鑑定評価書と調査報告書の違い
鑑定評価書と調査報告書の最大の違いは、不動産鑑定評価基準の適用範囲にあります。「鑑定評価書」の名称使用制限、3手法併用の要否、証券化対象不動産における追加記載事項(ER活用・DCF法適用過程)など、両者の法的位置づけを比較整理します。
鑑定評価書と調査報告書の区別
不動産鑑定士試験において、不動産鑑定士が行う業務には、不動産の鑑定評価のほかに価格等調査があります。鑑定評価の結果は鑑定評価書に、価格等調査の結果は調査報告書にそれぞれ記載されます。両者の違いを正確に理解することは、鑑定評価基準の全体像を把握するうえで重要です。
鑑定評価書
鑑定評価書の位置づけ
鑑定評価書は、不動産の鑑定評価に関する法律に基づく正式な成果物です。不動産鑑定評価基準に則って鑑定評価を行い、その結果を記載したものが鑑定評価書です。
鑑定評価額が決定されたときは、鑑定評価報告書を作成するものとする。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第10節
鑑定評価書の特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法令 | 不動産の鑑定評価に関する法律 |
| 準拠基準 | 不動産鑑定評価基準の全て |
| 手法の適用 | 原則として3手法の併用 |
| 試算価格の調整 | 必須 |
| 署名押印 | 不動産鑑定士の署名押印が必要 |
| 法的責任 | 不動産鑑定士としての法的責任を負う |
記載事項
鑑定評価書に記載すべき主な事項は以下のとおりです。
| 記載事項 | 内容 |
|---|---|
| 鑑定評価額 | 最終的に決定された金額 |
| 鑑定評価の基本的事項 | 対象不動産、価格時点、価格の種類等 |
| 対象不動産の確認 | 物的確認、権利の態様の確認 |
| 価格形成要因の分析 | 一般的要因、地域分析、個別分析 |
| 鑑定評価の手法の適用 | 各手法の適用過程と試算価格 |
| 試算価格の調整 | 再吟味、説明力の検討、鑑定評価額の決定 |
| 利害関係等 | 関与不動産鑑定士・鑑定業者の利害関係 |
調査報告書(価格等調査)
価格等調査の位置づけ
価格等調査とは、不動産鑑定士が不動産の鑑定評価以外の方法で不動産の価格等を調査するものです。鑑定評価基準に則った完全な鑑定評価ではなく、依頼目的に応じて一部の手続きを省略する等の簡便な方法で行われる場合があります。
鑑定評価書との主な違い
| 項目 | 鑑定評価書 | 調査報告書 |
|---|---|---|
| 準拠基準 | 鑑定評価基準の全て | 目的に応じて一部を省略・簡略化可能 |
| 手法の適用 | 原則として3手法の併用 | 1手法のみの適用等も可能 |
| 条件設定 | 基準の要件を満たす条件のみ | 依頼目的に応じた柔軟な条件設定 |
| 成果物の名称 | 「不動産鑑定評価書」 | 「調査報告書」等(鑑定評価書の名称は使用不可) |
| 記載事項 | 基準に定める全ての記載事項 | 依頼目的に応じた記載事項 |
| 利用者への影響 | 法的証明力が高い | 用途が限定される |
価格等調査の具体例
| 調査の種類 | 内容 |
|---|---|
| 意見書 | 不動産の価格に関する意見を述べるもの |
| 簡易調査 | 限定的な調査に基づく価格の概算 |
| 査定書 | 資産評価等の目的で行う簡便な価格査定 |
| 机上評価 | 実地調査を省略した評価 |
鑑定評価と価格等調査の境界
不動産鑑定評価基準の適用
鑑定評価と価格等調査の最大の違いは、不動産鑑定評価基準の適用範囲です。鑑定評価は基準の全てに則って行われるのに対し、価格等調査では基準の一部を省略・簡略化することが認められています。
名称の使用制限
「不動産鑑定評価書」又は「鑑定評価書」の名称は、鑑定評価基準に則った正式な鑑定評価の成果物にのみ使用できます。価格等調査の成果物にこれらの名称を使用することはできません。
責任の範囲
いずれの場合も、不動産鑑定士としての専門職業家としての注意義務は課されますが、法的証明力や社会的な位置づけは鑑定評価書の方が高くなります。
証券化対象不動産における鑑定評価書
証券化対象不動産のDCF法適用で解説したとおり、証券化対象不動産の鑑定評価書は通常の鑑定評価書よりも記載事項が詳細です。
| 追加的な記載事項 | 内容 |
|---|---|
| ERの活用状況 | ERの基本的属性、入手経緯、調査項目ごとの対応 |
| DCF法の適用過程 | 収益費用項目ごとの査定根拠 |
| 確認事項の記録 | 処理計画策定時の確認事項 |
| 依頼者と証券化関係者の関係 | 依頼者と証券化関係者との利害関係 |
| 実地調査の記録 | 実地調査の日時、範囲、確認内容 |
試験での出題ポイント
短答式試験
- 鑑定評価書と調査報告書の名称の使用制限
- 準拠基準の違い:鑑定評価は基準の全て、価格等調査は一部省略可能
- 3手法の併用:鑑定評価では原則併用、価格等調査では必ずしも併用不要
- 証券化対象不動産の鑑定評価書の追加的な記載事項
論文式試験
- 鑑定評価と価格等調査の区別:法的位置づけ、適用基準の範囲、成果物の違い
- 鑑定評価書の記載事項の体系的な論述
- 証券化対象不動産の鑑定評価書の特殊性
暗記のポイント
- 鑑定評価書:「鑑定評価基準の全てに則って」行った成果物
- 調査報告書:「鑑定評価書」の名称は使用不可
- 鑑定評価書の記載事項の主要項目を体系的に把握
- 証券化対象不動産の鑑定評価書は通常より記載事項が詳細
まとめ
鑑定評価書と調査報告書は、不動産鑑定士が作成する成果物として明確に区別されます。鑑定評価書は不動産鑑定評価基準の全てに則って行われた鑑定評価の成果物であり、調査報告書は基準の一部を省略・簡略化した価格等調査の成果物です。
鑑定評価書には鑑定評価額、基本的事項、対象不動産の確認、価格形成要因の分析、鑑定評価の手法の適用、試算価格の調整等の事項を記載する必要があります。証券化対象不動産の鑑定評価書は、ERの活用状況やDCF法の適用過程等の追加的な記載事項が求められます。
「不動産鑑定評価書」の名称は正式な鑑定評価の成果物にのみ使用できるという点は、試験で頻出の論点です。鑑定評価基準の全体像や鑑定報告書の記載事項も併せて参照し、鑑定評価の手順全体の中での鑑定評価書の位置づけを体系的に理解してください。