価格時点とは?不動産鑑定評価における意義と過去・将来時点の選択方法
不動産鑑定における価格時点の意義と選択方法を解説。変動の原則との関係、現在時点・過去時点・将来時点の3分類、鑑定評価の基本的事項としての位置づけを基準原文に基づき整理。過去・将来時点の鑑定評価における留意事項を網羅します。
価格時点とは
不動産鑑定士試験において、価格時点は鑑定評価の基本的事項の一つとして確定すべき重要な概念です。不動産の価格は価格形成要因の変動に伴って常に変動するため(変動の原則)、価格の判定にはその基準となる日が必要です。
価格形成要因は、時の経過により変動するものであるから、不動産の価格はその判定の基準となった日においてのみ妥当するものである。したがって、不動産の鑑定評価を行うに当たっては、不動産の価格の判定の基準日を確定する必要があり、この日を価格時点という。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第2節
価格時点の意義
変動の原則との関係
価格時点の意義は、変動の原則と密接に関連しています。変動の原則は「価格形成要因が常に変動の過程にある」ことを示していますが、価格時点はこの変動する要因を特定の一時点で固定して捉えるための基準です。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 変動の原則 | 価格形成要因は常に変動する |
| 価格時点の必要性 | 変動する価格を特定の日において捉える基準が必要 |
| 妥当する範囲 | 不動産の価格はその判定の基準となった日においてのみ妥当する |
鑑定評価の基本的事項としての位置づけ
基準は、鑑定評価の基本的事項として3つの事項の確定を求めています。
価格時点の3分類
基準の規定
価格時点は、鑑定評価を行った年月日を基準として現在の場合(現在時点)、過去の場合(過去時点)及び将来の場合(将来時点)に分けられる。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第2節
| 分類 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| 現在時点 | 鑑定評価を行った年月日と一致又は近接する時点 | 依頼日や調査日を価格時点とする場合 |
| 過去時点 | 鑑定評価を行った年月日より過去の時点 | 相続開始日における評価 |
| 将来時点 | 鑑定評価を行った年月日より将来の時点 | 開発完了時点における評価 |
過去時点の鑑定評価
要件と留意点
留意事項は、過去時点の鑑定評価について以下のとおり述べています。
過去時点の鑑定評価は、対象不動産の確認等が可能であり、かつ、鑑定評価に必要な要因資料及び事例資料の収集が可能な場合に限り行うことができる。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第5章
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 対象不動産の確認等が可能 | 過去時点における対象不動産の状態を確認できること |
| 要因資料の収集が可能 | 過去時点における価格形成要因に関する資料が入手できること |
| 事例資料の収集が可能 | 過去時点における取引事例等の資料が入手できること |
事情変更がある場合
時の経過により対象不動産及びその近隣地域等が価格時点から鑑定評価を行う時点までの間に変化している場合もあるので、このような事情変更のある場合の価格時点における対象不動産の確認等については、価格時点に近い時点の確認資料等をできる限り収集し、それを基礎に判断すべきである。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第5章
将来時点の鑑定評価
原則と例外
留意事項は、将来時点の鑑定評価について以下のとおり述べています。
将来時点の鑑定評価は、対象不動産の確定、価格形成要因の把握、分析及び最有効使用の判定についてすべて想定し、又は予測することとなり、また、収集する資料についても鑑定評価を行う時点までのものに限られ、不確実にならざるを得ないので、原則として、このような鑑定評価は行うべきではない。ただし、特に必要がある場合において、鑑定評価上妥当性を欠くことがないと認められるときは将来の価格時点を設定することができるものとする。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第5章
| 区分 | 取扱い |
|---|---|
| 原則 | 将来時点の鑑定評価は行うべきではない |
| 例外 | 特に必要がある場合で、妥当性を欠くことがないと認められるとき |
| 不確実性の理由 | 対象不動産の確定・要因分析・最有効使用判定がすべて予測。資料は評価時点までのものに限定 |
賃料の価格時点
賃料特有の規定
また、賃料の価格時点は、賃料の算定の期間の収益性を反映するものとしてその期間の期首となる。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第2節
賃料の価格時点は、賃料が適用される期間の期首とされます。これは、賃料が一定期間にわたる不動産の使用収益の対価であるため、その期間の開始時点を基準とするものです。
継続賃料の価格時点
留意事項は、継続賃料の価格時点について特別の留意を求めています。
借地借家法第11条第1項又は第32条第1項に基づき賃料の増減が請求される場合における価格時点は、賃料増減請求に係る賃料改定の基準日となることに留意する必要がある。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第5章
価格時点と時点修正の関係
時点修正の必要性
取引事例比較法において、取引事例の取引時点と価格時点が異なる場合には時点修正が必要です。
取引事例等に係る取引等の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準に変動があると認められる場合には、当該取引事例等の価格等を価格時点の価格等に修正しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
価格時点の確定は、時点修正の基準となる時点を定める意味も持っています。
混同しやすい「3つの日付」を区別する
鑑定評価には複数の日付が登場します。ここを整理せずに読み進めると、価格時点の意味がぼやけます。
| 日付 | 何を表すか | 誰にとっての日か |
|---|---|---|
| 価格時点 | 鑑定評価額の判定の基準となる日 | 価格の日。この日の市場の状態で価格が決まる |
| 鑑定評価を行った年月日 | 鑑定評価額を判定し、報告書を作成した日 | 作業の日。鑑定士がいつ判断したか |
| 実地調査を行った日 | 対象不動産を現地で確認した日 | 確認の日。物件の現況をいつ見たか |
なぜ分ける必要があるのか
3つが一致することもありますが、ずれることのほうが多いのが実務です。
たとえば相続税申告のための評価では、価格時点は相続開始日に固定されます。依頼が来るのは数か月後、実地調査はさらにその後、報告書の作成はもっと後になります。この場合、3つの日付はすべて異なります。
このずれが意味を持つのは、それぞれの日で分かることが違うからです。
- 価格時点:この日の市場状況・法規制・地域の状態を前提に価格を判定する
- 実地調査日:この日に見た現況から、価格時点の状態を遡って推定する
- 鑑定評価を行った年月日:この日までに収集できた資料の範囲で判断している
つまり、実地調査日以降に建物が改修されていても、価格時点の価格には影響しません。逆に、価格時点から実地調査日までの間に物件が改変されていれば、実地調査で見た姿は価格時点の姿ではないため、資料や聴取によって価格時点の状態を復元する必要があります。
報告書ではどう扱われるか
鑑定評価報告書には、価格時点と鑑定評価を行った年月日を記載します。実地調査についても、実施した日と調査範囲が明らかにされます。読み手(依頼者・税務署・裁判所)は、この3つの日付からその評価がどの時点の何を根拠にしているかを読み取ります。
日付が明示されていない評価書、あるいは価格時点と鑑定評価を行った年月日の関係が説明されていない評価書は、それだけで信頼性を疑われます。特に価格時点が過去に設定されている場合、なぜその時点なのかと、どの資料で当時の状況を把握したのかが説明されていなければ、根拠として使えません。
3つが一致しない典型例
| 場面 | 価格時点 | 実地調査日 | 鑑定評価を行った年月日 |
|---|---|---|---|
| 相続税申告 | 相続開始日 | 依頼後(数か月後) | 調査後 |
| 訴訟での過去の価格の立証 | 争点となる過去の日 | 依頼後(数年後のこともある) | 調査後 |
| 通常の売買のための評価 | 依頼時点に近い日 | ほぼ同時期 | 数日〜数週間後 |
| 継続賃料の評価 | 賃料改定の効力発生日等 | 依頼後 | 調査後 |
3行目のようにほぼ一致するケースが最も単純で、他はすべて何らかのずれを含みます。「価格時点=評価した日」と思い込んでいると、1行目・2行目のような案件で何をしているのか分からなくなります。
実務で価格時点が問題になる場面
価格時点は「いつの価格を求めるのか」を決めるものであり、依頼目的によって自動的に決まります。代表的な場面を整理します。
| 依頼目的 | 価格時点 | 分類 |
|---|---|---|
| 売買の参考 | 依頼日または調査完了日 | 現在時点 |
| 相続税申告・遺産分割 | 被相続人の死亡日 | 過去時点 |
| 離婚に伴う財産分与 | 別居日または調停日など | 過去時点 |
| 訴訟における損害額の算定 | 損害発生日 | 過去時点 |
| 固定資産税評価 | 基準日(賦課期日の前年1月1日) | 過去時点 |
| 開発事業の採算検討 | 開発完了予定日 | 将来時点(例外的) |
過去時点の評価が実務上は非常に多いという点が重要です。相続税申告は死亡日、離婚は別居日というように、法律関係の発生時点が価格時点になるためです。
過去時点評価の留意点
過去時点の鑑定評価では、次の制約があります。
- 価格時点における価格形成要因を把握する必要がある(現在の要因ではない)
- 取引事例も価格時点前後のものを用いる
- 現在から見て明らかになった事実(その後の値上がり・値下がり)を評価に織り込んではならない
- 対象不動産の状態も価格時点のもので確定する(その後の改築等は考慮しない)
つまり、価格時点に立ち戻って評価するのが原則です。現在の目線で「結果的にどうなったか」を持ち込むと、価格時点の意味が失われます。
なぜ将来時点は原則として行わないのか
将来時点の評価では、対象不動産の確定・価格形成要因の把握・最有効使用の判定のすべてが予測になります。さらに、収集できる資料は鑑定評価を行う時点までのものに限られるため、判断の根拠が不確実にならざるを得ません。
この構造的な不確実性が、基準が「原則として行うべきではない」とする理由です。例外として認められるのは、特に必要がある場合で、かつ鑑定評価上妥当性を欠くことがないと認められるときに限られます。この2要件をセットで押さえてください。
相続税申告のための鑑定評価では、鑑定評価を依頼した日を価格時点とする。
誤りやすいポイント
| 誤り | 何が正しいか |
|---|---|
| 価格時点は鑑定評価を行った日である | 依頼目的により決まる。現在・過去・将来の3分類がある |
| 過去時点でも現在の要因を用いてよい | 価格時点における価格形成要因を把握する |
| 将来時点の評価は認められない | 原則として行うべきでないが、例外的に設定できる |
| 将来時点の例外要件は「必要がある場合」だけ | 「特に必要がある場合」+「妥当性を欠くことがないと認められるとき」の2要件 |
| 価格時点と時点修正は同じもの | 価格時点は基準日の確定、時点修正は取引事例の価格を価格時点に引き直す手続き |
| 賃料にも価格時点という | 賃料の場合も基準日の確定は必要だが、継続賃料では直近合意時点という別の基準時も重要 |
このうち、将来時点の例外要件が2つあるという点と、価格時点と時点修正の違いは繰り返し問われています。
よくある質問(FAQ)
Q. 価格時点は誰が決めますか
依頼目的に応じて、鑑定士が依頼者と協議のうえ確定します。相続税申告なら死亡日、訴訟なら損害発生日というように、多くの場合は法律関係から自動的に決まります。
Q. 過去時点の評価はどこまで遡れますか
制度上の上限はありませんが、遡るほど価格形成要因の把握と資料の収集が困難になり、精度が落ちます。取引事例も価格時点前後のものを用いる必要があるため、極端に古い時点では評価の信頼性が下がります。
Q. 将来時点の評価はどのような場合に認められますか
「特に必要がある場合」で、かつ「鑑定評価上妥当性を欠くことがないと認められるとき」の両方を満たす場合です。開発事業の採算検討など、将来時点でなければ意味をなさない目的が想定されます。
Q. 価格時点と時点修正はどう違いますか
価格時点は「いつの価格を求めるか」という基準日そのものです。時点修正は、取引事例の取引時点と価格時点が異なる場合に、その間の価格水準の変動を反映して取引価格を修正する手続きです。詳しくは時点修正とはを参照してください。
Q. 調査した日と価格時点がずれてもよいですか
現在時点の評価では、実地調査を完了した日を価格時点とするのが一般的です。ただし依頼目的によっては、調査日と異なる日を価格時点とすることもあります。その場合、価格時点における状態を確定する作業が必要になります。
Q. 継続賃料の場合の基準時はどう考えますか
継続賃料では、価格時点に加えて直近合意時点(当事者が現行賃料について合意した時点)が重要な基準時になります。両者の間の事情変更を捉えることが継続賃料評価の中心だからです。詳しくは差額配分法とはを参照してください。
試験での出題ポイント
短答式試験
| 出題パターン | 正しい理解 |
|---|---|
| 価格時点の定義 | 不動産の価格の判定の基準日 |
| 3分類 | 現在時点、過去時点、将来時点 |
| 過去時点の要件 | 対象不動産の確認等と資料収集が可能な場合に限り行える |
| 将来時点の原則 | 原則として行うべきではない |
| 賃料の価格時点 | 賃料の算定の期間の期首 |
論文式試験
論点1:価格時点の意義と変動の原則との関係。 価格形成要因の変動性と価格時点の必要性を論述する問題です。
論点2:過去時点と将来時点の鑑定評価の制限。 過去時点の要件と将来時点の原則禁止の理由を論じる問題です。
論点3:賃料の価格時点の特殊性。 賃料の価格時点が期首となる理由と継続賃料の場合の留意事項を論じる問題です。
暗記のポイント
- 定義: 「不動産の価格はその判定の基準となった日においてのみ妥当する」「この日を価格時点という」
- 3分類: 「鑑定評価を行った年月日を基準として現在の場合、過去の場合及び将来の場合」
- 過去時点: 「対象不動産の確認等が可能であり、かつ、資料の収集が可能な場合に限り」
- 将来時点: 「原則として行うべきではない。ただし、特に必要がある場合で妥当性を欠くことがないとき」
- 賃料: 「賃料の算定の期間の収益性を反映するものとしてその期間の期首」
まとめ
価格時点は、不動産の価格の判定の基準日であり、鑑定評価の基本的事項の一つとして確定すべきものです。変動の原則が示すように価格形成要因は常に変動するため、不動産の価格はその判定の基準日においてのみ妥当します。
価格時点は現在時点、過去時点、将来時点の3つに分類され、過去時点は確認と資料収集が可能な場合に限り行え、将来時点は原則として行うべきではないとされています。賃料の価格時点は賃料算定期間の期首となる点に特殊性があります。
対象不動産の確認、正常価格の成立要件、鑑定評価の条件設定と合わせて、鑑定評価の基本的事項を体系的に理解してください。
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