等について、鑑定評価書の利用者が自ら判断をすることが困難であると判断される場合をいう。
- イ 実現性とは、設定された想定上の条件を実現するための行為を行う者の事業遂行能力等を勘案した上で当該条件が実現する確実性が認められることをいう。なお、地域要因についての想定上の条件を設定する場合には、その実現に係る権能を持つ公的機関の担当部局から当該条件が実現する確実性について直接確認すべきことに留意すべきである。
- ウ 合法性とは、公法上及び私法上の諸規制に反しないことをいう。
- ③ 調査範囲等条件の設定について
- ア 不動産鑑定士の通常の調査の範囲では、対象不動産の価格への影響の程度を判断するための事実の確認が困難な特定の価格形成要因を例示すれば、次のとおりである。
- ア 土壌汚染の有無及びその状態
- イ 建物に関する有害な物質の使用の有無及びその状態
- ウ 埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態
- エ 隣接不動産との境界が不分明な部分が存する場合における対象不動産の範囲
- イ 特定の価格形成要因について調査範囲等条件を設定しても鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないと判断される場合を例示すれば、次のとおりである。
- (ア)依頼者等による当該価格形成要因に係る調査、査定又は考慮した結果に基づき、鑑定評価書の利用者が不動産の価格形成に係る影響の判断を自ら行う場合
- (イ)不動産の売買契約等において、当該価格形成要因に係る契約当事者間での取扱いが約定される場合
- (ウ)担保権者が当該価格形成要因が存する場合における取扱いについての指針を有し、その判断に資するための調査が実施される場合
- (エ)当該価格形成要因が存する場合における損失等が保険等で担保される場合
- (オ)財務諸表の作成のための鑑定評価において、当該価格形成要因が存する場合における引当金が計上される場合、財務諸表に当該要因の存否や財務会計上の取扱いに係る注記がなされる場合その他財務会計上、当該価格形成要因に係る影響の程度について別途考慮される場合
- ウ 調査範囲等条件を設定する価格形成要因については、当該価格形成要因の取扱いを明確にする必要がある。
- ア 不動産鑑定士の通常の調査の範囲では、対象不動産の価格への影響の程度を判断するための事実の確認が困難な特定の価格形成要因を例示すれば、次のとおりである。
2.価格時点の確定について
- (1)継続賃料の価格時点について
借地借家法第11条第1項又は第32条第1項に基づき賃料の増減が請求される場合における価格時点は、賃料増減請求に係る賃料改定の基準日となることに留意する必要がある。
- (2)過去時点の鑑定評価について
過去時点の鑑定評価は、対象不動産の確認等が可能であり、かつ、鑑定評価に必要な要因資料及び事例資料の収集が可能な場合に限り行うことができる。また、時の経過により対象不動産及びその近隣地域等が価格時点から鑑定評価を行う時点までの間に変化している場合もあるので、このような事情変更のある場合の価格時点における対象不動産の確認等については、価格時点に近い時点の確認資料等をできる限り収集し、それを基礎に判断すべきである。
- (3)将来時点の鑑定評価について
将来時点の鑑定評価は、対象不動産の確定、価格形成要因の把握、分析及び最有効使用の判定についてすべて想定し、又は予測することとなり、また、収集する資料についても鑑定評価を行う時点までのものに限られ、不確実にならざるを得ないので、原則として、このような鑑定評価は行うべきではない。ただし、特に必要がある場合において、鑑定評価上妥当性を欠くことがないと認められるときは将来の価格時点を設定することができるものとする。
3.鑑定評価によって求める価格の確定について
- (1)正常価格について 現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件について
- ① 買主が通常の資金調達能力を有していることについて
通常の資金調達能力とは、買主が対象不動産の取得に当たって、市場における標準的な借入条件(借入比率、金利、借入期間等)の下での借り入れと自己資金とによって資金調達を行うことができる能力をいう。
- ② 対象不動産が相当の期間市場に公開されていることについて
相当の期間とは、対象不動産の取得に際し必要となる情報が公開され、需要者層に十分浸透するまでの期間をいう。なお、相当の期間とは、価格時点における不動産市場の需給動向、対象不動産の種類、性格等によって異なることに留意すべきである。
また、公開されていることとは、価格時点において既に市場で公開されていた状況を想定することをいう(価格時点以降売買成立時まで公開されることではないことに留意すべきである。)。
- ① 買主が通常の資金調達能力を有していることについて
- (2)特定価格について
- ① 法令等について
法令等とは、法律、政令、内閣府令、省令、その他国の行政機関の規則、告示、訓令、通達等のほか、最高裁判所規則、条例、地方公共団体の規則、不動産鑑定士等の団体が定める指針(不動産の鑑定評価に関する法律第48条の規定により国土交通大臣に届出をした社団又は財団が定める指針であって国土交通省との協議を経て当該団体において合意形成がなされたものをいう。以下同じ。)、企業会計の基準、監査基準をいう。
- ② 特定価格を求める場合の例について
特定価格を求める場合の例として掲げられているものについて、それぞれの場合ごとに特定価格を求める理由は次のとおりである。
- ア 各論第3章第1節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合
この場合は、投資法人、投資信託又は特定目的会社等(以下「投資法人等」という。)の投資対象となる資産(以下「投資対象資産」という。)としての不動産の取得時又は保有期間中の価格として投資家に開示することを目的に、投資家保護の観点から対象不動産の収益力を適切に反映する収益価格に基づいた投資採算価値を求める必要がある。
投資対象資産としての不動産の取得時又は保有期間中の価格を求める鑑定評価については、上記鑑定評価目的の下で、資産流動化計画等により投資家に開示される対象不動産の運用方法を所与とするが、その運用方法による使用が対象不動産の最有効使用と異なることとなる場合には特定価格として求めなければならない。なお、投資法人等が投資対象資産を譲渡するときに依頼される鑑定評価で求める価格は正常価格として求めることに留意する必要がある。
- イ 民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合
この場合は、民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、財産を処分するものとしての価格を求めるものであり、対象不動産の種類、性格、所在地域の実情に応じ、早期の処分可能性を考慮した適正な処分価格として求める必要がある。鑑定評価に際しては、通常の市場公開期間より短い期間で売却されることを前提とするものであるため、早期売却による減価が生じないと判断される特段の事情がない限り特定価格として求めなければならない。
- ウ 会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合
この場合は、会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、現状の事業が継続されるものとして当該事業の拘束下にあることを前提とする価格を求めるものである。
鑑定評価に際しては、上記鑑定評価目的の下で、対象不動産の利用現況を所与とすることにより、前提とする使用が対象不動産の最有効使用と異なることとなる場合には特定価格として求めなければならない。
- ア 各論第3章第1節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合
- ① 法令等について