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低価法とは?棚卸資産の評価と不動産鑑定評価の役割を解説

低価法の仕組みと不動産鑑定評価の関係を解説。棚卸資産としての販売用不動産の評価減、正味売却価額の算定方法、減損会計との違い、鑑定士試験の出題ポイントを説明します。

低価法とは

低価法とは、棚卸資産の期末評価において、取得原価と正味売却価額(時価)を比較し、いずれか低い方の金額をもって貸借対照表価額とする方法をいう。日本では「棚卸資産の評価に関する会計基準」(企業会計基準第9号、2006年7月公表、2008年4月から適用)により、棚卸資産の評価方法として低価法の適用が義務化されている。

不動産業界との関連では、販売用不動産(分譲マンション、建売住宅、販売目的の土地等)は棚卸資産に分類されるため、低価法の適用対象となる。不動産市況の悪化により販売用不動産の時価が取得原価を下回った場合、簿価の切下げ(評価損の計上)が必要となり、この時価の算定において不動産鑑定評価が活用されることがある。減損会計が固定資産に適用されるのに対し、低価法は棚卸資産に適用される点で、両者は対象資産の区分において補完的な関係にある。

会計基準における低価法の位置づけ

制度の変遷

従来の日本基準では、棚卸資産の評価方法として原価法と低価法の選択適用が認められていた。しかし、2006年の会計基準改正により、通常の販売目的で保有する棚卸資産について正味売却価額が取得原価を下回る場合には、正味売却価額をもって貸借対照表価額とすることが義務化された。これにより、低価法は選択適用ではなく強制適用となった。

この改正の背景には、国際的な会計基準(IAS第2号「棚卸資産」)との整合性を図る目的があった。IAS第2号でも、棚卸資産は取得原価と正味実現可能価額のいずれか低い金額で測定することとされている。

正味売却価額の定義

正味売却価額とは、売価から見積追加製造原価および見積販売直接経費を控除した金額をいう。不動産の場合、売価は販売見込額(時価)に相当し、見積販売直接経費には仲介手数料、広告宣伝費、登記費用などが含まれる。

売価の算定にあたっては、期末時点における合理的な見積りに基づくことが求められる。販売用不動産については、近隣の取引事例、不動産鑑定評価額、または不動産市場の動向等を参考に売価を見積もることが一般的である。

評価損の処理

正味売却価額が取得原価を下回る場合、その差額は評価損として処理される。評価損は原則として売上原価に算入するが、臨時的な事象に起因する場合や金額的に重要な場合には、特別損失として計上されることがある。

なお、翌期以降に正味売却価額が回復した場合でも、切下げ額の戻入れは原則として行わない(洗替え法を採用している場合を除く)。切放し法が原則的な方法とされている点に注意が必要である。

トレーディング目的の棚卸資産

市場価格の変動により利益を得ることを目的として保有する棚卸資産(トレーディング目的の棚卸資産)については、市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損益として処理される。ただし、不動産がトレーディング目的の棚卸資産に該当するケースは限定的である。

具体例・実務での使われ方

事例1:分譲マンションの評価減

不動産デベロッパーが分譲マンション50戸を取得原価合計30億円で保有しているとする。景気後退と不動産市況の悪化により、販売見込価格が大幅に下落した。期末時点での販売見込額の合計が22億円、見積販売直接経費が1億円の場合、正味売却価額は21億円となる。取得原価30億円と正味売却価額21億円の差額9億円が評価損として計上される。

この販売見込額の算定においては、近隣の分譲マンションの成約事例や、不動産鑑定評価(個別の物件が高額な場合)が参考にされる。また、販売進捗状況や値引き販売の実態なども考慮される。

事例2:開発用地の評価減

不動産会社が住宅分譲用の開発用地を20億円で取得し、棚卸資産として計上しているケースを考える。取得後に周辺地域の地価が下落し、期末時点の路線価や取引事例から推定した土地の時価が12億円、見積追加開発費用が5億円、完成後の販売見込額が25億円、見積販売直接経費が2億円とする。

この場合、正味売却価額は完成後の販売見込額25億円から見積追加開発費用5億円と見積販売直接経費2億円を控除した18億円となる。取得原価20億円を下回るため、2億円の評価損が計上される。

販売用不動産の分類

実務上、販売用不動産は以下のように分類される。それぞれの分類に応じて、正味売却価額の算定方法が異なる。

販売用不動産(完成品):そのまま販売可能な状態にある不動産。売価から販売直接経費を控除して正味売却価額を算定する。

開発事業等支出金(仕掛品):開発途中の不動産。完成後の売価から見積追加開発費用と販売直接経費を控除して正味売却価額を算定する。

未成工事支出金(受注工事):請負工事に関する支出金。工事完成基準の場合は工事収益から見積追加原価を控除して正味売却価額を算定する。

不動産鑑定評価の活用場面

販売用不動産の正味売却価額の算定において、不動産鑑定評価が活用される主な場面は以下のとおりである。

まず、個別の物件が高額であり、売価の見積りに慎重な判断が求められる場合である。監査法人から鑑定評価の取得を求められるケースも少なくない。次に、市場が不透明で取引事例が乏しく、売価の見積りが困難な場合である。リーマンショック後やコロナ禍のような局面では、鑑定評価によるプロの判断が一層重要となる。

試験での出題ポイント

低価法と減損会計の区別

低価法は棚卸資産に適用され、減損会計は固定資産に適用される。両者の適用対象、認識の基準、測定の方法の違いを正確に整理しておくことが重要である。特に、販売用不動産は棚卸資産として低価法が適用されるのに対し、賃貸用不動産は固定資産として減損会計が適用される。不動産の保有目的による会計処理の違いは頻出論点である。

正味売却価額の算定

正味売却価額の算定式(売価 - 見積追加製造原価 - 見積販売直接経費)を正確に理解し、各要素を適切に識別できることが求められる。特に、開発途中の不動産(仕掛品)における見積追加開発費用の取扱いは計算問題で問われやすい。

評価損の表示

評価損の表示区分(売上原価か特別損失か)の判断基準も出題されることがある。通常の事業活動から生じる評価損は売上原価に含め、臨時かつ多額の評価損は特別損失に計上するという使い分けを理解しておく必要がある。

鑑定評価基準との関連

不動産鑑定評価基準では、鑑定評価の依頼目的として「会計目的」が想定されている。販売用不動産の時価(売価)を把握するために鑑定評価が求められる場合、求める価格の種類は正常価格が基本となる。ただし、早期売却や一括売却を前提とする場合には、その条件を踏まえた適切な価格設定が必要となる点に注意が必要である。

よくある疑問・誤解

「低価法=時価評価」ではない

低価法は、取得原価と正味売却価額のいずれか低い方で評価する方法である。正味売却価額が取得原価を上回る場合には、取得原価のまま据え置かれる。したがって、時価が上昇しても帳簿価額は増加しない。この点で、低価法は取得原価主義の修正であり、完全な時価評価ではない。

固定資産に分類した不動産に低価法は適用されるか

低価法はあくまで棚卸資産に適用される評価方法であり、固定資産に分類される不動産には適用されない。固定資産に分類される賃貸用不動産や自社使用不動産については、減損会計の枠組みで帳簿価額の切下げが行われる。したがって、不動産がどの勘定科目に分類されるかによって、適用される会計基準が異なることを正確に理解する必要がある。

正味売却価額と鑑定評価額の関係

正味売却価額は鑑定評価額そのものではない。鑑定評価額は「売価」に対応するものであり、正味売却価額はそこから販売直接経費を控除した金額である。この関係を混同すると、評価損の計算を誤る原因となる。また、鑑定評価額が複数の評価手法で算定される場合、どの価格をもって売価とするかの判断も実務上の論点となる。

評価損の戻入れは認められるか

日本基準では、切放し法(戻入れを行わない方法)が原則的な方法とされている。洗替え法(翌期に戻入れを行う方法)の選択も認められるが、実務上は切放し法を採用する企業が多い。一方、IAS第2号では戻入れが認められており、国際基準との差異が存在する。

関連用語

  • 減損会計 - 固定資産に適用される帳簿価額の切下げで、低価法と対比して理解すべき制度
  • 賃貸等不動産の時価 - 固定資産に分類される賃貸不動産の時価開示で、棚卸資産の低価法とは適用対象が異なる
  • 資産除去債務 - 固定資産の除去に関する会計処理で、低価法とは異なる局面で不動産評価が関わる
  • 国際評価基準(IVS) - 国際的な評価基準であり、IFRS対応の棚卸資産評価にも関連する
  • スティグマ - 心理的嫌悪感による価格低下で、販売用不動産の売価見積りに影響する場合がある
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