運用上の留意事項(総論部分)を条文解説
不動産鑑定評価基準の「運用上の留意事項」総論部分を条文ごとに解説。基準との関係、実務上の適用ポイント、鑑定評価の基本的事項や手順に関する留意点を体系的にまとめ、試験対策に役立つポイントを整理します。
運用上の留意事項の全体像と位置づけ
「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」(以下「留意事項」といいます)は、不動産鑑定評価基準(以下「基準」といいます)を実務で適用する際の具体的な指針として、基準とともに国土交通省から示されているものです。
基準が鑑定評価の基本原理と一般的なルールを規定するのに対し、留意事項は基準の各規定を実務においてどのように適用すべきかについて、より具体的かつ詳細な解釈・運用指針を提供しています。
留意事項は基準と同様に、総論部分と各論部分に分かれています。本記事では総論部分を解説し、各論部分については運用上の留意事項(各論部分)の条文解説で解説します。
鑑定評価基準全体の構造については鑑定評価基準の全体像を掴むを参照してください。
留意事項(総論部分)で扱われる主なテーマを整理します。
| テーマ | 内容の概要 |
|---|---|
| 基準との関係 | 留意事項の法的性格と基準との関係 |
| 価格に関する諸原則 | 諸原則の実務上の適用指針 |
| 価格形成要因 | 価格形成要因の分析上の留意点 |
| 鑑定評価の基本的事項 | 対象不動産の確定、価格時点、価格の種類に関する留意点 |
| 鑑定評価の手順 | 各手順の実施上の留意点 |
| 地域分析・個別分析 | 分析の具体的方法と留意点 |
| 鑑定評価の手法 | 各手法の適用上の留意点 |
| 試算価格の調整 | 調整の実施上の留意点 |
| 鑑定評価報告書 | 報告書作成上の留意点 |
以下では、各テーマに沿って留意事項の内容を解説していきます。
留意事項と基準の関係
留意事項の法的性格
留意事項は、基準の条文を補足・具体化するものとして位置づけられています。基準が抽象的・一般的に規定している事項について、留意事項がより具体的な解釈指針を示しています。
留意事項は基準の一部ではありませんが、基準の適正な運用を確保するために不可欠なものです。不動産鑑定士は、基準の条文のみならず、留意事項の内容にも準拠して鑑定評価を行う必要があります。
基準と留意事項の関係
| 比較項目 | 基準 | 留意事項 |
|---|---|---|
| 法的性格 | 鑑定評価の統一的基準 | 基準の運用に関する指針 |
| 内容の抽象度 | 一般的・原則的な規定 | 具体的・実務的な解説 |
| 改正の頻度 | 大規模な改正は比較的少ない | 基準の改正に合わせて改正 |
| 試験上の位置づけ | 主要な出題対象 | 基準と一体的に出題 |
試験における留意事項の重要性
不動産鑑定士試験では、基準の条文と留意事項の内容が一体的に出題されます。択一式試験では、基準の文言と留意事項の文言が混在して出題されることがあるため、両者の内容を正確に区別して把握しておく必要があります。
留意事項の要点については留意事項の要点まとめも参照してください。
価格に関する諸原則に関する留意事項
最有効使用の判定に関する留意点
留意事項の総論部分のなかで特に重要な規定の一つが、最有効使用の判定に関する留意点です。
基準(総論第4章等)は、不動産の価格は最有効使用を前提として形成されるとしていますが、留意事項はその判定にあたっての具体的な指針を示しています。
最有効使用の判定に当たっては、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人(以下「合理的な市場参加者」という。)による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づく使用を前提として判定すべきである。
― 不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
最有効使用の判定にあたって考慮すべき要素を整理します。
| 判定の要素 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 合法性 | 法令上認められている使用であること | 用途地域に適合した使用 |
| 物理的可能性 | 物理的に実現可能な使用であること | 地形・地盤に適合した建物 |
| 経済的合理性 | 経済的に合理的な使用であること | 市場で需要のある使用方法 |
| 最高最善性 | 上記を満たす使用のうち最も収益性が高いもの | 最も高い価値を生む使用 |
建物の最有効使用と敷地の最有効使用
留意事項は、建物の存する土地の最有効使用の判定にあたって、敷地としての最有効使用と建物を含めた最有効使用を区別する必要があることを示しています。
| 区別 | 内容 |
|---|---|
| 敷地の最有効使用 | 更地としての最有効使用(建物がないと仮定した場合の最高最善の使用) |
| 建物及びその敷地としての最有効使用 | 現存する建物を前提とした最高最善の使用 |
現存する建物が敷地の最有効使用に適合しない場合でも、直ちに取壊しが最有効使用となるわけではなく、建物の取壊し費用や残耐用年数等を考慮して総合的に判断する必要があります。
価格形成要因に関する留意事項
一般的要因の分析に関する留意点
留意事項は、価格形成要因の分析にあたっての具体的な留意点を示しています。
一般的要因の分析では、社会情勢、経済情勢、行政施策等の動向を幅広く把握する必要がありますが、留意事項はその分析にあたっての視点を具体的に示しています。
| 分析の視点 | 内容 |
|---|---|
| 動態的な把握 | 一般的要因を静態的にではなく、変動の過程にあるものとして把握する |
| 予測の重視 | 過去・現在の動向だけでなく、将来の動向を予測する |
| 不動産市場への影響の把握 | 一般的要因が不動産市場にどのような影響を及ぼすかを分析する |
| 要因相互の関連の把握 | 各要因が相互にどのように関連しているかを把握する |
地域要因と個別的要因の分析に関する留意点
留意事項は、地域要因と個別的要因の分析に関しても具体的な留意点を示しています。
地域要因の分析に関する留意点:
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 近隣地域の範囲の判定 | 対象不動産の属する近隣地域の範囲を適切に判定する |
| 類似地域との比較 | 近隣地域と類似地域を比較して地域特性を把握する |
| 地域の変遷の把握 | 地域の過去からの変遷と将来の動向を把握する |
個別的要因の分析に関する留意点:
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 全要因の把握 | 対象不動産に係る個別的要因をもれなく把握する |
| 要因の影響度の判定 | 各要因が価格に及ぼす影響の程度を判定する |
| 標準的画地との比較 | 近隣地域の標準的画地との比較を行う |
留意事項において、最有効使用の判定は「合理的な市場参加者」による合理的かつ合法的な最高最善の使用を前提として行うべきとされている。
鑑定評価の基本的事項に関する留意事項
対象不動産の確定に関する留意点
留意事項は、対象不動産の確定に関して、基準の規定をより具体的に補足しています。
対象確定条件
対象確定条件は、鑑定評価の対象となる不動産の物的・権利的範囲を確定するための条件です。留意事項は、対象確定条件の設定にあたっての具体的な指針を示しています。
| 対象確定条件の種類 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 独立鑑定評価 | 対象不動産を単独のものとして評価 | 区分所有建物の一室のみを評価 |
| 部分鑑定評価 | 全体の一部を対象として評価 | 複合不動産から土地のみを評価 |
| 併合鑑定評価 | 複数の不動産を一体として評価 | 隣接する2筆の土地を一体で評価 |
| 分割鑑定評価 | 一つの不動産を分割して評価 | 一筆の土地を2つに分割して評価 |
想定上の条件
留意事項は、想定上の条件の設定についても具体的な指針を示しています。
想定上の条件を設定して鑑定評価を行うことができる場合は、①実現性、②合法性、③関係当事者及び第三者の利益を害するおそれがないこと、の3つの要件を満たす必要がある。
― 不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
| 想定上の条件の要件 | 内容 |
|---|---|
| 実現性 | 条件が実現する可能性が合理的に認められること |
| 合法性 | 条件が法令に違反しないこと |
| 第三者の利益保護 | 条件の設定が関係当事者及び第三者の利益を害するおそれがないこと |
価格時点に関する留意点
留意事項は、価格時点の設定に関して、過去時点の評価(遡及評価)についての留意点を示しています。
| 価格時点の種類 | 内容 | 留意点 |
|---|---|---|
| 現在時点 | 鑑定評価を行う日に近い時点 | 最も一般的な設定 |
| 過去時点 | 過去のある時点 | 価格時点当時の市場情報に基づく |
| 将来時点 | 将来のある時点 | 予測に基づくため不確実性が高い |
価格の種類に関する留意点
留意事項は、正常価格、限定価格、特定価格、特殊価格の各種類について、その判定にあたっての留意点を示しています。
| 価格の種類 | 留意事項における主な留意点 |
|---|---|
| 正常価格 | 合理的な市場で形成されるであろう適正な価格 |
| 限定価格 | 市場が限定される場合の価格(隣接地の併合等) |
| 特定価格 | 法令等による社会的要請を背景とする価格 |
| 特殊価格 | 文化財等の市場性を有しない不動産の価格 |
鑑定評価の手順に関する留意事項
対象不動産の確認に関する留意点
留意事項は、対象不動産の確認作業について、より具体的な実施方法を示しています。
実地調査については、対象不動産の外観のみならず、原則として内観調査をも行わなければならない。
― 不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
| 確認の方法 | 留意点 |
|---|---|
| 外観調査 | 建物の外観、敷地の状態、周辺環境の確認 |
| 内観調査 | 建物の内部状態、設備の状況、使用状態の確認 |
| 公的資料の確認 | 登記記録、公図、都市計画図等の確認 |
| 依頼者からの聴取 | 依頼者への確認、資料の入手 |
内観調査が実施できない場合には、その旨を鑑定評価報告書に記載するとともに、内観調査が実施できなかったことが鑑定評価額に与える影響を考慮する必要があります。
資料の収集に関する留意点
留意事項は、資料の収集にあたっての留意点として、資料の信頼性の検証を強調しています。
| 資料の検証項目 | 内容 |
|---|---|
| 正確性 | 資料の内容が正確であるか |
| 適時性 | 資料が価格時点に適した時期のものであるか |
| 関連性 | 資料が鑑定評価に関連するものであるか |
| 偏りのないこと | 特定の方向に偏った資料になっていないか |
留意事項によれば、対象不動産の実地調査においては外観調査を行えば足り、内観調査は任意とされている。
鑑定評価の手法に関する留意事項
原価法の適用に関する留意点
留意事項は、原価法の適用にあたり、特に減価修正の方法について具体的な指針を示しています。
| 減価の要因 | 内容 | 把握方法 |
|---|---|---|
| 物理的減価 | 経年劣化、自然損耗、災害損傷等 | 耐用年数法、観察減価法 |
| 機能的減価 | 設備の陳腐化、間取りの不適合等 | 観察減価法 |
| 経済的減価 | 需要の変化、市場性の低下等 | 市場分析 |
取引事例比較法の適用に関する留意点
取引事例比較法の適用にあたっては、事例の選択が結果に大きな影響を与えます。留意事項は、事例選択の基準をより具体的に示しています。
| 事例選択の基準 | 内容 |
|---|---|
| 事情補正の可能性 | 事情補正が可能な事例であること |
| 時点修正の可能性 | 時点修正が可能な事例であること |
| 地域要因の比較可能性 | 地域要因の比較が可能な事例であること |
| 個別的要因の比較可能性 | 個別的要因の比較が可能な事例であること |
| 適切な数の確保 | 十分な数の事例を収集すること |
収益還元法の適用に関する留意点
留意事項は、収益還元法の適用にあたり、純収益の見積りと還元利回り(割引率)の査定に関する留意点を示しています。
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 純収益の見積り | 安定的な純収益を見積ること |
| 総費用の適切な控除 | 運営費用を適切に見積もること |
| 還元利回りの査定 | 複数の方法により査定し、その妥当性を検証すること |
| 割引率の査定 | 対象不動産のリスクを適切に反映すること |
実務指針に関する詳細は実務指針の解説も参照してください。
試算価格の調整及び鑑定評価額の決定に関する留意事項
調整の実施方法
留意事項は、試算価格の調整にあたっての具体的な実施方法を示しています。
試算価格の調整に当たっては、各手法の特性を踏まえつつ、対象不動産に係る市場の特性、各手法の適用において採用した資料の特性及び限界からくる相対的信頼性を検討し、各試算価格の説得力の程度を判断すべきである。
― 不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
| 判断の観点 | 内容 |
|---|---|
| 手法の特性 | 各手法が着目する側面と対象不動産との適合性 |
| 市場の特性 | 対象不動産が存する市場の性格(取引市場、賃貸市場等) |
| 資料の特性 | 採用した資料の信頼性と限界 |
| 相対的信頼性 | 各試算価格の相対的な信頼性の程度 |
鑑定評価額の決定に関する留意点
留意事項は、鑑定評価額の決定にあたり、試算価格の調整結果を踏まえた最終的な判断について留意点を示しています。
鑑定評価額は、試算価格の中から最も説得力の高いものを選択するか、又は各試算価格を総合的に勘案して決定されます。単なる平均値の算出ではなく、不動産鑑定士の専門的判断に基づく意思決定であることが強調されています。
鑑定評価基準の体系図については鑑定評価基準の体系図で全体を俯瞰も参照してください。
鑑定評価報告書に関する留意事項
報告書の記載に関する留意点
留意事項は、鑑定評価報告書の記載にあたっての留意点を示しています。
| 記載上の留意点 | 内容 |
|---|---|
| 明確性と簡潔性 | 記載内容が明確で、かつ簡潔であること |
| 論理的一貫性 | 基本的事項の確定から評価額の決定まで論理が一貫していること |
| 根拠の明示 | 各判断の根拠が明示されていること |
| 利用者への配慮 | 報告書の利用者にとって理解しやすい記述であること |
利害関係の開示に関する留意点
留意事項は、利害関係の開示について、開示すべき利害関係の範囲をより具体的に示しています。
| 開示すべき利害関係 | 具体例 |
|---|---|
| 対象不動産に関する直接の利害関係 | 対象不動産の所有、借地権の保有等 |
| 依頼者との関係 | 親族関係、顧問契約、継続的取引関係等 |
| 報酬と評価額の関係 | 評価額の高低に連動する報酬契約 |
| 過去の関与 | 対象不動産の過去の鑑定評価への関与 |
留意事項は、鑑定評価基準の条文そのものの一部を構成するものであり、基準と法的に同一の位置づけである。
まとめ
運用上の留意事項(総論部分)は、鑑定評価基準の総論各章について、実務上の適用指針を具体的に示しています。本記事で解説した要点を改めて整理します。
- 留意事項は基準の運用に関する指針であり、基準をより具体的・実務的に補足するもの
- 最有効使用の判定は「合理的な市場参加者」による合理的かつ合法的な最高最善の使用を前提とする
- 価格形成要因の分析では動態的な把握と将来予測が重要
- 対象確定条件には独立鑑定評価、部分鑑定評価、併合鑑定評価、分割鑑定評価がある
- 想定上の条件は実現性・合法性・第三者の利益保護の3要件を満たす必要がある
- 実地調査では外観調査に加え、原則として内観調査も行わなければならない
- 試算価格の調整は各手法の特性、市場の特性、資料の信頼性を総合的に判断して行う
- 鑑定評価報告書は明確性、簡潔性、論理的一貫性、利用者への配慮をもって作成する
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