/ 鑑定理論

国際評価基準IVSと日本の不動産鑑定評価基準の共通点・相違点を比較

国際評価基準(IVS)と日本の不動産鑑定評価基準を比較解説。IVSの概要、市場価値と正常価格の対応関係、評価アプローチの比較、日本基準の独自性まで、両基準の共通点と相違点を整理します。

はじめに――国際基準を知る意義

不動産の評価基準は世界各国で定められていますが、国際的な評価基準として最も広く参照されているのがIVS(International Valuation Standards:国際評価基準)です。

グローバル化が進展する中、不動産投資の国際化、会計基準の国際統一(IFRS)、不動産の証券化の進展などにより、日本の鑑定評価も国際基準との整合性が求められるようになっています。2014年の鑑定評価基準の改正でも、IVSとの整合性が改正の背景の一つとして挙げられました。

本記事では、IVSの概要と日本の鑑定評価基準との比較を通じて、両基準の共通点と相違点を解説します。


IVS(国際評価基準)の概要

IVSとは

IVSは、国際評価基準審議会(IVSC: International Valuation Standards Council)が策定する評価基準です。

項目内容
策定主体国際評価基準審議会(IVSC)
目的評価業務における国際的な整合性と透明性の向上
対象不動産に限らず、企業価値、金融商品など幅広い資産の評価
採用国多くの国が参照または採用(欧州、アジア、オセアニア等)

IVSの構成

IVSは以下のような構成となっています。

構成内容
一般基準(IVS General Standards)評価業務全般に共通する基本的事項
資産基準(IVS Asset Standards)各資産クラスに固有の評価基準
評価アプローチ市場アプローチ、収益アプローチ、コストアプローチの3つ

RICS(王立チャータード・サベイヤーズ協会)との関係

項目内容
RICSとは英国を拠点とする不動産専門家の国際的な職能団体
レッドブックRICSが策定する評価実務基準(RICS Valuation - Global Standards)
IVSとの関係レッドブックはIVSを包含しつつ、RICSの独自基準を追加

価格概念の比較

市場価値(Market Value)と正常価格

IVSと日本の鑑定評価基準における中心的な価格概念を比較します。

項目IVS(市場価値)日本基準(正常価格)
定義適切なマーケティングの後、知識ある意思のある当事者間で、互いに独立した立場で行われる取引において成立する価格現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格
市場の条件知識ある当事者、意思のある売主と買主、独立当事者間取引合理的な市場(対象不動産について十分な情報を有する当事者が、強制なく取引する場合)
使用最有効利用(highest and best use)を前提最有効使用を前提

両者は表現は異なりますが、いずれも「合理的な市場条件のもとで形成される適正な価格」という基本的な考え方を共有しています。

その他の価格概念

IVS日本基準比較
市場価値(Market Value)正常価格ほぼ同一の概念
投資価値(Investment Value)(直接対応なし)特定の投資家にとっての価値
公正価値(Fair Value)特定価格(一部対応)会計基準における時価の概念
清算価値(Liquidation Value)(直接対応なし)強制売却の場合の価値
(直接対応なし)限定価格市場が限定される場合の価格
(直接対応なし)特殊価格文化財等の特殊な不動産の価格

日本の鑑定評価基準には、限定価格特殊価格など、IVSにはない独自の価格概念があります。これは日本の不動産市場や法制度の特殊性を反映したものです。

確認問題

IVSの市場価値(Market Value)と日本の鑑定評価基準の正常価格は、基本的に同じ概念を示している。


評価アプローチの比較

3つのアプローチ

IVSと日本基準は、いずれも3つの基本的な評価アプローチ(手法)を採用しています。

IVS日本基準着目する価値
市場アプローチ(Market Approach)取引事例比較法市場性
収益アプローチ(Income Approach)収益還元法収益性
コストアプローチ(Cost Approach)原価法費用性

市場アプローチと取引事例比較法

比較項目IVS日本基準
基本的考え方類似資産の取引データに基づく比較類似の取引事例からの比準
補正・修正取引条件、市場条件、物的条件の調整事情補正、時点修正、地域要因の比較、個別的要因の比較
特徴的な規定事情補正の概念が独自

日本基準の事情補正は、取引に特殊な事情がある場合にその影響を排除する手続きであり、日本基準に独自の詳細な規定です。

収益アプローチと収益還元法

比較項目IVS日本基準
直接還元法Income Capitalization直接還元法
DCF法Discounted Cash FlowDCF法
併用の関係状況に応じて選択証券化対象不動産では併用が必須

コストアプローチと原価法

比較項目IVS日本基準
基本的考え方再調達コストから減価を控除再調達原価から減価修正
減価の種類物理的劣化、機能的陳腐化、経済的陳腐化物理的減価、機能的減価、経済的減価
土地への適用一般に土地には適用しない造成地等には適用可能

評価プロセスの比較

評価プロセスの対比

プロセスIVS日本基準
評価の範囲の確定Scope of Work鑑定評価の基本的事項の確定
対象の確認Asset Identification対象不動産の確認
価値の前提Basis of Value価格の種類の決定
市場分析Market Analysis地域分析・個別分析
評価手法の適用Valuation Approaches鑑定評価の方式の適用
結論の導出Conclusion of Value試算価格の調整・鑑定評価額の決定
報告Valuation Report鑑定評価報告書

基本的なプロセスは類似していますが、用語や細部の手順に違いがあります。

日本基準に固有のプロセス

プロセス内容IVSとの対応
事情補正取引事例の特殊事情の排除IVSでは取引条件の調整として包含
試算価格の調整複数の試算価格から鑑定評価額を決定IVSでは結論の導出に相当
地域分析・個別分析体系的な分析手法IVSでは市場分析に包含

日本基準の地域分析・個別分析の体系は、近隣地域・類似地域・同一需給圏の概念を含む独自の分析フレームワークであり、IVSにはない詳細な規定です。

確認問題

IVSでは3つの評価アプローチ(市場・収益・コスト)を定めているが、日本基準の三方式と基本的に対応している。


日本基準の独自性

日本基準に特有の概念

日本の鑑定評価基準には、IVSにはない独自の概念や規定があります。

独自の概念内容背景
限定価格市場が限定される場合の価格(隣接地併合等)日本の不動産取引の実態に対応
特殊価格文化財等の特殊な不動産の価格日本の文化財保護制度
対象確定条件の3類型現状所与、独立鑑定評価、部分鑑定評価日本の権利関係の複雑性
事情補正取引の特殊事情の排除日本の取引慣行への対応
近隣地域・類似地域地域分析の独自フレームワーク日本の都市構造・土地利用に対応
同一需給圏代替競争関係にある不動産の圏域不動産市場の圏域分析

IVSに特有の概念

概念内容日本基準との関係
投資価値(Investment Value)特定の投資家にとっての主観的価値日本基準では価格の種類として明示的に規定していない
清算価値(Liquidation Value)強制売却時の価値日本基準では正常価格の範囲外として直接規定していない
公正価値(Fair Value)会計基準における公正な評価額特定価格がIFRSの公正価値に対応する場合がある

国際基準との調和の動き

2014年改正における国際化への対応

日本の鑑定評価基準は、国際基準との整合性を意識した改正が行われてきています。

改正内容国際基準との関連
正常価格の定義の精緻化IVSの市場価値の定義との整合性向上
建物の市場性の修正コストアプローチにおける市場性の反映(国際的な実務慣行)
未竣工建物の評価国際的に一般化している開発中不動産の評価への対応

今後の課題

課題内容
用語の統一日本独自の用語と国際基準の用語の対応関係の明確化
評価基準の範囲IVSは不動産以外の資産も対象とするが、日本基準は不動産に限定
会計基準との整合IFRSの公正価値測定と鑑定評価基準の整合性の確保
評価者の資格国際的な資格の相互認証

会計基準との関係

IFRSの公正価値とIVS

国際財務報告基準(IFRS)第13号「公正価値測定」は、公正価値を「測定日において市場参加者間の秩序ある取引において、資産の売却により受け取るであろう価格又は負債の移転のために支払うであろう価格」と定義しています。

概念IVSIFRS日本基準
市場参加者の価格市場価値公正価値正常価格
特定の主体の価格投資価値(対象外)(明示的な規定なし)
会計目的の評価公正価値公正価値特定価格(一部)

日本では、企業会計における不動産の時価として鑑定評価額が用いられることが多く、会計基準と鑑定評価基準の整合性は実務上重要な課題です。


試験での出題ポイント

短答式試験の頻出論点

出題パターン頻出の誤りの選択肢正しい理解
IVSの策定主体「RICS(英国)が策定」IVSCが策定、RICSはレッドブックを策定
市場価値と正常価格「全く異なる概念」基本的に同じ概念を表している
評価アプローチ「IVSは2つのアプローチのみ」市場・収益・コストの3つのアプローチ
日本基準の独自性「日本基準にはIVSにない概念はない」限定価格、特殊価格、事情補正等が日本基準独自

論文式試験のポイント

論点1:IVSの市場価値と日本基準の正常価格の比較。 両概念の定義を比較し、共通点と微細な相違点を論述する問題です。

論点2:日本基準の独自性。 限定価格、特殊価格、事情補正、地域分析のフレームワークなど、日本基準に独自の概念とその背景を論じる問題です。

論点3:国際基準との調和の意義と課題。 不動産投資の国際化や会計基準の統一を背景とした国際基準との調和の意義と、今後の課題を論述する問題です。


まとめ

IVS(国際評価基準)と日本の鑑定評価基準は、基本的な枠組みにおいて多くの共通点を持っています。市場価値と正常価格はほぼ同一の概念であり、3つの評価アプローチ(市場・収益・コスト)と日本の三方式(取引事例比較法・収益還元法・原価法)も対応しています。

一方で、日本の鑑定評価基準には限定価格・特殊価格、事情補正、近隣地域・類似地域・同一需給圏の概念など、日本の不動産市場や法制度の特殊性を反映した独自の概念があります。IVSには投資価値や清算価値など、日本基準では明示的に規定されていない概念もあります。

不動産投資の国際化やIFRSの普及に伴い、日本基準と国際基準の整合性は今後も重要な課題であり続けます。2014年の基準改正でもIVSとの整合性が意識されており、日本基準は国際基準との調和を図りつつ、独自の特性を維持する方向で発展しています。

関連する記事として、「正常価格」と「公正価値」の違い鑑定評価基準の改正履歴ESGと不動産鑑定評価の関係も参照してください。

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