鑑定評価基準 総論第4章を条文ごとに深掘り解説
不動産鑑定評価基準・総論第4章「鑑定評価の基本的事項」を条文ごとに深掘り解説。対象不動産の確定、価格時点の確定、価格又は賃料の種類の確定等の逐条解説を体系的に整理します。
はじめに ― 総論第4章は鑑定評価の「設計図」
不動産鑑定評価基準(以下「基準」といいます)の総論第4章は「鑑定評価の基本的事項」を定めた章です。鑑定評価を行うにあたって最初に確定すべき基本的な事項を体系的に規定しており、いわば鑑定評価の「設計図」を描く章と位置づけられます。
具体的には、総論第4章では以下の基本的事項の確定が規定されています。
- 対象不動産の確定(何を評価するのか)
- 価格時点の確定(いつの時点の価格なのか)
- 価格又は賃料の種類の確定(どのような価格・賃料を求めるのか)
これらの基本的事項が明確に定まっていなければ、鑑定評価の結果は意味を持ちません。「どの不動産の」「いつの時点における」「どのような種類の」価格(又は賃料)を求めるのかが明確でなければ、評価作業の方向性が定まらないからです。
本記事では、総論第4章の条文を逐一取り上げ、鑑定評価の基本的事項の確定に関する規定を深掘りして解説します。第4章の全体像を効率よく把握したい方は第4章の要点整理もあわせてご覧ください。
対象不動産の確定 ― 「何を」評価するのか
対象確定条件の意義
総論第4章の最初に規定されるのが「対象不動産の確定」です。対象不動産を確定するとは、鑑定評価の対象となる不動産を物的に(物理的な範囲を)及び権利関係的に(どのような権利の価格を求めるのか)明確にすることです。
鑑定評価の対象となる不動産(以下「対象不動産」という。)を確定するためには、鑑定評価の対象となる土地又は建物等を物的に確認するとともに、その権利の態様を確認しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
この規定は、対象不動産の確定に物的確認と権利の確認という2つの側面があることを示しています。
| 確認の側面 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 物的確認 | 土地又は建物等の物理的な範囲の確認 | 所在、地番、地積、建物の構造・面積 |
| 権利の確認 | 対象となる権利の態様の確認 | 所有権、借地権、底地、区分所有権 |
対象確定条件
基準は、対象不動産の確定に関して「対象確定条件」という概念を設けています。対象確定条件とは、鑑定評価の対象不動産について、一定の条件を付すことで対象不動産を確定するためのものです。
鑑定評価の条件として対象不動産について設定する条件を対象確定条件といい、依頼目的に応じ対象不動産を確定するために必要なものである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
対象確定条件には、主に以下の3種類があります。
地域要因又は個別的要因についての想定上の条件
現実の不動産の状態とは異なる一定の条件を想定して評価を行う場合の条件です。
対象不動産について、依頼目的に応じ対象不動産に係る価格形成要因のうち地域要因又は個別的要因について想定上の条件を設定する場合がある。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
| 種類 | 具体例 |
|---|---|
| 更地としての評価 | 建物が存在する土地について、建物がないものとして更地の評価を行う |
| 建物完成後の評価 | 建設中の建物について、完成後を想定して評価を行う |
| 造成完了後の評価 | 造成工事中の土地について、造成完了後を想定して評価を行う |
この条件を設定するにあたっては、実現性・合法性の観点から妥当であることが必要です。非現実的な条件を設定して評価を行うことは認められません。
対象確定条件の詳細については対象確定条件の解説をご覧ください。
調査範囲等条件
対象不動産の物的確認等について、一部の調査を省略する場合に付す条件です。
鑑定評価の対象とする不動産の物的確認等について、依頼者と合意した範囲で調査を行う場合に設定する条件を調査範囲等条件という。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
例えば、土壌汚染の調査を行わないことを条件とする場合や、埋蔵文化財の有無について調査を省略する場合がこれに当たります。
対象確定条件として想定上の条件を設定する場合、その条件は実現性・合法性を備えていなくてもよい。
価格時点の確定 ― 「いつの」価格なのか
価格時点の意義
鑑定評価の基本的事項の中でも特に重要なのが「価格時点の確定」です。不動産の価格は変動するため、いつの時点の価格なのかを明確にしなければ、鑑定評価の結果は意味を持ちません。
価格時点とは、鑑定評価を行った価格又は賃料の判定の基準日をいう。不動産の価格は、その不動産が置かれた社会的、経済的な状況の下において形成されるものであり、その変化に伴って変動するものであるから、不動産の鑑定評価に当たっては、価格形成要因は、価格時点において把握されるべきである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
価格時点の概念は、総論第3章で学んだ変動の原則に理論的根拠を持ちます。不動産の価格が常に変動するからこそ、「いつの時点の価格か」を特定する必要があるのです。
価格時点の3つの類型
基準は、価格時点の時間的な位置関係に応じて3つの類型を規定しています。
価格時点は、鑑定評価を行った年月日の現在をその基準とするものであるが、過去の特定の時点を価格時点とする場合及び将来の特定の時点を価格時点とする場合がある。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
| 類型 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| 現在時点 | 鑑定評価を行った時点(通常の場合) | 「令和○年○月○日現在」の評価 |
| 過去時点 | 過去の特定の時点 | 相続発生時の不動産の価格を求める場合 |
| 将来時点 | 将来の特定の時点 | 開発完了後の価格を予測する場合 |
価格時点について詳しくは価格時点の意義をご覧ください。
過去時点の鑑定評価の留意点
過去時点の鑑定評価については、特別の留意が必要です。
過去の時点の鑑定評価に当たっては、対象不動産の確認等について、鑑定評価を行った時点において確認することができる範囲で、できるだけ価格時点に近い時期の確認資料をもって行うこととなるが、価格時点が古い場合には資料の収集等に困難を伴うため、鑑定評価を行うに当たって特に留意しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
過去時点の鑑定評価では、価格時点当時の市場状況や価格形成要因を的確に把握する必要があります。しかし、時間が経過するほど資料の入手が困難になるため、「鑑定評価を行った時点において確認することができる範囲」で評価を行うという限界がある点を理解しておく必要があります。
価格の種類の確定 ― 「どのような」価格を求めるのか
正常価格
鑑定評価で求める価格の種類として、最も基本的なのが正常価格です。
正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
正常価格は、いわば「あるべき市場で形成されるであろう適正な価格」です。ここでいう「合理的と考えられる条件を満たす市場」の条件として、基準は以下の要件を挙げています。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 市場への公開 | 合理的な期間、市場に公開されていること |
| 取引形態 | 売り急ぎ・買い進み等の特殊な事情がないこと |
| 市場参加者 | 十分な情報を持ち、慎重に行動すること |
正常価格の4つの概念について詳しくは正常価格とは ― 4つの価格概念をご覧ください。
限定価格
限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく適正な経済価値を表示する価格をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
限定価格は、市場が限定される特殊な場面で求められる価格です。
| 限定価格が求められる場面 | 具体例 |
|---|---|
| 隣接不動産の併合 | 隣の土地を取得して一体利用する場合(増分価値の配分) |
| 不動産の分割 | 一団の土地の一部を分割して取得する場合 |
| 借地権者による底地の取得 | 借地権者が底地を買い取る場合(完全所有権の回復) |
| 底地所有者による借地権の取得 | 地主が借地権を買い戻す場合 |
限定価格のポイントは、取引の当事者が特定されることです。例えば隣接地の併合の場合、隣の土地を買いたいのは隣地の所有者だけであり、その取得によって一体利用の増分価値が発生します。この増分価値を考慮した価格が限定価格です。
特定価格
特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさない場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
特定価格は、法令等による社会的要請に基づいて、正常価格とは異なる前提条件の下で求められる価格です。
| 特定価格が求められる場面 | 具体例 |
|---|---|
| 資産の流動化に関する法律等に基づく評価 | 不動産証券化のための評価 |
| 民事再生法に基づく評価 | 企業再生における不動産評価(早期売却を前提とする場合等) |
| 会社更生法に基づく評価 | 企業の更生手続における不動産評価 |
特殊価格
特殊価格とは、文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
特殊価格は、市場性を有しない不動産について求められる価格です。文化財の指定を受けた建造物や、宗教施設の境内地など、通常の市場で取引されることが想定されない不動産が対象です。
4つの価格の比較
| 価格の種類 | 市場性 | 市場の条件 | 求められる場面 |
|---|---|---|---|
| 正常価格 | あり | 合理的な市場条件 | 通常の鑑定評価 |
| 限定価格 | あり | 市場が相対的に限定 | 併合・分割、借地権と底地の一体化 |
| 特定価格 | あり | 法令等による特殊な条件 | 証券化、民事再生等 |
| 特殊価格 | なし | 市場性を前提としない | 文化財等の評価 |
限定価格とは、市場性を有しない不動産について求められる価格のことである。
賃料の種類の確定
新規賃料と継続賃料
鑑定評価で求める賃料には、新規賃料と継続賃料の2種類があります。
不動産の賃料を求める場合の鑑定評価は、新たな賃貸借等の契約に基づく適正な新規賃料を求める場合と、既に賃貸借等の契約が存する不動産について当事者間の契約内容等を踏まえた適正な継続賃料を求める場合とに分けられる。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
| 賃料の種類 | 定義 | 場面 |
|---|---|---|
| 新規賃料 | 新たに賃貸借契約を締結する場合の適正な賃料 | 新規テナント契約、新規借地契約 |
| 継続賃料 | 既存の賃貸借契約に基づく適正な賃料 | 賃料改定、賃料増減額請求 |
正常賃料と限定賃料
賃料の種類にも、価格と同様に「正常」と「限定」の区分があります。
| 賃料の種類 | 内容 |
|---|---|
| 正常賃料 | 正常価格と同一の市場概念の下における適正な賃料 |
| 限定賃料 | 限定価格と同一の市場概念の下における適正な賃料 |
| 継続賃料 | 既存の契約を前提とした適正な賃料 |
鑑定評価の条件 ― 評価の前提となる各種の条件
条件設定の基本的考え方
基準は、鑑定評価の条件について基本的な考え方を示しています。
不動産の鑑定評価に当たっては、依頼目的及び条件に応じ、一定の条件を設定する必要がある。この場合における条件の設定は、鑑定評価書の利用者の利益を害するものであってはならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
条件設定の最重要ルールは、鑑定評価書の利用者の利益を害するものであってはならないという点です。
条件の種類
| 条件の種類 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 対象確定条件 | 対象不動産を確定するための条件 | 更地としての評価、建物完成後の評価 |
| 依頼目的に係る条件 | 評価の目的に応じた条件 | 担保評価、売買の参考価格 |
| 調査範囲等条件 | 調査範囲を限定する条件 | 土壌汚染調査の省略 |
試験対策 ― 条文暗記と出題パターン
必須暗記事項
総論第4章の学習において、特に暗記が必要な事項を整理します。
| 暗記対象 | キーワード | 重要度 |
|---|---|---|
| 正常価格の定義 | 「合理的と考えられる条件を満たす市場」「市場価値を表示する適正な価格」 | 最重要 |
| 限定価格の定義 | 「併合又は分割」「市場が相対的に限定」 | 最重要 |
| 特定価格の定義 | 「法令等による社会的要請」「正常価格の前提となる諸条件を満たさない」 | 重要 |
| 特殊価格の定義 | 「一般的に市場性を有しない不動産」 | 重要 |
| 価格時点の定義 | 「価格又は賃料の判定の基準日」 | 重要 |
| 対象確定条件 | 「対象不動産について設定する条件」「依頼目的に応じ」 | 重要 |
よくある出題パターン
- 4つの価格の定義を入れ替える: 正常価格の定義に「法令等による社会的要請」を入れる等
- 限定価格の場面を誤る: 限定価格が求められない場面を限定価格として示す等
- 価格時点の3類型を問う: 現在時点・過去時点・将来時点の区別
- 対象確定条件の妥当性: 非現実的な条件設定が認められるかどうかを問う
論文式試験での出題
論文式試験では、正常価格の4つの市場条件を正確に記述する問題や、限定価格が求められる具体的場面とその理由を論述する問題が出題されます。特に、正常価格と限定価格の違い、正常価格と特定価格の違いを明確に説明できるかが問われます。
価格時点とは、鑑定評価の依頼を受けた日をいう。
正常価格の市場条件 ― 「合理的な市場」とは
正常価格の定義において最も重要なのは、「合理的と考えられる条件を満たす市場」の内容です。基準はこの市場条件を具体的に示しています。
現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場とは、以下の条件を満たす市場をいう。
(1) 市場参加者が自由意思に基づいて市場に参加し、参入、退出が自由であること。
(2) 取引形態が、市場参加者が制約されたり、売り急ぎ、買い進み等を誘引したりするような特別なものではないこと。
(3) 対象不動産が相当の期間市場に公開されていること。
(4) 取引当事者が対象不動産及び取引に関する情報を十分に有していること。
(5) 取引当事者が通常の動機に基づいて行動すること。
― 不動産鑑定評価基準 総論第4章
| 条件 | 内容 | 欠けた場合の例 |
|---|---|---|
| 自由意思・自由参入 | 誰でも自由に市場に参加できる | 特定の者しか取得できない制約がある |
| 特殊な取引形態の不存在 | 売り急ぎ・買い進み等がない | 倒産企業の緊急売却 |
| 相当期間の市場公開 | 十分な期間、広く市場に公開 | 非公開での相対取引 |
| 十分な情報 | 当事者が適切な情報を有する | 重要な瑕疵を知らずに取引 |
| 通常の動機 | 一般的な動機に基づく行動 | 投機目的、隣地への執着 |
この5つの条件は、正常価格の本質を理解するうえで極めて重要です。正常価格は「理想的な市場」の価格ではなく、「合理的な条件が満たされた場合に形成されるであろう市場価値」であることを押さえておきましょう。
まとめ
総論第4章「鑑定評価の基本的事項」は、鑑定評価の設計図ともいうべき章であり、評価の基本的な枠組みを確定する規定を含んでいます。本記事で解説した要点を改めて整理します。
- 鑑定評価の基本的事項は、対象不動産の確定、価格時点の確定、価格又は賃料の種類の確定の3つから成る
- 対象不動産の確定には物的確認と権利の確認の2つの側面がある
- 対象確定条件には、想定上の条件と調査範囲等条件がある
- 価格時点は現在時点・過去時点・将来時点の3類型がある
- 価格の種類は正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格の4つに分類される
- 正常価格は「合理的と考えられる条件を満たす市場」で形成される市場価値であり、5つの市場条件が規定されている
- 賃料は新規賃料と継続賃料に大別される
対象確定条件の詳細は対象確定条件の解説を、正常価格の4つの価格概念については正常価格とはを、価格時点の意義については価格時点の意義を、第4章の全体像は第4章の要点整理をそれぞれご覧ください。