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「総論第7章 鑑定評価の方式」について

1.価格を求める鑑定評価の手法について

(1)試算価格を求める場合の一般的留意事項について

  • ① 取引事例等の選択について
    • ア 必要やむを得ない場合に近隣地域の周辺地域に存する不動産に係るものを選択する場合について

      この場合における必要やむを得ない場合とは、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産について収集した取引事例等の大部分が特殊な事情による影響を著しく受けていることその他の特別な事情により当該取引事例等のみによっては鑑定評価を適切に行うことができないと認められる場合をいう。

    • イ 対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等において同一需給圏内の代替競争不動産に係るものを選択する場合について

      この場合における「対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等」とは、次のような場合として例示される対象不動産の個別性のために近隣地域の制約の程度が著しく小さいと認められるものをいう。

      • (ア)戸建住宅地域において、近辺で大規模なマンションの開発がみられるとともに、立地に優れ高度利用が可能なことから、マンション適地と認められる大規模な画地が存する場合
      • (イ)中高層事務所として用途が純化された地域において、交通利便性に優れ広域的な集客力を有するホテルが存する場合
      • (ウ)住宅地域において、幹線道路に近接して、広域的な商圏を持つ郊外型の大規模小売店舗が存する場合
      • (エ)中小規模の事務所ビルが集積する地域において、敷地の集約化により完成した卓越した競争力を有する大規模事務所ビルが存する場合

    • ウ 代替、競争等の関係を判定する際の留意点について

      イの場合において選択する同一需給圏内の代替競争不動産に係る取引事例等は、次に掲げる要件に該当するものでなければならない。

      • (ア)対象不動産との間に用途、規模、品等等からみた類似性が明確に認められること。
      • (イ)対象不動産の価格形成に関して直接に影響を与えていることが明確に認められること。

  • ② 地域要因の比較及び個別的要因の比較について

    取引事例等として同一需給圏内の代替競争不動産に係るものを選択する場合において、価格形成要因に係る対象不動産との比較を行う際には、個別的要因の比較だけでなく市場の特性に影響を与えている地域要因の比較もあわせて行うべきことに留意すべきである。

(2)原価法について

  • ① 再調達原価を求める方法について
    • ア 建物の増改築・修繕・模様替等は、その内容を踏まえ、再調達原価の査定に適切に反映させなければならない。
    • イ 資金調達費用とは、建築費及び発注者が負担すべき費用に相当する資金について、建物引渡しまでの期間に対応する調達費用をいう。
    • ウ 開発リスク相当額とは、開発を伴う不動産について、当該開発に係る工事が終了し、不動産の効用が十分に発揮されるに至るまでの不確実性に関し、事業者(発注者)が通常負担する危険負担率を金額で表示したものである。

  • ② 減価修正の方法について
    • ア 対象不動産が建物及びその敷地である場合において、土地及び建物の再調達原価についてそれぞれ減価修正を行った上で、さらにそれらを加算した額について減価修正を行う場合があるが、それらの減価修正の過程を通じて同一の減価の要因について重複して考慮することのないよう留意するべきである。
    • イ 耐用年数に基づく方法及び観察減価法を適用する場合においては、対象不動産が有する市場性を踏まえ、特に、建物の増改築・修繕・模様替等の実施が耐用年数及び減価の要因に与える影響の程度について留意しなければならない。

(3)取引事例比較法について

この手法の適用に当たっては、多数の取引事例を収集し、価格の指標となり得る事例の選択を行わなければならないが、その有効性を高めるため、取引事例はもとより、売り希望価格、買い希望価格、精通者意見等の資料を幅広く収集するよう努めるものとする。
なお、これらの資料は、近隣地域等の価格水準及び地価の動向を知る上で十分活用し得るものである。

  • ① 事例の収集について

    豊富に収集された取引事例の分析検討は、個別の取引に内在する特殊な事情を排除し、時点修正率を把握し、及び価格形成要因の対象不動産の価格への影響の程度を知る上で欠くことのできないものである。

    特に、選択された取引事例は、取引事例比較法を適用して比準価格を求める場合の基礎資料となるものであり、収集された取引事例の信頼度は比準価格の精度を左右するものである。

    取引事例は、不動産の利用目的、不動産に関する価値観の多様性、取引の動機による売主及び買主の取引事情等により各々の取引について考慮されるべき視点が異なってくる。

    したがって、取引事例に係る取引事情を始め取引当事者の属性(本留意事項の「Ⅳ『総論第6章 地域分析及び個別分析』について」に掲げる市場参加者の属性に同じ。)及び取引価格の水準の変動の推移を慎重に分析しなければならない。

  • ② 事情補正について

    事情補正の必要性の有無及び程度の判定に当たっては、多数の取引事例等を総合的に比較対照の上、検討されるべきものであり、事情補正を要すると判定したときは、取引が行われた市場における客観的な価格水準等を考慮して適切に補正を行わなければならない。

    事情補正を要する特殊な事情を例示すれば、次のとおりである。

    • ア 補正に当たり減額すべき特殊な事情
      • (ア)営業上の場所的限定等特殊な使用方法を前提として取引が行われたとき。
      • (イ)極端な供給不足、先行きに対する過度に楽観的な見通し等特異な市場条件の下に取引が行われたとき。
      • (ウ)業者又は系列会社間における中間利益の取得を目的として取引が行われたとき。
      • (エ)買手が不動産に関し明らかに知識や情報が不足している状態において過大な額で取引が行われたとき。
      • (オ)取引価格に売買代金の割賦払いによる金利相当額、立退料、離作料等の土地の対価以外のものが含まれて取引が行われたとき。

    • イ 補正に当たり増額すべき特殊な事情
      • (ア)売主が不動産に関し明らかに知識や情報が不足している状態において、過少な額で取引が行われたとき。
      • (イ)相続、転勤等により売り急いで取引が行われたとき。

    • ウ 補正に当たり減額又は増額すべき特殊な事情
      • (ア)金融逼迫、倒産時における法人間の恩恵的な取引又は知人、親族間等人間関係による恩恵的な取引が行われたとき。
      • (イ)不相応な造成費、修繕費等を考慮して取引が行われたとき。
      • (ウ)調停、清算、競売、公売等において価格が成立したとき。

  • ③ 時点修正について
    • ア 時点修正率は、価格時点以前に発生した多数の取引事例について時系列的な分析を行い、さらに国民所得の動向、財政事情及び金融情勢、公共投資の動向、建築着工の動向、不動産取引の推移等の社会的及び経済的要因の変化、土地利用の規制、税制等の行政的要因の変化等の一般的要因の動向を総合的に勘案して求めるべきである。
    • イ 時点修正率は原則として前記アにより求めるが、地価公示、都道府県地価調査等の資料を活用するとともに、適切な取引事例が乏しい場合には、売り希望価格、買い希望価格等の動向及び市場の需給の動向等に関する諸資料を参考として用いることができるものとする。

(4)収益還元法について

① 直接還元法の適用について

  • ア 一期間の純収益の算定について

    直接還元法の適用において還元対象となる一期間の純収益と、それに対応して採用される還元利回りは、その把握の仕方において整合がとれたものでなければならない。

    すなわち、還元対象となる一期間の純収益として、ある一定期間の標準化されたものを採用する場合には、還元利回りもそれに対応したものを採用することが必要である。

    また、建物その他の償却資産(以下「建物等」という。)を含む不動産の純収益の算定においては、基本的に減価償却費を控除しない償却前の純収益を用いるべきであり、それに対応した還元利回りで還元する必要がある。

\[P = \frac{a}{R}\]
    • P:建物等の収益価格
    • a:建物等の償却前の純収益
    • R:償却前の純収益に対応する還元利回り

一方、減価償却費を控除した償却後の純収益を用いる場合には、還元利回りも償却後の純収益に対応するものを用いなければならない。
減価償却費の算定方法には定額法、償還基金率を用いる方法等があり、適切に用いることが必要である。

\[P = \frac{a'}{R'}\]
    • P:建物等の収益価格
    • a':建物等の償却後の純収益
    • R':償却後の純収益に対応する還元利回り

なお、減価償却費と償却前の純収益に対応する還元利回りを用いて償却後の純収益に対応する還元利回りを求める式は以下のとおりである。

\[R' = \frac{a'}{a' - d} R\]
    • R':償却後の純収益に対応する還元利回り
    • R:償却前の純収益に対応する還元利回り
    • a':償却後の純収益
    • d:減価償却費

  • イ 土地残余法

    対象不動産が更地である場合において、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定し、収益還元法以外の手法によって想定建物等の価格を求めることができるときは、当該想定建物及びその敷地に基づく純収益から想定建物等に帰属する純収益を控除した残余の純収益を還元利回りで還元する手法(土地残余法という。)を適用することができる。

    また、不動産が敷地と建物等との結合によって構成されている場合においても、収益還元法以外の手法によって建物等の価格を求めることができるときは、土地残余法を適用することができるが、建物等が古い場合には複合不動産の生み出す純収益から土地に帰属する純収益が的確に求められないことが多いので、建物等は新築か築後間もないものでなければならない。

    土地残余法は、土地と建物等から構成される複合不動産が生み出す純収益を土地及び建物等に適正に配分することができる場合に有効である。

\[P_L = \frac{a - B R_B}{R_L}\]
    • PL:土地の収益価格
    • a:建物等及びその敷地の償却前の純収益
    • B:建物等の価格
    • RB:償却前の純収益に対応する建物等の還元利回り
    • RL:土地の還元利回り

なお、土地残余法の適用に当たっては、賃貸事業におけるライフサイクルの観点を踏まえて、複合不動産が生み出す純収益及び土地に帰属する純収益を適切に求める必要がある。

  • ウ 建物残余法

    不動産が敷地と建物等との結合によって構成されている場合において、収益還元法以外の手法によって敷地の価格を求めることができるときは、当該不動産に基づく純収益から敷地に帰属する純収益を控除した残余の純収益を還元利回りで還元する手法(建物残余法という。)を適用することができる。

    建物残余法は、土地と建物等から構成される複合不動産が生み出す純収益を土地及び建物等に適正に配分することができる場合に有効である。

    建物残余法を適用して建物等の収益価格を求める場合は、基本的に次の式により表される。

\[P_B = \frac{a - L R_L}{R_B}\]
    • PB:建物等の収益価格
    • a:建物等及びその敷地の償却前の純収益
    • L:土地の価格
    • RL:土地の還元利回り
    • RB:償却前の純収益に対応する建物等の還元利回り

  • エ 有期還元法

    不動産が敷地と建物等との結合により構成されている場合において、その収益価格を、不動産賃貸又は賃貸以外の事業の用に供する不動産経営に基づく償却前の純収益に割引率と有限の収益期間とを基礎とした複利年金現価率を乗じて求める方法があり、基本的に次の式により表される。

\[P = a \frac{(1+Y)^N - 1}{Y(1+Y)^N}\]
    • P:建物等及びその敷地の収益価格
    • a:建物等及びその敷地の償却前の純収益
    • Y:割引率
    • N:収益期間(収益が得られると予測する期間であり、ここでは建物等の経済的残存耐用年数と一致する場合を指す。)

\[\frac{(1+Y)^N - 1}{Y(1+Y)^N}\]
    • 複利年金現価率

なお、複利年金現価率を用い、収益期間満了時における土地の価格、及び建物等の残存価格又は建物等の撤去費をそれぞれ現在価値に換算した額を加減する方法(インウッド式)がある。
この方法の考え方に基づき、割引率を用いた式を示すと次のようになる。

\[P = a \frac{(1+Y)^n - 1}{Y(1+Y)^n} + \frac{P_{Ln} + P_{Bn}}{(1+Y)^n}\]
\[P = a \frac{(1+Y)^N - 1}{Y(1+Y)^N} + \frac{P_{LN} - E}{(1+Y)^N}\]
    • P:建物等及びその敷地の収益価格
    • a:建物等及びその敷地の償却前の純収益
    • Y:割引率
    • N, n:収益期間(収益が得られると予測する期間であり、ここでは建物等の経済的残存耐用年数と一致する場合にはN、建物等の経済的残存耐用年数より短い期間である場合はnとする。)
    • PLn:n年後の土地価格
    • PBn:n年後の建物等の価格
    • PLN:N年後の土地価格
    • E:建物等の撤去費

また、上記複利年金現価率の代わりに蓄積利回り等を基礎とした償還基金率と割引率とを用いる方法(ホスコルド式)がある。
この方法の考え方に基づき、割引率を用いた式を示すと次のようになる。

\[P = a \times \frac{1}{Y + \frac{i}{(1+i)^n - 1}} + \frac{P_{Ln} + P_{Bn}}{(1+Y)^n}\]
\[P = a \times \frac{1}{Y + \frac{i}{(1+i)^n - 1}} + \frac{P_{LN} - E}{(1+Y)^N}\]
    • P:建物等及びその敷地の収益価格
    • a:建物等及びその敷地の償却前の純収益
    • Y:割引率
    • i:蓄積利回り
    • N, n:収益期間(収益が得られると予測する期間であり、ここでは建物等の経済的残存耐用年数と一致する場合にはN、建物等の経済的残存耐用年数より短い期間である場合はnとする。)

\[\frac{i}{(1+i)^n - 1}\]
    • 償還基金率

    • PLn:n年後の土地価格
    • PBn:n年後の建物等の価格
    • PLN:N年後の土地価格
    • E:建物等の撤去費

  • オ 還元利回りの求め方

    還元利回りは、市場の実勢を反映した利回りとして求める必要があり、還元対象となる純収益の変動予測を含むものであることから、それらの予測を的確に行い、還元利回りに反映させる必要がある。

    還元利回りを求める方法を例示すれば次のとおりであるが、適用に当たっては、次の方法から一つの方法を採用する場合又は複数の方法を組み合わせて採用する場合がある。

    また、必要に応じ、投資家等の意見や整備された不動産インデックス等を参考として活用する。

    • (ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法

      取引事例の収集及び選択については、総論第7章に定める取引事例比較法の適用方法に準ずる。

      取引事例から得られる利回り(以下「取引利回り」という。)については、償却前後のいずれの純収益に対応するものであるかに留意する必要がある。

      あわせて純収益について特殊な要因(新築、建替え直後で稼働率が不安定である等)があり、適切に補正ができない取引事例は採用すべきでないことに留意する必要がある。

      この方法は、対象不動産と類似性の高い取引事例に係る取引利回りが豊富に収集可能な場合には特に有効である。

    • (イ)借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法

      この方法は、不動産の取得に際し標準的な資金調達能力を有する需要者の資金調達の要素に着目した方法であり、不動産投資に係る利回り及び資金調達に際する金融市場の動向を反映させることに優れている。

      上記による求め方は基本的に次の式により表される。

\[R = R_M W_M + R_E W_E\]
      • R:還元利回り
      • RM:借入金還元利回り
      • WM:借入金割合
      • RE:自己資金還元利回り
      • WE:自己資金割合

    • (ウ)土地と建物等に係る還元利回りから求める方法

      この方法は、対象不動産が土地及び建物等により構成されている場合に、土地及び建物等に係る利回りが異なるものとして把握される市場においてそれらの動向を反映させることに優れている。

      上記による求め方は基本的に次の式により表される。

\[R = R_L W_L + R_B W_B\]
      • R:還元利回り
      • RL:土地の還元利回り
      • WL:土地の価格割合
      • RB:建物等の還元利回り
      • WB:建物等の価格割合

    • (エ)割引率との関係から求める方法

      この方法は、純収益が永続的に得られる場合で、かつ純収益が一定の趨勢を有すると想定される場合に有効である。

      還元利回りと割引率との関係を表す式の例は、次のように表される。

\[R = Y - g\]
      • R:還元利回り
      • Y:割引率
      • g:純収益の変動率

    • (オ)借入金償還余裕率の活用による方法

      この方法は、借入金還元利回りと借入金割合をもとに、借入金償還余裕率(ある期間の純収益を同期間の借入金元利返済額で除した値をいう。)を用いて対象不動産に係る純収益からみた借入金償還の安全性を加味して還元利回りを求めるものである。

      この場合において用いられる借入金償還余裕率は、借入期間の平均純収益をもとに算定すべきことに留意する必要がある。

      この方法は、不動産の購入者の資金調達に着目し、対象不動産から得られる収益のみを借入金の返済原資とする場合に有効である。

      上記による求め方は基本的に次の式により表される。

\[R = R_M W_M \times DSCR\]
      • R:還元利回り
      • RM:借入金還元利回り
      • WM:借入金割合
      • DSCR:借入金償還余裕率(通常は1.0以上であることが必要。)

② DCF法の適用について

DCF法は、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を予測しそれらを明示することから、収益価格を求める過程について説明性に優れたものである。
なお、対象不動産が更地である場合においても、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定することによりこの方法を適用することができる。

  • ア 毎期の純収益の算定について

    建物等の純収益の算定においては、基本的には減価償却費を控除しない償却前の純収益を用いるものとし、建物等の償却については復帰価格において考慮される。

    • (ア)総収益の算定

      一時金のうち預り金的性格を有する保証金等については、全額を返還準備金として預託することを想定しその運用益を発生時に計上する方法と全額を受渡時の収入又は支出として計上する方法とがある。

    • (イ)総費用の算定

      大規模修繕費等の費用については、当該費用を毎期の積み立てとして計上する方法と、実際に支出される時期に計上する方法がある。

      実際に支出される時期の予測は、対象不動産の実態に応じて適切に行う必要がある。

  • イ 割引率の求め方について

    割引率は、市場の実勢を反映した利回りとして求める必要があり、一般に1年を単位として求める。

    また、割引率は収益見通しにおいて考慮されなかった収益予測の不確実性の程度に応じて異なることに留意する。

    割引率を求める方法を例示すれば次のとおりであるが、適用に当たっては、下記の方法から一つの方法を採用する場合又は複数の方法を組み合わせて採用する場合がある。

    また、必要に応じ、投資家等の意見や整備された不動産インデックス等を参考として活用する。

    • (ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法

      取引事例の収集及び選択については、総論第7章に定める取引事例比較法に係る適用方法に準ずる。

      取引事例に係る割引率は、基本的に取引利回りをもとに算定される内部収益率(Internal Rate of Return(IRR)。将来収益の現在価値と当初投資元本とを等しくする割引率をいう。)として求める。

      適用に当たっては、取引事例について毎期の純収益が予測可能であることが必要である。

      この方法は、対象不動産と類似性を有する取引事例に係る利回りが豊富に収集可能な場合には特に有効である。

    • (イ)借入金と自己資金に係る割引率から求める方法

      この方法は、不動産の取得に際し標準的な資金調達能力を有する需要者の資金調達の要素に着目した方法であり、不動産投資に係る利回り及び資金調達に際する金融市場の動向を反映させることに優れている。

      適用に当たっては、不動産投資において典型的な投資家が想定する借入金割合及び自己資金割合を基本とすることが必要である。

      上記による求め方は基本的に次の式により表される。

\[Y = Y_M \times W_M + Y_E \times W_E\]
      • Y:割引率
      • YM:借入金割引率
      • WM:借入金割合
      • YE:自己資金割引率
      • WE:自己資金割合

    • (ウ)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法

      比較の対象となる金融資産の利回りとしては、一般に10年物国債の利回りが用いられる。

      また、株式や社債の利回り等が比較対象として用いられることもある。

      不動産の個別性として加味されるものには、投資対象としての危険性、非流動性、管理の困難性、資産としての安全性があり、それらは自然災害等の発生や土地利用に関する計画及び規制の変更によってその価値が変動する可能性が高いこと、希望する時期に必ずしも適切な買い手が見つかるとは限らないこと、賃貸経営管理について専門的な知識と経験を必要とするものであり管理の良否によっては得られる収益が異なること、特に土地については一般に滅失することがないことなどをいう。

      この方法は、対象不動産から生ずる収益予測の不確実性が金融資産との比較において把握可能な場合に有効である。

  • ウ 保有期間(売却を想定しない場合には分析期間)について

    保有期間は、毎期の純収益及び復帰価格について精度の高い予測が可能な期間として決定する必要があり、不動産投資における典型的な投資家が保有する期間を標準とし、典型的な投資家が一般に想定しないような長期にわたる期間を設定してはならない。

  • エ 復帰価格の求め方について

    保有期間満了時点において売却を想定する場合には、売却に要する費用を控除することが必要である。

    復帰価格を求める際に、n+1期の純収益を最終還元利回りで還元して求める場合においては、n+1期以降の純収益の変動予測及び予測に伴う不確実性をn+1期の純収益及び最終還元利回りに的確に反映させることが必要である。

    なお、保有期間満了時点以降において、建物の取壊しや用途変更が既に計画されている場合又は建物が老朽化していること等により取壊し等が見込まれる場合においては、それらに要する費用を考慮して復帰価格を求めることが必要である。

  • オ 最終還元利回りの求め方について

    最終還元利回りは、価格時点の還元利回りをもとに、保有期間満了時点における市場動向並びにそれ以降の収益の変動予測及び予測に伴う不確実性を反映させて求めることが必要である。

③ 事業用不動産について

  • ア 賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産のうち、その収益性が当該事業(賃貸用不動産にあっては賃借人による事業)の経営の動向に強く影響を受けるもの(以下「事業用不動産」という。)を例示すれば、次のとおりである。
    • (ア)ホテル等の宿泊施設
    • (イ)ゴルフ場等のレジャー施設
    • (ウ)病院、有料老人ホーム等の医療・福祉施設
    • (エ)百貨店や多数の店舗により構成されるショッピングセンター等の商業施設

  • イ 事業用不動産の特性
    • (ア)運営形態の多様性

      事業用不動産に係る事業の運営形態については、その所有者の直営による場合、外部に運営が委託される場合、当該事業用不動産が賃貸される場合等多様であり、こうした運営形態の違いにより、純収益の把握の仕方や、当該純収益の実現性の程度が異なる場合があることに留意すべきである。

    • (イ)事業用不動産に係る収益性の分析

      事業用不動産に係る収益性の分析に当たっては、事業経営に影響を及ぼす社会経済情勢、当該不動産の存する地域において代替、競争等の関係にある不動産と比べた優劣及び競争力の程度等について中長期的な観点から行うことが重要である。

      また、依頼者等から提出された事業実績や事業計画等は、上記の分析における資料として有用であるが、当該資料のみに依拠するのではなく、当該事業の運営主体として通常想定される事業者(以下「運営事業者」という。)の視点から、当該実績・計画等の持続性・実現性について十分に検討しなければならない。

    • (ウ)事業用不動産に係る総収益の把握における留意点

      事業用不動産については、その利用方法において個別性が高く、賃貸借の市場が相対的に成熟していないため、賃貸借の事例をもとに適正な賃料を把握することが困難な場合が多い。

      したがって、当該事業による売上高をもとに支払賃料等相当額を算定する場合には、その事業採算性の観点から、適正な賃料水準を把握する必要がある。

      また、事業用不動産が現に賃貸借に供されている場合においても、現行の賃貸借契約における賃料と、事業採算性の観点から把握した適正な賃料水準との関係について分析を行うことが有用である。

      これらの場合においては、将来における事業経営の動向を中長期的な観点から分析し、当該賃料等が、相当の期間、安定的に収受可能な水準であるかについて検討する必要がある。

      なお、運営事業者が通常よりも優れた能力を有することによって生じる超過収益は、本来、運営事業者の経営等に帰属するものであるが、賃貸借契約において当該超過収益の一部が不動産の所有者に安定的に帰属することについて合意があるときには、当該超過収益の一部が当該事業用不動産に帰属する場合があることに留意すべきである。

2.賃料を求める鑑定評価の手法について

(1)積算法について

基礎価格を求めるに当たっては、次に掲げる事項に留意する必要がある。

  • ① 宅地の賃料(いわゆる地代)を求める場合
    • ア 最有効使用が可能な場合は、更地の経済価値に即応した価格である。
    • イ 建物の所有を目的とする賃貸借等の場合で契約により敷地の最有効使用が見込めないときは、当該契約条件を前提とする建付地としての経済価値に即応した価格である。

  • ② 建物及びその敷地の賃料(いわゆる家賃)を求める場合

    建物及びその敷地の現状に基づく利用を前提として成り立つ当該建物及びその敷地の経済価値に即応した価格である。

(2)賃貸事例比較法について

  • ① 事例の選択について
    • ア 賃貸借等の事例の選択に当たっては、新規賃料、継続賃料の別又は建物の用途の別により賃料水準が異なるのが一般的であることに留意して、できる限り対象不動産に類似した事例を選択すべきである。
    • イ 契約内容の類似性を判断する際の留意事項を例示すれば、次のとおりである。
      • (ア)賃貸形式
      • (イ)賃貸面積
      • (ウ)契約期間並びに経過期間及び残存期間
      • (エ)一時金の授受に基づく賃料内容
      • (オ)賃料の算定の期間及びその支払方法
      • (カ)修理及び現状変更に関する事項
      • (キ)賃貸借等に供される範囲及びその使用方法

  • ② 地域要因の比較及び個別的要因の比較について

    賃料を求める場合の地域要因の比較に当たっては、賃料固有の価格形成要因が存すること等により、価格を求める場合の地域と賃料を求める場合の地域とでは、それぞれの地域の範囲及び地域の格差を異にすることに留意することが必要である。

    賃料を求める場合の個別的要因の比較に当たっては、契約内容、土地及び建物に関する個別的要因等に留意することが必要である。