経済学の頻出計算・グラフパターン30|ミクロ・マクロを型で解き切る
不動産鑑定士試験の経済学で問われる計算・グラフを30パターンに分解し、使う式・解法ステップ・数値入りの計算例・グラフの描き方・つまずきポイントまで型として整理。地代と地価、金利と不動産価格など鑑定評価との接続も解説します。
不動産鑑定士試験の経済学が怖いと感じる受験生の多くは、「経済学そのもの」ではなく「計算とグラフ」を怖がっています。理論の説明は教科書を読めばなんとなく分かる。ところが答案用紙を前にすると、需要曲線と供給曲線をどちらの軸に何を取って描けばいいのか、$MR = MC$ の $MR$ をどう作るのか、IS曲線を導出しろと言われて何から書き始めればいいのかで手が止まる。ここで固まる時間が、そのまま失点になります。
しかし実際に出題を分解していくと、鑑定士試験の経済学で問われる計算とグラフは、驚くほど少数の「型」に収束します。使う数学は連立一次方程式、一次関数の傾きと切片、簡単な微分、等比数列の和(無限等比級数)だけ。高校数学の範囲で完結します。逆に言えば、型を30個ほど押さえて、それぞれについて「何を求めるのか → どの式を使うのか → どう計算するのか → グラフのどこで確認するのか」を反射で出せるようにすれば、計算問題は安定した得点源に変わります。
この記事は、その30パターンを1つずつ、典型的な問われ方・使う式・解法ステップ・数値を入れた計算例・グラフの描き方・つまずきポイントの6点セットで整理したものです。計算例の数値はすべて検算済みで、手を動かせばそのまま同じ答えが出ます。紙とペンを用意して、読みながら一緒に解いてください。読むだけでは型は入りません。
この記事の位置づけと関連記事の役割分担
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つまり、範囲を知るなら790番の要点記事、学習手順なら603番の勉強法記事、作図の技術なら899番のグラフ記事、そして計算の型を体に入れるのが本記事です。どれか1本だけ読むなら、学習の初期は要点記事、中期以降は本記事が効きます。
なお「そもそも文系で数学が苦手だが大丈夫か」という不安がある方は、必要な数学水準について理系出身は鑑定士試験で有利かで整理しています。結論だけ書けば、この記事の30パターンで使う数学を超える計算は、鑑定士試験の経済学ではほぼ出ません。
計算問題を解く共通手順(5ステップ)
パターンに入る前に、すべての計算問題に共通する解き方の骨格を固めます。この5ステップを飛ばして「とりあえず式に代入」を始めると、条件を1つ読み落として全滅します。
ステップ1 何を求めるのかを1行で書き出す
問題文の最後の一文が命令です。「均衡価格と均衡取引量を求めよ」「死荷重を求めよ」「利子率の変化を説明せよ」。まず答案の余白に、求めるものを記号で書きます。$P^$、$Q^$、$DWL$、$\Delta r$ のように。これをやるだけで、途中で目的を見失う事故が消えます。
ステップ2 与えられた関数を「軸に合わせた形」に直す
経済学のグラフは、数学の慣習と軸が逆です。需要関数は $Q = 120 - 2P$ と数量について与えられることが多いのに、グラフでは縦軸が価格 $P$、横軸が数量 $Q$。だから計算の前に、逆需要関数 $P = 60 - \dfrac{Q}{2}$ に直しておく癖をつけます。この一手間で、切片と傾きが即座に読めます。
- $Q = 120 - 2P$ → $P = 60 - \dfrac{Q}{2}$(縦軸切片60、傾き $-\dfrac{1}{2}$)
- $Q = -30 + 3P$ → $P = 10 + \dfrac{Q}{3}$(縦軸切片10、傾き $\dfrac{1}{3}$)
ステップ3 使う条件式を1つ選ぶ
鑑定士試験の経済学の計算は、ほぼすべて「均衡条件」か「最適化条件」のどちらかです。次の表を暗記します。
| 状況 | 使う条件式 |
|---|---|
| 市場均衡 | $Q_d = Q_s$ |
| 消費者の効用最大化 | $MRS = \dfrac{P_x}{P_y}$、すなわち $\dfrac{MU_x}{P_x} = \dfrac{MU_y}{P_y}$ |
| 企業の費用最小化 | $MRTS = \dfrac{w}{r}$、すなわち $\dfrac{MP_L}{w} = \dfrac{MP_K}{r}$ |
| 完全競争企業の利潤最大化 | $P = MC$ |
| 独占企業の利潤最大化 | $MR = MC$ |
| 社会的最適 | $MSB = MSC$ |
| 公共財の最適供給 | $\sum MRS = MRT$ |
| 財市場の均衡 | $Y = C + I + G + (X - M)$ |
| 貨幣市場の均衡 | $L = \dfrac{M}{P}$ |
ステップ4 連立して解く
ここは純粋な計算です。ミスを減らすコツは、代入する前に片方の式を「$Y =$」「$P =$」の形に整理してしまうこと。分数のまま代入すると計算ミスが激増します。
ステップ5 グラフと数値で検算する
出た答えを、もう一方の式に入れて一致するか確認します。均衡価格を需要関数だけでなく供給関数にも入れて同じ数量が出るか。これを毎回やれば、計算ミスの9割は自分で潰せます。さらに、答えがグラフのどの点に対応するかを頭の中で確認します。「価格が上がったのに需要量が増えた」のような不自然な答えは、この段階で気づけます。
グラフを描くときの共通作法
答案にグラフを描くとき、採点者が見ているのは絵の美しさではなく情報が正しく載っているかです。次の5点が揃っていれば、線が多少歪んでいても減点されません。
- 軸に名前をつける。縦軸 $P$(価格)、横軸 $Q$(数量)。マクロなら縦軸 $r$(利子率)、横軸 $Y$(国民所得)。名前のない軸は、それだけで「分かっていない」と読まれます。
- 曲線に名前をつける。$D$、$S$、$IS$、$LM$、$AD$、$AS$、$MC$、$AC$、$AVC$。シフト後は $D'$、$IS_1$ のように区別します。
- 切片と交点を数値で書き込む。計算問題とセットで出たら、$P^ = 30$、$Q^ = 60$ を図中に書きます。これが「計算とグラフが一致している」ことの証明になります。
- シフトの向きを矢印で示す。右シフトなのか上シフトなのかを矢印1本で表現し、本文で「政府支出の増加により $IS$ 曲線が右方にシフトし」と対応させます。
- 面積を問われたら網掛けする。消費者余剰・死荷重などは、該当する三角形に斜線を引いて「$DWL$」と書き込みます。
以下の各パターンでは、この5点を満たすために「軸・切片・傾き・交点」を数値で示します。グラフを描く技術面(フリーハンドで直線を引くコツ、時間配分など)は経済学のグラフの描き方に譲り、本記事は各パターンでどの数値を図に載せるべきかに絞ります。
ミクロ経済学の計算パターン15
パターン1 需要・供給と市場均衡
典型的な問われ方:需要関数と供給関数が与えられ、均衡価格・均衡取引量を求めさせる。もっとも基本で、他のほぼすべてのパターンの土台になります。
使う式:$Q_d = Q_s$
解法ステップ:①両関数を $Q =$ の形に揃える ②等号で結んで $P$ について解く ③得られた $P$ を両方の式に入れて $Q$ が一致することを確認する。
計算例:需要 $Q_d = 120 - 2P$、供給 $Q_s = -30 + 3P$。
$Q_d = 120 - 60 = 60$、$Q_s = -30 + 90 = 60$ で一致。よって $P^ = 30$、$Q^ = 60$。
グラフの描き方:縦軸 $P$、横軸 $Q$。需要曲線は逆需要関数 $P = 60 - \dfrac{Q}{2}$ より、縦軸切片60・横軸切片120を結ぶ右下がりの直線。供給曲線は $P = 10 + \dfrac{Q}{3}$ より、縦軸切片10から右上がり。交点に $E$ と書き、$P^ = 30$、$Q^ = 60$ を点線で軸に落とします。供給曲線の縦軸切片が10であることは、後の余剰計算で必ず使うので必ず書き込みます。
つまずきポイント:供給関数 $Q_s = -30 + 3P$ の $-30$ を見て「マイナスの供給?」と混乱する人がいます。これは $P < 10$ では供給がゼロになることを意味しているだけで、経済的に意味を持つのは $P \geq 10$ の範囲です。グラフでも縦軸切片10から上に描き、それより下は描きません。
パターン2 需要の価格弾力性・所得弾力性
典型的な問われ方:ある点での価格弾力性を求めさせる、あるいは弾力性と総収入の関係を説明させる。
使う式:点弾力性 $e_d = -\dfrac{dQ}{dP} \cdot \dfrac{P}{Q}$、弧弾力性(中点法)$e_d = -\dfrac{\Delta Q / \bar{Q}}{\Delta P / \bar{P}}$、所得弾力性 $e_M = \dfrac{\Delta Q / Q}{\Delta M / M}$。
解法ステップ:①どちらの弾力性かを判定 ②「1点で聞かれたら点弾力性、2点間なら弧弾力性」で公式を選ぶ ③マイナス符号を外して絶対値で答えるのが慣例であることに注意。
計算例(点弾力性):$Q_d = 120 - 2P$ の $P = 30$(このとき $Q = 60$)における価格弾力性。
弾力性はちょうど1、すなわち単位弾力的です。
計算例(弧弾力性):価格が30から36に上がると、需要量は60から48に減ります。中点法では
計算例(所得弾力性):所得が300万円から330万円(+10%)に増え、ある財の需要が50単位から53単位(+6%)に増えた。
$0 < e_M < 1$ なので正常財かつ必需品。$e_M > 1$なら奢侈品、$e_M < 0$なら劣等財です。
総収入との関係の検算:$Q = 120 - 2P$ のとき総収入 $TR = PQ$。$P = 30$ で $TR = 30 \times 60 = 1800$、$P = 27$ で $Q = 66$、$TR = 1782$、$P = 33$ で $Q = 54$、$TR = 1782$。つまり $P = 30$ で総収入が最大になっており、これは弾力性が1になる点と一致します。弾力性1の点で総収入が最大という定理が、数値でそのまま確認できます。
グラフの描き方:需要曲線が直線の場合、弾力性は場所によって変わります。縦軸切片近く(高価格・少量)では弾力的、横軸切片近く(低価格・大量)では非弾力的、ちょうど中点で弾力性1。この直線の「上半分が弾力的、下半分が非弾力的、中点が単位弾力的」という3分割を図に書き込めると強い。上の例では横軸切片が120なので中点は $Q = 60$、まさに均衡点でした。
つまずきポイント:「需要曲線の傾きが急=非弾力的」と単純に覚えると事故ります。同じ1本の直線でも位置によって弾力性は違うからです。傾きと弾力性は別物、と割り切ってください。
パターン3 消費者余剰・生産者余剰と死荷重
典型的な問われ方:市場均衡での余剰を求めさせ、その後に価格規制・課税を入れて死荷重を計算させる。鑑定士試験でもっとも出やすい計算のひとつです。
使う式:消費者余剰 $CS$=需要曲線と価格線に挟まれた面積、生産者余剰 $PS$=価格線と供給曲線に挟まれた面積、総余剰 $TS = CS + PS$、死荷重 $DWL$=最適時の総余剰から現状の総余剰を引いた値。
解法ステップ:①逆需要・逆供給関数を作って縦軸切片を出す ②三角形または台形の面積として計算する ③規制後は取引量が「需要量と供給量の小さい方」になることに注意。
計算例:パターン1と同じ市場($P^ = 30$、$Q^ = 60$、需要の縦軸切片60、供給の縦軸切片10)。
総余剰は $1500$。
ここで価格上限20円を課します。需要量は $120 - 40 = 80$、供給量は $-30 + 60 = 30$。売り手が30しか出さないので、取引量は30(少ない方)。
$Q = 30$ における需要曲線の高さは $P = 60 - \dfrac{30}{2} = 45$。したがって消費者余剰は上底 $(45 - 20) = 25$、下底 $(60 - 20) = 40$、高さ30の台形です。
生産者余剰は、$Q = 30$ での供給曲線の高さが $P = 10 + \dfrac{30}{3} = 20$ なので
総余剰は $1125$。よって
検算:死荷重は直接、失われた取引量 $(60 - 30) = 30$ を底辺、その区間での需要曲線と供給曲線の乖離 $(45 - 20) = 25$ を高さとする三角形としても求まります。$\dfrac{1}{2} \times 30 \times 25 = 375$。一致しました。
グラフの描き方:均衡点の左上の三角形に斜線を引いて $CS$、左下の三角形に $PS$。価格上限線を $P = 20$ に水平に引き、$Q = 30$ の垂線を立てます。この垂線から右、需要曲線と供給曲線に挟まれた三角形が死荷重で、ここに網掛けして $DWL$ と書きます。
つまずきポイント:価格上限を課したとき、消費者余剰は必ずしも減りません。上の例では900から975に増えています。安く買えた消費者が得をする効果が、買えなくなった消費者の損失を上回ったからです。「規制で消費者が得をすることはない」と決めつけず、必ず面積を計算してください。減るのは総余剰であって、消費者余剰ではありません。
パターン4 効用最大化(限界効用均等・予算制約線と無差別曲線)
典型的な問われ方:効用関数と価格・所得が与えられ、最適消費量を求めさせる。
使う式:$\dfrac{MU_x}{P_x} = \dfrac{MU_y}{P_y}$(限界効用均等法則)と予算制約 $P_x x + P_y y = M$ の連立。同じことを $MRS = \dfrac{MU_x}{MU_y} = \dfrac{P_x}{P_y}$ と書いても構いません。
解法ステップ:①効用関数を $x$、$y$ でそれぞれ偏微分して $MU_x$、$MU_y$ を出す ②比を取って価格比とイコールで結ぶ ③予算制約に代入。
計算例:$U = xy$、$P_x = 4$、$P_y = 2$、所得 $M = 80$。
$MU_x = y$、$MU_y = x$。よって
予算制約に代入して
このとき $U = 10 \times 20 = 200$。
検算:$\dfrac{MU_x}{P_x} = \dfrac{20}{4} = 5$、$\dfrac{MU_y}{P_y} = \dfrac{10}{2} = 5$。一致。また支出は $4 \times 10 + 2 \times 20 = 80$ で予算をちょうど使い切っています。
コブ=ダグラス型の裏技:$U = x^{a} y^{b}$ の形なら、最適解は必ず
上の例は $a = b = 1$ なので $x^ = \dfrac{1}{2} \times \dfrac{80}{4} = 10$、$y^ = \dfrac{1}{2} \times \dfrac{80}{2} = 20$。一瞬で出ます。試験本番ではこの公式で答えを出し、答案には限界効用均等からの導出を書くのが最速です。
グラフの描き方:縦軸 $y$、横軸 $x$。予算制約線は $4x + 2y = 80$ より、横軸切片 $x = 20$、縦軸切片 $y = 40$ を結ぶ直線(傾き $-2$、これが価格比 $\dfrac{P_x}{P_y}$)。無差別曲線は原点に凸な曲線を1本描き、予算線と接する点を $E$ とし、$(10, 20)$ を書き込みます。接点であることが最適の条件なので、交差させて描くと即減点です。
つまずきポイント:$MRS$ の分子分母を逆にする事故が非常に多い。「横軸の財の限界効用が分子」と固定して覚えてください。上の例では横軸が $x$ なので $MRS = \dfrac{MU_x}{MU_y} = \dfrac{y}{x}$、そして価格比も横軸の財が分子で $\dfrac{P_x}{P_y}$。分子同士が横軸の財、と揃えれば逆転しません。
パターン5 代替効果と所得効果(スルツキー分解)
典型的な問われ方:価格変化による需要量の変化を、代替効果と所得効果に分解させる。上級財・下級財・ギッフェン財の判定とセットで出ます。
使う式:総効果 = 代替効果 + 所得効果。スルツキー分解では、元の消費バンドルを新価格でちょうど買える所得を補償所得とします。
解法ステップ:①価格変化前の最適点を求める ②価格変化後の最適点(総効果の終点)を求める ③元のバンドルを新価格で評価して補償所得を計算 ④補償所得のもとでの最適点を求める ⑤代替効果=③④の点-元の点、所得効果=新最適点-④の点。
計算例:$U = xy$、$M = 80$、$P_y = 2$。$P_x$ が $4$ から $2$ に下落。
- 変化前:パターン4より $(x, y) = (10, 20)$。
- 変化後:$x^ = \dfrac{1}{2} \times \dfrac{80}{2} = 20$、$y^ = \dfrac{1}{2} \times \dfrac{80}{2} = 20$。総効果は $\Delta x = +10$。
- 補償所得:元のバンドル $(10, 20)$ を新価格で買う費用は $2 \times 10 + 2 \times 20 = 60$。
- 補償後の最適点:所得60、$P_x = P_y = 2$ なので $x = \dfrac{1}{2} \times \dfrac{60}{2} = 15$、$y = 15$。
したがって
合計 $+10$ で総効果に一致します。代替効果・所得効果ともに正なので、$x$ は上級財(正常財)です。
ヒックス分解との違い:ヒックス流は「元の効用水準 $U = 200$ を維持する最小支出」を補償所得とします。$P_x = P_y = 2$ で $xy = 200$ を最小費用で達成するのは $x = y = \sqrt{200} \approx 14.14$、支出は $2 \times 14.14 \times 2 \approx 56.6$。代替効果は $14.14 - 10 \approx +4.14$、所得効果は $20 - 14.14 \approx +5.86$。合計はやはり $+10$ です。答案ではどちらの分解を使ったかを明示すれば、どちらでも構いません。数値がきれいに出るのはスルツキーなので、計算問題ならスルツキーを選ぶのが実務的です。
グラフの描き方:予算線を2本(変化前・変化後)描き、さらに補償予算線(変化後の傾きで、変化前の点を通る=スルツキー/変化前の無差別曲線に接する=ヒックス)を破線で1本追加します。横軸上に $x = 10 \to 15 \to 20$ の3点を刻み、$10 \to 15$ を「代替効果」、$15 \to 20$ を「所得効果」と矢印つきで表示。この3本の予算線と3つの接点が描ければ満点です。
つまずきポイント:代替効果の符号は常に価格変化と逆(値下げなら需要増)です。ここは理論上の必然なので、計算で逆の符号が出たら計算ミスです。一方、所得効果の符号は財の性質次第。下級財では所得効果が負になり、その負が代替効果を上回るとギッフェン財になります。
パターン6 費用曲線(MC・AC・AVCの関係)
典型的な問われ方:総費用関数から平均費用・平均可変費用・限界費用を導出し、損益分岐点と操業停止点を求めさせる。
使う式:$AC = \dfrac{TC}{Q}$、$AVC = \dfrac{VC}{Q}$、$MC = \dfrac{dTC}{dQ}$。損益分岐点は $AC$ の最小点、操業停止点は $AVC$ の最小点、そして$MC$ はどちらの最小点も必ず通ります。
解法ステップ:①$TC$ の定数項が固定費 $FC$、残りが可変費 $VC$ ②それぞれを $Q$ で割って $AC$、$AVC$ ③$TC$ を微分して $MC$ ④最小点は微分してゼロ、または $MC = AC$、$MC = AVC$ を解く。
計算例:$TC = Q^3 - 6Q^2 + 20Q + 32$。
- $FC = 32$、$VC = Q^3 - 6Q^2 + 20Q$
- $AVC = Q^2 - 6Q + 20$
- $AC = Q^2 - 6Q + 20 + \dfrac{32}{Q}$
- $MC = 3Q^2 - 12Q + 20$
操業停止点:$AVC = Q^2 - 6Q + 20 = (Q-3)^2 + 11$ なので $Q = 3$ で最小、$AVC = 11$。検算として $MC(3) = 27 - 36 + 20 = 11$。一致します。よって操業停止点は $(Q, P) = (3, 11)$。
損益分岐点:$MC = AC$ を解きます。
両辺に $Q$ を掛けて整理すると $2Q^3 - 6Q^2 - 32 = 0$、すなわち $Q^3 - 3Q^2 - 16 = 0$。$Q = 4$ を代入すると $64 - 48 - 16 = 0$ で成立。$AC(4) = 16 - 24 + 20 + 8 = 20$、$MC(4) = 48 - 48 + 20 = 20$。一致します。よって損益分岐点は $(Q, P) = (4, 20)$。
グラフの描き方:縦軸に費用(円/単位)、横軸に $Q$。$MC$ は $U$ 字型で、$MC' = 6Q - 12 = 0$ より $Q = 2$ で最小値 $MC(2) = 12 - 24 + 20 = 8$。$AVC$ は $Q = 3$ で最小値11、$AC$ は $Q = 4$ で最小値20。図には次の4点を打ちます。
| 点 | 座標 | 意味 |
|---|---|---|
| $MC$ の最小点 | $(2, 8)$ | 収穫逓増から逓減への転換点 |
| $AVC$ の最小点 | $(3, 11)$ | 操業停止点。$MC$ がここを通る |
| $AC$ の最小点 | $(4, 20)$ | 損益分岐点。$MC$ がここを通る |
| $AC$ と $AVC$ の間隔 | $\dfrac{FC}{Q} = \dfrac{32}{Q}$ | $Q$ が大きくなるほど狭まる |
$AC$ と $AVC$ の差は平均固定費なので、右に行くほど縮まりますが決して交わりません。ここを交差させて描くのは典型的な失点です。
つまずきポイント:「$MC$ が $AC$ の最小点を通る」のは覚え方ではなく必然です。$AC$ が下がっている区間では $MC < AC$、上がっている区間では $MC > AC$、だから最小点でちょうど一致する。テストの点数と平均点の関係(平均より高い点を取れば平均が上がる)と同じ論理で説明できると、論述でも使えます。
パターン7 完全競争企業の利潤最大化と供給曲線
典型的な問われ方:価格が与えられ、利潤最大化生産量と利潤額を求めさせる。あるいは供給曲線を導出させる。
使う式:$P = MC$(かつ $MC$ が右上がりの領域)、$\pi = TR - TC = PQ - TC$。個別企業の供給曲線は「$AVC$ の最小点より上の $MC$ 曲線」。
解法ステップ:①$MC$ を求める ②$P = MC$ を解く ③解が複数なら $MC$ が増加している方を採用 ④$\pi = PQ - TC(Q)$ で利潤を計算。
計算例:パターン6と同じ企業($TC = Q^3 - 6Q^2 + 20Q + 32$)。価格 $P = 35$ とします。
$(Q - 5)(Q + 1) = 0$ より $Q = 5$($Q = -1$ は不適)。$MC' (5) = 6 \times 5 - 12 = 18 > 0$ なので増加領域にあり、利潤最大化の条件を満たします。
検算:$AC(5) = \dfrac{107}{5} = 21.4$。$\pi = (P - AC) \times Q = (35 - 21.4) \times 5 = 13.6 \times 5 = 68$。一致します。
供給曲線:この企業は $P \geq 11$(操業停止価格)の範囲で $P = 3Q^2 - 12Q + 20$ を満たす $Q$ を供給します。$P < 11$ では可変費すら回収できないので供給ゼロ。
| 価格 | 生産量 | 判定 |
|---|---|---|
| $P = 11$ | $Q = 3$ | 操業停止点。生産しても止めても損失は固定費32 |
| $P = 20$ | $Q = 4$ | 損益分岐点。利潤ゼロ |
| $P = 35$ | $Q = 5$ | 利潤68 |
グラフの描き方:パターン6の $MC$・$AC$・$AVC$ の図に、$P = 35$ の水平線を引きます。$MC$ との交点が $Q = 5$。$P = 35$ と $AC(5) = 21.4$ の差 $13.6$ を高さ、$Q = 5$ を底辺とする長方形が利潤(面積68)。この長方形に網掛けして $\pi$ と書けば、利潤の可視化として完璧です。
つまずきポイント:$P = MC$ を解くと二次方程式になり、解が2つ出ます。$MC$ が減少している側の解を選ぶと利潤最小化になってしまいます。必ず $MC$ の最小点(この例では $Q = 2$)より右の解を取ってください。
パターン8 独占企業の価格設定(MR=MC)
典型的な問われ方:独占企業の生産量・価格・利潤を求め、完全競争の場合と比較して死荷重を計算させる。
使う式:$MR = MC$。逆需要関数が $P = a - bQ$ の直線なら $MR = a - 2bQ$(傾きが2倍)。ラーナーの独占度 $L = \dfrac{P - MC}{P} = \dfrac{1}{e_d}$。
解法ステップ:①逆需要関数を作る ②$MR$ は「切片同じ、傾き2倍」で即座に書く ③$MR = MC$ を解いて $Q$ ④需要曲線に戻して $P$ ⑤完全競争なら $P = MC$ として比較。
計算例:需要 $P = 100 - 2Q$、総費用 $TC = 20Q + 100$(したがって $MC = 20$)。
完全競争なら $P = MC = 20$、$100 - 2Q = 20$ より $Q^C = 40$。
検算(ラーナー指数):$L = \dfrac{60 - 20}{60} = \dfrac{2}{3} \approx 0.667$。一方、$Q = 50 - \dfrac{P}{2}$ より $\dfrac{dQ}{dP} = -\dfrac{1}{2}$、独占点での需要の価格弾力性は $e_d = \dfrac{1}{2} \times \dfrac{60}{20} = 1.5$。$\dfrac{1}{e_d} = \dfrac{1}{1.5} = 0.667$。一致します。独占企業は必ず弾力性が1を超える領域で生産するという定理も、これで確認できます。
グラフの描き方:需要曲線 $D$(縦軸切片100、横軸切片50)、$MR$(縦軸切片100、横軸切片25、つまり需要曲線の横軸切片のちょうど半分)、$MC$($P = 20$ の水平線)。$MR$ と $MC$ の交点から真上に上がって需要曲線にぶつかった高さが $P^M = 60$。この「下で数量を決め、上で価格を読む」二段階の動きを矢印で描くと、理解していることが一目で伝わります。死荷重は $Q = 20$ から $Q = 40$ の間、需要曲線と $MC$ に挟まれた三角形です。
つまずきポイント:$MR = MC$ の交点の高さ($= 20$)を価格だと答えてしまう誤りが頻出します。交点は数量を決めるだけ。価格は必ず需要曲線まで垂線を延ばして読みます。
パターン9 課税・補助金の帰着
典型的な問われ方:従量税を課したときの新しい均衡、消費者と生産者の負担割合、税収、死荷重を求めさせる。
使う式:消費者価格 $P_d$ と生産者価格 $P_s$ の関係 $P_d = P_s + t$。負担割合は $\text{消費者負担} : \text{生産者負担} = e_s : e_d$(弾力性の比が逆になる)。
解法ステップ:①どちらに課税されても結果は同じなので、計算しやすい側で立式 ②$Q_d(P_d) = Q_s(P_s)$、$P_d - P_s = t$ の連立 ③元の均衡価格との差で負担を配分 ④税収 $= t \times Q$、死荷重 $= \dfrac{1}{2} \times t \times \Delta Q$。
計算例:パターン1の市場($Q_d = 120 - 2P_d$、$Q_s = -30 + 3P_s$、元の均衡 $P = 30$、$Q = 60$)に、生産者へ1単位あたり10円の従量税。
$P_s = P_d - 10$ を供給関数に代入して
検算:$Q_s = -30 + 3 \times 26 = 48$。一致します。
- 消費者負担:$36 - 30 = 6$ 円/単位
- 生産者負担:$30 - 26 = 4$ 円/単位(合計10円=税額)
- 税収:$10 \times 48 = 480$
- 死荷重:$\dfrac{1}{2} \times 10 \times (60 - 48) = \dfrac{1}{2} \times 10 \times 12 = 60$
検算(弾力性による確認):元の均衡での需要の価格弾力性は $e_d = 2 \times \dfrac{30}{60} = 1.0$、供給の価格弾力性は $e_s = 3 \times \dfrac{30}{60} = 1.5$。負担比は $e_s : e_d = 1.5 : 1.0 = 3 : 2$。実際の負担 $6 : 4 = 3 : 2$。完全に一致します。弾力性が小さい側(逃げられない側)が多く負担するという原則が、数値で確認できました。
グラフの描き方:元の供給曲線 $S$ を、垂直方向に $t = 10$ だけ上へ平行移動して $S'$ とします($P = 10 + \dfrac{Q}{3}$ が $P = 20 + \dfrac{Q}{3}$ になる)。$S'$ と $D$ の交点で $P_d = 36$、$Q = 48$。そこから真下に10だけ下がった点が $P_s = 26$。$P_d$ と $P_s$ の間、$Q = 0$ から $48$ までの長方形が税収($10 \times 48 = 480$)、その右にできる三角形が死荷重です。
つまずきポイント:供給曲線のシフト幅は「垂直方向に $t$」であって、水平方向に $t$ ではありません。$Q_s = -30 + 3P$ をそのまま「$-30 - 10$」としてしまうと間違いです(正しくは $Q_s = -30 + 3(P - 10) = -60 + 3P$、水平方向のシフト幅は $3t = 30$)。逆供給関数の形にしてから縦に動かすのが安全です。
なお補助金は税のちょうど裏返しで、$P_d = P_s - s$。補助金でも死荷重は発生します(過剰生産による)。「補助金は良いもの」という直感で「死荷重ゼロ」と答えないでください。
パターン10 外部性とピグー税
典型的な問われ方:負の外部性がある市場で、市場均衡と社会的最適を比較し、最適なピグー税額を求めさせる。
使う式:$MSC = PMC + MEC$(社会的限界費用=私的限界費用+限界外部費用)。社会的最適は $MSB = MSC$。最適ピグー税は社会的最適点における $MEC$。
解法ステップ:①市場均衡を $MB = PMC$ で求める ②$MSC$ を作る ③$MB = MSC$ で社会的最適を求める ④その点の $MEC$ が税額 ⑤課税後に本当に最適点に到達するか検算。
計算例:限界便益(需要)$MB = 100 - Q$、私的限界費用 $PMC = 20 + Q$、限界外部費用 $MEC = 0.5Q$。
市場均衡:$100 - Q = 20 + Q \Rightarrow Q^{mkt} = 40$、価格 $= 60$。
社会的最適:$MSC = 20 + Q + 0.5Q = 20 + 1.5Q$。
ピグー税:$t = MEC(32) = 0.5 \times 32 = 16$。
検算:課税後の私的限界費用は $20 + Q + 16 = 36 + Q$。$100 - Q = 36 + Q \Rightarrow Q = 32$、価格 $= 68$。確かに社会的最適に一致します。
課税前の死荷重:$Q = 40$ において $MSC = 20 + 40 + 20 = 80$、$MB = 60$。乖離は20。過剰生産量は $40 - 32 = 8$。
グラフの描き方:縦軸 $P$(または限界価値)、横軸 $Q$。$MB$(縦軸切片100、右下がり)、$PMC$(縦軸切片20、傾き1)、$MSC$(縦軸切片20、傾き1.5)の3本。$PMC$ と $MB$ の交点が $(40, 60)$、$MSC$ と $MB$ の交点が $(32, 68)$。$Q = 32$ での $MSC$ と $PMC$ の垂直距離が16で、これが税額です。死荷重は $Q = 32$ から $40$ の間、$MSC$ と $MB$ に挟まれた三角形。
つまずきポイント:ピグー税の額を「市場均衡点での $MEC$」(この例なら $0.5 \times 40 = 20$)としてしまう誤りが極めて多い。最適点で評価するのが正しい。課税しすぎると今度は過少生産になり、別の死荷重が生じます。
コースの定理との対比:取引費用がゼロで権利関係が明確なら、当事者間の交渉によって権利の初期配分にかかわらず効率的な資源配分が達成される、というのがコースの定理です。現実には交渉費用や当事者多数の問題があるため、鑑定士試験では「なぜピグー税やコース的解決が必要か」を論述させる形でも出ます。日照・騒音・眺望といった不動産に固有の外部性は、近隣地域の環境要因として鑑定評価にも直結します。この論点は近隣で発生したトラブルと価値の下落でも扱っています。
パターン11 公共財とサミュエルソン条件
典型的な問われ方:複数の消費者の限界評価が与えられ、公共財の最適供給量を求めさせる。私的財との違いを説明させる論述とセットになりやすい。
使う式:サミュエルソン条件 $\sum_i MRS_i = MRT$。実務的には「各人の限界便益を縦に足す」。私的財は需要曲線を横に足すのに対し、公共財は縦に足す、という対比が核心です。
解法ステップ:①各人の限界便益関数を確認 ②縦に足して社会的限界便益 $SMB$ を作る ③$SMB = MC$ を解く ④各人の負担(リンダール価格)は最適点での各人の限界評価。
計算例:消費者Aの限界便益 $MB_A = 60 - G$、消費者Bの $MB_B = 50 - G$、公共財の限界費用 $MC = 30$。
検算:$MB_A(40) = 20$、$MB_B(40) = 10$、合計30 $= MC$。一致します。リンダール均衡では、Aが20、Bが10を負担します。
フリーライダー問題の数値化:Aが単独で供給を決めるなら $60 - G = 30 \Rightarrow G = 30$。Bが単独なら $50 - G = 30 \Rightarrow G = 20$。いずれも社会的最適の40を下回ります。自発的供給に任せると過少供給になることが、数値で示せました。
グラフの描き方:縦軸に限界便益・限界費用、横軸に公共財の供給量 $G$。$MB_A$(縦軸切片60)と $MB_B$(縦軸切片50)を描き、その縦の和 $SMB$(縦軸切片110、傾き $-2$)を太線で描きます。$MC = 30$ の水平線との交点が $G^* = 40$。$G = 40$ の垂線上に $MB_A = 20$、$MB_B = 10$ を目盛って、それぞれの負担額として示します。
つまずきポイント:$MB_B = 50 - G$ は $G > 50$ で負になります。社会的限界便益を縦に足すときは、負になった人を足さない(実際には $MB_B$ がゼロになる領域では $SMB = MB_A$ のみ)という折れ曲がりが生じます。上の例では $G^* = 40 < 50$ なので問題になりませんが、数値によっては注意が必要です。
パターン12 地代の決定と土地供給の非弾力性
典型的な問われ方:土地の供給が完全に非弾力的であることから、地代の決定・地代課税の帰着を説明させる。不動産鑑定士試験ならではの出題で、経済学と鑑定理論の橋渡しになります。
使う式:供給が垂直($e_s = 0$)のとき、価格は需要側のみで決まる。地代課税の負担はすべて土地所有者に帰着し、死荷重はゼロ。
計算例(地代課税の帰着):ある地域の土地供給が100ha(固定)、土地需要が $R = 500 - 2L$($R$ は地代、万円/ha・年)。
均衡地代は $R = 500 - 2 \times 100 = 300$ 万円/ha。地代総額は $300 \times 100 = 30{,}000$ 万円=3億円。
ここで地代収入に20%の税を課します。供給が完全非弾力的なので取引量(100ha)は一切変わらず、地代も300万円のまま。税収 $30{,}000 \times 0.2 = 6{,}000$ 万円はすべて土地所有者の手取り減となり、借地人の負担はゼロ、死荷重もゼロです。
これがヘンリー・ジョージの単一税論の根拠であり、「土地は課税しても資源配分を歪めない理想的な課税ベースだ」という主張につながります。
計算例(リカードの差額地代):優等地A・中等地B・劣等地Cがあり、同じ資本・労働(費用600万円)を投下したときの収穫がそれぞれ100俵・80俵・60俵。市場価格は最劣等地Cで費用がちょうど賄われる水準に決まるので、
各土地の地代は「収入-費用」です。
| 土地 | 収穫 | 収入 | 費用 | 地代 |
|---|---|---|---|---|
| A(優等地) | 100俵 | 1,000万円 | 600万円 | 400万円 |
| B(中等地) | 80俵 | 800万円 | 600万円 | 200万円 |
| C(劣等地) | 60俵 | 600万円 | 600万円 | 0円 |
「地代が高いから価格が高いのではなく、価格が高いから地代が高い」というリカードの命題が、この表からそのまま読み取れます。鑑定評価で言えば、土地の価格は土地が生み出す収益(=需要側)によって決まるのであって、土地の造成原価が価格を決めるのではない、ということ。原価法の適用が土地単独では原則として困難とされる理由の一端が、ここにあります。
グラフの描き方:縦軸 $R$(地代)、横軸 $L$(土地面積)。供給曲線は $L = 100$ の垂直線。需要曲線は $R = 500 - 2L$(縦軸切片500、横軸切片250)。交点で $R = 300$。需要が増えて $R = 600 - 2L$ にシフトすると、地代は $600 - 200 = 400$ に上がるが面積は100のまま。この「量は動かず価格だけ動く」構図が、垂直供給曲線の本質です。
つまずきポイント:「土地の供給は非弾力的」は、ある地域の物理的な土地の総量についての話です。宅地としての供給(農地転用や再開発による)や、特定用途への供給は弾力性を持ちます。答案では「一定地域における土地の総量は自然的に固定されており」といった限定を必ず添えてください。適正な地代水準の考え方は地代の適正水準の考え方でも扱っています。
パターン13 資本還元と土地価格
典型的な問われ方:永続的な収益を生む資産の価格を求めさせる。鑑定評価の収益還元法(直接還元法)そのものです。
使う式:無限等比級数の和より
収益が毎年 $g$ の率で成長するなら
解法ステップ:①1期間の純収益 $R$ を特定 ②還元利回り $r$ を特定 ③割り算 ④成長があれば $r$ から $g$ を引く。
計算例:年間純収益300万円、還元利回り4%。
感応度の計算(これが本番で問われる):
| 還元利回り | 価格 | 4%からの変化率 |
|---|---|---|
| 3.5% | $300 \div 0.035 = 8{,}571$ 万円 | +14.3% |
| 4.0% | 7,500万円 | ― |
| 4.5% | $300 \div 0.045 = 6{,}667$ 万円 | -11.1% |
| 5.0% | $300 \div 0.05 = 6{,}000$ 万円 | -20.0% |
利回りがわずか1%ポイント(4%→5%)上がるだけで、価格が20%下がります。利回りの変化に対する価格の感応度が極めて高いことが、収益還元法の最大の実務的論点です。
成長型の計算例:純収益300万円、割引率5%、成長率1%。
還元利回り4%のケースと同じ価格になります。ここから、還元利回り = 割引率 - 純収益の変動率という関係が読み取れます。
収益価格を求める方法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法(以下「直接還元法」という。)と、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法(Discounted Cash Flow法(以下「DCF法」という。))がある。― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
経済学の資本還元式と、鑑定評価基準の直接還元法は、まったく同じことを言っています。経済学で $P = \dfrac{R}{r}$ を理解しておけば、収益還元法の理論的根拠を論文式で堂々と書けます。詳しくは収益還元法の仕組みと還元利回り(キャップレート)の考え方を参照してください。
グラフの描き方:横軸 $r$(還元利回り)、縦軸 $P$(価格)とすると、$P = \dfrac{R}{r}$ は直角双曲線になります。$r$ が小さいほど価格は急激に大きくなり、$r \to 0$ で発散する。この「低金利下で不動産価格が跳ね上がる」構図を1本の曲線で表現できると、論述に説得力が出ます。
つまずきポイント:$r$ を百分率のまま代入して $300 \div 4 = 75$ としてしまう事故。必ず小数(0.04)に直します。また、$r \leq g$ のときは式が成立しません(価格が無限大または負になる)。答案では「$r > g$ を前提とする」と一言添えるのが安全です。
パターン14 生産関数と費用最小化
典型的な問われ方:生産関数と要素価格が与えられ、ある生産量を達成する最小費用の要素投入量を求めさせる。
使う式:$MRTS = \dfrac{MP_L}{MP_K} = \dfrac{w}{r}$、すなわち $\dfrac{MP_L}{w} = \dfrac{MP_K}{r}$。効用最大化と完全に同じ構造です。
解法ステップ:①生産関数を $L$、$K$ で偏微分 ②比を取って要素価格比とイコール ③生産関数に代入して生産量の制約を満たす。
計算例:$Q = L^{0.5} K^{0.5}$、賃金率 $w = 10$、資本レンタル率 $r = 40$。$Q = 50$ を最小費用で生産する。
$MP_L = 0.5 \left(\dfrac{K}{L}\right)^{0.5}$、$MP_K = 0.5 \left(\dfrac{L}{K}\right)^{0.5}$ なので
生産関数に代入すると
$Q = 50$ より $L = 100$、$K = 25$。総費用は
検算:$Q = 100^{0.5} \times 25^{0.5} = 10 \times 5 = 50$。一致します。またコブ=ダグラス型で指数が等しい場合、費用は労働と資本に半分ずつ配分されるという性質(それぞれ1,000)も確認できました。
規模に関する収穫:$L$、$K$ をともに $\lambda$ 倍すると $Q$ も $\lambda$ 倍(指数の和が $0.5 + 0.5 = 1$)なので規模に関して収穫一定。したがって長期総費用は生産量に比例し、$LTC = 40Q$($2{,}000 \div 50 = 40$)、長期平均費用も限界費用も40で一定です。
グラフの描き方:縦軸 $K$、横軸 $L$。等量曲線 $Q = 50$(原点に凸な曲線)を1本描き、等費用線 $10L + 40K = 2{,}000$(横軸切片 $L = 200$、縦軸切片 $K = 50$、傾き $-\dfrac{1}{4}$)を引きます。接点が $(L, K) = (100, 25)$。無差別曲線・予算線の図と構造がまったく同じであることを意識すると、覚える量が半分になります。
つまずきポイント:要素価格比の分子分母。横軸が $L$ なら分子は $w$、と揃えます。また「賃金が下がったら労働をもっと使う」という方向感を、接点の移動として確認してください。
パターン15 寡占とクールノー均衡
典型的な問われ方:複占市場で各企業の生産量・価格・利潤を求めさせる。ナッシュ均衡の概念とセットで出ます。
使う式:各企業が相手の生産量を所与として自社の利潤を最大化する反応関数を作り、連立する。
解法ステップ:①企業1の利潤 $\pi_1 = P(Q) q_1 - TC(q_1)$ を書く($Q = q_1 + q_2$) ②$q_1$ で微分してゼロ ③反応関数 ④対称なら $q_1 = q_2 = q$ とおいて解く。
計算例:需要 $P = 100 - Q$($Q = q_1 + q_2$)、両社とも $MC = 10$。
対称性より $q_1 = q_2 = q$ とおくと
よって $Q = 60$、$P = 100 - 60 = 40$、各社の利潤は $(40 - 10) \times 30 = 900$(合計1,800)。
3つの市場構造の比較(同じ需要・費用条件で検算):
| 市場構造 | 総生産量 | 価格 | 総利潤 |
|---|---|---|---|
| 独占 | $MR = 100 - 2Q = 10 \Rightarrow Q = 45$ | 55 | $(55-10) \times 45 = 2{,}025$ |
| クールノー複占 | $Q = 60$ | 40 | $1{,}800$ |
| 完全競争 | $P = MC = 10 \Rightarrow Q = 90$ | 10 | $0$ |
複占の生産量60は、独占45と完全競争90の間にあり、企業数が増えるほど完全競争に近づきます。一般に $n$ 社のクールノー均衡では $Q = \dfrac{n}{n+1} \times 90$ となり、$n = 1$ で45(独占)、$n \to \infty$ で90(完全競争)に収束します。$n = 2$ なら $\dfrac{2}{3} \times 90 = 60$。確かに一致します。
グラフの描き方:縦軸 $q_2$、横軸 $q_1$ の平面に、企業1の反応曲線 $q_1 = \dfrac{90 - q_2}{2}$(横軸切片45、縦軸切片90)と企業2の反応曲線 $q_2 = \dfrac{90 - q_1}{2}$(縦軸切片45、横軸切片90)を描きます。交点 $(30, 30)$ がクールノー=ナッシュ均衡。2本の反応曲線の交点として均衡を表現するのが、寡占のグラフの定番です。
つまずきポイント:反応関数を出すときに $q_2$ を定数として扱うこと。ここで $Q = q_1 + q_2$ を全部 $Q$ のまま微分すると独占の解が出てしまいます。「相手の生産量は所与」がクールノー競争の定義です。
マクロ経済学の計算パターン15
パターン16 GDPの三面等価と各種概念
典型的な問われ方:一連の数値からGDP、GNI、NNP、国民所得(NI)を計算させる。定義の暗記勝負なので、確実に取りたい。
使う式:
計算例:$C = 300$、$I = 100$、$G = 120$、$X = 60$、$M = 30$(単位:兆円)。海外からの純所得受取10、固定資本減耗60、間接税40、補助金10。
三面等価の原則:生産面・分配面・支出面のGDPは事後的に必ず一致します。これは会計上の恒等式であって、経済理論ではありません。在庫の増減が「意図せざる投資」として調整弁になるため、常に成立します。
つまずきポイント:「国内(domestic)」と「国民(national)」の区別。国内は領土基準、国民は居住者基準です。日本企業の海外工場の生産は日本のGDPには入らず、そこから得た所得の送金がGNIに入ります。また、中古品の売買や土地の取引はGDPに含まれません(付加価値を生んでいないため)。不動産取引で言えば、仲介手数料はサービスの対価としてGDPに計上されるが、土地代金そのものは計上されない。これは不動産鑑定士試験の受験生が押さえておくべき重要な区別です。
パターン17 名目GDP・実質GDPとGDPデフレーター
典型的な問われ方:名目値と実質値から物価指数を計算させ、成長率を分解させる。
使う式:
計算例:基準年の名目GDP=実質GDP=500兆円。当年の名目GDPが561兆円、実質GDPが510兆円。
検算:$1.02 \times 1.10 = 1.122$。名目成長率12.2%と一致します。近似式「名目成長率 ≒ 実質成長率 + インフレ率」では $2\% + 10\% = 12\%$ となり、実際の12.2%とは0.2%ポイントずれます。この差 $0.02 \times 0.10 = 0.002$ が交差項です。インフレ率が低いときは近似で十分ですが、高インフレでは誤差が無視できません。
つまずきポイント:GDPデフレーターと消費者物価指数(CPI)の違い。GDPデフレーターは当年の数量ウェイトを使うパーシェ型で、国内生産物のみを対象とするため輸入品の価格上昇は直接には反映されません(むしろ輸入価格上昇はデフレーターを押し下げる方向に働きます)。CPIは基準年の数量ウェイトを使うラスパイレス型で、輸入品も含む消費財が対象。輸入エネルギー価格が急騰した局面で「CPIは上がったがGDPデフレーターは上がらない」現象が起きるのは、この違いによります。
パターン18 45度線分析と乗数
典型的な問われ方:消費関数と投資・政府支出から均衡国民所得を求め、政策の効果を乗数で計算させる。マクロの計算問題で最頻出です。
使う式:$Y = C + I + G$、$C = C_0 + cY$($c$ は限界消費性向)。
| 乗数 | 式 | 例($c = 0.8$) |
|---|---|---|
| 政府支出乗数 | $\dfrac{1}{1-c}$ | 5 |
| 租税乗数 | $\dfrac{-c}{1-c}$ | $-4$ |
| 均衡予算乗数 | $\dfrac{1}{1-c} + \dfrac{-c}{1-c} = 1$ | 1 |
| 投資乗数 | $\dfrac{1}{1-c}$ | 5 |
計算例(閉鎖経済・定額税なし):$C = 20 + 0.8Y$、$I = 30$、$G = 50$。
$\Delta G = 10$ なら $\Delta Y = 5 \times 10 = 50$。$\Delta T = 10$(増税)なら $\Delta Y = -4 \times 10 = -40$。両方同時なら $50 - 40 = 10 = \Delta G$。これが均衡予算乗数の定理(乗数が1)です。
計算例(比例税がある場合):$T = 0.25Y$、$C = 20 + 0.8(Y - T) = 20 + 0.8 \times 0.75Y = 20 + 0.6Y$。
乗数は $\dfrac{1}{1 - 0.6} = 2.5$ に低下します。比例税は乗数を小さくする=景気変動を自動的に和らげる。これがビルトイン・スタビライザーの数量的な正体です。
計算例(開放経済):$C = 20 + 0.8Y$、$I = 30$、$G = 50$、$X = 60$、$M = 10 + 0.1Y$。
検算:$C = 20 + 400 = 420$、$M = 10 + 50 = 60$。$420 + 30 + 50 + 60 - 60 = 500$。一致します。乗数は $\dfrac{1}{0.3} \approx 3.33$。輸入という「漏れ」があるので、閉鎖経済の5より小さくなります。
デフレギャップの計算:完全雇用GDPが550のとき、$550 - 500 = 50$ の産出不足。必要な政府支出増は $50 \div 3.33 = 15$。検算すると $0.3Y = 165 \Rightarrow Y = 550$。確かに一致します。ここでデフレギャップは50ではなく15(有効需要の不足額)である点に注意してください。混同が非常に多い箇所です。
グラフの描き方:縦軸に総需要 $Y^D$、横軸に国民所得 $Y$。45度線(原点から傾き1)と、総需要線 $Y^D = 100 + 0.8Y$(閉鎖経済の例なら縦軸切片 $20+30+50 = 100$、傾き0.8)を描き、交点が均衡 $Y^* = 500$。政府支出増は総需要線を上に平行移動(傾きは不変)。完全雇用水準 $Y_f = 550$ に垂線を立て、45度線と総需要線の縦の差がデフレギャップです。
つまずきポイント:総需要線の傾きは限界消費性向であって1ではありません。また、比例税や輸入がある場合の傾きは $c$ ではなく $c(1-t) - m$ になります。上の開放経済の例なら $0.8 - 0.1 = 0.7$。
パターン19 IS曲線の導出
典型的な問われ方:財市場の均衡条件からIS曲線を導出させる。IS-LM分析の入口。
使う式:$Y = C + I(r) + G$ を $Y$ と $r$ の関係に整理する。
解法ステップ:①財市場均衡式を書く ②消費関数・投資関数を代入 ③$Y$ について解く($r$ を残す)。
計算例:$C = 20 + 0.8Y$、$I = 100 - 5r$、$G = 50$。
これがIS曲線です。$r$ について解けば $r = 34 - \dfrac{Y}{25}$。
グラフの描き方:縦軸 $r$、横軸 $Y$。$r = 34 - \dfrac{Y}{25}$ より、縦軸切片34、横軸切片850。右下がりの直線を引き、$IS$ と書きます。
傾きが何で決まるか(論述頻出):
| 要因 | IS曲線への影響 |
|---|---|
| 投資の利子弾力性が大($I$ の $r$ 係数が大) | IS曲線は緩やかになる |
| 限界消費性向 $c$ が大(乗数が大) | IS曲線は緩やかになる |
| 税率・限界輸入性向が大 | IS曲線は急になる |
シフト要因:政府支出増・減税・独立投資増・輸出増 → 右シフト。上の例で $G$ が50から65に増えると $0.2Y = 185 - 5r \Rightarrow Y = 925 - 25r$。同じ $r$ に対して $Y$ が75(=乗数5×15)だけ大きくなる、つまり水平方向に乗数倍だけシフトします。この「シフト幅=乗数×政策変数の変化」は必ず押さえてください。
つまずきポイント:利子率の変化はIS曲線をシフトさせません。曲線上の移動です。シフトさせるのは、利子率以外の要因だけ。この区別を答案で曖昧にすると、大幅減点になります。
パターン20 LM曲線の導出
典型的な問われ方:貨幣市場の均衡条件からLM曲線を導出させる。
使う式:$L(Y, r) = \dfrac{M}{P}$。貨幣需要は取引需要($Y$ の増加関数)と投機的需要($r$ の減少関数)の和。
計算例:貨幣需要 $L = 0.2Y - 10r$、実質貨幣供給 $\dfrac{M}{P} = 80$。
これがLM曲線です。
グラフの描き方:縦軸 $r$、横軸 $Y$。$r = \dfrac{Y - 400}{50} = \dfrac{Y}{50} - 8$ より、横軸切片400、縦軸切片 $-8$(ただし通常は第1象限だけを描くので、$Y = 400$ から右上がりに引きます)。右上がりの直線を引き、$LM$ と書きます。
傾きが何で決まるか:
| 要因 | LM曲線への影響 |
|---|---|
| 貨幣需要の利子弾力性が大 | LM曲線は緩やかになる |
| 貨幣需要の所得弾力性が大 | LM曲線は急になる |
| 流動性の罠 | LM曲線は水平 |
| 古典派のケース(貨幣需要が $r$ に無反応) | LM曲線は垂直 |
シフト要因:名目貨幣供給 $M$ の増加、物価 $P$ の下落 → 右(下)シフト。$\dfrac{M}{P}$ が80から95になると $Y = 475 + 50r$。同じ $r$ に対して $Y$ が75だけ大きくなります($\dfrac{15}{0.2} = 75$)。
つまずきポイント:LM曲線をシフトさせるのは実質貨幣供給 $\dfrac{M}{P}$ です。物価が上がれば名目 $M$ が同じでもLM曲線は左シフトする。この点がAD曲線の導出(パターン24)につながります。
パターン21 IS-LM均衡と財政政策・クラウディングアウト
典型的な問われ方:IS曲線とLM曲線を連立して均衡所得・均衡利子率を求め、政府支出増加の効果とクラウディングアウトの大きさを計算させる。論文式の計算問題として最頻出です。
計算例(当初の均衡):IS:$Y = 850 - 25r$、LM:$Y = 400 + 50r$。
検算:IS に $r=6$ を入れると $850 - 150 = 700$、LM に入れると $400 + 300 = 700$。一致。また貨幣需要は $0.2 \times 700 - 10 \times 6 = 140 - 60 = 80$ で、実質貨幣供給80と一致します。
財政政策($\Delta G = +15$):新IS曲線は $Y = 925 - 25r$。
クラウディングアウトの計測:
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 乗数効果だけなら(利子率一定なら) | $\Delta Y = 5 \times 15 = 75$ |
| 実際の所得増 | $\Delta Y = 750 - 700 = 50$ |
| クラウディングアウトされた分 | $75 - 50 = 25$ |
| 利子率の上昇 | $6\% \to 7\%$ |
| 投資の減少 | $I = 100 - 5r$:$70 \to 65$、$\Delta I = -5$ |
検算:投資が5減ると、乗数5倍で所得が25減ります。$5 \times 5 = 25$。クラウディングアウト額25と完全に一致しました。この検算ができると、「クラウディングアウトとは、政府支出増→利子率上昇→民間投資減少という経路である」ことが数値で証明でき、論述の説得力が段違いになります。
グラフの描き方:縦軸 $r$、横軸 $Y$。$IS$(右下がり)と $LM$(右上がり)の交点 $E_0 = (700, 6)$。$IS$ を右に平行移動して $IS'$(横軸切片850→925、水平シフト幅75)を描き、新均衡 $E_1 = (750, 7)$。ここで「乗数だけなら到達したはずの点」$(775, 6)$ を破線で示し、$E_1$ との水平距離25にクラウディングアウトと注記するのが得点を伸ばす描き方です。
極端なケース:
- 流動性の罠(LM水平):利子率が上がらないので、クラウディングアウトはゼロ。財政政策はフル乗数($\Delta Y = 75$)で効く。
- 古典派のケース(LM垂直):所得はまったく増えず、利子率だけ上昇。完全クラウディングアウト。
つまずきポイント:IS曲線の水平シフト幅は $\Delta G$ ではなく乗数 × $\Delta G$ です。上の例なら15ではなく75。ここを間違えると以降すべてが狂います。
パターン22 金融政策の効果
典型的な問われ方:貨幣供給の増加がIS-LMモデルで所得と利子率にどう影響するかを計算させる。
計算例:IS:$Y = 850 - 25r$、実質貨幣供給を $80 \to 95$ に増やす。新LM曲線は $Y = 475 + 50r$。
検算:IS に入れると $850 - 125 = 725$。一致。所得は $700 \to 725$($+25$)、利子率は $6\% \to 5\%$。
波及経路の検算:$I = 100 - 5r$ より、$r$ が6から5に下がると投資は $70 \to 75$($+5$)。乗数5倍で $\Delta Y = 5 \times 5 = 25$。実際の所得増25と一致します。金融政策は利子率の低下を通じて投資を増やすことでしか効かないという命題が、数値で確認できました。
グラフの描き方:$LM$ を右に平行移動(横軸切片400→475、シフト幅75)。$IS$ は動かさない。新均衡は $IS$ 曲線に沿って右下に移動します。「利子率が下がって所得が増える」=右下方向、という向きを間違えないこと。
政策の有効性の比較(論述で頻出):
| ケース | 財政政策 | 金融政策 |
|---|---|---|
| LM水平(流動性の罠) | 極めて有効(フル乗数) | 無効 |
| LM垂直(古典派) | 無効(完全クラウディングアウト) | 極めて有効 |
| IS水平(投資が利子率に極端に敏感) | 無効 | 有効 |
| IS垂直(投資が利子率に無反応) | 有効(クラウディングアウトなし) | 無効 |
この4行の表を暗記しておけば、政策効果の論述はほぼ書けます。ロジックはすべて「利子率が動くか」「利子率が動いたとき投資が動くか」の2点に還元されます。
つまずきポイント:金融緩和で $LM$ が右シフトするとき、「利子率が下がるから $IS$ 曲線も動く」と考えてはいけません。$IS$ 曲線上の移動です。
パターン23 貨幣乗数と信用創造
典型的な問われ方:ハイパワードマネーと各種比率から貨幣供給量を計算させる。準備率の変更効果とセットで出ます。
使う式:現金預金比率を $c = \dfrac{C}{D}$、準備率を $\rho = \dfrac{R}{D}$ とすると
計算例:$c = 0.2$、$\rho = 0.2$、ハイパワードマネー $H = 200$ 兆円。
検算:$H = C + R = 0.2D + 0.2D = 0.4D = 200 \Rightarrow D = 500$。$C = 100$、$R = 100$。$M = C + D = 100 + 500 = 600$。一致します。
準備率を引き下げた場合:$\rho$ を $0.2 \to 0.1$ に。
準備率の引き下げで貨幣供給が33%増えました。
単純な信用創造(現金保有ゼロの場合):$c = 0$、$\rho = 0.1$ なら乗数は $\dfrac{1}{0.1} = 10$。本源的預金100億円から、預金総額1,000億円、貸出総額900億円が創造されます。無限等比級数 $100(1 + 0.9 + 0.9^2 + \cdots) = \dfrac{100}{0.1} = 1{,}000$ で確認できます。
つまずきポイント:現金預金比率 $c$ が上がると貨幣乗数は下がります(分子分母に同じ数を足すと1に近づくため)。金融不安で人々が現金を退蔵すると信用創造が縮む、という現象の数量的な説明です。$\dfrac{c+1}{c+\rho}$ の $\rho < 1$ である限り、$c$ の増加は乗数を1に近づけます。
パターン24 AD-AS分析
典型的な問われ方:総需要曲線と総供給曲線から物価と産出量を求め、政策の効果を短期と長期で比較させる。
AD曲線の意味:物価 $P$ が上がると実質貨幣供給 $\dfrac{M}{P}$ が減り、LM曲線が左シフトして利子率が上がり、投資が減って所得が減る。したがってAD曲線は右下がり。IS-LMモデルを $P$ を動かしながら解いた軌跡がAD曲線です。
AS曲線の意味:短期は名目賃金の硬直性により右上がり。長期は名目賃金が完全に伸縮的になり、産出量は完全雇用水準に固定されるので垂直。
計算例(短期):$AD$:$Y = 700 - 100P$、短期 $AS$:$Y = 300 + 100P$。
検算:$AD$ に入れると $700 - 200 = 500$、$AS$ に入れると $300 + 200 = 500$。一致します。
財政拡張(AD曲線が右に100シフト):$AD'$:$Y = 800 - 100P$。
産出は $500 \to 550$($+50$)、物価は $2 \to 2.5$($+25\%$)。AD曲線のシフト幅100に対して、産出の増加は50にとどまります。残り50は物価上昇に吸収された。これが「AD-AS分析では45度線分析より乗数効果が小さくなる」理由です。
長期(AS垂直、$Y = 500$):
産出は500のまま、物価だけが $2 \to 3$($+50\%$)。長期では総需要policyは物価にしか影響しない(貨幣の中立性・古典派の二分法)。
グラフの描き方:縦軸 $P$(物価)、横軸 $Y$(産出量)。$AD$(右下がり、縦軸切片7、横軸切片700)、短期 $AS$(右上がり)、長期 $AS$($Y = 500$ の垂直線)の3本。当初の交点 $(500, 2)$。$AD$ を右シフトさせ、短期均衡 $(550, 2.5)$ と長期均衡 $(500, 3)$ の2点を打ち、短期から長期への調整を矢印で示します。この「短期→長期の調整過程」を描けるかが、AD-AS分析の答案の分かれ目です。
つまずきポイント:縦軸が $P$(物価水準)であって $r$(利子率)ではありません。IS-LM図とAD-AS図を並べて描く問題では、軸の取り違えが致命傷になります。「IS-LMは利子率の話、AD-ASは物価の話」と唱えてから描いてください。
パターン25 フィリップス曲線と自然失業率
典型的な問われ方:期待修正フィリップス曲線の式にデータを代入させ、短期と長期の違いを説明させる。
使う式:
$\pi$:インフレ率、$\pi^e$:期待インフレ率、$u$:失業率、$u_n$:自然失業率。
計算例:$\alpha = 0.5$、$u_n = 4\%$、$\pi^e = 2\%$。
| 失業率 $u$ | インフレ率 $\pi$ |
|---|---|
| 3% | $2 - 0.5(3-4) = 2.5\%$ |
| 4% | $2 - 0.5(0) = 2.0\%$ |
| 6% | $2 - 0.5(6-4) = 1.0\%$ |
失業率が自然失業率を下回るとインフレが加速し、上回るとインフレが減速する。$u = u_n$ のとき $\pi = \pi^e$ となり、これが長期均衡です。
長期フィリップス曲線が垂直な理由:長期には人々の期待が実現値に一致する($\pi^e = \pi$)ので、式から $0 = -\alpha(u - u_n) \Rightarrow u = u_n$。インフレ率が何%であっても失業率は自然失業率に等しくなるため、長期フィリップス曲線は $u = u_n$ の垂直線になります。インフレと失業のトレードオフは短期にしか存在しない(自然失業率仮説)。
グラフの描き方:縦軸 $\pi$、横軸 $u$。短期フィリップス曲線は右下がりの直線で、$\pi^e = 2\%$ に対応する曲線は点 $(4, 2)$ を通り傾き $-0.5$。$u_n = 4$ の垂直線が長期フィリップス曲線。期待インフレ率が3%に上がると、短期曲線は点 $(4, 3)$ を通るように上にシフトします。この「短期曲線が期待の変化で上下する」構図が核心です。
パターン26 オークンの法則と犠牲率
典型的な問われ方:失業率のギャップからGDPギャップを換算させる。フィリップス曲線と組み合わせて犠牲率を計算させる。
使う式:
$\beta$(オークン係数)は2程度とされます。
計算例:$\beta = 2$、$u_n = 4\%$、実際の失業率 $u = 6\%$、完全雇用GDP $Y_f = 550$ 兆円。
GDPギャップは $-22$ 兆円です。
犠牲率の計算(フィリップス曲線との連結):パターン25の $\alpha = 0.5$ のもとで、インフレ率を1%ポイント引き下げるには、失業率を自然失業率より $\dfrac{1}{0.5} = 2\%$ ポイント高くする必要があります。オークンの法則より、これはGDPを $2 \times 2 = 4\%$ 犠牲にすることを意味します。
「インフレ率を1%ポイント下げるには、GDPの4%を1年間失う」。金融引き締めのコストが、この一つの数字に凝縮されます。
つまずきポイント:オークンの法則は理論ではなく経験則(実証的な関係)です。答案では「実証的に観察される関係として」と前置きするのが正確です。
パターン27 金利と資産価格
典型的な問われ方:利子率の変化が債券価格・不動産価格に与える影響を計算させる。鑑定士試験で経済学と鑑定理論が最も接近する論点です。
使う式(永久債・永続不動産):
計算例(永久債):額面100円、クーポン年3円の永久債。市場利回りが3%なら価格は $\dfrac{3}{0.03} = 100$ 円。市場利回りが4%に上がると $\dfrac{3}{0.04} = 75$ 円($-25\%$)。
計算例(不動産):年間純収益(NOI)400万円のオフィスビル。
| 還元利回り | 価格 | 変化率 |
|---|---|---|
| 3% | $400 \div 0.03 = 13{,}333$ 万円 | $+33.3\%$ |
| 4% | $400 \div 0.04 = 10{,}000$ 万円 | ― |
| 5% | $400 \div 0.05 = 8{,}000$ 万円 | $-20.0\%$ |
感応度の近似と正確な値の差:利回りが4%から5%へ1%ポイント上がるとき、「相対変化 $\dfrac{1}{4} = 25\%$ だから価格は25%下がる」と近似すると誤差が出ます。正確には $\dfrac{P_1}{P_0} = \dfrac{r_0}{r_1} = \dfrac{4}{5} = 0.8$、すなわち $-20\%$。$P = \dfrac{R}{r}$ は非線形(双曲線)なので、変化幅が大きいときは近似が使えません。答案では必ず割り算で正確に出してください。
マクロ政策との接続:中央銀行が金融緩和すると、短期金利が下がり、期待を通じて長期金利も低下します。不動産の還元利回りは「リスクフリーレート+リスクプレミアム-純収益の期待成長率」と分解できるので、リスクフリーレートの低下は還元利回りを押し下げ、不動産価格を押し上げます。上の表で言えば、還元利回りが4%から3%に下がるだけで価格が33%上昇する。低金利が不動産価格を押し上げるメカニズムの数量的な正体がこれです。
ただし単純ではありません。景気拡大局面では金利上昇と同時に賃料(=$R$)の期待成長率 $g$ も上がるため、$P = \dfrac{R}{r - g}$ の分母は必ずしも大きくなりません。「金利が上がれば不動産価格は必ず下がる」という単純な答案を書くと、この点で減点されます。この論点の詳細は金利と不動産価格の関係で扱っています。
グラフの描き方:横軸 $r$、縦軸 $P$ の平面に $P = \dfrac{R}{r}$ の双曲線を描き、$r = 3\%, 4\%, 5\%$ に対応する3点を打ちます。曲線が低金利側で急激に立ち上がることを視覚化すると、「低金利下で価格が不安定になる」という論述に直結します。
パターン28 IS-LM-BPとマンデル=フレミング・モデル
典型的な問われ方:小国開放経済・資本移動が完全という前提のもとで、変動相場制と固定相場制における財政政策・金融政策の効果を比較させる。論述と計算の両方で出ます。
結論の表(まず暗記):
| 政策 | 変動相場制 | 固定相場制 |
|---|---|---|
| 財政政策 | 無効 | 有効(フル乗数) |
| 金融政策 | 有効 | 無効 |
なぜそうなるかの数値化:パターン21と同じモデル(IS:$Y = 850 - 25r$、LM:$Y = 400 + 50r$、均衡 $r = 6$、$Y = 700$)を使い、世界利子率を $r^ = 6\%$ とします。資本移動が完全なら、国内利子率は必ず $r^$ に等しくなるまで調整されます。
変動相場制+財政拡張($\Delta G = +15$):IS曲線が右シフトして $Y = 925 - 25r$。国内利子率が上昇しようとする → 資本が流入 → 自国通貨高 → 純輸出が減少 → IS曲線が左に押し戻される。最終的に $r = 6\%$、$Y = 700$ に戻る。所得は増えない(完全なクラウディングアウトが為替経由で起きる)。
固定相場制+財政拡張($\Delta G = +15$):IS曲線が右シフトして $Y = 925 - 25r$。資本流入で自国通貨高圧力 → 中央銀行が自国通貨売り介入 → 貨幣供給が増加 → LM曲線が右シフト。$r = 6\%$ に戻るまで続くので、新均衡は $Y = 925 - 25 \times 6 = 775$。
検算:$\Delta Y = 775 - 700 = 75 = 5 \times 15$。乗数がフルに効いています。このときLM曲線は $Y = 400 + 50 \times 6 = 700$ から $Y = 775$($r=6$ で)を通るように移動する必要があるので、実質貨幣供給は $\dfrac{775 - 300}{5} = 95$。すなわち $80 \to 95$ に増加します。介入によって貨幣供給が15の政府支出増を支えた形です。
変動相場制+金融緩和(実質貨幣供給 $80 \to 95$):LM曲線が右シフトして $Y = 475 + 50r$。国内利子率が低下しようとする → 資本が流出 → 自国通貨安 → 純輸出が増加 → IS曲線が右シフト。$r = 6\%$ に戻ったとき、LM曲線より $Y = 475 + 300 = 775$。所得は700から775に増加、金融政策は有効です。
固定相場制+金融緩和:貨幣供給を増やすと通貨安圧力 → 中央銀行が自国通貨買い介入 → 貨幣供給が元に戻る。何も起きません。
グラフの描き方:縦軸 $r$、横軸 $Y$ に $IS$、$LM$、そして $r = r^* = 6$ の水平線 $BP$(資本移動完全のとき国際収支均衡線は水平)の3本。政策でどちらかの曲線がシフトした後、必ず $BP$ 線上に戻るという調整を矢印2本で示します。「シフト → 乖離 → 為替または介入 → 復帰」の3段階を描けば完璧です。
つまずきポイント:固定相場制で財政政策が有効になるのは、介入によって金融政策が受動的に緩和されるからであって、財政政策単独の力ではありません。答案ではこの因果を明示してください。
パターン29 ISバランスと経常収支
典型的な問われ方:貯蓄・投資・財政収支から経常収支を求めさせる。恒等式の操作なので確実に取れます。
使う式:$Y = C + I + G + (X - M)$ と $Y = C + S + T$ から
「民間の貯蓄超過 + 財政黒字 = 経常収支黒字」。
計算例:民間貯蓄 $S = 120$、民間投資 $I = 100$、租税 $T = 110$、政府支出 $G = 120$(単位:兆円)。
経常収支は10兆円の黒字。
含意:財政赤字が拡大しても、民間の貯蓄超過がそれを上回れば経常収支は黒字を保ちます。「財政赤字=経常赤字(双子の赤字)」は必然ではなく、$S - I$ の動き次第です。この恒等式は事後的に必ず成立するので、答案で使うと堅い。
購買力平価と金利平価(併せて押さえる):
- 購買力平価(PPP):$e = e_0 \times \dfrac{P_{\text{国内}}}{P_{\text{海外}}}$。基準時の為替が100円/ドル、その後日本の物価が110、米国が100になったなら、PPPレートは $100 \times \dfrac{110}{100} = 110$ 円/ドル。物価の高い国の通貨は減価する。
- 金利平価:内外金利差=予想為替減価率。日本の金利0.5%、米国の金利4.5%なら、ドルは年4%減価すると予想される。この関係が成立しないと裁定機会が残ってしまうため、短期の為替決定理論として使われます。
つまずきポイント:ISバランス式は恒等式なので「原因と結果」を語る式ではありません。「財政赤字が経常赤字を引き起こす」と断定せず、「恒等式上、他の条件を一定とすれば」と条件をつけてください。
パターン30 経済成長理論(ソロー・モデル)
典型的な問われ方:新古典派成長モデルにおける定常状態の資本ストックを求めさせる。頻度は高くありませんが、出たときに落とすと痛い。
使う式:定常状態では、1人当たり資本 $k$ について
$s$:貯蓄率、$n$:人口成長率、$\delta$:資本減耗率。
計算例:$y = f(k) = \sqrt{k}$、$s = 0.3$、$n = 0.01$、$\delta = 0.05$。
定常状態の1人当たり産出は $y^ = \sqrt{25} = 5$、1人当たり消費は $c^ = (1-s)y^* = 0.7 \times 5 = 3.5$。
検算:$sf(k) = 0.3 \times 5 = 1.5$、$(n+\delta)k = 0.06 \times 25 = 1.5$。一致します。
黄金律の資本水準:1人当たり消費を最大化する $k$ は $f'(k) = n + \delta$ を満たします。$f'(k) = \dfrac{1}{2\sqrt{k}} = 0.06 \Rightarrow \sqrt{k} = \dfrac{1}{0.12} \approx 8.33 \Rightarrow k_{gold} \approx 69.4$。このとき $y \approx 8.33$、消費は $8.33 - 0.06 \times 69.4 = 8.33 - 4.17 \approx 4.17$。確かに $c^* = 3.5$ より大きい。現在の貯蓄率0.3は黄金律より低い(資本が過少)ことが分かります。
グラフの描き方:縦軸に1人当たり産出・貯蓄・必要投資、横軸に $k$。$f(k) = \sqrt{k}$(原点から立ち上がる凹曲線)、$sf(k) = 0.3\sqrt{k}$(その下の凹曲線)、$(n+\delta)k = 0.06k$(原点を通る直線)の3本。$sf(k)$ と直線の交点が $k^* = 25$。$f(k)$ と $sf(k)$ の縦の差が消費です。
つまずきポイント:定常状態では1人当たりの変数が一定になるのであって、経済全体の $Y$ や $K$ は $n$ の率で成長し続けます。「成長が止まる」と書くと減点です。
答案でグラフをどこまで描くか
30パターンを解けるようになったとして、本番の答案でグラフをどこまで描くかは別の判断です。時間は有限だからです。目安を示します。
必ず描くべきグラフ
- 問題文に「図を用いて説明せよ」とあるとき。これは描かなければ0点に近い。
- 政策効果の比較(財政政策 vs 金融政策、変動相場 vs 固定相場)。文章だけでは因果の順序が伝わりません。
- 余剰・死荷重の計算。面積を問う以上、図がなければ根拠が示せません。
- シフトを伴う分析。シフト前と後の均衡点を2つ打たないと、変化の方向が説明できません。
描かなくてよいグラフ
- 単純な連立方程式で答えが出る計算問題(均衡価格を求めるだけ、乗数を計算するだけ)。
- 定義を問う問題(「GDPデフレーターとは何か」)。
- 時間が足りないとき。中途半端なグラフより、正確な文章の方が点が高い。
グラフに必ず書き込む4要素
- 軸の名前($P$、$Q$、$r$、$Y$、$\pi$、$u$)
- 曲線の名前($D$、$S$、$IS$、$LM$、$AD$、$AS$、$MC$、$AC$)
- 均衡点の記号($E_0$、$E_1$)と座標(計算問題なら数値)
- シフトの矢印
この4要素が揃っていれば、線が定規で引かれていなくても減点されません。逆に、どれほど綺麗に描いても軸名がなければ点になりません。作図の速度と精度を上げる練習法は経済学のグラフの描き方にまとめています。試験全体の時間配分は論文式の科目別時間配分も参考にしてください。
直前期の総点検リスト
試験の2週間前になったら、以下を「見た瞬間に式が出るか」で自己採点してください。詰まった項目に戻ればよく、全体を復習し直す必要はありません。
ミクロ(15項目)
| # | 項目 | 出るべき式・数値 |
|---|---|---|
| 1 | 市場均衡 | $Q_d = Q_s$ を立てて連立 |
| 2 | 価格弾力性 | $e_d = -\dfrac{dQ}{dP}\cdot\dfrac{P}{Q}$、弾力性1で総収入最大 |
| 3 | 余剰・死荷重 | 需要・供給の縦軸切片を出してから三角形 |
| 4 | 効用最大化 | $\dfrac{MU_x}{P_x} = \dfrac{MU_y}{P_y}$、コブ=ダグラスは支出割合一定 |
| 5 | 代替効果・所得効果 | 補償予算線を1本追加。代替効果の符号は必ず価格と逆 |
| 6 | 費用曲線 | $MC$ は $AVC$ と $AC$ の最小点を通る |
| 7 | 完全競争 | $P = MC$(増加領域)、供給曲線は $AVC$ 最小点より上の $MC$ |
| 8 | 独占 | $MR$ は切片同じ・傾き2倍、$MR=MC$ で数量、需要曲線で価格 |
| 9 | 課税の帰着 | 負担比=弾力性の逆比、$DWL = \dfrac{1}{2}t\Delta Q$ |
| 10 | 外部性 | ピグー税は最適点の $MEC$ |
| 11 | 公共財 | 限界便益を縦に足す |
| 12 | 地代 | 供給垂直 → 課税は全額地主負担・死荷重ゼロ |
| 13 | 資本還元 | $P = \dfrac{R}{r}$、$r$ が1%pt上がる影響は割り算で正確に |
| 14 | 費用最小化 | $\dfrac{MP_L}{w} = \dfrac{MP_K}{r}$ |
| 15 | クールノー | 反応関数を連立、$n$ 社なら $\dfrac{n}{n+1}$ |
マクロ(15項目)
| # | 項目 | 出るべき式・数値 |
|---|---|---|
| 16 | 三面等価 | $GDP \to GNI \to NNP \to NI$ の引き算の順序 |
| 17 | デフレーター | $\dfrac{\text{名目}}{\text{実質}} \times 100$、交差項に注意 |
| 18 | 乗数 | $\dfrac{1}{1-c}$、比例税・輸入があれば分母が大きくなる |
| 19 | IS曲線 | シフト幅=乗数 × 政策変数の変化 |
| 20 | LM曲線 | シフトさせるのは実質貨幣供給 |
| 21 | クラウディングアウト | 乗数効果 - 実際の所得増 |
| 22 | 政策の有効性 | LM水平/垂直、IS水平/垂直の4通り |
| 23 | 貨幣乗数 | $\dfrac{c+1}{c+\rho}$ |
| 24 | AD-AS | 長期ASは垂直 → 総需要policyは物価のみ動かす |
| 25 | フィリップス曲線 | $\pi = \pi^e - \alpha(u - u_n)$、長期は垂直 |
| 26 | オークンの法則 | GDPギャップ = $-\beta \times$ 失業率ギャップ |
| 27 | 金利と資産価格 | $P = \dfrac{R}{r}$、還元利回りの分解 |
| 28 | マンデル=フレミング | 変動相場:金融有効・財政無効。固定相場:逆 |
| 29 | ISバランス | $(S-I)+(T-G) = X-M$ |
| 30 | ソロー・モデル | $sf(k) = (n+\delta)k$ |
試験前日にやること
30パターンの式だけを白紙に書き出してください。所要時間15分程度。書けなかったものだけ、この記事の該当パターンに戻ります。前日に問題を解き直す必要はありません。式が出れば計算はできます。
経済学と鑑定評価をつなぐ3つの結節点
本記事の30パターンのうち、鑑定評価の理論と直結するのは次の3か所です。ここを意識して学ぶと、経済学の勉強がそのまま鑑定理論の得点になります。
結節点1 地代・地価と土地供給の非弾力性
パターン12で見たとおり、土地の供給が非弾力的であることから、土地の価格は需要側の要因(土地が生み出す収益)によって決まります。これは鑑定評価基準の価格形成要因の考え方と整合的です。
不動産の価格は、一般に、(1) その不動産に対してわれわれが認める効用 (2) その不動産の相対的稀少性 (3) その不動産に対する有効需要 の三者の相関結合によって生ずる不動産の経済価値を、貨幣額をもって表示したものである。― 不動産鑑定評価基準 総論第1章第1節
「相対的稀少性」がまさに供給の非弾力性、「有効需要」が需要曲線に対応します。経済学の需要供給分析は、この一文の理論的裏付けそのものです。価格形成のプロセスは不動産の価格が成立する過程でも整理しています。
結節点2 資本還元と収益還元法
パターン13の $P = \dfrac{R}{r}$ は、直接還元法の式そのものです。さらに $P = \dfrac{R}{r-g}$ と拡張すれば、還元利回りと割引率の関係(還元利回り=割引率-純収益の変動率)が導けます。
収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である。― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
「将来生み出す純収益の現在価値の総和」を数式にすると無限等比級数になり、和を取ると $\dfrac{R}{r}$ になる。経済学で $P = \dfrac{R}{r}$ を導出できる人は、この基準の一文を式で説明できるということです。論文式の鑑定理論で収益還元法の理論的根拠を問われたとき、これが書ければ他の受験生と差がつきます。
結節点3 金利と不動産価格
パターン22(金融政策)とパターン27(金利と資産価格)を接続すると、「金融緩和 → 金利低下 → 還元利回り低下 → 不動産価格上昇」という経路が数値で追えます。同時に、$g$(純収益の期待成長率)も動くため単純ではないという留保も付けられる。
不動産鑑定士は、市場分析において「なぜ今この地域の価格が上昇しているのか」を説明する必要があります。金融環境の変化と価格の関係を、感覚ではなく式で語れることは実務でも武器になります。
今日から演習で仕上げる
鑑定士試験ブートラボでは、短答式の過去問を1問単位で解ける肢別演習、鑑定評価基準のビューア、分野別の正答率にもとづく弱点の可視化を提供しています。経済学は論文式科目ですが、上で見たとおり計算の型は鑑定理論の収益還元法・還元利回りの理解と直結します。本記事のパターン13・27を読んだら、その足で鑑定理論の収益還元法の肢を解いて、経済学の式と基準の文言がつながる感覚を作ってください。
まとめ
不動産鑑定士試験の経済学は、30パターンの「型」に分解できます。本記事で扱った内容を整理します。
- 計算問題は5ステップで解く。何を求めるか書き出す → 軸に合わせた形に直す → 条件式を1つ選ぶ → 連立する → グラフと数値で検算する。この手順を飛ばさないだけで、計算ミスは激減します。
- ミクロの15パターンは、市場均衡・弾力性・余剰分析・効用最大化・代替効果と所得効果・費用曲線・完全競争・独占・課税の帰着・外部性・公共財・地代・資本還元・費用最小化・寡占。このうち地代(パターン12)と資本還元(パターン13)は鑑定評価に直結します。
- マクロの15パターンは、三面等価・デフレーター・乗数・IS導出・LM導出・IS-LM均衡とクラウディングアウト・金融政策・貨幣乗数・AD-AS・フィリップス曲線・オークンの法則・金利と資産価格・マンデル=フレミング・ISバランス・ソロー・モデル。金利と資産価格(パターン27)が不動産価格の分析に直結します。
- グラフには軸名・曲線名・均衡点の座標・シフトの矢印の4要素を必ず書き込む。この4つが揃えば、線の美しさは問われません。
- 検算を習慣にする。均衡値を両方の式に代入する、クラウディングアウト額を投資の減少×乗数で確認する、弾力性の比と負担比を照合する。本記事の計算例はすべてこの方法で検算しており、同じことを本番の答案でもやれば、計算ミスによる失点はほぼゼロになります。
型が入れば、経済学は「時間をかけずに安定して得点できる科目」に変わります。まずは30パターンの式を白紙に書き出すところから始めてください。書けなかった項目が、あなたの今日の学習範囲です。
関連記事として、出題範囲の全体像は経済学の出題範囲・重要論点と難易度、学習の進め方は経済学の勉強法とレベル、理解の穴の点検は経済学の演習問題10選、論点別の掘り下げはミクロ経済学の攻略法とマクロ経済学の攻略法をあわせてお読みください。
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