不動産鑑定の流れ - 依頼から鑑定評価書の受け取りまで
不動産鑑定の流れを8つのステップで解説。相談・見積もりから鑑定評価書の受け取りまでの全工程を、一般の方にもわかりやすく説明。鑑定士試験の出題ポイントも網羅しています。
はじめに|鑑定評価の流れを知ることの意義
不動産鑑定を依頼しようと考えたとき、「どのような手順で進むのか」「どのくらいの期間がかかるのか」「自分は何を準備すればよいのか」といった疑問を持つ方は少なくありません。鑑定評価の全体像を把握しておくことで、依頼者としての不安を解消し、鑑定士とのやり取りをスムーズに進めることができます。
また、不動産鑑定士試験の受験生にとって、鑑定評価の手順は非常に重要なテーマです。不動産鑑定評価基準の総論第8章「鑑定評価の手順」は、鑑定評価の実務の流れそのものを規定しており、短答式試験・論文式試験のいずれにおいても頻出分野となっています。条文レベルまで押さえたい受験生は、総論第5章(鑑定評価の基本的事項)の逐条解説と総論第8章の逐条解説を本記事と往復しながら読むと、実務の流れと条文の対応が整理できます。
本記事では、不動産鑑定の依頼から鑑定評価書の受け取りまでの流れを8つのステップに分けて解説します。一般の方には「依頼者として知っておくべきこと」を、受験生の方には「試験で問われるポイント」を、それぞれ明確に示していきます。費用の目安や依頼先の選び方まで含めた実務的な手引きは、不動産鑑定の依頼完全ガイドにまとめています。
全体フロー|8つのステップ一覧
不動産鑑定は、以下の8つのステップで進みます。
| ステップ | 内容 | 主な担当 | 所要期間の目安 |
|---|---|---|---|
| STEP1 | 相談・見積もり | 依頼者 + 鑑定士 | 数日〜1週間 |
| STEP2 | 正式依頼・契約 | 依頼者 + 鑑定士 | 1〜3日 |
| STEP3 | 基本的事項の確定 | 鑑定士 | STEP2と同時〜数日 |
| STEP4 | 資料の収集・整理 | 鑑定士(依頼者の協力あり) | 1〜2週間 |
| STEP5 | 現地調査 | 鑑定士 | 半日〜1日 |
| STEP6 | 鑑定評価の手法の適用 | 鑑定士 | 1〜2週間 |
| STEP7 | 試算価格の調整と鑑定評価額の決定 | 鑑定士 | STEP6と並行〜数日 |
| STEP8 | 鑑定評価書の作成・交付 | 鑑定士 | 数日〜1週間 |
全体としては、正式依頼から鑑定評価書の交付までおおむね2週間〜1か月程度が標準的な期間です。対象不動産が複雑な場合や、資料の取得に時間を要する場合には、さらに長くなることもあります。
以下、各ステップの詳細を順に説明していきます。
STEP1: 相談・見積もり
鑑定士に何を伝えるべきか
不動産鑑定を依頼する際は、まず鑑定士(または鑑定業者)に相談を行います。この段階では、以下の情報を伝えることで、正確な見積もりを取得できます。
| 伝えるべき情報 | 具体例 |
|---|---|
| 鑑定の目的 | 相続の遺産分割、離婚の財産分与、税務申告、担保評価、売買の参考など |
| 対象不動産の所在地 | 住所または地番 |
| 対象不動産の種類 | 更地、戸建住宅、マンション、事業用ビル、農地など |
| 対象不動産の面積 | 土地面積・建物面積の概要 |
| 希望する納期 | いつまでに鑑定評価書が必要か |
| 特記事項 | 借地権が設定されている、建物が老朽化している、土壌汚染の懸念がある、など |
鑑定の目的は特に重要です。目的によって、求める価格の種類(正常価格、限定価格など)や鑑定評価の条件が変わるためです。どのような目的でどの評価が用いられるかは、不動産鑑定評価の種類と目的の一覧で整理しています。
見積もりの取り方
鑑定費用は、対象不動産の種類・規模・評価の難易度・所在地などによって異なります。複数の鑑定業者に見積もりを依頼し、費用と対応内容を比較検討することも可能です。
見積もりの段階で確認しておくべき事項は以下のとおりです。
- 鑑定報酬の金額:総額でいくらかかるか
- 交通費・日当等の実費:鑑定報酬とは別に発生するか
- 成果物の形式:正式な鑑定評価書か、簡易な価格等調査報告書か
- 納期の見込み:正式依頼から交付までの所要期間
- 追加費用の可能性:調査の過程で追加費用が発生する条件があるか
なお、鑑定費用は「不動産の価格の大小」ではなく、「評価に要する作業量と難易度」に応じて設定されるのが一般的です。評価額が高い不動産だからといって、必ずしも鑑定費用が高額になるわけではありません。
STEP2: 正式依頼・契約
依頼書の内容
見積もり内容に納得したら、正式に鑑定評価を依頼します。鑑定業者との間で「鑑定評価受託契約」を締結し、依頼内容を書面で確認します。
依頼書(受託契約書)には、一般的に以下の事項が記載されます。
- 依頼者の氏名(名称)・住所
- 対象不動産の表示(所在、地番、面積など)
- 鑑定評価の依頼目的
- 鑑定評価の条件(現状を前提とするか、更地を前提とするかなど)
- 価格時点(いつの時点の価格を求めるか)
- 鑑定報酬と支払条件
- 納期
評価条件の確認
正式依頼の段階では、鑑定評価の条件を依頼者と鑑定士の間で明確に合意することが極めて重要です。鑑定評価の条件とは、鑑定評価を行ううえでの前提条件のことで、主に以下の種類があります。
| 条件の種類 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 対象確定条件 | 対象不動産の物的な範囲を確定する条件 | 更地としての鑑定、建付地としての鑑定 |
| 地域要因・個別的要因に関する想定上の条件 | 価格形成要因について実際と異なる想定を置く条件 | 土壌汚染がないものとしての鑑定、建築制限が緩和されたものとしての鑑定 |
| 調査範囲等条件 | 調査の範囲を限定する条件 | 内覧を行わないことを条件とする鑑定 |
鑑定評価の条件設定は、鑑定評価基準に定められた厳格なルールに基づいて行われます。依頼者が自由に条件を指定できるわけではなく、合理的かつ妥当な条件でなければ、鑑定士はその条件を受け入れることができません。
STEP3: 基本的事項の確定
鑑定評価の基本的事項とは、鑑定評価を行ううえで最初に明確にしなければならない事項のことです。不動産鑑定評価基準では、以下の3つを基本的事項として規定しています。

基本的事項は何を・いつ・どんな
対象不動産の確定
対象不動産の確定とは、鑑定評価の対象となる不動産を物的に(土地・建物の範囲)および権利の態様に関して(所有権、借地権、区分所有権など)特定することです。
鑑定評価基準では、対象不動産の確定にあたって以下の作業を行うことが求められています。
- 実地調査(現地調査)による物的状態の確認
- 登記簿等の権利関係書類の確認
- 依頼者への確認
例えば、土地と建物を一体として評価するのか、土地のみを評価するのかによって、鑑定評価額は大きく変わります。対象不動産の範囲を明確にすることは、鑑定評価の出発点として欠かせない作業です。
価格の種類の確定
不動産鑑定評価基準では、求める価格の種類として以下の4つを定めています。
| 価格の種類 | 概要 |
|---|---|
| 正常価格 | 市場性を有する不動産について、合理的な市場で形成されるであろう適正な価格 |
| 限定価格 | 市場が限定される場合の適正な価格(隣接地の併合など) |
| 特定価格 | 法令等による社会的要請を背景とする目的のもとでの価格(証券化対象不動産の評価など) |
| 特殊価格 | 市場性を有しない不動産の利用現況を前提とした価格(文化財など) |
依頼目的に応じて適切な価格の種類を確定することが必要です。一般的な鑑定評価では「正常価格」を求めるケースが最も多くなっています。
価格時点の確定
価格時点とは、鑑定評価額がいつの時点の価格であるかを示すものです。不動産の価格は時間の経過とともに変動するため、「いつの時点の価格を求めるのか」を明確にすることが不可欠です。
価格時点は通常、以下のいずれかに設定されます。
- 現在時点:鑑定評価を行う日(最も一般的)
- 過去の時点(遡及評価):相続開始日や売買契約日など、過去のある時点の価格を求める場合
- 将来の時点:まれなケースですが、将来の一定時点の価格を見積もる場合

価格時点は過去にも置ける
STEP4: 資料の収集・整理
必要書類一覧
鑑定評価を行うためには、対象不動産に関するさまざまな資料が必要です。鑑定士が自ら取得する資料もありますが、依頼者に提供を求める資料もあります。
依頼者が準備する主な書類
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 登記事項証明書(登記簿謄本) | 所有者、権利関係、面積等の確認 |
| 公図・地積測量図 | 土地の形状、接道状況の確認 |
| 建物図面(間取り図、設計図書) | 建物の構造、面積、間取りの確認 |
| 固定資産税の課税明細書 | 固定資産税評価額、課税面積の確認 |
| 賃貸借契約書 | 賃貸物件の場合、賃料・契約条件の確認 |
| 建築確認通知書・検査済証 | 建物の適法性の確認 |
| 土壌調査報告書(ある場合) | 土壌汚染の有無の確認 |
鑑定士が事前に「必要書類リスト」を渡してくれるのが一般的ですので、それに従って準備すればよいでしょう。
鑑定士が収集する主な資料
| 資料 | 内容 |
|---|---|
| 取引事例資料 | 近隣の不動産取引事例のデータ |
| 賃貸事例資料 | 近隣の賃料に関するデータ |
| 公示地価・基準地価 | 国土交通省・都道府県が公表する公的価格 |
| 路線価図 | 相続税路線価の確認 |
| 都市計画図 | 用途地域、容積率等の確認 |
役所調査
鑑定士は、対象不動産に関する法令上の規制や制限を確認するため、関係する役所(市区町村役場、都道府県庁、法務局など)で調査を行います。
役所調査で確認する主な事項は以下のとおりです。
- 都市計画法関連:用途地域、建ぺい率・容積率、都市計画道路の有無
- 建築基準法関連:接道義務の充足、建築制限
- 道路関連:前面道路の種別(公道・私道)、幅員
- 上下水道・ガス等のインフラ:供給状況の確認
- 土地区画整理事業等の有無:換地処分の有無、事業の進捗状況
- その他の法令制限:文化財保護法、土壌汚染対策法、景観法など
これらの調査は、対象不動産の価格形成要因を正確に把握するために不可欠な作業です。
STEP5: 現地調査
鑑定士が現地で見るポイント
現地調査は、鑑定評価において極めて重要なステップです。鑑定士が実際に対象不動産を訪れ、書類だけではわからない情報を自らの目で確認します。
現地調査で鑑定士が確認する主な項目を、土地と建物に分けて整理します。
土地に関する確認事項
| 確認項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 形状・地勢 | 整形か不整形か、平坦か傾斜か |
| 接道状況 | 前面道路の幅員、接道の長さ、角地かどうか |
| 周辺環境 | 住宅地か商業地か、嫌悪施設の有無、日照・騒音の状況 |
| 利用状況 | 現在どのように利用されているか(更地、駐車場、建物敷地など) |
| 供給処理施設 | 上下水道、ガス、電気の整備状況 |
| 境界の状態 | 境界標の有無、越境物の有無 |
建物に関する確認事項
| 確認項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 構造・規模 | 木造・鉄骨造・RC造の別、階数、延床面積 |
| 築年数・経年劣化の状態 | 外壁・屋根の劣化、設備の老朽化 |
| 修繕・リフォームの状況 | 過去の修繕履歴、改装の有無 |
| 設備の状況 | 空調設備、給排水設備、エレベーターなどの状態 |
| 管理状態 | 清掃状況、共用部分の維持管理(マンションの場合) |
| 違法建築の有無 | 建築確認通知書との整合性 |
現地調査では写真撮影も行われ、鑑定評価書に添付される資料として活用されます。依頼者が立ち会う場合もありますが、鑑定士のみで実施することも多いです。

書類で調べ、現地で確かめる
不動産鑑定評価基準では、対象不動産の確認に関して、実地調査と照合確認を行うことが求められており、これは鑑定評価の信頼性を担保するための基本的な要件です。
STEP6: 鑑定評価の手法の適用
三方式(三手法)の概要
資料の収集と現地調査が完了したら、いよいよ鑑定評価の核心部分である鑑定評価の手法の適用に入ります。不動産鑑定評価基準では、以下の三方式(三手法)を定めています。
| 手法 | 基本的な考え方 | 求められる価格 |
|---|---|---|
| 原価法 | 対象不動産を今もう一度つくったらいくらかかるか(再調達原価)を基礎に、経年劣化等を差し引いて価格を求める | 積算価格 |
| 取引事例比較法 | 類似の不動産の実際の取引事例を収集し、事情補正・時点修正・地域要因比較・個別的要因比較を行って価格を求める | 比準価格 |
| 収益還元法 | 対象不動産が将来生み出す収益(賃料等)を現在価値に割り引いて価格を求める | 収益価格 |
原価法の適用
原価法は、対象不動産の再調達原価を算出し、そこから減価修正を行って積算価格を求める手法です。
原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である。― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
再調達原価とは、対象不動産を価格時点において再び造成・建築するとした場合に必要とされる適正な原価の総額です。建物の場合は、同等の建物を新築するのに必要な費用(建設費)が基礎となります。
減価修正では、物理的減価(経年劣化)、機能的減価(設備の陳腐化)、経済的減価(周辺環境の変化による価値低下)の3つの観点から減価額を算定します。
取引事例比較法の適用
取引事例比較法は、実際の取引事例を基礎として比準価格を求める手法です。
取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である。― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
取引事例比較法の適用にあたっては、以下の作業が行われます。
- 取引事例の収集:多数の取引事例を収集する
- 事例の選択:近隣地域または同一需給圏内の類似地域から適切な事例を選択する
- 事情補正:特殊な事情(売り急ぎ、親族間取引など)がある場合に補正する
- 時点修正:取引時点と価格時点の間の価格変動を反映する
- 地域要因の比較:事例の所在する地域と対象不動産の所在する地域の地域要因を比較する
- 個別的要因の比較:事例の個別的要因と対象不動産の個別的要因を比較する
収益還元法の適用
収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろう純収益を現在価値に還元して収益価格を求める手法です。賃貸不動産や事業用不動産の評価において特に重要な手法とされています。
収益還元法には、以下の2つの方法があります。
| 方法 | 概要 |
|---|---|
| 直接還元法 | 一期間(通常1年間)の純収益を還元利回りで割り戻して価格を求める方法。計算式は「収益価格 = 純収益 / 還元利回り」 |
| DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法) | 保有期間中の各期の純収益と保有期間終了時の復帰価格を、それぞれ現在価値に割り引いて合計する方法 |
鑑定評価基準では、収益還元法は文化財等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものにはすべて適用すべきものとされており、その適用範囲は非常に広いものです。
STEP7: 試算価格の調整と鑑定評価額の決定
試算価格の調整とは
STEP6で三方式を適用した結果、通常は複数の試算価格(積算価格、比準価格、収益価格)が得られます。しかし、これらの試算価格は必ずしも一致しません。試算価格の調整とは、複数の試算価格のうち、どの試算価格をどのように重視して最終的な鑑定評価額を決定するかを判断するプロセスです。
不動産鑑定評価基準では、試算価格の調整について以下のように規定しています。
鑑定評価の手順の各段階について、客観的、批判的に再吟味し、その結果を踏まえた各試算価格が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価における最終判断である鑑定評価額の決定に導く作業をいう。
試算価格の調整にあたっては、以下の観点から再吟味が行われます。
| 再吟味の観点 | 内容 |
|---|---|
| 資料の選択・検討・活用の適否 | 採用した事例や収益データは適切だったか |
| 不動産の価格に関する諸原則の当てはまり具合 | 最有効使用の判定は妥当か、需要と供給の関係は適切に反映されているか |
| 各手法の適用において行った各判断の適否 | 補正率や利回り等の設定は合理的か |
| 各手法に共通する価格形成要因の分析の整合性 | 複数の手法間で矛盾した判断はないか |
| 単価と総額の関連の適否 | 単価ベースと総額ベースで見て合理的か |
鑑定評価額の決定
試算価格の調整を経て、鑑定士は最終的な鑑定評価額を決定します。この決定は、鑑定士の専門家としての判断に基づくものですが、恣意的なものであってはなりません。各試算価格の説得力を比較考量し、対象不動産の類型や市場の特性を踏まえた合理的な判断であることが求められます。
例えば、賃貸マンションの評価であれば収益価格の説得力が相対的に高く、住宅地の更地であれば比準価格の説得力が高い、というように、対象不動産の性格に応じた判断がなされます。
鑑定評価額の決定は、鑑定評価における最も重要な判断であり、鑑定士はその決定の理由を鑑定評価書に明確に記載しなければなりません。
STEP8: 鑑定評価書の作成・交付
鑑定評価書とは
鑑定評価書は、不動産鑑定士が鑑定評価の結果をまとめた正式な書類です。不動産の鑑定評価に関する法律第39条では、不動産鑑定業者が依頼者に鑑定評価書を交付しなければならないこと、鑑定評価書にはその鑑定評価に関与した不動産鑑定士が資格を表示して署名しなければならないことが定められています。
鑑定評価書には不動産鑑定士の署名押印がなされ、鑑定士がその内容について職業的責任を負います。裁判所や税務署など公的機関に対しても、高い証拠力を持つ書類として認められています。
評価書に記載される内容
不動産鑑定評価基準(総論第9章)では、鑑定評価書の必要的記載事項を定めています。主な記載事項は以下のとおりです。
| 記載事項 | 内容 |
|---|---|
| 鑑定評価額 | 鑑定評価の結論としての価格(金額) |
| 対象不動産の表示 | 所在、地番、面積、構造等の基本情報 |
| 価格時点 | いつの時点の価格であるか |
| 鑑定評価の依頼目的 | 何のために鑑定評価を行ったか |
| 鑑定評価の条件 | 評価の前提条件 |
| 対象不動産の確認に関する事項 | 物的確認・権利の態様の確認の結果 |
| 価格形成要因の分析 | 一般的要因・地域要因・個別的要因の分析結果 |
| 鑑定評価の手法の適用 | 各手法の適用過程と試算価格 |
| 試算価格の調整 | 試算価格の再吟味と説得力の判断 |
| 鑑定評価額の決定の理由の要旨 | なぜその金額を鑑定評価額としたかの理由 |
このほか、鑑定評価を行った不動産鑑定士の氏名、鑑定評価を行った不動産鑑定業者の名称、関与不動産鑑定士の氏名なども記載されます。
鑑定評価書の受け取り
鑑定評価書が完成すると、鑑定業者から依頼者に交付されます。交付方法は、直接手渡し、郵送、またはオンラインでの送付など、鑑定業者によって異なります。
鑑定評価書を受け取った際には、以下の点を確認しましょう。
- 対象不動産の表示に誤りがないか
- 鑑定評価の条件が依頼時に合意した内容と一致しているか
- 価格時点が正しいか
- 不明な点があれば、鑑定士に質問して説明を受ける
鑑定評価書の内容に疑問がある場合は、遠慮なく鑑定士に説明を求めてください。鑑定士には、依頼者に対して鑑定評価の内容を説明する責務があります。
所要期間と費用の目安
所要期間の目安
不動産鑑定の所要期間は、対象不動産の種類や複雑さによって異なります。一般的な目安は以下のとおりです。
| 対象不動産 | 所要期間の目安 |
|---|---|
| 更地(住宅地の標準的な画地) | 2〜3週間 |
| 戸建住宅(土地建物一体) | 2〜4週間 |
| マンション(区分所有) | 2〜3週間 |
| 賃貸アパート・マンション | 3〜4週間 |
| 事業用不動産(店舗・事務所ビル) | 3〜6週間 |
| 大規模・特殊な不動産 | 1〜3か月 |
急ぎの場合は「特急対応」を引き受けてくれる鑑定業者もありますが、追加料金が発生する場合があります。裁判の期日や税務申告の期限がある場合は、余裕を持って早めに依頼することが大切です。
費用の目安
不動産鑑定の費用は、対象不動産の種類・規模・所在地・評価の難易度によって異なります。以下は一般的な目安です。
| 対象不動産 | 費用の目安 |
|---|---|
| 更地(住宅地) | 20万〜30万円程度 |
| 戸建住宅(土地建物) | 25万〜40万円程度 |
| マンション(区分所有) | 20万〜35万円程度 |
| 賃貸アパート・マンション | 30万〜50万円程度 |
| 事業用不動産(店舗・事務所ビル等) | 30万〜60万円程度 |
| 大規模な不動産・特殊な不動産 | 50万〜100万円以上 |
上記に加えて、交通費や日当が別途発生する場合もあります。また、正式な鑑定評価書ではなく、簡易な「価格等調査報告書」や「意見書」を依頼する場合は、上記より安価になるのが一般的です。ただし、裁判や税務申告で利用する場合は、正式な鑑定評価書の取得をおすすめします。
試験での出題ポイント(鑑定評価の手順に関する問題)
不動産鑑定士試験において、「鑑定評価の手順」は頻出テーマの一つです。以下のポイントを重点的に学習してください。
短答式試験
短答式試験では、鑑定評価の手順に関する正確な知識が問われます。
出題されやすい論点
| 論点 | ポイント |
|---|---|
| 鑑定評価の手順の順序 | 基本的事項の確定 → 処理計画の策定 → 対象不動産の確認 → 資料の収集及び整理 → 資料の検討及び価格形成要因の分析 → 鑑定評価の手法の適用 → 試算価格の調整 → 鑑定評価額の決定 → 鑑定評価報告書の作成 |
| 対象不動産の確定と確認の違い | 「確定」は対象不動産を特定すること(基本的事項)、「確認」は確定された不動産の物的状態と権利関係を実地に確かめること |
| 価格時点の意義 | 不動産の価格は常に変動するため、いつの時点の価格かを明示する必要がある |
| 試算価格の調整 | 単なる平均ではなく、各試算価格の説得力を比較考量する判断プロセスである |
| 鑑定評価書の記載事項 | 総論第9章に規定される必要的記載事項を正確に覚える |
注意すべきひっかけ問題のパターン
- 「試算価格の調整とは、複数の試算価格の単純平均をとることである」 → 誤り。各試算価格の説得力に係る判断を行い、鑑定評価額の決定に導く作業です。
- 「対象不動産の確定は、現地調査を行ってから行う」 → 誤り。対象不動産の確定(基本的事項)が先にあり、その後に現地調査(対象不動産の確認)が行われます。
- 「価格時点は、必ず鑑定評価を行う日と同一でなければならない」 → 誤り。過去の時点(遡及評価)に設定することも認められています。

確定が先、確認が後
論文式試験
論文式試験では、鑑定評価の手順の意義や各段階の関連性について、体系的な理解が求められます。
出題が予想されるテーマ
- 鑑定評価の手順の意義:なぜこの順序で行う必要があるのか、各段階がどのように連携しているのかを論述する
- 試算価格の調整の考え方:具体的な事例をもとに、各試算価格の説得力をどう判断するかを説明する
- 鑑定評価の条件と基本的事項の関係:条件設定が鑑定評価額にどのような影響を与えるかを分析する
- 対象不動産の確定と確認の関係:両者の違いと相互の関連を明確に説明する
- 鑑定評価書の意義:鑑定評価書に必要的記載事項が定められている理由と、鑑定評価の公的信頼性との関係
論文式試験においては、単なる暗記ではなく、各手順がなぜ必要なのかという「理由」を論理的に説明できることが重要です。鑑定評価の手順は、鑑定評価の信頼性を担保するための体系的なプロセスであるという本質を理解しておきましょう。
暗記のポイント
受験生の皆さんに向けて、この記事の内容に関連する暗記すべき事項を整理します。
鑑定評価の手順の順序
鑑定評価基準に規定されている鑑定評価の手順は、以下の9段階です。この順序は正確に覚えましょう。
- 鑑定評価の基本的事項の確定
- 依頼者、提出先等及び利害関係等の確認
- 処理計画の策定
- 対象不動産の確認
- 資料の収集及び整理
- 資料の検討及び価格形成要因の分析
- 鑑定評価の手法の適用
- 試算価格又は試算賃料の調整
- 鑑定評価額の決定及び鑑定評価報告書の作成
基本的事項の3要素
基本的事項として確定すべき3つの事項は、以下のとおりです。
| 基本的事項 | 覚え方のキーワード |
|---|---|
| 対象不動産の確定 | 「何を」評価するか |
| 価格時点の確定 | 「いつ」の価格を求めるか |
| 鑑定評価によって求める価格又は賃料の種類の確定 | 「どんな」価格を求めるか |
覚え方のヒントとして、「何を・いつ・どんな」の3つの問いで整理すると記憶に残りやすいです。
三方式と試算価格の対応
| 手法 | 試算価格の名称 | キーワード |
|---|---|---|
| 原価法 | 積算価格 | 再調達原価 - 減価修正 |
| 取引事例比較法 | 比準価格 | 事例選択 → 事情補正 → 時点修正 → 地域比較 → 個別比較 |
| 収益還元法 | 収益価格 | 純収益 / 還元利回り(直接還元法) |
試算価格の調整に関する重要な定義
以下の定義は、論文式試験でそのまま書けるように正確に覚えておきましょう。
試算価格又は試算賃料の調整とは、鑑定評価の複数の手法により求められた各試算価格又は試算賃料の再吟味及び各試算価格又は試算賃料が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価における最終判断である鑑定評価額の決定に導く作業をいう。
ポイントは「再吟味」「説得力に係る判断」「最終判断である鑑定評価額の決定に導く作業」の3つのフレーズです。
語呂合わせ・覚え方のヒント
- 鑑定評価の手順の順序:「き・い・しょ・た・しゅう・けん・て・し・けつ」(基本的事項 → 依頼者等の確認 → 処理計画 → 対象不動産の確認 → 収集整理 → 検討分析 → 手法適用 → 試算価格の調整 → 決定・報告書作成)
- 三方式:「原(げん)・取(と)・収(しゅう)で積(せき)・比(ひ)・収(しゅう)」(原価法で積算価格、取引事例比較法で比準価格、収益還元法で収益価格)
- 取引事例比較法の手順:「事例(ジレイ)→事情(ジジョウ)→時点(ジテン)→地域(チイキ)→個別(コベツ)」と「ジ」で始まる項目が3つ続く点を意識する
まとめ
不動産鑑定は、相談・見積もりから始まり、鑑定評価書の交付に至るまで、体系的な手順に基づいて進められます。本記事で解説した8つのステップを改めて整理します。
| ステップ | 内容 | 依頼者が意識すべきこと |
|---|---|---|
| STEP1 | 相談・見積もり | 鑑定の目的と対象不動産の情報を正確に伝える |
| STEP2 | 正式依頼・契約 | 鑑定評価の条件を鑑定士と明確に合意する |
| STEP3 | 基本的事項の確定 | 対象不動産・価格時点・価格の種類が正しいか確認する |
| STEP4 | 資料の収集・整理 | 鑑定士から求められた書類を早めに準備する |
| STEP5 | 現地調査 | 必要に応じて立会い、物件に関する情報を提供する |
| STEP6 | 鑑定評価の手法の適用 | 鑑定士が三方式を適用する専門的な工程(依頼者は待機) |
| STEP7 | 試算価格の調整と鑑定評価額の決定 | 鑑定士の専門的判断に基づく最終的な決定工程 |
| STEP8 | 鑑定評価書の作成・交付 | 受け取り後、記載内容に疑問があれば鑑定士に確認する |
一般の方にとっては、「鑑定の目的を明確にすること」「必要書類を早めに準備すること」「余裕をもったスケジュールで依頼すること」の3点が、スムーズな鑑定評価を実現するためのポイントです。
不動産鑑定士試験の受験生にとっては、鑑定評価基準の総論第8章「鑑定評価の手順」は最重要分野の一つです。各段階の順序、基本的事項の3要素、三方式と試算価格の対応関係、試算価格の調整の定義など、正確な知識を身につけておくことが合格への近道です。実務の流れを具体的にイメージしながら基準の条文を学ぶことで、理解がより深まるでしょう。
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