DCF法の仕組みを完全理解 - 不動産鑑定における割引率と還元利回りの計算
DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)の仕組みを完全解説。割引率・最終還元利回り・復帰価格の計算方法を具体例とともに、試験対策の視点でわかりやすく解説します。
はじめに ― DCF法とは何か
DCF法(Discounted Cash Flow法、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)は、収益還元法のうち、将来の各期のキャッシュフローと保有期間終了時の復帰価格をそれぞれ現在価値に割り引いて合計することで、不動産の価値を求める手法です。
DCF法は、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法である。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
直接還元法が「安定した1年間の純収益」を前提とするのに対し、DCF法は保有期間(通常5〜10年)の各年の収支変動を個別に予測する点が特徴です。このため、より精緻な分析が可能であり、特に証券化対象不動産の評価において重視されています。
DCF法と直接還元法の違い
両手法の違いを改めて整理します。
| 項目 | 直接還元法 | DCF法 |
|---|---|---|
| 分析期間 | 単一年度(1年間) | 複数年度(通常5〜10年) |
| 純収益の扱い | 安定化された純収益 | 各年の変動を個別に予測 |
| 将来予測 | 還元利回りに内包 | 明示的にキャッシュフローを予測 |
| 復帰価格 | なし | 保有期間終了時の売却価格を算定 |
| 使用する率 | 還元利回り | 割引率+最終還元利回り |
| 複雑さ | シンプル | 詳細な分析が必要 |
直接還元法では将来の変動を還元利回りの中に暗黙的に含めますが、DCF法では変動を明示的に各年のキャッシュフローに反映させるため、分析の透明性が高いといえます。
DCF法の基本公式
DCF法の基本公式は次のとおりです。
収益価格 = Σ(各期の純収益の現在価値) + 復帰価格の現在価値
数式で表すと:
P = a₁/(1+Y)¹ + a₂/(1+Y)² + ... + aₙ/(1+Y)ⁿ + Pₙ/(1+Y)ⁿ
ここで、
- P:収益価格(求める不動産価格)
- a₁〜aₙ:各期の純収益
- Y:割引率(ディスカウントレート)
- n:保有期間(分析期間)
- Pₙ:復帰価格(ターミナルバリュー)
つまり、「将来得られるお金を、今の価値に換算したらいくらになるか」を計算する手法です。
割引率(ディスカウントレート)の意味と求め方
割引率とは
割引率とは、将来の収益を現在の価値に割り引く(ディスカウントする)ために用いる率です。投資家が不動産投資に求める期待収益率と考えることができます。
割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率であり、還元利回りと同様、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
割引率の求め方
基準では、割引率の求め方として以下の方法が示されています。
- 類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
- 借入金と自己資金に係る割引率から求める方法(加重平均資本コスト=WACC的な考え方)
- 金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法(リスクフリーレート+リスクプレミアム)
割引率と還元利回りの関係
割引率と還元利回りは密接に関連していますが、異なる概念です。
| 項目 | 割引率 | 還元利回り |
|---|---|---|
| 使用場面 | 各期のCFを現在価値に割り引く | 純収益から直接的に価格を求める |
| 含む要素 | 投資のリスクと期待収益率 | リスク+純収益の変動予測 |
| 関係式 | 割引率 = 還元利回り + 純収益の変動率(概算) | 還元利回り = 割引率 − 純収益の変動率(概算) |
一般的に、純収益が将来増加すると見込まれる場合は、還元利回りは割引率より低くなり、純収益が減少すると見込まれる場合は、還元利回りは割引率より高くなります。
DCF法における割引率と直接還元法における還元利回りは、全く同一の概念である。
最終還元利回り(ターミナルキャップレート)
最終還元利回りとは
最終還元利回り(ターミナルキャップレート)は、保有期間終了時における復帰価格を算出するために用いる還元利回りです。
復帰価格 = 保有期間終了後の翌期の純収益 ÷ 最終還元利回り
最終還元利回りの特徴
最終還元利回りは、通常、初年度の還元利回りよりもやや高く設定されます。これは、保有期間の経過による建物の経年劣化や、将来予測の不確実性が増すことを反映するためです。
| 項目 | 初年度の還元利回り | 最終還元利回り |
|---|---|---|
| 時点 | 価格時点 | 保有期間終了時 |
| 不確実性 | 現時点の市場を反映 | 将来予測の不確実性が増大 |
| 水準 | 基準値 | 通常、初年度より0.5〜1%程度高い |
復帰価格(ターミナルバリュー)の算出
復帰価格とは
復帰価格とは、保有期間終了時に対象不動産を売却すると想定した場合の売却価格です。DCF法の収益価格に占める復帰価格の割合は非常に大きく、全体の50〜70%を占めることも珍しくありません。
復帰価格 = (n+1)期の純収益 ÷ 最終還元利回り
ここで注意が必要なのは、復帰価格も現在価値に割り引く必要があるという点です。
復帰価格の現在価値 = 復帰価格 ÷ (1+Y)ⁿ
DCF法の計算例
あるオフィスビルを保有期間5年で分析するケースを考えます。
前提条件
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 割引率 | 5.0% |
| 最終還元利回り | 5.5% |
| 保有期間 | 5年 |
| 期 | 純収益 |
|---|---|
| 1年目 | 1,000万円 |
| 2年目 | 1,020万円 |
| 3年目 | 1,040万円 |
| 4年目 | 1,060万円 |
| 5年目 | 1,080万円 |
| 6年目(復帰価格算定用) | 1,100万円 |
計算手順
Step 1:各期の純収益の現在価値を求める
| 期 | 純収益 | 割引係数 1/(1+0.05)ⁿ | 現在価値 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 1,000万円 | 0.9524 | 952.4万円 |
| 2年目 | 1,020万円 | 0.9070 | 925.1万円 |
| 3年目 | 1,040万円 | 0.8638 | 898.4万円 |
| 4年目 | 1,060万円 | 0.8227 | 872.1万円 |
| 5年目 | 1,080万円 | 0.7835 | 846.2万円 |
| 合計 | 4,494.2万円 |
Step 2:復帰価格を求める
復帰価格 = 1,100万円 ÷ 0.055 = 2億円
Step 3:復帰価格の現在価値を求める
復帰価格の現在価値 = 2億円 × 0.7835 = 1億5,670万円
Step 4:収益価格を算出する
収益価格 = 4,494.2万円 + 1億5,670万円 = 約2億164万円
この例では、収益価格に占める復帰価格の割合は約78%(1億5,670万円 ÷ 2億164万円)となっており、復帰価格の査定がいかに重要であるかがわかります。
DCF法のメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 各年の収支変動を明示的に反映できる | 将来予測が恣意的になるリスクがある |
| 分析の透明性が高い | 計算が複雑 |
| 投資判断に直結する情報を提供 | 割引率の設定が結果に大きく影響する |
| 保有期間全体の投資リターンを把握可能 | 復帰価格の占める割合が大きく、不確実性が高い |
DCF法では、収益価格に占める復帰価格の割合は通常わずかであり、各期の純収益が収益価格の大部分を構成する。
証券化対象不動産におけるDCF法の重要性
証券化対象不動産(J-REIT等で取得・保有される不動産)の鑑定評価においては、DCF法の適用が必須とされています。これは、証券化不動産の投資家がキャッシュフローベースで投資判断を行うため、DCF法による分析が不可欠であるためです。
基準の各論第3章では、証券化対象不動産の評価について「DCF法を適用しなければならない」と規定しています。詳細については証券化対象不動産の鑑定評価をご覧ください。
試験での出題ポイント
- DCF法の定義 ― 「連続する複数の期間」「純収益及び復帰価格」「現在価値に割り引く」
- 直接還元法との違い ― 分析期間、収支変動の扱い、使用する率の違い
- 割引率と還元利回りの違い ― 両者は異なる概念であることの理解
- 復帰価格の算定 ― 最終還元利回りを用いること
- 最終還元利回りの特徴 ― 通常、初年度の還元利回りより高く設定
- 証券化対象不動産への適用義務 ― DCF法の適用が必須
- 復帰価格の割合 ― 収益価格全体に占める復帰価格の割合が大きい
暗記のポイント
DCF法の基本構造
「各期CF割引 + 復帰価格割引 = 収益価格」
3つの率の区別
| 率 | 使用場面 |
|---|---|
| 割引率 | 各期のCFを現在価値に割り引く |
| 還元利回り | 直接還元法で純収益から価格を求める |
| 最終還元利回り | 復帰価格を求める(保有期間終了時) |
最終還元利回りの暗記
「最終(さいしゅう)は高め」 = 最終還元利回りは通常、初年度の還元利回りより高い
重要キーワード一覧
| キーワード | 暗記ポイント |
|---|---|
| DCF法 | 「連続する複数の期間」の純収益+復帰価格を現在価値に割り引く |
| 割引率 | 将来の収益を現在価値に割り戻す率 |
| 最終還元利回り | 復帰価格算定に使用。通常、還元利回りより高い |
| 復帰価格 | 保有期間終了時の売却想定価格。収益価格の50〜70%を占める |
| 証券化対象不動産 | DCF法の適用が必須 |
まとめ
DCF法は、保有期間の各年のキャッシュフローと復帰価格を現在価値に割り引いて不動産価値を求める手法です。
- 基本公式は「各期の純収益の現在価値の合計 + 復帰価格の現在価値」
- 将来の収支変動を明示的に反映でき、分析の透明性が高い
- 割引率は各期のCFを割り引く率、最終還元利回りは復帰価格を求める率
- 最終還元利回りは通常、初年度の還元利回りよりやや高く設定
- 復帰価格は収益価格全体の50〜70%を占め、その査定精度が極めて重要
- 証券化対象不動産の評価ではDCF法の適用が必須
DCF法は直接還元法と並ぶ収益還元法の重要な手法です。還元利回りの詳細についてはキャップレートとは?をご覧ください。