借地権の相続評価 - 権利金の額と借地権割合の関係
借地権の相続税評価の方法を、権利金と借地権割合の関係を中心にわかりやすく解説。路線価方式の仕組み、権利金の授受がないケースの取扱い、鑑定評価の活用で適正評価する方法を具体例とともに紹介します。
借地権とは、建物を所有する目的で他人の土地を借りる権利のことです。借地上に建てた自宅やアパートを相続する場合、建物だけでなく、この借地権も相続財産として相続税の課税対象になります。
借地権の相続税評価は「自用地評価額に借地権割合を乗じる」というシンプルな計算が基本ですが、実際には権利金の授受の有無、地代の水準、契約の種類によって評価が大きく変わることがあります。また、借地権割合という画一的な割合では、個別の借地権の実態を反映できないケースも少なくありません。
本記事では、借地権の相続税評価の基本的な仕組みから、権利金と借地権割合の関係、さらに不動産鑑定評価の活用まで、体系的に解説します。
借地権の基本を理解する
借地権の種類
借地権には、法律上いくつかの種類があります。それぞれの特徴を理解しておくことが、相続税評価の前提として重要です。
| 借地権の種類 | 根拠法 | 契約期間 | 更新 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 旧借地権 | 旧借地法 | 堅固30年/非堅固20年 | あり | 平成4年以前の契約。借地人の権利が非常に強い |
| 普通借地権 | 借地借家法 | 当初30年以上 | あり | 正当事由がなければ更新拒絶不可 |
| 定期借地権 | 借地借家法 | 50年以上 | なし | 期間満了で確定的に終了 |
| 事業用定期借地権 | 借地借家法 | 10年以上50年未満 | なし | 事業用に限定 |
| 建物譲渡特約付借地権 | 借地借家法 | 30年以上 | なし | 期間満了時に建物を譲渡 |
相続で問題になることが多いのは、旧借地権と普通借地権です。これらは更新が認められるため、実質的に半永久的な権利として評価されます。
借地権はなぜ「財産」なのか
借地権が財産として評価される理由は、以下の点にあります。
- 使用収益権 - 他人の土地を借りて建物を建て、利用できる
- 存続の安定性 - 普通借地権は正当事由がない限り更新が拒絶できない
- 譲渡可能性 - 地主の承諾(または裁判所の許可)を得れば第三者に譲渡できる
- 対価性 - 借地権設定時に「権利金」を支払っていることが多い
つまり、借地権には経済的な価値があり、それゆえに相続税の課税対象となるのです。
借地権の相続税評価 - 路線価方式
基本算式
借地権の相続税評価額は、財産評価基本通達に基づき、以下の算式で求めます。
自用地としての評価額は、路線価方式または倍率方式で算定します。路線価とはも併せてご確認ください。
借地権割合の決まり方
借地権割合は、国税庁が地域ごとに定めています。路線価図では路線価の数字の後ろにアルファベットが付されており、このアルファベットが借地権割合を示しています。
| 記号 | 借地権割合 | 主な地域の傾向 |
|---|---|---|
| A | 90% | 都心の一等地(銀座、丸の内など) |
| B | 80% | 都心の商業地 |
| C | 70% | 市街地の商業地・住宅地 |
| D | 60% | 一般的な住宅地 |
| E | 50% | 郊外の住宅地 |
| F | 40% | 郊外・農村部 |
| G | 30% | 農村部・過疎地域 |
計算例
たとえば、以下の条件の借地権を相続した場合を考えます。
- 所在地の路線価:30万円/㎡
- 土地面積:200㎡
- 借地権割合:D(60%)
この借地権の相続税評価額は3,600万円となります。
路線価図で路線価に「C」の記号がついている地域の借地権割合は70%である。
権利金と借地権割合の関係
権利金とは
権利金とは、借地権の設定(土地を借りること)に際して、借地人が地主に支払う一時金のことです。借地権という権利の「対価」としての性格を持ちます。
権利金の額は、一般的にその地域の慣行に従って決められ、多くの場合、更地価格に借地権割合を乗じた金額が目安となります。
権利金を支払っている場合
権利金を適正に支払って借地権を設定している場合は、路線価方式の評価が実態に近くなります。つまり、借地権割合をそのまま適用して評価すれば、概ね適正な評価ができるケースが多いです。
権利金を支払っていない場合(使用貸借との境界)
問題になるのは、権利金を支払っていないケースです。親族間の借地では、権利金の授受がないことが珍しくありません。
「相当の地代」を支払っている場合
権利金を支払わない代わりに、更地価格の年6%程度(相当の地代)を支払っている場合は、借地権の評価額はゼロではなく、一定の方法で評価します。
相当の地代を支払っている場合、借地権の評価額は自用地評価額の20%となるのが原則です。
「相当の地代に満たない地代」を支払っている場合
権利金を支払わず、かつ地代も相当の地代に満たない場合は、その差額分について借地人に「経済的利益」が生じているとみなされます。この場合の借地権評価は、権利金の支払状況や地代の水準に応じて調整が行われます。
「使用貸借」の場合
権利金も地代も支払っていない場合(または固定資産税相当額程度しか支払っていない場合)は、「使用貸借」として扱われ、借地権としての評価額はゼロとなります。ただし、この場合、土地は自用地として地主に100%課税されます。
| 権利金の支払 | 地代の水準 | 借地権の評価 |
|---|---|---|
| 適正に支払い | 通常の地代 | 自用地評価額 × 借地権割合 |
| 支払いなし | 相当の地代(年6%程度) | 自用地評価額 × 20% |
| 支払いなし | 相当の地代未満 | 個別に判定(調整あり) |
| 支払いなし | なし(または固定資産税程度) | ゼロ(使用貸借) |
借地権の設定に際して権利金を支払わず、相当の地代(更地価格の年6%程度)を支払っている場合、借地権の相続税評価額はゼロとなる。
路線価方式では反映できない借地権の個別事情
借地権割合の画一性の問題
路線価方式の借地権割合は、地域ごとに一律に定められています。しかし、同じ地域に存在する借地権であっても、以下のような個別の事情によって実際の価値は大きく異なります。
1. 地代の水準による差異
低廉な地代で借りている借地権は、借地人にとって大きな経済的利益があるため、借地権の価値は高くなります。逆に、市場水準に近い地代を支払っている借地権は、その分、借地権の価値は低くなります。
2. 契約期間の残存年数
定期借地権の場合は残存期間が短いほど借地権の価値は低下します。普通借地権や旧借地権でも、更新時期が近い場合は更新料の負担が生じる可能性があり、これが借地権の価値に影響します。
3. 建物の状況
借地上の建物が老朽化している場合、建替えには地主の承諾と承諾料が必要であり、この負担が借地権の価値を減少させます。
4. 地主との関係
地主と借地人の関係が良好で、将来的に底地の買取りや借地権の売却が円滑に進む見込みがある場合と、関係が悪く紛争リスクがある場合では、借地権の価値が異なります。
5. 市場における流通性
借地権付き建物の売買市場は限定的であり、地域によって流通性に大きな差があります。都市部では借地権付き建物の取引が活発な地域もありますが、地方では買い手が見つからないケースもあります。
不動産鑑定評価による借地権の適正評価
鑑定評価が有効なケース
以下のような場合は、路線価方式ではなく鑑定評価による時価の算定を検討すべきです。
- 地代が著しく高額で、借地権割合どおりの評価では過大になる場合
- 建物が老朽化し、建替え承諾が得られる見込みが低い場合
- 定期借地権で残存期間が短い場合
- 借地権の市場流通性が著しく低い場合
- 紛争中の借地権で権利行使に制約がある場合
借地権の鑑定評価手法
不動産鑑定士が借地権を評価する際には、以下の手法を用います。
1. 借地権取引事例比較法
類似する借地権の取引事例を収集し、比較検討して価格を求める手法です。借地権の鑑定評価でも解説しています。
2. 借地権価格の控除法
更地価格から底地価格を控除して借地権価格を求める手法です。
3. 収益還元法
借地権者が得ている経済的利益(適正地代と実際の地代の差額など)を資本還元して借地権の価格を求めます。
4. 配分法
借地権付建物の取引事例から、建物価格を控除して借地権価格を配分する手法です。
借地権の鑑定評価額は、借地権の取引慣行の有無及びその成熟の程度によりその手法を適切に適用して求めるものとする。 ― 不動産鑑定評価基準 各論第1章
鑑定評価による減額の具体例
| 項目 | 路線価方式 | 鑑定評価 |
|---|---|---|
| 自用地評価額 | 8,000万円 | ― |
| 借地権割合 | 60%(D) | ― |
| 借地権評価額 | 4,800万円 | 3,200万円 |
| 差額 | ― | 1,600万円の減額 |
上記の例では、地代が市場水準に近く、建物も老朽化しているという個別事情を鑑定評価で適切に反映することで、1,600万円の評価減が実現しています。
不動産鑑定士による借地権の評価では、借地権取引事例比較法のみを用い、収益還元法は使用しない。
特殊な借地権の相続評価
定期借地権の評価
定期借地権は、契約期間の満了により確定的に終了する借地権です。残存期間が短くなるにつれて価値が減少するため、相続税評価では以下のように評価します。
定期借地権は普通借地権と異なり、期間満了後に更新されないため、残存期間が短くなるにつれて評価額も低下します。
転貸借地権(又貸しの借地権)
借地権者が地主の承諾を得てさらに第三者に転貸している場合の借地権(転貸借地権)は、通常の借地権よりも利用が制約されるため、以下のように評価されます。
一時使用目的の借地権
仮設建物の敷地など、一時使用目的で設定された借地権は、雑種地の賃借権として評価されます。この場合、通常の借地権割合は適用されず、賃借権の残存期間等に応じた評価が行われます。
借地権の相続で注意すべき手続き
地主への通知
借地権を相続した場合、借地権の譲渡には該当しないため、地主の承諾は不要です。ただし、相続が発生したことを地主に通知し、借地契約の当事者が変更されたことを伝えておくことが望ましいです。
名義変更料について
相続による借地権の承継は「譲渡」ではなく「包括承継」であるため、理論上、名義変更料(譲渡承諾料)は発生しません。地主から名義変更料を請求されても、法的には支払う義務はありませんが、円満な関係維持のために少額の挨拶料を支払うケースもあります。
遺産分割における借地権の評価
相続人が複数いる場合、遺産分割における鑑定評価が重要になります。遺産分割では「時価(市場価値)」で分割するのが公平であり、この場合も路線価方式の評価額ではなく、鑑定評価による時価を用いることが望ましいケースがあります。
まとめ
借地権の相続税評価は、基本的には「自用地評価額に借地権割合を乗じる」というシンプルな方法で行われますが、権利金の授受の有無や地代の水準、借地契約の種類によって、実際の評価方法は複雑に変化します。
特に、権利金を支払っていない場合や、地代が相当の地代に満たない場合は、評価方法が変わるため注意が必要です。また、路線価方式の借地権割合は画一的な数値であるため、個々の借地権の実態(地代水準、建物の状況、市場流通性など)を反映できないケースでは、不動産鑑定評価の活用を検討すべきです。
借地権の相続に直面したら、借地契約の内容をしっかり確認したうえで、税理士・不動産鑑定士に相談し、最適な評価方法を選択することをおすすめします。