不動産鑑定評価の種類と目的の一覧を解説
不動産鑑定評価の種類と目的を一覧で解説。正式鑑定と簡易鑑定の違い、価格の種類(正常・限定・特定・特殊)、賃料の種類、目的別の選び方まで体系的に紹介します。
不動産鑑定評価にはさまざまな種類がある
不動産鑑定評価と聞くと、一つの決まったプロセスをイメージする方が多いかもしれません。しかし、実際には評価の目的、価格の種類、成果物の形態によって、さまざまな種類の鑑定評価が存在します。
不動産鑑定評価基準では、鑑定評価の基本的な事項として以下のように述べています。
不動産の鑑定評価に当たっては、基本的事項として、対象不動産、価格時点及び価格又は賃料の種類を確定しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章
依頼者が適切な鑑定評価を選択するためには、これらの種類を理解し、自分の目的に合った評価を依頼することが重要です。本記事では、鑑定評価の種類を体系的に整理し、どのような場面でどの種類の評価が適しているかを解説します。
成果物の種類
不動産鑑定の成果物には、主に以下の3つの種類があります。
鑑定評価書
不動産鑑定評価基準に則って作成される最も正式な成果物です。不動産鑑定士が記名・押印を行い、法的な証拠力を持ちます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法的根拠 | 不動産の鑑定評価に関する法律 |
| 作成者 | 不動産鑑定士(国家資格者) |
| 法的証拠力 | あり(税務申告、訴訟等で使用可) |
| 記載事項 | 基準で定められた事項をすべて記載 |
| 費用 | 最も高い(20万〜100万円以上) |
| 納期 | 2週間〜1か月程度 |
鑑定評価書の読み方では、鑑定評価書の具体的な読み方を解説しています。
調査報告書(簡易鑑定)
鑑定評価書に準じるものの、調査・分析の範囲を限定した簡易な形式の報告書です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法的根拠 | 価格等調査ガイドラインに準拠 |
| 作成者 | 不動産鑑定士 |
| 法的証拠力 | 鑑定評価書に比べて限定的 |
| 記載事項 | 目的に応じた範囲で記載 |
| 費用 | 鑑定評価書の50%〜70%程度 |
| 納期 | 1〜2週間程度 |
意見書・価格査定書
鑑定評価書や調査報告書よりもさらに簡易な形式の書面です。鑑定評価基準に則った正式な評価ではなく、鑑定士の専門的な意見として価格の目安を示すものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法的証拠力 | 基本的になし |
| 記載事項 | 簡略化された内容 |
| 費用 | 最も安い(5万〜20万円程度) |
| 納期 | 数日〜1週間程度 |
鑑定書と調査報告書の違いでは、成果物の種類の違いをさらに詳しく解説しています。
調査報告書(簡易鑑定)は鑑定評価書と同じ法的証拠力を持つ。
価格の種類
不動産鑑定評価基準では、4つの価格の種類が定められています。どの種類の価格を求めるかは、評価の目的によって決まります。
正常価格
最も基本的な価格の種類です。市場参加者が合理的に行動した場合に成立すると考えられる適正な価格を意味します。
正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章
正常価格が求められる主な場面
- 一般的な売買取引の参考
- 担保評価
- 相続税の時価評価
- 財務報告上の時価
限定価格
市場が限定される場合の価格です。特定の当事者間でのみ成立し得る価格であり、正常価格とは異なります。
限定価格が求められる主な場面
- 隣接不動産の併合(隣地の購入)
- 借地権と底地の同時売却
- 不動産の分割
特定価格
法令等による制約がある場合や、特定の条件下での価格です。
特定価格が求められる主な場面
- 不動産証券化のための鑑定評価
- 民事再生法に基づく評価
- 会社更生法に基づく評価
特殊価格
市場性を有しない不動産の価格です。通常の市場で取引されることが想定されない不動産について求められます。
特殊価格が求められる主な場面
- 文化財の指定を受けた建造物
- 宗教建築物
- 公共施設(市場取引が想定されないもの)
| 価格の種類 | 市場性 | 主な適用場面 |
|---|---|---|
| 正常価格 | あり | 一般的な売買、担保評価、相続 |
| 限定価格 | 限定的 | 隣地併合、借地権・底地の同時売却 |
| 特定価格 | 条件付き | 証券化、民事再生、会社更生 |
| 特殊価格 | なし | 文化財、宗教建築物 |
賃料の種類
不動産鑑定評価では、価格だけでなく賃料の評価も行います。賃料にも以下の種類があります。
正常賃料
新規に賃貸借契約を締結する場合の適正な賃料です。市場における一般的な賃料水準を示します。
限定賃料
特定の条件下での賃料です。例えば、建物の一部を増築して借り増しする場合の賃料などが該当します。
継続賃料
既に成立している賃貸借契約の賃料を改定する際に求められる賃料です。現行の賃料水準や契約の経緯を考慮して決定されます。
継続賃料の評価は、地代・家賃の増減額請求の場面で特に重要です。
| 賃料の種類 | 内容 | 主な適用場面 |
|---|---|---|
| 正常賃料 | 新規賃貸借の適正賃料 | 新規テナントの賃料設定 |
| 限定賃料 | 特定条件下の賃料 | 借り増し、一部返還 |
| 継続賃料 | 契約更新時の改定賃料 | 地代・家賃の増減額 |
目的別の鑑定評価の選び方
依頼者の目的に応じて、適切な鑑定評価の種類を選ぶためのガイドを示します。
売買の参考にしたい場合
- 推奨成果物: 鑑定評価書または調査報告書
- 価格の種類: 正常価格
- 備考: 取引金額が大きい場合は正式な鑑定評価書、概算の把握であれば調査報告書で十分
相続税の申告に使いたい場合
- 推奨成果物: 鑑定評価書
- 価格の種類: 正常価格
- 備考: 税務当局への対抗力を持たせるため、正式な鑑定評価書が必要
訴訟で使いたい場合
- 推奨成果物: 鑑定評価書
- 価格の種類: 目的に応じて(正常価格、継続賃料など)
- 備考: 法的証拠力が求められるため、正式な鑑定評価書が必須
担保評価に使いたい場合
- 推奨成果物: 鑑定評価書(金融機関の要求による)
- 価格の種類: 正常価格
- 備考: 金融機関が指定する鑑定士に依頼するケースもある
社内検討用に使いたい場合
- 推奨成果物: 調査報告書または意見書
- 価格の種類: 正常価格
- 備考: 外部に提出する必要がなければ、簡易な形式で費用を抑えられる
不動産証券化のために使いたい場合
- 推奨成果物: 鑑定評価書
- 価格の種類: 特定価格
- 備考: 証券化に関する実務指針に準拠した評価が必要
不動産鑑定が必要な5つのケースでも、鑑定が必要な代表的な場面を紹介しています。
不動産の売買価格の参考にするためには、必ず正式な鑑定評価書を取得しなければならない。
鑑定評価の対象不動産の類型
鑑定評価の対象となる不動産の類型も多岐にわたります。
土地の類型
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| 更地 | 建物等のない土地 |
| 建付地 | 建物等がある土地(土地のみの評価) |
| 借地権 | 借地権の評価 |
| 底地 | 借地権が設定されている土地の所有者側の権利 |
| 区分地上権 | 地上権のうち一定の範囲に限定されたもの |
建物及びその敷地の類型
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| 自用の建物及びその敷地 | 所有者が自ら使用している不動産 |
| 貸家及びその敷地 | 賃貸されている建物とその敷地 |
| 借地権付建物 | 借地上の建物と借地権の一体評価 |
| 区分所有建物及びその敷地 | マンションの一室とその敷地の持分 |
鑑定評価の手法
鑑定評価で用いられる主な手法も整理しておきましょう。
三手法
不動産鑑定評価基準では、以下の三手法が定められています。
| 手法 | 概要 | 適している場面 |
|---|---|---|
| 原価法 | 対象不動産の再調達原価から減価を控除 | 建物の評価、造成地の評価 |
| 取引事例比較法 | 類似物件の取引事例と比較 | 住宅用地、マンションの評価 |
| 収益還元法 | 将来の収益の現在価値の合計 | 収益物件の評価 |
手法の併用
鑑定評価基準では、原則として三手法を併用し、複数の手法から得られた試算価格を調整して最終的な鑑定評価額を決定することが求められています。
ただし、対象不動産の種類や利用状況によっては、一部の手法が適用困難な場合があります。例えば、収益を生まない自用の住宅では収益還元法の適用が困難であり、取引事例が極端に少ないエリアでは取引事例比較法の適用に限界がある場合があります。
不動産鑑定の流れでは、鑑定評価のプロセス全体を解説しています。
不動産鑑定評価では、原価法・取引事例比較法・収益還元法の三手法すべてを必ず適用しなければならない。
まとめ
不動産鑑定評価には、成果物の種類(鑑定評価書、調査報告書、意見書)、価格の種類(正常価格、限定価格、特定価格、特殊価格)、賃料の種類(正常賃料、限定賃料、継続賃料)、対象不動産の類型(更地、建付地、貸家等)など、多様な種類が存在します。
適切な鑑定評価を選択するためには、まず「何のために鑑定評価が必要か」という目的を明確にし、その目的に応じた成果物と価格の種類を選ぶことが重要です。法的証拠力が求められる場面では正式な鑑定評価書が必要であり、参考情報としての利用であれば調査報告書で足りる場合もあります。
鑑定評価書の読み方や鑑定書と調査報告書の違い、不動産鑑定が必要な5つのケースも併せてご確認いただき、鑑定評価を効果的に活用してください。