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未竣工建物等の鑑定評価と条件設定|想定上の条件・調査範囲等条件を解説

鑑定評価基準の条件設定を詳しく解説。想定上の条件の3要件、調査範囲等条件の設定方法、未竣工建物の評価条件、条件設定の合理性の判断基準まで、試験対策に直結する内容を網羅的に整理します。

はじめに――なぜ鑑定評価に「条件」が必要なのか

不動産の鑑定評価は、対象不動産の現況をそのまま前提として行われるのが原則です。しかし、実際の鑑定評価の場面では、現況とは異なる状態を想定して評価を行う必要がある場合や、調査の範囲に一定の制約を設けざるを得ない場合があります。このような場面に対応するために設けられているのが、鑑定評価における条件設定の仕組みです。

鑑定評価基準の総論第5章第1節では、対象確定条件とあわせて、地域要因又は個別的要因についての想定上の条件と調査範囲等条件を規定しています。条件設定が鑑定評価の手順全体のどこに位置するのかは、総論第5章を条文ごとに深掘りした解説で確認できます。これらの条件は、鑑定評価の柔軟性を確保するための重要な枠組みですが、安易な条件設定は鑑定評価の信頼性を損なうおそれがあるため、設定にあたっては厳格な要件が求められます。

対象確定条件とは?対象不動産の確定方法をわかりやすく解説では対象確定条件の基本概念を解説しましたが、本記事では条件設定の実務的な側面に焦点を当て、想定上の条件の3要件、調査範囲等条件の設定方法、未竣工建物の評価における条件設定、条件の合理性の判断基準までを体系的に解説します。


鑑定評価における条件の体系

条件の全体像

鑑定評価において設定される条件は、大きく以下のように体系化されます。

条件の種類 内容 基準上の位置づけ
対象確定条件(類型) 現況を所与とする評価・独立鑑定評価・部分鑑定評価・併合鑑定評価・分割鑑定評価・未竣工建物等鑑定評価など 総論第5章第1節Ⅰ
想定上の条件 地域要因又は個別的要因について一定の状態を想定して評価を行う条件 総論第5章第1節Ⅱ
調査範囲等条件 通常の調査では事実の確認が困難な特定の価格形成要因について、調査の範囲に係る条件 総論第5章第1節Ⅲ
鑑定評価基準総論第5章第1節で設定する3種類の条件を並べた図。独立・部分・併合・分割・未竣工建物等鑑定評価を含む対象確定条件、地域要因・個別的要因についての想定上の条件、調査範囲等条件と、それぞれの妥当性を確かめる観点をまとめている。

第5章第1節の3つの条件

対象確定条件の類型については対象確定条件とは?所有権・借地権・賃貸借の鑑定評価で詳しく解説しています。本記事では、想定上の条件と調査範囲等条件に加え、対象確定条件のうち未竣工建物等鑑定評価を取り上げます。

条件設定の基本的な考え方

鑑定評価基準は、対象不動産の現況に基づく評価を原則としつつ、一定の条件のもとで現況と異なる状態を想定した評価や、調査の範囲を限定した評価を認めています。この柔軟性が認められているのは、鑑定評価の依頼目的が多様であり、すべての依頼に現況評価だけでは対応できないためです。

ただし、条件設定の自由度は無制限ではありません。条件設定にはそれぞれ厳格な要件があり、設定した条件は鑑定評価報告書に明記しなければなりません。この「要件の充足」と「報告書への明記」が、条件設定の信頼性を担保する2つの柱です。


想定上の条件――現況と異なる状態を前提とする評価

基準における規定

対象不動産について、依頼目的に応じ対象不動産に係る価格形成要因のうち地域要因又は個別的要因について想定上の条件を設定する場合がある。この場合には、設定する想定上の条件が鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうかの観点に加え、特に実現性及び合法性の観点から妥当なものでなければならない。― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅱ

想定上の条件とは、対象不動産の価格形成要因のうち地域要因又は個別的要因について、現況とは異なる状態を想定して、その想定された状態を前提として鑑定評価を行うための条件です。「もし〜であったならば」という仮定に基づく評価を可能にする仕組みです。

想定上の条件を設定できる3つの要件

想定上の条件の設定は無条件に認められるものではなく、以下の3つの要件をすべて満たす場合に限り設定が可能です。

要件 内容 判断のポイント
要件1:利用者の利益を害するおそれがないこと 想定上の条件が鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないこと 想定した要因が価格に与える影響の程度を、利用者が自ら判断できるか
要件2:実現性 条件を実現する行為を行う者の事業遂行能力等を勘案して、条件が実現する確実性が認められること 単なる可能性ではなく確実性があるか
要件3:合法性 公法上及び私法上の諸規制に反しないこと 想定した状態が法令や契約に反しないか

この3要件はすべて同時に充足される必要があります。いずれか一つでも満たされない場合には、想定上の条件を設定することはできません。

要件1:利用者の利益を害するおそれがないこと

想定上の条件は、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがあってはなりません。留意事項によれば、利益を害するおそれがある場合とは、想定上の条件を設定した価格形成要因が対象不動産の価格に与える影響の程度等について、利用者が自ら判断することが困難な場合をいいます。ここでいう利用者には、依頼者や提出先のほか、鑑定評価を踏まえて販売される金融商品の購入者等も含まれます。

利用者の利益を害するおそれが小さい例:

  • 土壌汚染の除去を前提とする売買で、依頼者が浄化費用を自ら把握したうえで、汚染がないものとして評価する
  • 隣地からの越境物が撤去される約定のある取引で、越境がないものとして評価する

利用者の利益を害するおそれがある例:

  • 鑑定評価書が不特定多数の投資家に示されるのに、価格に大きく影響する要因を想定で取り除いて評価する
  • 想定した要因が価格にどれだけ影響するのかを、利用者が判断できないまま評価する

要件2:実現性

想定した条件が実現する確実性が認められなければなりません。留意事項は、実現性を「設定された想定上の条件を実現するための行為を行う者の事業遂行能力等を勘案した上で当該条件が実現する確実性が認められること」と定めています。単に実現の可能性があるだけでは足りません。また、地域要因について想定上の条件を設定することが妥当と認められる場合は、計画及び諸規制の変更、改廃に権能を持つ公的機関の設定する事項に主として限られ、その公的機関の担当部局から実現の確実性を直接確認すべきとされています。

実現性が認められる例:

  • 土壌汚染の浄化が契約上義務づけられ、浄化を行う者の事業遂行能力も確認できる土地について、浄化後の状態を想定する → 浄化措置の実施が確実
  • 都市計画の変更について、権能を持つ公的機関の担当部局から実現の確実性を直接確認できた場合に、変更後の状態を想定する → 公的機関に確認済み

実現性が認められない例:

  • 用途地域の変更について何ら具体的な動きがないのに、変更後の用途地域を想定する
  • 浄化費用を負担する者が決まっておらず、浄化の見込みが立たないのに、汚染がないものとして想定する

要件3:合法性

想定した状態は、公法上及び私法上の諸規制に反しないものでなければなりません。法令に反する状態や、契約上許されない状態を前提にした価格は、現実に成り立たないからです。

合法性が認められない例:

  • 接道義務を満たさない土地について、建物を建築できる状態を想定する
  • 法的に実現不可能な状態を想定する

想定上の条件の具体的な類型

想定上の条件の代表的な類型を整理します。更地としての評価や未竣工建物の評価は、基準上は想定上の条件ではなく対象確定条件に当たるので、あわせて区別しておきます。

条件の類型 内容 基準上の区分
土壌汚染がないものとしての評価 汚染が存在する土地を、汚染がないものとして評価 個別的要因についての想定上の条件
有害物質の除去後としての評価 アスベスト等を使用した建物を、除去後の状態で評価 個別的要因についての想定上の条件
都市計画等の変更後としての評価 用途地域の変更や道路の整備が行われた状態を想定して評価 地域要因についての想定上の条件
更地としての評価 建物が存在する土地を、建物がないものとして評価 対象確定条件(独立鑑定評価)
未竣工建物の完成後評価 工事が完了していない建物を、竣工後の状態で評価 対象確定条件(未竣工建物等鑑定評価)
造成完了後の評価 造成中の土地を、造成完了後の状態で評価 対象確定条件(未竣工建物等鑑定評価)
権利関係の変更を想定した評価 価格時点と異なる権利関係を前提として評価 対象確定条件

未竣工建物の鑑定評価――条件設定の実践

未竣工建物等の鑑定評価の意義

未竣工建物等鑑定評価は、総論第5章第1節Ⅰ1(5)に定める対象確定条件の一つです。造成に関する工事が完了していない土地又は建築に係る工事(増改築等を含む。)が完了していない建物について、当該工事の完了を前提として評価を行います。想定上の条件と混同しやすいものの、基準上は対象確定条件に位置づけられています。

この類型の評価が必要とされる場面は多岐にわたります。

場面 目的
不動産証券化 竣工後の不動産の価値を投資判断の基礎とするため(各論第3章第2節の要件を満たす場合に限る)
金融機関の融資審査 建設資金融資の担保価値を把握するため
開発事業の事業性判断 竣工後の事業価値を検証するため
会計処理 固定資産の取得価額の算定や減損判定のため

未竣工建物等鑑定評価を行うための要件

未竣工建物等鑑定評価を行うには、総論第5章第1節Ⅰ2のなお書きにより、次の要件をすべて満たす必要があります。

要件 未竣工建物の場合の判断
条件設定の妥当性 依頼目的に照らして、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないこと
設計図書等・請負契約書等の収集 価格時点において想定される竣工後の不動産の物的確認のための設計図書等と、権利の態様の確認のための請負契約書等を収集すること
許認可等の取得と工事完了の実現性 法令上必要な許認可等が取得され、発注者の資金調達能力等の観点から工事完了の実現性が高いと判断されること

未竣工建物等鑑定評価では、特に工事完了の実現性の判断が重要です。実現性を裏づける資料としては、以下のものが考えられます。

  • 建築確認済証
  • 工事請負契約書
  • 設計図書(意匠図・構造図・設備図等)
  • 工程表
  • 開発許可書(該当する場合)

証券化対象不動産について未竣工建物等鑑定評価を行う場合は、これらに加えて、工事の中止、工期の延期又は工事内容の変更が生じた場合の損害が、売買契約上の約定や各種保険等により回避される場合に限られます(各論第3章第2節)。

未竣工建物の評価における具体的な留意点

未竣工建物の鑑定評価を行う場合には、以下の点に留意する必要があります。

第一に、竣工後の建物の状態の想定です。 設計図書等に基づいて、建物の構造、規模、仕様、設備等を想定します。想定した建物の状態は、鑑定評価報告書に明記しなければなりません。

第二に、竣工までの期間とリスクの考慮です。 竣工までの期間が長い場合には、工事の遅延、設計変更、建設コストの変動等のリスクが生じます。これらのリスクをどのように評価に反映するかは、鑑定評価上の重要な判断事項です。

第三に、竣工後の賃貸・売却見通しの検討です。 特に収益還元法を適用する場合には、竣工後の賃料水準、空室率、稼働見通し等について合理的な予測を行う必要があります。

第四に、価格時点の問題です。 未竣工建物等鑑定評価は、価格時点において工事が完了し、その使用収益が可能な状態であることを前提として行います(留意事項)。価格時点は竣工時点ではなく、通常は鑑定評価を行う現在時点であり、その時点における「竣工後の状態を想定した場合の価値」を求めるという構造になります。

未竣工建物等鑑定評価の時間の関係を示した図。価格時点はいま建築中の現場の時点であり、その時点で工事が完了して使用収益できる状態を前提に評価すること、そして竣工を裏づける設計図書や請負契約書、許認可などの資料をそろえることを描いている。

価格時点は「いま」、前提は完成後の姿


調査範囲等条件――調査の制約への対応

基準における規定と意義

調査範囲等条件とは、不動産鑑定士の通常の調査の範囲では、対象不動産の価格への影響の程度を判断するための事実の確認が困難な特定の価格形成要因について、調査の範囲に係る条件を設けるものです(総論第5章第1節Ⅲ)。想定上の条件が「対象不動産の状態を想定する」ものであるのに対し、調査範囲等条件は「調査の範囲に限界を設ける」ものであり、両者は性格が異なります。

鑑定評価においては、対象不動産に関する十分な調査を行うことが求められますが、実務上、以下のような理由から調査の範囲に制約が生じる場合があります。

調査制約の理由 具体例
物理的な制約 建物の壁内や地下の状態は非破壊検査では把握できない
費用・時間の制約 詳細な土壌調査や建物診断には多額の費用と時間がかかる
法的・制度的な制約 関係者の同意が得られず、詳細な調査が実施できない
対象不動産の特性 使用中の建物では一部の調査が困難な場合がある

調査範囲等条件の具体的な類型

条件の類型 内容 調査の限定範囲
土壌汚染に関する調査範囲の限定 詳細な土壌調査を行わず、公的資料の確認や外観調査にとどめる ボーリング調査等を省略
建物の内部調査の制限 壁内の配管や構造部材の状態について、非破壊の目視調査にとどめる 破壊検査や詳細診断を省略
地下埋設物に関する調査の限定 地下掘削等の調査を行わず、公的記録や聞き取りの範囲にとどめる 地下掘削調査を省略
アスベスト等有害物質の調査の限定 専門的な分析調査を行わず、外観調査や書面調査にとどめる サンプル採取・分析を省略
境界の確認に関する制限 確定測量を行わず、既存の資料による確認にとどめる 隣接地所有者との境界確認を省略

調査範囲等条件の設定要件

調査範囲等条件を設定する場合には、以下の要件を満たす必要があります。

要件 内容
対象となる要因 通常の調査の範囲では事実の確認が困難な特定の価格形成要因であること
利用者の利益を害するおそれがないこと 条件を設定しても鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないと判断される場合に限る
依頼者との合意 条件設定について依頼者との間で鑑定評価依頼契約上の合意があること(総論第5章第1節Ⅴ。条件設定全般に共通)

利用者の利益を害するおそれがないと判断される場合として、留意事項は、依頼者等の調査結果に基づき利用者が影響を自ら判断する場合、売買契約で取扱いが約定される場合、損失が保険等で担保される場合などを挙げています。特に重要なのは、調査範囲等条件を設定した場合、その条件によって調査が行われなかった事項については不確実性が残るという点です。この不確実性は、鑑定評価上のリスクとなります。したがって、鑑定評価報告書において、調査範囲等条件の内容と妥当と判断した根拠、その価格形成要因の評価上の取扱い、自ら行った調査の範囲及び内容を明記することが不可欠です(総論第9章)。


想定上の条件と調査範囲等条件の比較

両者は混同しやすい概念であるため、対比表で整理します。

比較項目 想定上の条件 調査範囲等条件
性格 対象不動産の状態を一定のものと想定する 調査の範囲や深度に制約を設ける
効果 現況と異なる状態を前提に評価が行われる 調査が行われなかった事項について不確実性が残る
設定の3要件 (1)利用者の利益を害するおそれがないこと、(2)実現性、(3)合法性 (1)通常の調査では確認困難な特定の要因であること、(2)利用者の利益を害するおそれがないこと、(3)依頼者との合意
具体例 汚染なしの想定、有害物質除去後の想定、都市計画変更後の想定 土壌調査の省略、建物内部の詳細調査の省略、境界確認の省略
評価結果への影響 想定した状態を前提とした確定的な価格が求められる 調査の不十分さによるリスクが鑑定評価額に反映され得る
対象不動産の状態 変更して評価(現況と異なる状態を前提) 変更しないが、調査に制約がある

この比較において最も重要な違いは、想定上の条件は「対象不動産の状態を変更する」のに対し、調査範囲等条件は「対象不動産の状態は変更しないが、調査の範囲に制約を設ける」という点です。

例えば、対象地に土壌汚染の可能性がある場合を考えます。「土壌汚染がないものとして評価する」のは想定上の条件です(不動産の状態を変更して想定)。一方、「詳細な土壌調査は行わず、公的資料の確認にとどめる」のは調査範囲等条件です(不動産の状態は変更しないが、調査の範囲を限定)。

土壌汚染の可能性がある同じ土地を例に、想定上の条件と調査範囲等条件の違いを示した図。左は汚染がないものとして土地の状態を想定して評価し、右は状態は変えずに詳細な土壌調査を行わず資料の確認にとどめることを、土地の断面で描いている。

状態を想定するか、調査を限るか


条件設定の合理性の判断基準

鑑定士が条件の合理性をどう判断するか

鑑定評価において条件を設定する場合、不動産鑑定士は条件の合理性を専門的見地から判断する責任を負います。依頼者から条件設定の要請があったとしても、合理性が認められない条件を安易に受け入れることは、鑑定評価の信頼性を損ない、鑑定士としての責任に反することになります。

合理性判断のチェックポイント

条件設定の合理性を判断するためのチェックポイントを整理します。

チェックポイント 確認内容 合理性が疑われる場合
依頼目的との整合性 条件が依頼目的と論理的に整合しているか 依頼目的と無関係な条件、依頼目的に反する条件
社会的な妥当性 条件設定が社会通念上許容されるものか 不当な利益を図る目的での条件設定
実現性・合法性 想定した条件が実現する確実性があり、諸規制に反しないか 法的に不可能な状態の想定、実現の見込みがない条件
鑑定評価書利用者への影響 条件が利用者を誤導するおそれがないか 条件の存在が十分に理解されないまま利用されるリスク
客観的資料の裏づけ 条件設定を裏づける客観的な資料が存在するか 依頼者の口頭の説明のみで、客観的な裏づけがない

条件設定と鑑定評価報告書への記載

条件を設定した場合には、鑑定評価報告書に以下の事項を明記する必要があります。

記載事項 内容
条件の内容 設定した条件の具体的な内容を明確に記述
妥当と判断した根拠 条件の内容と評価における取扱いが妥当であると判断した根拠を説明
条件が設定されない場合の参考事項 必要があると認められるときは、条件が設定されない場合の価格等を記載
鑑定評価額の前提 鑑定評価額が当該条件を前提としたものであることの明示

報告書への記載は、鑑定評価の透明性と利用者保護を確保するための重要な仕組みです。条件が設定されていることを知らずに鑑定評価額を利用すると、利用者に不測の損害が生じるおそれがあるためです。


条件設定と鑑定評価の全体プロセスとの関係

条件設定は、対象確定条件の一環として鑑定評価の初期段階で行われますが、その後のプロセス全体に影響を及ぼします。

鑑定評価のプロセス 条件設定の影響
対象不動産の確定 対象確定条件や想定上の条件により、評価の前提となる不動産の状態が規定される
地域分析・個別分析 想定された状態を前提として分析が行われる(例:更地として地域分析)
最有効使用の判定 想定された条件のもとで最有効使用を判定する
三方式の適用 想定された状態に基づいて手法を適用する(例:未竣工建物の竣工後の収益を想定)
試算価格の調整 条件設定の前提を踏まえて各試算価格の説明力を検討する
鑑定評価額の決定 条件付きの鑑定評価額として決定される

鑑定評価基準の全体像との関係については、鑑定評価基準の全体像|初学者のための体系的ガイドも参照してください。


条件設定に関する重要な事例パターン

パターン1:建物付き土地を更地として評価する場合

場面: 建物が建っている土地について、建物を取り壊して更地として売却する方針のもと、更地としての価格を知りたいという依頼。

条件設定: 対象確定条件として「土地のみを建物等が存しない独立のもの(更地)として評価する」を設定(独立鑑定評価)。想定上の条件ではない点に注意します。

確認すべき事項:

  • 条件設定の妥当性: 依頼目的に照らして、現況との違いが価格に与える影響を利用者が自ら判断でき、利用者の利益を害するおそれがない
  • 依頼者との合意: 独立鑑定評価であることを鑑定評価依頼契約上で合意している
  • 報告書への記載: 条件の内容と妥当と判断した根拠を記載する

パターン2:土壌汚染地を汚染なしとして評価する場合

場面: 土壌汚染が判明している土地について、浄化措置完了後の価値を把握するために、汚染がないものとして評価する依頼。

条件設定: 想定上の条件として「土壌汚染がないものとして評価する」を設定。

3要件の充足:

  • 利用者の利益を害するおそれがないこと: 汚染の状況と浄化費用を依頼者が把握しており、価格への影響を自ら判断できる
  • 実現性: 浄化措置の実施契約が締結済みで、実施する者の事業遂行能力も確認できる
  • 合法性: 法令に沿った浄化措置であり、公法上・私法上の諸規制に反しない

注意点: 浄化措置の実施が不確実な場合には、実現性の要件を満たさず、想定上の条件の設定が認められない場合があります。

パターン3:未竣工マンションの竣工後評価

場面: 建設中の賃貸マンションについて、竣工後の状態を想定して、不動産証券化のための評価を行う依頼。

条件設定: 対象確定条件として「建物が設計図書のとおりに竣工し、使用収益が可能な状態であることを前提に評価する」を設定(未竣工建物等鑑定評価)。

要件の充足:

  • 設計図書等・請負契約書等: 設計図書と工事請負契約書を収集済み
  • 許認可と工事完了の実現性: 建築確認済みで、発注者の資金調達能力等からみて工事完了の実現性が高い
  • 証券化対象不動産の追加要件: 工事の中止や工期の延期等による損害が、売買契約上の約定や保険等で回避される(各論第3章第2節)

証券化対象不動産では、原則として現実の利用状況と異なる条件を設定できません(総論第5章第1節Ⅳ)。未竣工建物等鑑定評価は、上の要件を満たす場合に限って認められる例外です。


試験での出題ポイント

短答式試験の頻出論点

出題パターン 頻出の誤りの選択肢 正しい理解
想定上の条件の設定要件 「依頼者が希望すれば設定できる」 利用者の利益・実現性・合法性の3要件をすべて満たす場合に限り設定可能
想定上の条件と調査範囲等条件の区別 両者を入れ替える出題 想定上の条件は「状態を想定」、調査範囲等条件は「調査の範囲を制約」
実現性 「実現の可能性があれば足りる」 「確実性」が求められる(単なる可能性では不十分)
未竣工建物の評価 「想定上の条件として設定する」 未竣工建物等鑑定評価は対象確定条件の一つ
証券化対象不動産 「想定上の条件を自由に設定できる」 原則として現実の利用状況と異なる条件は設定できない(未竣工建物等鑑定評価は要件を満たせば可)
報告書への記載 「条件設定の根拠の記載は任意」 条件の内容と妥当と判断した根拠の記載は必須

論文式試験のポイント

論点1:想定上の条件の意義と3要件の論述。 想定上の条件がなぜ必要なのか、3つの設定要件をそれぞれ説明し、具体例を挙げて合理性の判断を論じる問題です。

論点2:想定上の条件と調査範囲等条件の比較。 両者の性格の違い(状態を想定する vs 調査の範囲を制約する)を明確に論述し、具体例で説明する問題です。

論点3:未竣工建物の鑑定評価における条件設定。 未竣工建物等鑑定評価がどの条件に当たり、どの要件を満たせば行えるかを具体的に論述する問題です。設計図書等の収集、許認可の取得、工事完了の実現性を具体的に示す能力が問われます。

論点4:条件設定と鑑定評価の信頼性の関係。 条件設定が鑑定評価の柔軟性と信頼性のバランスをどのように確保しているかを論じる問題です。


暗記のポイント

最重要:想定上の条件の3要件

要件 キーワード
要件1 「利用者の利益を害するおそれがないこと」
要件2 「実現性」
要件3 「合法性」

3要件を「利用者・実現・合法」と3語で覚えると効率的です。

想定上の条件と調査範囲等条件の対比

対比軸 想定上の条件 調査範囲等条件
何を変えるか 不動産の状態を想定(変更) 調査の範囲を制約(限定)
効果 想定した状態を前提とした確定的な価格 不確実性を伴う価格
具体例 汚染なしとして評価、都市計画変更後として評価 土壌調査の省略、内部調査の制限

未竣工建物の評価の要点

「未竣工建物の竣工後の状態を前提とする評価は、対象確定条件(未竣工建物等鑑定評価)として行う」

この一文を基礎として、要件(設計図書等・請負契約書等の収集、許認可の取得、工事完了の実現性)を具体的に説明できるようにしておくことが、論文式試験の得点力に直結します。

条件設定と報告書記載のセット

「条件を設定したら、報告書に条件の内容と妥当と判断した根拠を明記し、必要なら条件がない場合の価格等も記載する」

条件設定は必ず報告書への記載とセットで行われるという点を忘れないでください。


まとめ

鑑定評価における条件設定は、鑑定評価の柔軟性と信頼性のバランスを確保するための重要な仕組みです。

想定上の条件は、地域要因又は個別的要因について現況と異なる状態を想定して評価を行うための条件であり、(1)鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないこと、(2)実現性、(3)合法性という3つの要件をすべて満たす場合に限り設定が可能です。土壌汚染がないものとしての評価や、都市計画の変更後を想定した評価などが代表的な適用場面です。未竣工建物の竣工後の評価や更地としての評価は、想定上の条件ではなく対象確定条件に当たります。

調査範囲等条件は、調査の範囲や深度に制約を設ける条件であり、想定上の条件とは性格が異なります。不動産の状態自体は変更せず、調査の範囲を限定する点が本質的な違いです。通常の調査では事実の確認が困難な特定の価格形成要因について、利用者の利益を害するおそれがない場合に限り設定でき、依頼者との合意と報告書への明記が必要です。

条件設定の合理性の判断は、不動産鑑定士の専門的な責任に属する事項です。依頼者の要請があっても、3要件を満たさない条件を安易に設定することは認められません。設定した条件は鑑定評価報告書に内容と妥当と判断した根拠を明記し、鑑定評価の透明性と利用者保護を確保する必要があります。報告書に何をどこまで書くべきかは、鑑定評価報告書の12の必須記載事項で条文に沿って整理しています。

試験対策としては、想定上の条件の3要件の正確な暗記を出発点とし、未竣工建物等鑑定評価が対象確定条件であることとその要件を説明できるようにしておくことが重要です。想定上の条件と調査範囲等条件の性格の違い(「状態を想定する」vs「調査の範囲を制約する」)は、短答式・論文式を問わず繰り返し出題される最重要論点です。

#想定上の条件 #未竣工建物 #条件設定 #調査範囲等条件 #鑑定評価基準

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