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タワマン相続税評価改正を完全解説 - 不動産鑑定から見る評価方法の変更点

タワーマンションの相続税評価改正を完全解説。2024年1月適用開始の新評価方法、乖離率の計算方法、最高裁判決の影響、鑑定評価の活用場面まで網羅します。

タワーマンション相続税評価の問題の背景

タワーマンション(タワマン)を利用した相続税の節税手法は、長年にわたり不動産業界と税務の世界で議論されてきました。この手法が注目される理由は、マンションの相続税評価額と市場での取引価格(時価)との間に大きな乖離が生じるためです。

従来のマンションの相続税評価は、以下の方法で行われてきました。

  • 土地の評価: 敷地全体の路線価評価額を、持分割合(専有面積の割合)で按分
  • 建物の評価: 固定資産税評価額をそのまま使用

タワーマンションの場合、一棟の建物に多数の住戸があるため、一戸あたりの土地の持分割合が非常に小さくなります。例えば、総戸数500戸のタワーマンションでは、一戸あたりの土地持分は500分の1程度です。その結果、土地の評価額が極めて低くなります。

さらに、建物の固定資産税評価額は再建達原価に基づいて算定されるため、高層階の眺望や立地の良さといった市場で評価されるプレミアム要素が反映されません。

こうした仕組みの結果、タワーマンションの相続税評価額は時価の3割から4割程度にとどまるケースが多く、この「評価差」を活用した節税スキームが広く行われてきました。


最高裁令和4年4月19日判決の衝撃

判決の概要

2022年(令和4年)4月19日、最高裁判所はタワーマンション節税に関する画期的な判決を下しました。この判決では、被相続人が相続税の節税を主たる目的として購入したタワーマンションについて、路線価方式による評価額ではなく、不動産鑑定評価額に基づいて相続税を課すことが適法であると判断されました。

事案の内容

被相続人(当時90歳)は、銀行から約10億円の融資を受けて2棟のマンションを購入しました。購入価格は合計約13億8,000万円でしたが、路線価方式による相続税評価額は約3億3,000万円にとどまりました。さらに、借入金を債務控除することで、相続税の課税価格がゼロとなり、相続税が課されない結果になったのです。

国税庁はこれに対し、財産評価基本通達の総則第6項を適用し、不動産鑑定評価に基づく時価(約12億7,000万円)で課税する更正処分を行いました。

最高裁の判断

最高裁は、以下の理由から国税庁の処分を適法と判断しました。

  1. 路線価方式による評価額と鑑定評価額(時価)との間に著しい乖離がある
  2. この乖離を利用して相続税の負担を軽減することが、他の納税者との間で著しい不公平を生じさせる
  3. 総則第6項の適用には合理的な理由がある

この判決は、タワーマンションを利用した過度な節税スキームに対する大きな警鐘となりました。


2024年1月からの新評価方法

改正の経緯

最高裁判決を受けて、国税庁は2023年(令和5年)10月に「居住用の区分所有財産の評価について」(令和5年国税庁告示第12号)を公表しました。この通達は、2024年(令和6年)1月1日以後の相続・贈与から適用されています。

新評価方法の概要

新しい評価方法では、従来の路線価方式による評価額に「区分所有補正率」を乗じることで、市場価格との乖離を是正します。具体的な計算手順は以下のとおりです。

ステップ1: 評価乖離率の算出

評価乖離率は、以下の回帰式で算出されます。

評価乖離率 = A + B + C + D + 3.220

  • A = 築年数 x (-0.033)
  • B = 総階数指数 x 0.239(総階数指数 = 総階数 / 33。ただし1を超える場合は1)
  • C = 所在階 x 0.018
  • D = 敷地持分狭小度 x (-1.195)(敷地持分狭小度 = 敷地利用権の面積 / 専有面積)

ステップ2: 評価水準の算出

評価水準 = 1 / 評価乖離率

ステップ3: 区分所有補正率の決定

評価水準区分所有補正率
0.6以上1以下補正なし(従来の評価額のまま)
0.6未満評価乖離率 x 0.6
1を超える評価乖離率(従来の評価額が時価を上回る場合は減額)

ステップ4: 最終的な評価額の算出

相続税評価額 = 従来の評価額(路線価方式 + 固定資産税評価額) x 区分所有補正率

改正の影響

この改正により、高層階のタワーマンションほど評価額が引き上げられる傾向があります。特に以下の特徴を持つ物件は、評価額の上昇幅が大きくなります。

特徴評価への影響理由
高層階(30階以上など)大幅な引き上げ所在階の係数がプラスに寄与
総階数が多い(33階以上)引き上げ総階数指数が高い
築年数が浅い引き上げ築年数による減価が小さい
敷地持分が小さい引き上げ敷地持分狭小度が大きくマイナスに寄与

一方、低層階や築年数の古いマンション、敷地持分が比較的大きいマンションでは、影響が限定的です。


改正後も鑑定評価が活用できるケース

評価水準が1を超える場合

新制度では、区分所有補正率の適用により、従来の評価額が時価を上回る場合(評価水準が1を超える場合)には、評価額を引き下げることができます。しかし、新制度の計算式は統計的な回帰分析に基づく一般的なものであり、個別のマンションの特殊事情を反映するものではありません。

例えば、以下のようなケースでは、新制度の計算式でも時価を適切に反映できない可能性があり、不動産鑑定評価が有効です。

  • 管理不全により市場価値が著しく低下しているマンション
  • 大規模修繕の積立金が不足しており、将来の修繕費用の負担が見込まれるマンション
  • 事故物件(心理的瑕疵のある物件)
  • 周辺環境が著しく悪化した物件

総則第6項の適用リスクへの対応

改正後も、総則第6項の適用リスクは存在します。特に、相続直前のタワーマンション購入については、節税目的であると認定される可能性があります。このようなケースでは、購入価格の妥当性を鑑定評価によって裏付けることが防御策として有効になり得ます。

取引事例比較法を用いた鑑定評価の仕組みについて詳しくは、取引事例比較法をわかりやすく解説もご覧ください。


具体的なシミュレーション

ケース1: 高層タワーマンション(築浅・高層階)

物件概要:

  • 築年数: 5年
  • 総階数: 45階
  • 所在階: 40階
  • 専有面積: 80平方メートル
  • 敷地利用権の面積: 10平方メートル
  • 市場価格(時価): 1億5,000万円
  • 従来の相続税評価額: 5,500万円

評価乖離率の計算:

  • A = 5 x (-0.033) = -0.165
  • B = (45/33=1.0、上限1) x 0.239 = 0.239
  • C = 40 x 0.018 = 0.720
  • D = (10/80) x (-1.195) = -0.149
  • 評価乖離率 = -0.165 + 0.239 + 0.720 + (-0.149) + 3.220 = 3.865

評価水準: 1 / 3.865 = 0.259

区分所有補正率: 3.865 x 0.6 = 2.319

新しい評価額: 5,500万円 x 2.319 = 約1億2,755万円

従来の5,500万円から約1億2,755万円に大幅に引き上げられます。それでも市場価格の1億5,000万円よりは低い水準にとどまります。

ケース2: 中層マンション(築古・低層階)

物件概要:

  • 築年数: 25年
  • 総階数: 14階
  • 所在階: 3階
  • 専有面積: 70平方メートル
  • 敷地利用権の面積: 25平方メートル
  • 市場価格(時価): 3,500万円
  • 従来の相続税評価額: 2,800万円

評価乖離率の計算:

  • A = 25 x (-0.033) = -0.825
  • B = (14/33=0.424) x 0.239 = 0.101
  • C = 3 x 0.018 = 0.054
  • D = (25/70) x (-1.195) = -0.427
  • 評価乖離率 = -0.825 + 0.101 + 0.054 + (-0.427) + 3.220 = 2.123

評価水準: 1 / 2.123 = 0.471

区分所有補正率: 2.123 x 0.6 = 1.274

新しい評価額: 2,800万円 x 1.274 = 約3,567万円

この場合、新しい評価額が市場価格に近い水準まで引き上げられます。評価水準が1を超える場合には、鑑定評価による減額も検討する余地があります。


改正の適用範囲と除外されるケース

新しい評価方法は、すべてのマンションに適用されるわけではありません。以下のケースは適用対象外です。

除外されるケース理由
区分所有でないもの(一棟のマンション丸ごと所有)区分所有財産ではないため
地階(地下階)のみに存する区分所有財産居住用として想定されていないため
総階数が2階以下の低層建物タワーマンション的な乖離が生じにくいため
事務所・店舗専用の区分所有財産居住用でないため

今後の見通しと実務への影響

市場への影響

新評価方法の導入により、タワーマンションを利用した節税効果は大幅に縮小しました。これにより、「節税目的でタワーマンションを購入する」という動機は弱まっていくことが予想されます。

ただし、節税効果が完全になくなるわけではありません。新制度の下でも、評価額と市場価格の間にはある程度の差が残るケースがあるためです。相続対策として不動産の購入を検討する場合には、新制度の計算結果を踏まえた慎重なシミュレーションが必要です。

鑑定評価の役割の変化

改正後の鑑定評価の役割は、以下のように変化しています。

  1. 評価額の引下げ目的: 新制度でも時価を上回る評価がなされる場合、鑑定評価で適正な時価を証明する役割
  2. 総則第6項の防御策: 高額な不動産の購入に際して、適正な時価であることを鑑定評価で裏付ける役割
  3. 遺産分割の基礎資料: 相続税の評価とは別に、遺産分割における公正な分配の基礎資料としての役割

試験での出題ポイント

タワーマンションの評価をめぐる問題は、鑑定士試験においても注目すべきテーマです。

短答式試験

分野出題ポイント
鑑定評価基準区分所有建物の評価方法(敷地利用権と専有部分の一体評価)
価格形成要因マンションの個別的要因(階層、方位、眺望、管理状態等)
鑑定評価の手法取引事例比較法の適用(マンションの取引事例の選択と補正)
関連法令区分所有法の基本構造、相続税法と財産評価基本通達の関係

論文式試験

  • 区分所有建物の評価の特殊性: 敷地利用権と専有部分の一体性、階層別効用比率の考え方
  • 取引事例比較法の適用上の留意点: マンション取引事例における階層差の補正、管理状態の考慮
  • 相続税評価と鑑定評価の関係: 路線価方式による評価額と時価の乖離が生じる原因と、鑑定評価の意義

暗記のポイント

新評価方法の計算式

項目計算式・数値
評価乖離率A + B + C + D + 3.220
A(築年数)築年数 x (-0.033)
B(総階数)総階数指数(=総階数/33、上限1) x 0.239
C(所在階)所在階 x 0.018
D(敷地持分)敷地持分狭小度(=敷地面積/専有面積) x (-1.195)
区分所有補正率評価水準0.6未満のとき: 評価乖離率 x 0.6

最高裁判決の要点

項目内容
判決日令和4年4月19日
争点総則第6項の適用の可否
結論国税庁の処分は適法。鑑定評価額での課税を認容
意義過度な節税目的の不動産購入に対する牽制

区分所有建物の鑑定評価の要点

評価対象評価の考え方
専有部分建物の固有の部分として評価(階層、面積、仕上げ等)
共用部分共有持分として専有部分に含めて評価
敷地利用権敷地の価値を専有面積の割合等で按分
一体評価専有部分と敷地利用権は一体として取引されるため一体評価が基本

まとめ

タワーマンションの相続税評価は、2024年1月からの新評価方法の適用により、大きな転換点を迎えました。従来は時価の3割から4割程度にとどまっていた評価額が、新制度の区分所有補正率の適用により、時価に近い水準まで引き上げられるケースが増えています。

この改正の背景には、最高裁令和4年4月19日判決があり、タワーマンションを利用した過度な節税スキームに対する司法と行政の姿勢が明確になりました。

改正後も、管理不全の物件や事故物件など、新制度の回帰式では反映しきれない個別事情がある場合には、不動産鑑定評価が有効な手段となります。また、総則第6項の適用リスクに対する防御策としても、鑑定評価の役割は引き続き重要です。

タワーマンションの相続をめぐる制度は今後も変化する可能性があるため、最新の情報を踏まえた対策が求められます。不動産鑑定が必要になるその他の場面については不動産鑑定が必要な5つのケース|相続・離婚・売買・訴訟・担保を、取引事例比較法の仕組みについては取引事例比較法をわかりやすく解説もあわせてご覧ください。

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