土壌汚染対策法とは?不動産取引で知るべき土壌汚染規制を解説
土壌汚染対策法の仕組みと不動産鑑定評価への影響を解説。特定有害物質の種類、区域指定の種類、調査義務の発生契機、不動産取引における留意点、鑑定士試験の出題ポイントを説明します。
土壌汚染対策法とは
土壌汚染対策法(平成14年法律第53号)は、土壌汚染の状況の把握に関する措置およびその汚染による人の健康に係る被害の防止に関する措置を定めることにより、土壌汚染対策の実施を図り、もって国民の健康を保護することを目的とする法律である。2002年(平成14年)に制定され、2003年(平成15年)2月に施行された。その後、2009年(平成21年)と2017年(平成29年)の2度にわたり大幅な改正が行われている。
土壌汚染は、大気汚染や水質汚濁と異なり、蓄積性が高く自然浄化が困難であるという特性を持つ。また、土壌汚染の存在は不動産の経済的価値に直接的かつ重大な影響を及ぼす。不動産鑑定評価においては、土壌汚染の有無および程度が土地の価格形成要因の中でも特に重要な位置を占めており、土壌汚染対策法の規制内容を正確に理解することが不可欠である。
土壌汚染対策法の規制の仕組み
特定有害物質の分類
土壌汚染対策法では、規制対象となる有害物質を「特定有害物質」として26物質を指定している。これらは以下の3つに分類される。
第一種特定有害物質(揮発性有機化合物):テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ベンゼンなど12物質。ドライクリーニング工場や金属脱脂工場などで使用される溶剤に含まれることが多い。揮発して大気中に拡散するため、土壌ガス調査が主な調査方法となる。
第二種特定有害物質(重金属等):鉛、ヒ素、カドミウム、六価クロム、水銀など9物質。工場排水や廃棄物処理に起因するほか、自然由来で存在する場合もある。
第三種特定有害物質(農薬等):シマジン、チウラム、チオベンカルブ、有機リン化合物(パラチオン等)、ポリ塩化ビフェニル(PCB)の5物質。農薬の使用や特定の工業活動に起因する。
調査義務の発生契機
土壌汚染対策法に基づく土壌汚染状況調査の契機(トリガー)は、以下の3つに大別される。
第一の契機(法第3条):水質汚濁防止法に規定する有害物質使用特定施設の使用が廃止された場合。工場等で有害物質を使用する施設を閉鎖した際に調査が義務づけられる。ただし、引き続き工場として使用される場合等には、都道府県知事の確認を受けて調査を一時的に免除されることがある(調査猶予制度)。
第二の契機(法第4条):一定規模(3,000平方メートル、有害物質使用特定施設が存在した場合は900平方メートル)以上の土地の形質の変更を行う場合。都道府県知事が土壌汚染のおそれがあると認めるときに調査を命じることができる。2017年改正により、届出面積の基準が改正された。
第三の契機(法第5条):土壌汚染により人の健康に係る被害が生じ、またはそのおそれがある場合。都道府県知事が調査を命じることができる。
区域指定の種類
土壌汚染が確認された場合、その土地は以下の2種類の区域のいずれかに指定される。
要措置区域(法第6条):土壌汚染の摂取経路があり、健康被害が生ずるおそれがあるため、汚染の除去等の措置が必要な区域。都道府県知事が汚染の除去等の措置を指示し、土地の所有者等はこれに従う義務がある。要措置区域内の土地の形質の変更は原則として禁止される。
形質変更時要届出区域(法第11条):土壌汚染は存在するが、現状では健康被害のおそれがない区域。土地の形質の変更を行う場合には、事前に都道府県知事に届出が必要である。汚染の除去等の措置は義務づけられないが、搬出土壌の適正管理が求められる。
具体例・実務での使われ方
事例1:工場跡地の売却に伴う土壌汚染調査
大手メーカーが操業を終了した工場の跡地(10,000平方メートル)を売却するケースを想定する。当該工場ではトリクロロエチレンを脱脂工程で使用しており、有害物質使用特定施設が存在していた。
施設の廃止に伴い法第3条に基づく土壌汚染状況調査が義務づけられ、Phase I(地歴調査)、Phase II(詳細調査)を経て、敷地の一部でトリクロロエチレンによる土壌汚染が確認された。汚染濃度は溶出量基準を超過しており、地下水汚染の拡散も認められた。
この土地は要措置区域に指定され、汚染の除去等の措置(掘削除去または原位置浄化)が指示された。浄化費用は概算3億円と見積もられている。
不動産鑑定評価においては、更地としての正常価格(汚染がないと仮定した場合)から、浄化費用、浄化期間中の使用収益阻害、浄化後のスティグマ、モニタリング費用等を減価要因として控除することにより、汚染地としての鑑定評価額を算定する。
事例2:自然由来の土壌汚染
埋立地や火山性土壌の地域では、人為的な汚染行為がなくても、自然由来でヒ素やフッ素などが基準値を超過することがある。2009年の改正により、自然由来の土壌汚染についても法の規制対象に含まれることが明確化された。
自然由来汚染地は形質変更時要届出区域に指定されることが多く、土地の形質変更(造成工事等)に際しては届出が必要となる。不動産評価においては、人為的汚染と比較してスティグマは小さい傾向があるものの、形質変更時のコスト増加や搬出土壌の処理費用が減価要因となる。
不動産取引における実務対応
不動産取引(特にM&Aや大規模開発案件)においては、土壌汚染対策法上の調査義務の有無にかかわらず、自主的な環境デューデリジェンス(環境DD)が実施されることが一般的である。これは、潜在的な土壌汚染リスクを事前に把握し、取引価格への反映や瑕疵担保(契約不適合)責任の範囲を明確にするためである。
環境DDは通常、Phase I(地歴調査)から開始され、汚染の可能性が示唆された場合にPhase II(詳細調査)に進む段階的なプロセスで実施される。不動産鑑定評価においても、これらの調査結果を踏まえて評価を行うことが求められる。
試験での出題ポイント
調査契機の3類型
法第3条、第4条、第5条の3つの調査契機をそれぞれ正確に説明できることが重要である。特に、法第3条の調査猶予制度や、法第4条の面積要件(3,000平方メートル/900平方メートル)は頻出である。
区域指定の2類型の違い
要措置区域と形質変更時要届出区域の違いを、指定の要件、土地の利用制限、措置の義務の有無等の観点から正確に説明できることが求められる。特に、要措置区域では土地の形質変更が原則禁止されるのに対し、形質変更時要届出区域では届出により形質変更が可能であるという違いは重要である。
鑑定評価基準との関連
不動産鑑定評価基準における土壌汚染の取扱いと、土壌汚染対策法の規制内容の関連を理解しておく必要がある。鑑定評価基準では土壌汚染を土地の価格形成要因として位置づけており、「土壌汚染に関する不動産鑑定評価上の運用指針I」が具体的な評価方法のガイダンスを提供している。
2017年改正のポイント
2017年(平成29年)改正の主要なポイントとして、調査契機の拡大(法第4条の届出対象面積の見直し)、臨海部の工業専用地域の特例区域の創設、汚染土壌の搬出規制の強化等を理解しておくことが望ましい。
よくある疑問・誤解
「土壌汚染=必ず浄化が必要」ではない
土壌汚染が確認されたからといって、必ず浄化(掘削除去等)が必要になるわけではない。形質変更時要届出区域に指定された場合、健康被害のおそれがなければ、汚染の除去等の措置は義務づけられない。封じ込めや覆土等のリスク管理措置で対応し、汚染土壌を残置したまま土地を利用するケースも少なくない。不動産鑑定評価においても、必ずしも完全浄化を前提とする必要はなく、最も合理的な対策方法を前提とすべきである。
法改正前の汚染地はどうなるのか
土壌汚染対策法施行前(2003年2月以前)から存在する汚染地についても、法第4条(形質変更時)や第5条(健康被害のおそれ)の契機に該当すれば、調査・措置の対象となる。法施行前の汚染だからといって規制を免れるわけではない。
鑑定評価額には浄化費用をそのまま控除するのか
土壌汚染地の鑑定評価においては、浄化費用のみを単純に控除するのではなく、浄化費用、使用収益阻害、スティグマ、調査費用等の複数の減価要因を総合的に考慮する必要がある。また、浄化方法についても、掘削除去のみならず、封じ込めや原位置浄化など複数の選択肢を比較検討し、最も合理的な方法を前提とすべきである。結果として、減価額は浄化費用と一致するとは限らない。
宅地建物取引業法上の重要事項説明との関係
宅地建物取引業法では、土壌汚染対策法に基づく区域指定(要措置区域または形質変更時要届出区域)の有無を重要事項として説明することが義務づけられている。区域指定されていなくても、売主が知っている土壌汚染の情報は告知すべきであるとされている。
関連用語
- 地歴調査(Phase I) - 土壌汚染対策法に基づく調査の第一段階であり、汚染リスクの初期評価を行う
- Phase II(詳細調査) - 土壌汚染の実態を把握するためのサンプリング調査で、汚染の有無と程度を確定する
- スティグマ - 土壌汚染の浄化後も残存する心理的嫌悪感による市場価値の低下
- アスベスト(石綿) - 土壌汚染と並ぶ環境リスクであり、建物評価に重大な影響を与える有害物質
- 資産除去債務 - 土壌汚染の浄化義務は資産除去債務の代表的な事例
- 減損会計 - 土壌汚染による不動産価値の低下が減損損失の認識に影響する場合がある