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不動産鑑定評価基準の全文構成と全体像|どの章に何が書いてあるか

不動産鑑定評価基準は総論9章・各論3章。本記事は全12章の章題・収録内容・代表論点を一覧表にした「全文マップ」です。探している条文がどの章にあるか即座に特定でき、各章の原文は登録なしで章別ビューアから読めます。法的性格・留意事項との違いも解説。

不動産鑑定評価基準とは(ひとことで)

不動産鑑定評価基準とは、不動産鑑定士が鑑定評価を行う際に従うべき統一的なルールを国土交通省がまとめたもので、鑑定評価の「ルールブック」にあたります。評価の対象・手順・三方式(原価法・取引事例比較法・収益還元法)・価格の種類などを定めており、不動産鑑定士試験では鑑定理論科目の出題範囲そのものです。

構成は総論9章・各論3章の全12章。これを補完する公式の解説として「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」(以下「留意事項」)が定められています。

本記事は、この基準を「どの章に何が書いてあるか」という全文の地図として整理したものです。基準の条文そのものを探している方は、次の章マップから該当する章を特定し、そのまま原文へ進んでください。基準を初めて学ぶ方は、そのあとの各章の要点解説を順に読み進めれば、全体像がつかめる構成にしています。


この記事の使い方 ― 目的別の入口

基準を探して来られる方の目的は、おおむね次の3つに分かれます。目的に応じて読む場所を変えてください。

あなたの目的 読むべき場所
条文そのものを読みたい・特定の規定を探している 次章「基準の全文マップ」の表から章を特定し、「原文」列へ
基準がどういう文書なのかを知りたい 「基準の法的性格」「基準・留意事項・実務指針の三層構造」
試験に向けて全体像を固めたい 「全章の要点解説」以降を通読

なお、基準は書籍を購入しなくても全文を読むことができます。本記事の表にある「原文」列のリンクから、章ごとの条文を会員登録なしで閲覧できます。国土交通省も基準本文と留意事項を公表しており、そちらでも全文を確認できます。


基準の全文マップ ― 総論第1章~第9章に何が書いてあるか

総論は、鑑定評価全般に共通する原則的事項を定めた部分です。章番号の順序が、そのまま鑑定評価の思考プロセスの順序になっています。

章 章題 この章に書いてあること 代表的な論点 原文 章別の要点解説
総論第1章 不動産の鑑定評価に関する基本的考察 不動産・不動産の価格・鑑定評価とは何かという定義と、不動産鑑定士の責務 価格の三要素(効用・相対的稀少性・有効需要)、価格と賃料の元本果実関係、鑑定評価の定義 原文を読む 第1章の要点
総論第2章 不動産の種別及び類型 評価対象を「用途による分類(種別)」と「有形的利用・権利関係による分類(類型)」に整理 宅地地域・農地地域・林地地域、見込地・移行地、更地・建付地・借地権・底地・区分地上権 原文を読む 第2章の要点
総論第3章 不動産の価格を形成する要因 価格に影響する要因を一般的要因・地域要因・個別的要因の3つに分類し列挙 3要因の定義と区別、自然的・社会的・経済的・行政的要因、建物の個別的要因 原文を読む 第3章の要点
総論第4章 不動産の価格に関する諸原則 価格形成の法則性を11の原則として整理 最有効使用の原則、代替・変動・予測・均衡・適合・寄与・収益配分の各原則 原文を読む 第4章の要点
総論第5章 鑑定評価の基本的事項 案件ごとに確定すべき3つの事項(対象不動産・価格時点・価格又は賃料の種類)と条件設定 対象確定条件、想定上の条件、調査範囲等条件、正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格、正常賃料・限定賃料・継続賃料 原文を読む 第5章の要点
総論第6章 地域分析及び個別分析 地域の特性と対象不動産固有の特性を分析し、最有効使用を判定する手順 近隣地域・類似地域・同一需給圏、標準的使用、最有効使用の判定上の留意点 原文を読む 第6章の要点
総論第7章 鑑定評価の方式 価格を求める三方式と、賃料を求める手法の意義・適用方法 原価法(再調達原価・減価修正)、取引事例比較法(事情補正・時点修正)、収益還元法(直接還元法・DCF法)、積算法・賃貸事例比較法・収益分析法、差額配分法・利回り法・スライド法 原文を読む 第7章の要点
総論第8章 鑑定評価の手順 依頼受付から報告書作成までの10段階の作業手順 依頼者・提出先等の確認、確認資料・要因資料・事例資料、試算価格又は試算賃料の調整、公示価格を規準とする義務 原文を読む 第8章の要点
総論第9章 鑑定評価報告書 報告書の作成指針と、記載しなければならない12項目 記載事項Ⅰ~Ⅻ、鑑定評価額の決定の理由の要旨、利害関係等の記載、附属資料 原文を読む 第9章の要点

総論9章を一本の線として読む

総論の章立ては、次のような物語として読むと記憶に定着します。

  1. 不動産・価格・鑑定評価とは何かを定義する(第1章)
  2. 何を評価するのか、その対象を分類する(第2章:種別・類型)
  3. 価格を動かす要因を整理する(第3章)
  4. 価格がどのように決まるのかの原則を押さえる(第4章:諸原則)
  5. 具体的な案件で何を確定すべきかを決める(第5章:基本的事項)
  6. 地域と個別を分析して最有効使用を判定する(第6章)
  7. 三方式を適用して試算価格を求める(第7章:手法)
  8. 一連の作業手順を踏む(第8章)
  9. 結果を報告書にまとめる(第9章)

「定義 → 対象 → 要因 → 原則 → 確定 → 分析 → 手法 → 手順 → 報告」という一本の線として理解すると、章の前後関係が頭に残ります。体系の全体像を図として押さえたい場合は鑑定評価基準の体系図も併せて確認してください。


基準の全文マップ ― 各論第1章~第3章に何が書いてあるか

各論は、総論の原則を具体的な場面に当てはめた応用部分です。「価格」「賃料」「証券化対象不動産」の3つの場面に対応しています。

下に総論第1章〜第9章の土台を横長に置き、その上に土地と住宅、賃貸アパートと鍵、オフィスビルと書類の束の3つの線画を並べて、各論第1章の価格、第2章の賃料、第3章の証券化対象不動産が、総論の原則をそれぞれの場面に当てはめた部分であることを示した図。

総論の上に各論3章が乗る

章 章題 この章に書いてあること 代表的な論点 原文 章別の要点解説
各論第1章 価格に関する鑑定評価 類型別に「鑑定評価額をどう決定するか」を規定。第1節 土地/第2節 建物及びその敷地/第3節 建物/第4節 特定価格を求める場合に適用する鑑定評価の手法 更地(配分法・土地残余法・開発法)、建付地、借地権・底地、区分地上権、農地・林地・宅地見込地、自用の建物及びその敷地、貸家及びその敷地、借地権付建物、区分所有建物及びその敷地 原文を読む 各論第1章の要点
各論第2章 賃料に関する鑑定評価 宅地と建物及びその敷地について、新規賃料・継続賃料の求め方を規定 新規賃料の価格形成要因、継続賃料の価格形成要因、実際支払賃料の改定、契約条件・使用目的の変更に伴う改定 原文を読む 各論第2章の要点
各論第3章 証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価 証券化対象不動産の範囲・鑑定士の責務・処理計画・個別的要因の調査・DCF法の適用等 証券化対象不動産の範囲、未竣工建物等鑑定評価の要件、エンジニアリング・レポート、DCF法の適用義務と収益費用項目の統一 原文を読む 各論第3章の要点

「探している条文はどの章か」逆引き表

具体的な用語やテーマから章を特定したいときは、次の逆引き表を使ってください。

探しているもの 収録されている場所
鑑定評価の定義 総論第1章第3節
不動産鑑定士の責務・守秘義務 総論第1章第4節
更地・建付地・借地権・底地の定義 総論第2章第2節
宅地地域・農地地域・林地地域の定義 総論第2章第1節
一般的要因・地域要因・個別的要因の定義 総論第3章(それぞれ第1節~第3節)
最有効使用の原則 総論第4章Ⅳ
収益配分の原則・寄与の原則 総論第4章Ⅶ・Ⅷ
正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格の定義 総論第5章第3節Ⅰ
正常賃料・限定賃料・継続賃料の定義 総論第5章第3節Ⅱ
独立鑑定評価・部分鑑定評価・未竣工建物等鑑定評価 総論第5章第1節Ⅰ(対象確定条件)
調査範囲等条件 総論第5章第1節Ⅲ
価格時点(現在時点・過去時点・将来時点) 総論第5章第2節
近隣地域・類似地域・同一需給圏の定義 総論第6章第1節
標準的使用・最有効使用の判定上の留意点 総論第6章(第1節・第2節)
原価法・再調達原価・減価修正 総論第7章第1節Ⅱ
取引事例比較法・事情補正・時点修正 総論第7章第1節Ⅰ・Ⅲ
収益還元法・直接還元法・DCF法・復帰価格 総論第7章第1節Ⅳ
積算法・賃貸事例比較法・収益分析法 総論第7章第2節Ⅱ
差額配分法・利回り法・スライド法 総論第7章第2節Ⅲ
確認資料・要因資料・事例資料 総論第8章第5節
試算価格又は試算賃料の調整 総論第8章第8節
公示価格を規準とする義務 総論第8章第9節
鑑定評価報告書の記載事項 総論第9章第2節
配分法・土地残余法・開発法 各論第1章第1節
区分所有建物及びその敷地の評価 各論第1章第2節Ⅳ
継続賃料の求め方 各論第2章
証券化対象不動産の範囲 各論第3章第1節Ⅰ
エンジニアリング・レポートの取扱い 各論第3章第4節Ⅲ
DCF法の収益費用項目の統一 各論第3章第5節Ⅱ

「試算価格の調整」を総論第7章だと思い込んでいる受験生は少なくありませんが、調整の定義と留意事項は総論第8章第8節に置かれています。第7章はあくまで各手法の意義と適用方法を定める章です。この所在の違いは短答式で狙われやすいポイントです。


基準の法的性格 ― 法律ではなく、国が定める統一指針

「不動産鑑定評価基準」という名称から法律や政省令だと誤解されることがありますが、基準は法律そのものではありません。ここは検索でよく問われる論点なので、正確に整理しておきます。

基準は何なのか

不動産鑑定評価基準は、国土交通省が策定・公表する、鑑定評価の統一的な指針です。根拠となる法律は「不動産の鑑定評価に関する法律」(昭和38年法律第152号、以下「鑑定法」)で、鑑定法が定める不動産鑑定士制度の運用を実質的に支える文書として位置づけられています。

項目 内容
名称 不動産鑑定評価基準
策定・公表主体 国土交通省
法形式 法律・政令・省令ではない(行政上の統一基準)
根拠となる法律 不動産の鑑定評価に関する法律
対象者 不動産鑑定士(鑑定評価を行う場合)
補完文書 不動産鑑定評価基準運用上の留意事項

法律ではないのに、なぜ従わなければならないのか

基準は法形式としては法律ではありませんが、実務上は事実上の強い拘束力を持っています。理由は次の3つです。

  • 鑑定法との連動: 鑑定法は不動産鑑定士に対して、良心に従い誠実に鑑定評価を行う義務を課しています。基準に反した鑑定評価は「不当鑑定」として懲戒処分の対象となり得ます。基準自体も、総論第1章第4節で鑑定士の責務としてこの点を明記しています。
  • 業界団体による遵守要請: 公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会は、会員に対して基準の遵守を求め、実務指針によってさらに具体化しています。
  • 裁判における評価: 裁判例においても、基準に準拠した鑑定評価には高い信頼性が認められる傾向があります。逆に基準から外れた評価は、その合理性を個別に立証する必要が生じます。具体例は鑑定評価における裁判例の活用方法で扱っています。

基準は単なるマニュアルではない

基準は「作業手順書」ではなく、鑑定評価という社会的行為の信頼性を支える共通言語としての性格を持ちます。同じ不動産について、誰がいつ評価しても合理的に近い結論に到達できるよう、判断のよりどころと手順を統一しているのが核心です。この「再現可能性」と「説明可能性」を担保する点に、基準の存在意義があります。

基準は総論第4章の冒頭で、諸原則の位置づけについてこう述べています。

なお、これらの原則は、孤立しているものではなく、直接的又は間接的に相互に関連しているものであることに留意しなければならない。― 不動産鑑定評価基準 総論第4章

この一文は諸原則についてのものですが、基準全体の読み方にも当てはまります。各章の規定は独立した知識の羅列ではなく、相互に参照し合う体系として書かれています。

試験・実務での位置づけ

場面 基準の位置づけ
短答式試験(鑑定理論) 条文の正誤判定が中心。逐語の正確性が問われる
論文式試験(鑑定理論) 出題範囲そのもの。定義の暗記+趣旨の論述が必要
実務(鑑定評価) 準拠義務がある事実上の規範。報告書は基準に沿って構成される
公的評価(地価公示等) 評価の共通基盤。鑑定評価の考え方が制度に組み込まれている

地価公示は地価公示法に基づき標準地の正常な価格を公示する制度で、不動産鑑定士による鑑定評価を踏まえて行われます。相続税路線価(財産評価)や固定資産税評価も、その枠組みにおいて鑑定評価の考え方が用いられています。基準は、こうした公的評価の信頼性を支える共通基盤としても機能しているのです。基準を所管する国土交通省の不動産政策と鑑定評価の関係を押さえておくと、基準が政策の道具でもあることが見えてきます。


基準・運用上の留意事項・実務指針の三層構造

「不動産鑑定評価基準 留意事項」という検索が多いことからも分かるとおり、基準とその周辺文書の関係は分かりにくい部分です。ここを一枚で整理します。

三層の役割分担

文書 策定主体 役割 記述の性格 試験での重要度
不動産鑑定評価基準(本文) 国土交通省 鑑定評価の原則・手順を定める本体 原則的・抽象的 最重要
不動産鑑定評価基準運用上の留意事項 国土交通省 本文の規定を具体化する公式解説 具体的・実務的 重要(短答式で頻出)
実務指針・実務指針細則 日本不動産鑑定士協会連合会 実務レベルの運用ガイドライン 手続的・詳細 参考

上から下へ「原則 → 具体化 → 実務化」と段階的に詳細になっていく構造です。混同されがちですが、留意事項の策定主体は国土交通省であり、日本不動産鑑定士協会連合会が策定するのは実務指針の方です。この主体の違いは正誤問題で頻繁に狙われます。

厚みの違う3冊の冊子を上から順に並べ、不動産鑑定評価基準の本文、運用上の留意事項、実務指針が原則から具体化、実務化へと段階的に詳しくなることを示し、上の2つは国土交通省、実務指針は日本不動産鑑定士協会連合会が定めることを括弧で区別した図。

基準・留意事項・実務指針の策定主体

留意事項の章立ては基準本文と一致しない

ここは知らないと戸惑うポイントです。留意事項は基準本文の全章に対応しているわけではなく、10章構成になっています。対応関係は次のとおりです。

留意事項 対応する基準本文 参照
第1章 総論第2章 不動産の種別及び類型 留意事項を読む
第2章 総論第3章 不動産の価格を形成する要因 留意事項を読む
第3章 総論第5章 鑑定評価の基本的事項 留意事項を読む
第4章 総論第6章 地域分析及び個別分析 留意事項を読む
第5章 総論第7章 鑑定評価の方式 留意事項を読む
第6章 総論第8章 鑑定評価の手順 留意事項を読む
第7章 総論第9章 鑑定評価報告書 留意事項を読む
第8章 各論第1章 価格に関する鑑定評価 留意事項を読む
第9章 各論第2章 賃料に関する鑑定評価 留意事項を読む
第10章 各論第3章 証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価 留意事項を読む

注目すべきは、総論第1章(基本的考察)と総論第4章(諸原則)に対応する留意事項が存在しないことです。この2章は理念・原則を述べる章であり、実務上の運用指針を付す性質のものではないためと理解できます。逆にいえば、第1章と第4章は基準本文だけで完結して学べる章だということです。

基準本文12章の冊子を横一列に並べ、その下に留意事項10章の冊子を対応する章の真下に置いて線で結んだ図。総論第1章(基本的考察)と第4章(諸原則)の下だけが空いており、この2章には対応する留意事項がないことがわかる。

本文12章と留意事項10章の対応

留意事項の学習法は運用上の留意事項の勉強法で詳しく扱っています。留意事項を実際に解いて確認したい場合は留意事項ドリル30問も活用してください。

留意事項で特に問われやすいテーマ

留意事項は基準本文を補足する性格上、「本文では一言で書かれている事項を、どこまで具体的に求めているか」が出題のポイントになります。

  • 条件設定の妥当性の判断: 想定上の条件や調査範囲等条件を設定する際に、実現性・合法性、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれの有無をどう確認するか
  • 事例の選択基準: 取引事例比較法における事例の収集・選択(投機的取引と認められる事例の排除、事情補正の要否、時点修正の方法)
  • 収益還元法の適用上の留意: 純収益の査定、還元利回り・割引率の求め方、DCF法における各項目の査定
  • 対象不動産の確認: 物的確認と権利の態様の確認をどのように行うか
  • 証券化対象不動産特有の留意: エンジニアリング・レポートの活用、DCF法の適用過程の明示

これらは「本文の規定を一段深掘りした内容」であり、短答式の細かい正誤問題の出どころになりやすい領域です。本文を読んだら対応する留意事項を必ず確認する習慣をつけると、知識の精度が上がります。


制定・改正の経緯 ― なぜ今の形になったのか

基準は一度に書き上げられたものではなく、日本の不動産市場の変化に応じて改正を重ねてきました。改正の経緯を知ると、各章の規定がなぜその内容になっているのかが腑に落ちます。

年 出来事 背景
1963年(昭和38年) 不動産の鑑定評価に関する法律が制定 不動産鑑定士制度の創設
1964年(昭和39年) 基準の制定 鑑定評価の統一的基準の確立
1969年(昭和44年) 改正、運用上の留意事項の制定 高度経済成長に伴う地価問題
1990年(平成2年) 改正 バブル経済、土地基本法の制定
2002年(平成14年) 全面改正 バブル崩壊、証券化の進展、収益還元法の重視
2007年(平成19年) 改正 不動産証券化市場の拡大
2014年(平成26年) 改正 国際評価基準との整合、市場の多様化

2002年の全面改正が現行基準の骨格をつくった

現行基準の枠組みを決定づけたのが2002年の全面改正です。この改正で、収益還元法の位置づけが大きく引き上げられ、DCF法が明記されました(証券化対象不動産に関する各論第3章は、2007年〔平成19年〕の改正で新設)。鑑定評価報告書の記載事項も充実し、「評価の結論だけでなく、そこに至る過程を説明する」という現在の基準の思想がこのとき定着しました。

1990年の改正が土地基本法の制定を受けたものであるように、基準の改正は地価の乱高下という現実への対応でもありました。この経緯は不動産バブルの教訓|鑑定評価基準が生まれた背景で詳しく扱っています。

直近の改正で何が変わったか

2014年の改正は、受験生が現行条文を読むうえで直接効いてくる改正です。主な変更点は次のとおりです。

変更点 内容 収録場所
未竣工建物等鑑定評価の新設 造成工事・建築工事が完了していない不動産について、工事完了を前提とする評価類型を明文化 総論第5章第1節Ⅰ
調査範囲等条件の新設 通常の調査範囲では事実確認が困難な価格形成要因について、調査範囲に係る条件を設定できることを明文化 総論第5章第1節Ⅲ
条件設定の制限の整理 証券化対象不動産や現物出資など、利用者の利益に重大な影響を及ぼす場合の条件設定を原則禁止 総論第5章第1節Ⅳ
価格概念の精緻化 正常価格の前提となる市場の条件、市場参加者の要件を具体化 総論第5章第3節Ⅰ
市場参加者の視点の明示 価格形成要因を市場参加者の観点から把握すべきことを明記 総論第3章、第6章

改正のたびに「市場の実態をより精緻に反映する」「前提条件を明確にして透明性を高める」という方向性が一貫している点を押さえておくと、改正の背景を問う問題にも対応しやすくなります。改正の詳細な経緯は鑑定評価基準の改正履歴にまとめています。


全章の要点解説

ここからは、各章の中身をもう一段深く見ていきます。定義規定は原文どおりに引用しますので、逐語の確認にも使ってください。

総論第1章:不動産の鑑定評価に関する基本的考察

総論第1章は、基準全体の前提となる基本的な考え方を示す章です。第1節「不動産とその価格」、第2節「不動産とその価格の特徴」、第3節「不動産の鑑定評価」、第4節「不動産鑑定士の責務」の4節構成になっています。

まず、不動産の価格が何によって生じるかについて、基準は3つの要素を挙げています。効用・相対的稀少性・有効需要の三者の相関結合によって生じる経済価値を、貨幣額で表示したものが不動産の価格である、という構成です。

そして鑑定評価そのものの定義が第3節に置かれています。

不動産の鑑定評価は、その対象である不動産の経済価値を判定し、これを貨幣額をもって表示することである。― 不動産鑑定評価基準 総論第1章第3節

この定義は極めて重要です。鑑定評価の本質は「経済価値の判定」であり、単なる価格の推定や算定ではないという点を明確にしています。「算定」ではなく「判定」であるという語の選択が、短答式でそのまま問われます。

第1章はまた、鑑定評価が専門家の判断であり意見であることを明示しています。

不動産の鑑定評価とは、不動産の価格に関する専門家の判断であり、意見であるといってよいであろう。― 不動産鑑定評価基準 総論第1章第3節

第2節では、土地の特性が自然的特性と人文的特性に分けて整理されています。自然的特性は地理的位置の固定性、不動性、永続性、不増性、個別性等であり、固定的・硬直的です。人文的特性は用途の多様性、併合及び分割の可能性、社会的及び経済的位置の可変性等であり、可変的・伸縮的です。この対比は基準を通じて繰り返し前提とされます。

なお第2節では、不動産の経済価値が「交換の対価である価格」と「用益の対価である賃料」の2つの形態で表示され、両者の間に元本と果実の関係が認められることも示されています。価格と賃料を統一的に扱う基準の発想の出発点がこの章にあるため、総論第7章(方式)や各論第1章・第2章(価格・賃料)を学ぶ前提として読み返す価値があります。

第4節「不動産鑑定士の責務」では、土地基本法の基本理念に即した利用・取引が行われるべきこと、特に投機的取引の対象とされてはならないことを踏まえて鑑定評価を行うべきこと、良心に従い誠実に評価を行うこと、守秘義務、公平妥当な態度の保持、自己の能力の限度を超える依頼の原則不受任などが列挙されています。倫理規定に見えますが、条文の列挙事項がそのまま正誤問題になります。

第1章の各条文が何を言おうとしているのかを一つずつ追いたい場合は、鑑定評価基準 総論第1章の条文ごとの深掘り解説も合わせて読むと理解が進みます。

総論第2章:不動産の種別及び類型

第2章では、鑑定評価の対象となる不動産を「種別」と「類型」に分類します。冒頭で両者の定義が明確に置かれています。

不動産の種別とは、不動産の用途に関して区分される不動産の分類をいい、不動産の類型とは、その有形的利用及び権利関係の態様に応じて区分される不動産の分類をいう。― 不動産鑑定評価基準 総論第2章

種別と類型を合わせたものが「不動産の種類」であり、この両面の分析をまって初めて精度の高い鑑定評価が可能になる、という構成です。

種別は、さらに「地域の種別」と「土地の種別」に分かれます。地域の種別は宅地地域・農地地域・林地地域等、土地の種別は宅地・農地・林地・見込地・移行地等です。ここで押さえておきたいのは、土地の種別は地域の種別に応じて分類されるという順序です。宅地とは宅地地域のうちにある土地をいう、という定義の形をとっているため、地域が先で土地が後になります。

見込地と移行地の区別も頻出です。見込地は宅地地域・農地地域・林地地域等の相互間で種別が転換しつつある地域のうちにある土地、移行地は宅地地域・農地地域等のうちにあって細分された種別の間で移行しつつある地域のうちにある土地です。「転換」と「移行」の使い分けが正誤の分かれ目になります。

類型については、宅地の類型(更地・建付地・借地権・底地・区分地上権等)と、建物及びその敷地の類型(自用の建物及びその敷地・貸家及びその敷地・借地権付建物・区分所有建物及びその敷地等)が定義されています。

更地とは、建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいう。― 不動産鑑定評価基準 総論第2章第2節

更地の定義では「かつ」で2つの要件がつながれている点が重要です。定着物がないだけでは更地とはいえず、使用収益を制約する権利が付着していないことも必要です。同様に建付地は「建物等の用に供されている敷地で建物等及びその敷地が同一の所有者に属している宅地」であり、所有者の同一性が要件に含まれます。

種別と類型は混同しやすいので、種別は「どんな用途の不動産か(地域の観点)」、類型は「その不動産がどんな状態・権利関係にあるか(個別の観点)」と整理しておくと安全です。詳しくは不動産の種別と類型を参照してください。定義を条文順にたどりたい場合は鑑定評価基準 総論第2章の条文ごとの深掘り解説が役立ちます。

総論第3章:不動産の価格を形成する要因

第3章は、価格形成要因の定義から始まります。

不動産の価格を形成する要因(以下「価格形成要因」という。)とは、不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要の三者に影響を与える要因をいう。― 不動産鑑定評価基準 総論第3章

第1章で示された価格の三要素に「影響を与えるもの」が価格形成要因である、という定義になっている点に注目してください。第1章と第3章が直結しています。

要因は一般的要因・地域要因・個別的要因の3つに分けられ、それぞれ定義が置かれています。

一般的要因とは、一般経済社会における不動産のあり方及びその価格の水準に影響を与える要因をいう。― 不動産鑑定評価基準 総論第3章第1節

地域要因とは、一般的要因の相関結合によって規模、構成の内容、機能等にわたる各地域の特性を形成し、その地域に属する不動産の価格の形成に全般的な影響を与える要因をいう。― 不動産鑑定評価基準 総論第3章第2節

個別的要因とは、不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因をいう。― 不動産鑑定評価基準 総論第3章第3節

3つの定義を並べると、「価格の水準に影響」(一般的要因)→「地域の特性を形成し全般的に影響」(地域要因)→「個別的に形成」(個別的要因)と、影響の及ぶ範囲が段階的に狭くなっていくことが分かります。この階層構造で覚えると混同しません。

要因の区分 影響の範囲 大分類・例
一般的要因 一般経済社会における価格の水準 自然的要因・社会的要因・経済的要因・行政的要因の4つに大別
地域要因 その地域に属する不動産の価格全般 宅地地域(住宅地域・商業地域・工業地域)・農地地域・林地地域ごとに例示
個別的要因 対象不動産固有 土地に関するもの・建物に関するもの・建物及びその敷地に関するもの

一般的要因が自然的・社会的・経済的・行政的の4つに大別される点は頻出です。3つでも5つでもなく4つであること、そして各分類に何が入るか(例:企業会計制度の状態は経済的要因、不動産の取引及び使用収益の慣行は社会的要因)まで問われます。

価格形成要因の3区分は、第6章の地域分析・個別分析と直結しています。一般的要因は市場全体の地価水準に、地域要因は地域分析(標準的使用の判定)に、個別的要因は個別分析(最有効使用の判定)にそれぞれ対応します。第3章と第6章をセットで理解しておくと、「分析の対象=価格形成要因」という構図が見えてきます。要因の詳細は価格形成要因の詳細解説をご覧ください。

広域の地図、近隣の街区、1区画の敷地を拡大していく3つの円で描き、一般的要因は価格の水準、地域要因は地域の不動産の価格全般、個別的要因はその不動産固有の価格に影響し、それぞれ地価水準、地域分析、個別分析に対応することを示した図。

3つの要因と影響の範囲

なお、建物に関する個別的要因の最後には、市場参加者が着目する個別的要因が建物の用途ごとに異なることへの留意が加えられており、賃貸用不動産については賃貸経営管理の良否(賃借人の状況及び賃貸借契約の内容、貸室の稼働状況、資産区分及び費用負担区分)が挙げられています。2014年改正以降の「市場参加者の視点」を反映した部分です。

総論第4章:不動産の価格に関する諸原則

第4章は、価格形成メカニズムの法則性を原則として整理した章です。全部で11の原則が規定されています。数を正確に覚えておくと、選択肢に存在しない原則が紛れ込んでいるときに気づけます。

番号 原則 概要 関連の深い手法・論点
Ⅰ 需要と供給の原則 価格は需要と供給の相互関係で定まり、価格もまた需給に影響する 三方式全般
Ⅱ 変動の原則 価格は価格形成要因の変化に伴って変動する 時点修正、最有効使用の判定
Ⅲ 代替の原則 代替性を有する二以上の財の価格は相互に影響を及ぼして定まる 取引事例比較法、同一需給圏
Ⅳ 最有効使用の原則 価格は最有効使用を前提として把握される価格を標準として形成される 基準全体の根幹
Ⅴ 均衡の原則 収益性・快適性の最高度の発揮には構成要素の組合せの均衡が必要 原価法(機能的減価)、建物と敷地の適応
Ⅵ 収益逓増及び逓減の原則 単位投資額の増加に対応する収益はある点まで増加し、その後は減少 追加投資の適否、最有効使用
Ⅶ 収益配分の原則 土地・資本・労働・経営の結合による総収益は各要素に配分される 土地残余法、収益還元法
Ⅷ 寄与の原則 ある部分が全体の収益獲得に寄与する度合いが全体の価格に影響 追加投資の適否、限定価格
Ⅸ 適合の原則 収益性・快適性の最高度の発揮には環境への適合が必要 原価法(経済的減価)、地域分析
Ⅹ 競争の原則 超過利潤は競争を惹起し、競争は超過利潤を消滅させる傾向を持つ 市場分析
ⅩⅠ 予測の原則 価格は将来の収益性等についての予測を反映して定まる 収益還元法(DCF法)

収益配分の原則(Ⅶ)を落としやすいので注意してください。土地残余法の理論的根拠となる重要な原則です。総収益のうち資本・労働・経営(組織)に配分される部分以外の部分は、それぞれの配分が正しく行われる限り土地に帰属する、という考え方が土地残余法を支えています。

中でも根幹をなすのが最有効使用の原則です。

不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。― 不動産鑑定評価基準 総論第4章Ⅳ

条文はさらに、ある不動産の現実の使用方法が必ずしも最有効使用に基づくものではなく、不合理な又は個人的な事情による使用方法のために十分な効用を発揮していない場合があることに留意すべき旨を続けています。「現実の使用=最有効使用」ではないという点は、正誤問題の定番です。詳しくは最有効使用の原則とは?で解説しています。

均衡の原則と適合の原則も混同しやすい組み合わせです。均衡は不動産の「内部」の構成要素の組合せ、適合は不動産と「外部」の環境との関係を問題にします。原価法の減価の要因でいえば、均衡が崩れると機能的減価、適合が崩れると経済的減価につながる、という対応で覚えると定着します。

街区の中の1つの敷地と建物を等角図で描き、敷地と建物だけを囲む内側の枠で均衡の原則(内部の構成要素の組合せ、崩れると機能的減価)を、周辺の街並みまで含む外側の枠で適合の原則(外部の環境との関係、崩れると経済的減価)を示した図。

均衡は内部、適合は外部

総論第5章:鑑定評価の基本的事項

第5章の冒頭は、確定すべき事項を3つに限定して明示しています。

不動産の鑑定評価に当たっては、基本的事項として、対象不動産、価格時点及び価格又は賃料の種類を確定しなければならない。― 不動産鑑定評価基準 総論第5章

基本的事項は3つです。条件設定は対象不動産の確定に関連して規定されるものであり、基本的事項そのものを4つと数える書き方は基準の構成と合いません。この点も選択肢の作りどころになります。

対象確定条件と3種類の条件

第1節では、対象確定条件として5つの類型が列挙されています。

対象確定条件 内容 呼称
(1) 現況を所与として評価 ―
(2) 土地及び建物等のうち土地のみを更地として評価 独立鑑定評価
(3) 現況を所与として構成部分を評価 部分鑑定評価
(4) 併合後又は分割後の不動産を単独のものとして評価 併合鑑定評価・分割鑑定評価
(5) 未完了の造成工事・建築工事の完了を前提として評価 未竣工建物等鑑定評価

これに加えて、価格時点と異なる権利関係を前提とする場合があることも付記されています。

条件は対象確定条件だけではありません。基準は3種類の条件を区別しています。

条件の種類 対象 設定の要件
対象確定条件 物的事項・権利の態様に関する事項 調査・確認のうえ、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかの観点から妥当性を確認
地域要因又は個別的要因についての想定上の条件 価格形成要因 利用者の利益を害するおそれの観点に加え、特に実現性及び合法性の観点から妥当であること
調査範囲等条件 通常の調査範囲では事実確認が困難な特定の価格形成要因 設定しても利用者の利益を害するおそれがないと判断される場合に限る

想定上の条件については「特に実現性及び合法性の観点から」という限定が付されている点、地域要因について想定上の条件を設定できるのは一般に計画及び諸規制の変更、改廃に権能を持つ公的機関の設定する事項に主として限られる点が、細かく問われます。

さらに、証券化対象不動産の鑑定評価や会社法上の現物出資の目的となる不動産の鑑定評価等、鑑定評価書の利用者の利益に重大な影響を及ぼす可能性がある場合には、原則として現実の利用状況と異なる対象確定条件・想定上の条件・調査範囲等条件を設定してはならないとされています。ただし証券化対象不動産で各論第3章第2節の要件を満たす場合の未竣工建物等鑑定評価は例外です。この「原則禁止+一つだけ例外」という構造が出題されます。

価格時点

価格時点は「不動産の価格の判定の基準日」です。価格形成要因は時の経過により変動するため、不動産の価格はその判定の基準となった日においてのみ妥当します。価格時点は現在時点・過去時点・将来時点に分かれます。

賃料については、価格時点が賃料の算定の期間の期首となる点が独自の規定です。価格と賃料で価格時点の意味がずれるところなので、正確に押さえてください。

価格の種類

4つの価格は短答式・論文式とも頻出です。定義の核心を比較しておきましょう。

価格の種類 市場性 前提となる状況 典型的な場面
正常価格 あり 現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場 通常の売買、担保評価
限定価格 あり 併合・分割等により市場が相対的に限定される場合 借地権者による底地の併合、隣接不動産の併合、経済合理性に反する分割
特定価格 あり 法令等による社会的要請を背景とする評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさない場合 証券化対象不動産の投資採算価値、民事再生法に基づく早期売却前提、会社更生法・民事再生法に基づく事業継続前提
特殊価格 なし 文化財等の一般的に市場性を有しない不動産 文化財の指定を受けた建造物、宗教建築物、現況による管理を継続する公共公益施設
正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節

特殊価格とは、文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節

区別の鍵は市場性の有無です。正常価格・限定価格・特定価格はいずれも「市場性を有する不動産について」と書き出されるのに対し、特殊価格だけが「一般的に市場性を有しない不動産について」となります。ここを軸にすると4つの価格が整理できます。限定価格は「市場参加者が相対的に限定される」、特定価格は「市場は通常でも、評価目的が正常価格の前提条件を満たさない」という違いです。正常価格の定義と市場の条件は正常価格とは?で詳しく扱っています。

正常価格の前提となる市場の3条件(市場参加者の自由な参入・退出、特別な取引形態でないこと、相当の期間の市場公開)と、市場参加者が満たすべき5つの要件(売り急ぎ・買い進み等の特別な動機がないこと、通常の知識や情報を得ていること、通常必要な労力・費用を費やしていること、最有効使用を前提とした価値判断を行うこと、買主が通常の資金調達能力を有すること)は、2014年改正で具体化された部分であり、そのまま出題されます。

賃料の種類

賃料は正常賃料・限定賃料・継続賃料の3つです。正常賃料と限定賃料は新規賃料であり、継続賃料は「不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料」と定義されます。継続賃料は当事者間の相対的な賃料であり、市場で成立する賃料ではないという性格の違いを押さえてください。

総論第6章:地域分析及び個別分析

第6章は、価格形成要因を実際に分析するプロセスを定めます。地域分析の定義は次のとおりです。

地域分析とは、その対象不動産がどのような地域に存するか、その地域はどのような特性を有するか、また、対象不動産に係る市場はどのような特性を有するか、及びそれらの特性はその地域内の不動産の利用形態と価格形成について全般的にどのような影響力を持っているかを分析し、判定することをいう。― 不動産鑑定評価基準 総論第6章第1節

個別分析とは、対象不動産の個別的要因が対象不動産の利用形態と価格形成についてどのような影響力を持っているかを分析してその最有効使用を判定することをいう。― 不動産鑑定評価基準 総論第6章第2節

両者の関係は「標準的使用 → 最有効使用」という流れで理解すると整理できます。地域分析では近隣地域における標準的使用を判定し、その標準的使用を有力な標準として、個別分析で対象不動産固有の最有効使用を判定します。

分析 主な対象 判定するもの 関係する要因
地域分析 近隣地域・類似地域・同一需給圏 標準的使用、地域の地価水準 地域要因
個別分析 対象不動産そのもの 最有効使用 個別的要因

地域の概念は3つに整理されます。

同一需給圏とは、一般に対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域をいう。― 不動産鑑定評価基準 総論第6章第1節

近隣地域は対象不動産が属する用途的地域、類似地域は近隣地域と類似する特性を有する地域、同一需給圏は近隣地域を含んでより広域的で、近隣地域と相関関係にある類似地域等の存する範囲を規定するものです。同一需給圏は近隣地域を含むという包含関係を取り違えないようにしてください。

地図の平面図に、対象不動産の区画、それが属する近隣地域、離れた場所にある類似地域2か所を描き、それら全体を同一需給圏の一点鎖線で包んで、同一需給圏が近隣地域を含むより広い圏域であるという包含関係を示した図。

近隣地域・類似地域・同一需給圏

同一需給圏の範囲は不動産の種類ごとに異なり、基準は住宅地・商業地(高度商業地/普通商業地)・工業地(大工場地/中小工場地)・移行地・農地・林地・見込地・建物及びその敷地について、それぞれ判定の傾向を具体的に示しています。大工場地の同一需給圏が全国的な規模となる傾向がある、といった記述はそのまま短答式に出ます。

最有効使用の判定上の留意点は7項目にわたって規定されています。良識と通常の使用能力を持つ人が採用するであろう使用方法であること、使用収益が将来相当の期間にわたって持続し得ること、効用を十分に発揮し得る時点が予測し得ない将来でないこと、標準的使用との相互関係を明らかにしつつも標準的使用と異なる用途の可能性も考慮すること、地域要因の変動が客観的に予測される場合はそれを勘案すること、更地としての最有効使用と建物及びその敷地の最有効使用は必ずしも一致しないこと、現況継続と取壊し・用途変更の経済価値を比較考量すること――の7つです。

総論第7章:鑑定評価の方式

第7章は基準の中核であり、分量も最大です。第1節が価格を求める手法、第2節が賃料を求める手法という構成になっています。

価格を求める三方式の定義は次のとおりです。

原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を積算価格という。)。― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を比準価格という。)。― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を収益価格という。)。― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
手法 着目する側面 試算価格 特に有効な場合
原価法 費用性 積算価格 建物又は建物及びその敷地で、再調達原価の把握と減価修正を適切に行えるとき
取引事例比較法 市場性 比準価格 近隣地域・同一需給圏内の類似地域等で類似不動産の取引が行われている場合
収益還元法 収益性 収益価格 賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合

収益還元法については、適用範囲に関する重要な記述があります。基準は、この手法が「文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものには基本的にすべて適用すべきものであり、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるもの」としています。自用の不動産にも賃貸を想定して適用するという点は必ず押さえてください。また、取引価格の上昇が著しいときに、先走りがちな取引価格に対する有力な験証手段として活用されるべきとされています。

三方式の試算式

原価法(積算価格)は、再調達原価から減価修正を行って求めます。

$$積算価格 = 再調達原価 - 減価額$$

減価の要因は物理的要因・機能的要因・経済的要因の3つで、減価額を求める方法には耐用年数に基づく方法と観察減価法があり、基準は「これらを併用するものとする」と定めています。どちらか一方でよいわけではない点が問われます。

収益還元法のうち直接還元法は、一期間の純収益を還元利回りで還元して求めます。

$$P = \frac{a}{R}$$

ここで $P$ は収益価格、$a$ は一期間の純収益、$R$ は還元利回りです。

DCF法は、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引いて合計します。

$$P = \sum_{k=1}^{n} \frac{a_k}{(1+Y)^k} + \frac{P_R}{(1+Y)^n}$$

$a_k$ は毎期の純収益、$Y$ は割引率、$n$ は保有期間、$P_R$ は復帰価格です。復帰価格は保有期間の満了時点における対象不動産の価格であり、$n+1$ 期の純収益を最終還元利回り $R_n$ で還元して求めます。

$$P_R = \frac{a_{n+1}}{R_n}$$

還元利回り・割引率・最終還元利回りの3つを区別できるかが、計算問題でも理論問題でも鍵になります。三方式の詳細は鑑定評価の三方式とは?で解説しています。

事例の収集及び選択

第7章第1節Ⅰの「試算価格を求める場合の一般的留意事項」は、三方式に共通する土台です。取引事例等(建設事例・取引事例・収益事例)は「投機的取引であると認められる事例等適正さを欠くものであってはならない」とされ、選択の要件が4つ列挙されています。近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等に存する不動産に係るものであること(又は同一需給圏内の代替競争不動産に係るものであること)、取引等の事情が正常であるか正常なものに補正できること、時点修正が可能であること、地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能であることの4要件です。

事情補正・時点修正・地域要因の比較・個別的要因の比較という4つの操作が、三方式に共通する事例の加工プロセスとして第1節Ⅰに置かれている構造を理解しておくと、取引事例比較法だけの話ではないことが分かります。

賃料を求める手法

不動産の賃料を求める鑑定評価の手法は、新規賃料にあっては積算法、賃貸事例比較法、収益分析法等があり、継続賃料にあっては差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法等がある。― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第2節
区分 手法 求める賃料 概要
新規賃料 積算法 積算賃料 基礎価格に期待利回りを乗じた額に必要諸経費等を加算
新規賃料 賃貸事例比較法 比準賃料 新規の賃貸借等の事例の実際実質賃料を補正・比較
新規賃料 収益分析法 収益賃料 企業経営に基づく総収益を分析して求めた収益純賃料に必要諸経費等を加算
継続賃料 差額配分法 ― 適正賃料と実際賃料の差額のうち賃貸人等に帰属する部分を実際賃料に加減
継続賃料 利回り法 ― 基礎価格に継続賃料利回りを乗じた額に必要諸経費等を加算
継続賃料 スライド法 ― 直近合意時点における純賃料に変動率を乗じた額に必要諸経費等を加算
継続賃料 賃貸事例比較法 ― 新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じ、継続賃料固有の価格形成要因を比較

賃貸事例比較法だけが新規賃料と継続賃料の両方に登場する点が特徴です。また、積算法は「期待利回り」、利回り法は「継続賃料利回り」と、乗じる利回りの名称が異なります。スライド法が「直近合意時点における純賃料」を出発点にする点も頻出です。

総論第8章:鑑定評価の手順

第8章は、鑑定評価の作業プロセスを時系列で規定します。冒頭で全10段階が列挙されています。

この手順は、一般に鑑定評価の基本的事項の確定、依頼者、提出先等及び利害関係等の確認、処理計画の策定、対象不動産の確認、資料の収集及び整理、資料の検討及び価格形成要因の分析、鑑定評価の手法の適用、試算価格又は試算賃料の調整、鑑定評価額の決定並びに鑑定評価報告書の作成の作業から成っており、不動産の鑑定評価に当たっては、これらを秩序的に実施すべきである。― 不動産鑑定評価基準 総論第8章

節の構成もこの順序と一致しており、第1節から第10節までがそのまま10段階に対応します。順序を入れ替えた選択肢が出るので、列挙順は正確に覚えてください。鑑定評価の具体的な流れについては鑑定評価の流れも参照してください。

資料の3分類

第5節では、鑑定評価に必要な資料が3つに分類されます。

資料 定義 例
確認資料 不動産の物的確認及び権利の態様の確認に必要な資料 登記事項証明書、土地又は建物等の図面、写真、所在地に関する地図
要因資料 価格形成要因に照応する資料(一般資料・地域資料・個別資料に細分) 統計資料、地域の実態調査資料等
事例資料 鑑定評価の手法の適用に必要とされる現実の取引価格、賃料等に関する資料 建設事例、取引事例、収益事例、賃貸借等の事例

一般資料及び地域資料は「平素からできるだけ広くかつ組織的に収集しておくべき」、個別資料は「案件の相違に応じて適切に収集すべき」とされている点も、細かく問われます。

試算価格又は試算賃料の調整

調整の定義は第8節に置かれています。

試算価格又は試算賃料の調整とは、鑑定評価の複数の手法により求められた各試算価格又は試算賃料の再吟味及び各試算価格又は試算賃料が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価における最終判断である鑑定評価額の決定に導く作業をいう。― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第8節

調整は単純平均ではありません。「再吟味」と「説得力に係る判断」という2つの作業から成り、それぞれについて留意事項が列挙されています。再吟味では、資料の選択・検討・活用の適否、諸原則の活用の適否、一般的要因の分析並びに地域分析及び個別分析の適否、各種補正・修正等に係る判断の適否、各手法に共通する価格形成要因に係る判断の整合性、単価と総額との関連の適否の6点。説得力に係る判断では、地域分析及び個別分析の結果と各手法との適合性、各手法の適用において採用した資料の特性及び限界からくる相対的信頼性の2点です。この「6+2」の構造は論文式で書けると強い部分です。

積算価格・比準価格・収益価格の3枚の書類から、資料の選択や諸原則の活用など6点の再吟味と、各手法との適合性・相対的信頼性の2点からなる説得力に係る判断を経て、鑑定評価額の決定に至る流れを示した図。調整が単純平均ではないことがわかる。

調整は再吟味6点と説得力2点

公示価格を規準とする義務

第9節には、実務上も試験上も重要な義務規定があります。

地価公示法施行規則第1条第1項に規定する国土交通大臣が定める公示区域において土地の正常価格を求めるときは、公示価格を規準としなければならない。― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第9節

「公示区域において」「土地の」「正常価格を求めるとき」という3つの限定が付いている点に注意してください。公示区域外の土地、建物及びその敷地、正常価格以外の価格には及びません。限定を外した選択肢が誤りとして作られます。

総論第9章:鑑定評価報告書

第9章は、評価結果を文書化する段階の規定です。

鑑定評価報告書は、不動産の鑑定評価の成果を記載した文書であり、不動産鑑定士が自己の専門的学識と経験に基づいた判断と意見を表明し、その責任を明らかにすることを目的とするものである。― 不動産鑑定評価基準 総論第9章

作成指針では、鑑定評価報告書の内容が「不動産鑑定業者が依頼者に交付する鑑定評価書の実質的な内容となるもの」であるとされています。鑑定評価報告書(鑑定士が作成)と鑑定評価書(鑑定業者が依頼者に交付)は別の文書であるという区別は、短答式の定番論点です。

机の上の書類束を不動産鑑定士が作成する鑑定評価報告書、事務所の前の製本書類を不動産鑑定業者が依頼者に交付する鑑定評価書として描き、報告書の内容が鑑定評価書の実質的な内容になるという2つの文書の関係を左から右の流れで示した図。

鑑定評価報告書と鑑定評価書は別

記載事項は第2節に置かれています。

鑑定評価報告書には、少なくともⅠからⅫまでに掲げる事項について、それぞれに定めるところに留意して記載しなければならない。― 不動産鑑定評価基準 総論第9章第2節

記載事項は12項目です。鑑定評価額及び価格又は賃料の種類、鑑定評価の条件、対象不動産の所在・地番・地目・家屋番号・構造・用途・数量等及び権利の種類、対象不動産の確認に関する事項、依頼目的及び依頼目的に対応した条件と価格又は賃料の種類との関連、価格時点及び鑑定評価を行った年月日、鑑定評価額の決定の理由の要旨、鑑定評価上の不明事項に係る取扱い及び調査の範囲、関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者に係る利害関係等、関与不動産鑑定士の氏名、依頼者及び提出先等の氏名又は名称、鑑定評価額の公表の有無について確認した内容――の12です。

報告書は「鑑定評価の説明責任を担保する出口」であり、第5章で確定した基本的事項がここで再び現れる構造になっています。条件設定や調査範囲等条件を付した場合には、その内容と理由が記載事項として現れます。第5章と第9章を往復して読むと、両章の対応関係が見えてきます。

各論第1章:価格に関する鑑定評価

各論第1章は、類型ごとに「鑑定評価額をどのように決定するか」を規定します。第1節 土地、第2節 建物及びその敷地、第3節 建物、第4節 特定価格を求める場合に適用する鑑定評価の手法という構成です。

各論第1章の条文は、多くが「○○の鑑定評価額は、~を関連づけて決定するものとする」「~を標準とし、~を比較考量して決定するものとする」という定型の書き方をしています。この「関連づけて」「標準とし」「比較考量して」の使い分けが、各論を学ぶうえでの最大のポイントです。

更地の鑑定評価額は、更地並びに配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとする。再調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきである。― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第1節

更地についてはさらに、面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等において、開発法による価格を比較考量して決定するものとされています。開発法には一体利用型(建物建築を想定し販売総額から建築費相当額等を控除)と分割利用型(区画割りを想定し販売総額から造成費相当額等を控除)の2つがあります。

建付地については、更地の価格をもとに最有効使用との格差・更地化の難易の程度等を考慮して求めた価格を標準とし、配分法に基づく比準価格及び土地残余法による収益価格を比較考量して決定するものとされ、複合不動産価格をもとに敷地に帰属する額を配分して求めた価格を標準として決定することもできる、とされています。動詞の使い分けが評価上の重みの違いを表しています。

類型 主な評価の枠組み
更地 比準価格・土地残余法による収益価格を関連づけ(+積算価格、必要に応じ開発法)
建付地 更地価格をもとにした価格を標準に、比準価格・収益価格を比較考量
借地権 借地権の価格の性格を踏まえた複数手法の関連づけ
底地 実際支払賃料に基づく純収益等の現在価値の総和等
区分地上権 立体利用率等を踏まえた評価
自用の建物及びその敷地 積算価格・比準価格・収益価格の関連づけ
貸家及びその敷地 賃貸借契約の内容を踏まえた収益価格を重視
区分所有建物及びその敷地 一棟の建物及びその敷地の価格に配分率を乗じる等

各類型で「どの手法を中心に、どのような調整を加えるか」が異なるため、総論第7章の手法と結びつけて学ぶことが効果的です。詳細は各論第1章の要点で扱っています。

各論第2章:賃料に関する鑑定評価

各論第2章は、第1節 宅地、第2節 建物及びその敷地の2節構成で、それぞれについて新規賃料を求める場合と継続賃料を求める場合を規定しています。

継続賃料の評価では、継続賃料固有の価格形成要因という概念が重要です。新規賃料の価格形成要因に加えて、契約締結の経緯、賃料改定の経緯、賃貸借等の契約内容といった、当事者間の関係に由来する要因を考慮する必要があります。市場で成立する賃料ではなく、特定の当事者間で成立するであろう賃料を求めるという継続賃料の性格が、ここに現れています。

継続賃料を求める4手法(差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法)は、それぞれ着目点が異なります。差額配分法は正常賃料と実際賃料の差額に、利回り法は基礎価格に対する継続賃料利回りに、スライド法は直近合意時点からの変動率に着目します。複数手法を併用して試算賃料を求め、調整によって継続賃料を決定する流れは、価格の三方式の調整と同じ発想です。

各論第2章は実務でも難所とされ、論文式で出題されると差がつく分野です。各論第2章の要点で手法ごとの適用場面を確認しておいてください。

各論第3章:証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価

各論第3章は、不動産の証券化(REIT等)に関連する鑑定評価を規定する章で、5節構成です。第1節 基本的姿勢、第2節 未竣工建物等鑑定評価を行う場合の要件、第3節 処理計画の策定、第4節 個別的要因の調査等、第5節 DCF法の適用等。

この章の特徴は、評価の透明性・客観性を特に重視している点にあります。証券化対象不動産の鑑定評価は依頼者のみならず広範な投資家等に重大な影響を及ぼすため、鑑定士には通常以上の説明責任が課されます。

DCF法については、明確な適用義務が定められています。

証券化対象不動産の鑑定評価における収益価格を求めるに当たっては、DCF法を適用しなければならない。この場合において、併せて直接還元法を適用することにより検証を行うことが適切である。― 不動産鑑定評価基準 各論第3章第5節

「DCF法を適用しなければならない」という義務規定であること、直接還元法は「検証を行うことが適切である」という位置づけであることの対比が重要です。

さらにこの章では、DCF法の適用に当たって活用する資料を「依頼者から入手した資料をそのまま活用する場合」「依頼者から入手した資料に修正等を加える場合」「自らが入手した資料を活用する場合」の3区分に応じて、妥当性や判断の根拠等を鑑定評価報告書に記載しなければならないとされています。また、収益費用項目を統一的な区分で記載することも義務づけられており、証券化対象不動産の鑑定評価書の比較可能性を担保する仕組みになっています。

第4節では、建物状況調査(エンジニアリング・レポート)の取扱いと、不動産鑑定士自身が行う調査の範囲が規定されています。外部の専門的調査と連携して評価を行う構造になっている点が他の章と大きく異なります。

証券化対象不動産の価格は、社会的要請を背景に正常価格の前提を欠く場合として特定価格で求められることが多い点も、総論第5章と結びつけて押さえておきましょう。詳しくは各論第3章の要点を参照してください。


総論と各論の関係

基準の構造を理解するうえで欠かせないのが、総論と各論の関係性です。

一般法と特別法の関係に類似

総論は鑑定評価全般に通じる原則的・一般的な事項を定めたものであり、各論はそれを個別の場面に当てはめた具体的な適用規定です。法律でいえば「一般法と特別法」の関係に近いと理解できます。

総論の規定 各論での具体化
第2章:種別・類型の分類 各論第1章:類型別の評価方法
第5章:特定価格 各論第1章第4節:特定価格を求める場合に適用する手法
第5章:未竣工建物等鑑定評価 各論第3章第2節:証券化対象不動産で行う場合の要件
第7章:鑑定評価の三方式 各論第1章:類型別の手法適用の留意点
第7章:賃料を求める手法 各論第2章:地代・家賃の具体的な評価
第7章:DCF法 各論第3章第5節:適用義務と適用過程の明確化
第9章:鑑定評価報告書 各論第3章:記載事項の上乗せ

学習上の留意点

学習の順序としては、まず総論で基本原則をしっかり理解した上で各論に進むのが効果的です。各論は総論の知識を前提として書かれているため、総論の理解が不十分なまま各論を読んでも本質をつかみにくくなります。

一方で、各論を学ぶことで総論の抽象的な原則が具体的な場面でどう適用されるのかがわかり、総論の理解も深まるという相乗効果があります。総論を一周したら各論に進み、各論で詰まったら総論に戻る、という往復が結局は近道です。


試験で各章がどう問われるか

不動産鑑定士試験における鑑定理論は、短答式試験と論文式試験の両方で出題されます。章ごとの出題のされ方を整理します。

章別の出題傾向

章 短答式での問われ方 論文式での問われ方
総論第1章 鑑定評価の定義の逐語、鑑定士の責務の列挙 鑑定評価の社会的意義、価格と賃料の関係
総論第2章 種別・類型の定義、見込地と移行地の区別 類型と評価手法の対応
総論第3章 要因の分類(どれが経済的要因か等) 要因分析と地域分析・個別分析の関係
総論第4章 各原則の内容、原則の名称と定義の対応 原則と手法の理論的関係
総論第5章 価格の種類の定義、条件設定の要件 特定価格を求める場面、条件設定の妥当性
総論第6章 地域概念の定義、同一需給圏の範囲 標準的使用と最有効使用の関係、判定の留意点
総論第7章 手法の定義、事例選択の要件、減価修正の方法 手法の理論的根拠、適用上の留意点
総論第8章 手順の順序、資料の3分類 試算価格の調整の考え方
総論第9章 記載事項の有無 説明責任と報告書の役割
各論第1章 類型ごとの手法の組合せ 特定の類型の評価手順の論述
各論第2章 継続賃料の手法の内容 継続賃料の評価の考え方
各論第3章 DCF法の適用義務、ERの取扱い 証券化対象不動産評価の特殊性

短答式試験の攻略ポイント

短答式では、基準の条文の一部を引用しキーワードを入れ替えた誤りの選択肢を見抜けるかが中心になります。特に狙われるパターンは決まっています。

  • 数の入れ替え: 基本的事項は3つ(4つではない)、諸原則は11個、記載事項は12項目、留意事項は10章
  • 主体の入れ替え: 基準・留意事項は国土交通省、実務指針は日本不動産鑑定士協会連合会
  • 語の入れ替え: 「判定し」を「算定し」、「標準とし」を「関連づけて」、「できる」を「しなければならない」
  • 限定の脱落: 「公示区域において」「土地の」「正常価格を求めるとき」といった限定を外す
  • 包含関係の逆転: 同一需給圏と近隣地域、種別と類型

対策としては条文の読み込みが不可欠です。頻出箇所から効率的に固めたい場合は基準の頻出論点ランキング、暗記の優先順位を絞りたい場合は鑑定評価基準の暗記36箇所を活用してください。

論文式試験の攻略ポイント

論文式では、基準の内容について論述する力が問われます。

  • 定義の正確な再現: 論述の土台。定義があいまいだと以降の論理が崩れます
  • 条文の趣旨説明: ある規定が設けられた理由・背景を論じられるか
  • 規定間のつながり: 各章の規定がどのように相互に関連しているかを説明できるか
  • 具体的場面への適用: 特定の不動産について、基準に基づきどのような評価プロセスを踏むべきかを述べられるか

「鑑定評価基準の全体像」を直接問うような問題(総論と各論の関係、章の構成、基準の趣旨など)は、論文式の総合問題で問われることがあります。こうした問題では、個別論点の暗記よりも章相互のつながりを自分の言葉で説明できるかが問われます。論述で使う定義を一気に固めたい場合は論文で使う重要定義100が役立ちます。


実務でどの章をどう使うか

試験対策としてだけでなく、実務でどの章が使われるかを知っておくと、規定の趣旨が理解しやすくなります。実際の鑑定評価案件では、章はおおむね次の順序で参照されます。

実務の場面 参照する章 具体的な作業
依頼受付・ヒアリング 総論第5章・第8章 依頼目的の確認、対象不動産・価格時点・価格の種類の確定、条件設定の合意、利害関係等の確認
処理計画の策定 総論第8章第3節 作業量・処理能力に応じた計画の策定
実地調査・資料収集 総論第8章第4節・第5節 物的確認、権利の態様の確認、確認資料・要因資料・事例資料の収集
市場分析 総論第3章・第6章 一般的要因の把握、近隣地域・同一需給圏の判定、標準的使用の判定
最有効使用の判定 総論第4章・第6章 個別的要因の分析、最有効使用の判定
手法の適用 総論第7章・各論第1章 類型に応じた手法の選択と適用、試算価格の算出
調整・評価額決定 総論第8章第8節・第9節 再吟味、説得力の判断、公示価格の規準
報告書作成 総論第9章 12の記載事項の作成、附属資料の整理
証券化案件の場合 各論第3章 ERの取扱い、DCF法の適用と収益費用項目の記載

実務では、基準本文だけで判断がつかない場面が頻繁に生じます。そのときに参照するのが留意事項であり、さらに具体的な手続については実務指針が使われます。三層構造は、実務の意思決定の順序そのものでもあるのです。


暗記のポイント

基準の学習において条文の暗記は避けて通れませんが、やみくもに暗記しても定着しません。効率的に固めるポイントを整理します。

ポイント1:全体構造を先に押さえる

各章の詳細な条文に入る前に、本記事の全文マップで示した全体構成と各章の位置づけを頭に入れてください。全体像が頭にあると、個々の条文が「基準のどの部分の、どういう文脈の規定か」がわかり、記憶の定着率が格段に上がります。

ポイント2:定義規定を最優先で暗記する

基準には多くの定義が登場します。次の定義は正確な暗記が求められます。

  • 鑑定評価の定義(総論第1章第3節)
  • 種別・類型の定義、更地・建付地等の定義(総論第2章)
  • 価格形成要因3区分の定義(総論第3章)
  • 最有効使用の定義(総論第4章Ⅳ)
  • 正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格の定義、正常賃料・限定賃料・継続賃料の定義(総論第5章)
  • 地域分析・個別分析の定義、近隣地域・類似地域・同一需給圏の定義(総論第6章)
  • 三方式と賃料を求める各手法の定義(総論第7章)
  • 試算価格又は試算賃料の調整の定義(総論第8章第8節)

定義はそのまま短答式の正誤問題に出るだけでなく、論文式の論述の土台にもなります。用語の意味を一つずつ確認するには鑑定評価基準の重要用語事典が便利です。

ポイント3:キーワードの正確性にこだわる

基準の条文では、一見似た表現が微妙に使い分けられています。

誤りやすい表現 正しい表現 出典
経済価値を算定し 経済価値を判定し 総論第1章第3節(鑑定評価の定義)
価格を求める方法 価格を求める手法 総論第7章
最も有効な使用 最有効使用 総論第4章Ⅳ
建物等の定着物がない宅地 建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地 総論第2章第2節(更地の定義)
併用することができる 併用するものとする 総論第7章(減価修正の方法)

このような微妙な違いが、短答式試験の正誤問題で問われます。条文を暗記する際は、キーワードの一言一句にこだわる姿勢が大切です。

ポイント4:表や図で体系的に整理する

基準の内容は、文章のまま暗記するよりも表や図に整理する方が効果的です。

  • 三方式を「着目点」「手法名」「試算価格名」「有効な場合」の表にまとめる
  • 価格形成要因を「一般的・地域・個別」の3区分で図にまとめる
  • 鑑定評価の手順を10ステップのフローチャートにする
  • 価格の種類4つを「市場性の有無」「前提となる状況」「例示された場面」で比較する
  • 賃料を求める7手法を「新規/継続」「乗じる利回り」で整理する

ポイント5:章と章をつなげて記憶する

孤立した暗記は忘れやすく、つながりのある知識は定着します。次のような連鎖を意識してください。

  • 第1章の価格の三要素 → 第3章の価格形成要因の定義(三者に影響を与える要因)
  • 第3章の地域要因・個別的要因 → 第6章の地域分析・個別分析
  • 第4章の均衡・適合の原則 → 第7章の機能的減価・経済的減価
  • 第4章の収益配分の原則 → 各論第1章の土地残余法
  • 第5章の特定価格 → 各論第3章の証券化対象不動産
  • 第5章の未竣工建物等鑑定評価 → 各論第3章第2節の要件
  • 第5章の基本的事項 → 第9章の記載事項

ひとつの知識が他の知識を呼び起こす状態を作れれば、記憶の総量は同じでも取り出せる量が大きく変わります。

ポイント6:読むだけでなく書き出す

暗記の王道は繰り返しです。基準の条文を何度も読み、重要な条文は手書きで書き出すことで記憶が定着します。特に論文式試験では時間内に正確な条文を書き出す力が求められるため、「読む」だけでなく「書く」トレーニングが不可欠です。


よくある質問(FAQ)

基準の全文はどこで読めますか

本記事の全文マップにある「原文」列のリンクから、章ごとの条文を会員登録なしで読めます。国土交通省も基準本文と運用上の留意事項を公表しており、そちらでも全文を確認できます。書籍を購入しなくても全文を読むこと自体は可能です。

基準の本を買う必要はありますか

条文を読むだけなら購入は必須ではありません。ただし、書き込みをしながら周回したい、通信環境のない場所で読みたい、というスタイルであれば紙の基準集は有用です。判断のポイントは「条文を読む」ためではなく「条文に手を入れる」ために必要かどうかです。まずは章別ビューアで通読し、自分の学習スタイルに紙が必要だと感じてから購入しても遅くありません。

基準と運用上の留意事項の違いは何ですか

どちらも国土交通省が定める文書ですが、基準本文が原則的な規定であるのに対し、留意事項は本文の規定を具体化する公式の解説です。留意事項は10章構成で、基準本文の総論第2章・第3章・第5章~第9章と各論第1章~第3章に対応しています。総論第1章と総論第4章に対応する留意事項はありません。

留意事項は日本不動産鑑定士協会連合会が作っているのですか

いいえ。運用上の留意事項は基準本文と同じく国土交通省が定めるものです。日本不動産鑑定士協会連合会が策定するのは実務指針・実務指針細則であり、これとは別の文書です。ここは正誤問題で頻繁に狙われる論点です。

基準と留意事項のどちらから勉強すべきですか

まず基準本文を読み、章の流れと定義を押さえてから、対応する留意事項に進むのが効率的です。留意事項は本文の補足なので、本文の理解がないまま読んでも頭に入りにくいためです。本文の一区切りごとに留意事項を確認する「往復学習」をおすすめします。

総論と各論は両方覚える必要がありますか

はい。総論は原則、各論はその具体的適用であり、論文式では総論の原則を各論の場面に当てはめて論じる力が問われます。ただし学習の比重は総論が中心で、各論は総論の知識を土台に「類型別・場面別の留意点」を上乗せするイメージで取り組むと負担が軽くなります。

基準は改正されると試験範囲も変わりますか

基準・留意事項は改正されることがあり、改正後は新しい内容が出題範囲となります。学習にあたっては最新版を用いることが大前提です。古いテキストで学習すると改正前の表現を覚えてしまうリスクがあります。改正の経緯は鑑定評価基準の改正履歴で確認できます。

条文は丸暗記しなければなりませんか

定義規定など核心部分は正確な暗記が求められますが、すべてを一字一句覚える必要はありません。短答式ではキーワードの正確性、論文式では趣旨と論理の理解が重視されます。定義は正確に、説明部分は趣旨を押さえる、というメリハリが大切です。

「試算価格の調整」は総論第7章ですか

いいえ、総論第8章第8節です。第7章は各手法の意義と適用方法を定める章であり、複数の手法で求めた試算価格をどう調整するかは手順の一部として第8章に置かれています。混同しやすいので、条文の所在ごと覚えてください。

価格と賃料の関係がわかりません

総論第1章第2節で示されるとおり、不動産の経済価値は交換の対価である「価格」と用益の対価である「賃料」の2つで表され、両者の間には元本と果実の関係が認められます。価格の三方式と賃料を求める手法が並行して規定され、各論も第1章(価格)と第2章(賃料)に分かれているのは、この対応関係があるためです。

基準は不動産鑑定士以外にも適用されますか

基準は不動産鑑定士が鑑定評価を行う場合の準拠すべき基準です。ただし基準の考え方は、地価公示・相続税評価・固定資産税評価といった公的評価の枠組みや、金融機関の担保評価の実務にも広く影響しています。鑑定士でなくても、不動産の価格を扱う実務者にとって理解する価値のある文書です。


今日から演習で仕上げる

鑑定士試験ブートラボでは、基準の全12章を章ごとに読める基準ビューア、その章に対応する短答式の肢別演習、分野別の正答率にもとづく弱点の可視化を提供しています。本記事の全文マップで自分が弱い章を特定したら、まずその章の原文を読み、そのまま演習に進んでください。


まとめ

本記事では、不動産鑑定評価基準の全文構成を「どの章に何が書いてあるか」という地図として整理しました。要点を振り返ります。

  • 不動産鑑定評価基準は総論9章・各論3章の全12章。総論が原則的事項、各論が類型別・場面別の具体的適用方法を規定しています
  • 総論9章は「定義 → 対象 → 要因 → 原則 → 確定 → 分析 → 手法 → 手順 → 報告」という一本の流れとして読めます
  • 基準は法律ではなく国土交通省が定める統一指針ですが、鑑定法との連動により事実上の強い拘束力を持ちます
  • 基準本文(国土交通省)→ 運用上の留意事項(国土交通省)→ 実務指針(日本不動産鑑定士協会連合会)という三層構造になっており、策定主体と役割が異なります
  • 留意事項は10章構成で、総論第1章と総論第4章に対応するものはありません
  • 試算価格又は試算賃料の調整は総論第8章第8節であり、第7章ではありません。条文の所在まで含めて覚えることが短答式では有効です
  • 現行基準の骨格は2002年の全面改正で形成され、2014年改正で未竣工建物等鑑定評価・調査範囲等条件が加わりました
  • 試験対策としては、全体構造の理解を土台に、定義規定の正確な暗記、キーワードの正確性、章と章のつながりの意識が鍵となります

基準の全体像を把握することは、個別論点の理解を深め、論文式での体系的な論述を可能にする基盤です。次のステップとして、評価手法の核心である鑑定評価の三方式とは?、基準全体を貫く最有効使用の原則とは?、対象の分類体系を扱う不動産の種別と類型へ進んでください。体系を図で確認したい場合は鑑定評価基準の体系図が、暗記の優先順位を決めたい場合は鑑定評価基準の暗記36箇所が役立ちます。

#不動産鑑定評価基準 #各論 #基準の全体像 #総論 #鑑定理論

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