運用上の留意事項(各論部分)を条文解説
不動産鑑定評価基準の「運用上の留意事項」各論部分を条文ごとに解説。不動産類型別の評価上の留意点、賃料評価の留意点、証券化対象不動産の留意点など、試験対策に役立つポイントを体系的にまとめます。
運用上の留意事項(各論部分)の全体像と位置づけ
「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」(以下「留意事項」といいます)の各論部分は、鑑定評価基準(以下「基準」といいます)の各論第1章(価格に関する鑑定評価)、各論第2章(賃料に関する鑑定評価)、各論第3章(証券化対象不動産の鑑定評価)のそれぞれについて、実務上の適用指針を具体的に示しています。
留意事項の総論部分については運用上の留意事項(総論部分)の条文解説で解説していますが、各論部分は基準の各論各章に対応した形で、各不動産類型の評価上の留意点や各手法の適用上の具体的な指針を提供しています。
鑑定評価基準全体の構造については鑑定評価基準の全体像を掴むを参照してください。
留意事項(各論部分)で扱われる主なテーマを整理します。
| テーマ | 対応する基準の章 | 内容の概要 |
|---|---|---|
| 不動産類型別の留意点 | 各論第1章 | 更地、建付地、借地権、底地等の類型別の留意点 |
| 複合不動産の留意点 | 各論第1章 | 自用の建物及びその敷地、貸家及びその敷地等の留意点 |
| 建物の留意点 | 各論第1章 | 建物のみの評価上の留意点 |
| 新規賃料の留意点 | 各論第2章 | 新規賃料の各手法の適用上の留意点 |
| 継続賃料の留意点 | 各論第2章 | 継続賃料の各手法の適用上の留意点 |
| 証券化対象不動産の留意点 | 各論第3章 | DCF法適用、ER活用等の具体的な留意点 |
以下では、各テーマに沿って留意事項の内容を解説していきます。
更地・建付地の鑑定評価に関する留意事項
更地の鑑定評価の留意点
留意事項は、基準の各論第1章で規定されている更地の鑑定評価について、実務上の具体的な留意点を示しています。
更地の判定に関する留意点
更地とは「建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地」ですが、実務においてはこの判定が必ずしも明確でない場合があります。留意事項は、更地の判定にあたっての留意点を示しています。
| 判定上の留意点 | 内容 |
|---|---|
| 定着物の有無 | 建物の基礎や工作物が残存している場合の取扱い |
| 権利の付着 | 借地権等の権利が設定されていないことの確認方法 |
| 造成中の土地 | 造成工事が進行中の土地の取扱い |
| 一時的な利用 | 駐車場等として一時的に利用されている場合の取扱い |
配分法の適用に関する留意点
更地の鑑定評価において配分法を適用する場合、複合不動産の取引事例から土地の価格を配分して求めます。留意事項は、配分にあたっての具体的な留意点を示しています。
配分法の適用に当たっては、複合不動産の取引事例について、当該取引事例に係る土地の価格と建物の価格の配分の適否に留意すべきである。
― 不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
建付地の鑑定評価の留意点
建付地の鑑定評価では、建付減価の有無と程度の判定が重要な論点です。
| 建付減価の要因 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 用途の不適合 | 建物の用途が土地の最有効使用に適合しない | 商業地に低層住宅が存在 |
| 規模の不適合 | 建物の規模が土地のポテンシャルに対して過小又は過大 | 大規模な土地に小規模な建物 |
| 築年の経過 | 建物の老朽化により取壊しの必要性がある | 築50年超の建物 |
| 法的不適合 | 既存不適格等の法的問題がある | 建蔽率・容積率超過の建物 |
建付減価がある場合、建付地の価格は更地の価格を下回ります。その乖離の程度は、建物の取壊し費用、残耐用年数、建物が存在することによる使用制約の程度等によって異なります。
留意事項によれば、建付地の価格は常に更地の価格を下回る。
借地権・底地の鑑定評価に関する留意事項
借地権の鑑定評価の留意点
留意事項は、借地権の鑑定評価にあたっての具体的な留意点を示しています。特に、取引慣行の成熟度の判定と、各手法の適用上の留意点が重要です。
取引慣行の成熟度の判定
借地権の取引慣行の成熟の程度については、同一需給圏における借地権の取引の多寡、市場参加者の認識等を踏まえて判定すべきである。
― 不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
| 判定の考慮要素 | 内容 |
|---|---|
| 取引の多寡 | 当該地域における借地権の取引が活発であるか |
| 市場参加者の認識 | 借地権が独立した取引対象として認識されているか |
| 借地権割合の慣行 | 借地権割合が市場で定着しているか |
| 地域の特性 | 都市部か地方か、商業地か住宅地か |
一般的に、大都市の商業地や住宅地では借地権の取引慣行が成熟しているのに対し、地方都市や農村部では取引慣行が未成熟な場合が多いとされています。
借地権の評価手法の適用上の留意点
| 手法 | 適用上の留意点 |
|---|---|
| 取引事例比較法 | 借地権の取引事例の収集が困難な場合がある |
| 賃料差額還元法 | 正常賃料と実際支払賃料の差額の把握が重要 |
| 割合法 | 借地権割合の査定方法に留意が必要 |
| 土地残余法 | 借地権に帰属する純収益の把握が重要 |
底地の鑑定評価の留意点
留意事項は、底地の鑑定評価について以下のような留意点を示しています。
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 将来の地代改定の予測 | 継続賃料の動向を考慮した将来の地代収入の予測 |
| 借地権の消滅時の復帰価値 | 借地権が将来消滅した場合の更地としての復帰の可能性 |
| 底地の市場性 | 底地の取引市場の存在と流動性 |
| 更地価格と借地権価格の関係 | 控除法適用にあたっての留意点 |
底地の評価では、現在の地代収入だけでなく、将来の地代改定の可能性や、借地権消滅時の復帰価値も考慮に入れる必要があります。
複合不動産の鑑定評価に関する留意事項
自用の建物及びその敷地の留意点
留意事項は、自用の建物及びその敷地の鑑定評価にあたっての留意点として、特に以下の点を強調しています。
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 土地と建物の一体としての評価 | 土地と建物を一体として評価し、個別に評価した合計とは異なることを認識する |
| 建物と敷地の適応の状態 | 建物が敷地の最有効使用に適合しているかを判断する |
| 経済的残耐用年数の判定 | 建物の経済的残耐用年数を適切に判定する |
| 取壊し最有効使用の検討 | 建物を取り壊して更地として利用することが最有効使用となる可能性の検討 |
取壊し最有効使用の判定
建物が老朽化している場合や、建物の用途が敷地の最有効使用に適合しない場合には、建物を取り壊して更地として利用することが最有効使用となる可能性があります。
建物を取り壊すことが最有効使用と判定される場合には、その敷地は建付地としてではなく、更地としての鑑定評価を行うことが妥当である。この場合、更地としての価格から建物の取壊し費用を控除して求めることに留意すべきである。
― 不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
貸家及びその敷地の留意点
貸家及びその敷地の鑑定評価では、賃貸借契約の内容が価格に大きな影響を与えます。
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 賃貸借契約の内容 | 賃料水準、契約期間、更新条件等の確認 |
| テナントの信用力 | 賃借人の信用力と賃料支払の安定性 |
| 稼働率 | 現在の稼働率と将来の見通し |
| 賃料の適正性 | 現行賃料と市場賃料の乖離の有無 |
| 立退き費用 | テナントの退去に伴う費用の考慮 |
留意事項によれば、建物を取り壊すことが最有効使用と判定される場合には、建付地としてではなく更地としての鑑定評価を行うことが妥当とされている。
賃料評価に関する留意事項
新規賃料の手法適用上の留意点
留意事項は、各論第2章で規定されている新規賃料の各手法について、適用上の具体的な留意点を示しています。
積算法の適用上の留意点
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 基礎価格の適切な把握 | 更地価格又は建物及びその敷地の価格を適切に把握する |
| 期待利回りの査定 | 不動産投資の利回りとの整合性を確保する |
| 必要諸経費等の把握 | 各費用項目を過不足なく計上する |
| 減価償却費の取扱い | 定額法等の適切な方法で計上する |
賃貸事例比較法の適用上の留意点
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 事例の適切な選択 | 対象不動産と類似性の高い賃貸事例を選択する |
| 実質賃料と支払賃料の区別 | 一時金の有無による賃料水準の違いに留意する |
| 契約条件の把握 | 賃料の他に共益費、一時金等の条件を確認する |
| 新規事例の収集 | 新規の賃貸借事例を収集する(継続賃料の改定事例と混同しない) |
収益分析法の適用上の留意点
収益分析法は、対象不動産をある事業の用に供した場合の総収益を分析して賃料を求める手法です。
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 事業収益の的確な把握 | 標準的な事業経営を想定した収益の把握 |
| 不動産帰属分の判定 | 総収益のうち不動産に帰属する部分の適切な判定 |
| 適用場面の見極め | 商業施設、ホテル等の事業用不動産に適する手法 |
継続賃料の手法適用上の留意点
留意事項は、継続賃料の各手法について、適用上の具体的な留意点を詳細に示しています。
差額配分法の留意点
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 適正賃料の把握方法 | 新規賃料を求める手法で適正賃料を把握する |
| 差額の配分割合 | 契約の経緯、残存契約期間等を考慮して決定する |
| 適正賃料と実際賃料の乖離の分析 | 乖離が生じた原因と経緯を分析する |
利回り法の留意点
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 継続賃料利回りの査定 | 直近合意時点の利回りを基準とし、その後の変動を考慮する |
| 基礎価格の把握 | 価格時点における対象不動産の基礎価格を適切に把握する |
| 積算法との関係 | 積算法(新規賃料)との相違点を明確にする |
スライド法の留意点
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 直近合意時点の純賃料の把握 | 直近の合意時点における純賃料を正確に把握する |
| 変動率の選定 | 地価変動率、消費者物価指数、賃料指数等から適切な変動率を選定する |
| 変動率の複数比較 | 単一の指標ではなく、複数の指標を比較検討する |
継続賃料の求め方については継続賃料の求め方も参照してください。
証券化対象不動産の鑑定評価に関する留意事項
DCF法の適用に関する留意点
留意事項は、各論第3章に対応して、証券化対象不動産の鑑定評価に関する詳細な留意点を示しています。
分析期間の設定
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 分析期間の長さ | 対象不動産の特性に応じた適切な期間を設定する |
| 投資家の保有期間との関係 | 投資スキームにおける想定保有期間を考慮する |
| 復帰価格の安定性 | 分析期間が短すぎると復帰価格の影響が大きくなることに留意する |
各期のキャッシュフロー予測
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 賃料の変動予測 | テナント入替時の賃料変動を適切に予測する |
| 空室率の予測 | 市場動向を踏まえた空室率の予測 |
| 費用の変動予測 | 修繕費、管理費等の変動を適切に予測する |
| 資本的支出の計上 | ERの長期修繕計画等を参考に適切に計上する |
還元利回り・割引率の査定上の留意点
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 市場データの活用 | 類似不動産の取引利回り等の市場データを活用する |
| リスクの反映 | 対象不動産固有のリスクを適切に反映する |
| 最終還元利回りの設定 | 還元利回りとの整合性を確保する |
| 査定根拠の明示 | 報告書において査定の根拠を明確に示す |
ERの活用に関する留意点
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| ERの信頼性の確認 | ER作成者の専門性、調査の範囲と方法を確認する |
| ERの内容の検証 | ERの内容を鑑定評価士の視点から検証する |
| 修繕費用の反映方法 | ERに記載された修繕費用をDCF法にどのように反映するかを検討する |
| 遵法性の確認結果の反映 | 遵法性に問題がある場合のリスクの評価方法を検討する |
留意事項によれば、DCF法の分析期間は一律に10年間と定められている。
特殊な類型の鑑定評価に関する留意事項
区分所有建物及びその敷地
留意事項は、区分所有建物及びその敷地(マンションの一室等)の鑑定評価について、固有の留意点を示しています。
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 専有部分と共用部分 | 専有部分の面積と共用部分の持分割合の確認 |
| 管理の状態 | 管理組合の運営状況、修繕積立金の積立状況 |
| 建替え・大規模修繕の可能性 | 築年数と建替え・大規模修繕の計画の有無 |
| 階層別・位置別の効用差 | 同一建物内の階層・位置による価格差 |
借家権
借家権の鑑定評価は、立退き交渉等の場面で必要となることがあります。
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 借家権の経済的価値 | 賃料差額、造作等の補償要素 |
| 立退き補償との関係 | 借家権の価格と立退き補償額の関係 |
| 市場性の有無 | 借家権の独立した市場性の有無 |
定期借地権
定期借地権は、更新がなく期間満了で確定的に消滅する借地権です。
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 残存期間の影響 | 残存期間の減少に伴う価値の変動 |
| 建物の取壊し義務 | 期間満了時の建物取壊し費用の考慮 |
| 普通借地権との違い | 更新の有無による価値の違い |
類型別の鑑定評価のポイントについては類型別の鑑定評価のポイントも参照してください。
留意事項(各論部分)の試験対策ポイント
択一式試験での出題傾向
留意事項の各論部分は、基準の各論各章と一体的に出題されます。頻出のテーマは以下のとおりです。
| 頻出テーマ | 出題のポイント |
|---|---|
| 建付減価の判定 | 建付減価の有無と程度に関する正誤 |
| 借地権の取引慣行 | 取引慣行の成熟度の判定に関する正誤 |
| 継続賃料の各手法 | 各手法の定義・計算式に関する正誤 |
| DCF法の適用 | 分析期間、キャッシュフロー予測に関する正誤 |
| ERの活用 | ERの活用義務と活用方法に関する正誤 |
論文式試験での出題傾向
論文式試験では、特定の不動産類型の鑑定評価方法について、基準の規定と留意事項の内容を総合して論述することが求められます。
| 出題パターン | 論述のポイント |
|---|---|
| 特定類型の鑑定評価方法 | 基準の規定+留意事項の留意点を総合的に論述 |
| 新規賃料と継続賃料の比較 | 両者の違いと各手法の特徴を対比して論述 |
| 証券化対象不動産の特徴 | 通常の鑑定評価との相違点を留意事項を踏まえて論述 |
留意事項の全体的な要点については留意事項の要点まとめを参照してください。
まとめ
運用上の留意事項(各論部分)は、鑑定評価基準の各論各章について、実務上の適用指針を具体的に示しています。本記事で解説した要点を改めて整理します。
- 更地の判定にあたっては、定着物の有無や権利の付着の有無を実務的に確認する必要がある
- 建付減価は建物が敷地の最有効使用に適合しない場合に生じ、その程度は個別に判断する
- 借地権の取引慣行の成熟度は同一需給圏における取引の多寡等を踏まえて判定する
- 取壊し最有効使用と判定された場合は更地としての評価を行い、取壊し費用を控除する
- 賃貸事例比較法では実質賃料と支払賃料の区別、新規事例と改定事例の区別に留意する
- 継続賃料の各手法は差額配分法(乖離の配分)、利回り法(継続賃料利回り)、スライド法(変動率)のそれぞれの特徴を理解する
- DCF法の分析期間は対象不動産の特性に応じて適切に設定し、一律に定められるものではない
- ERの活用にあたっては、ERの信頼性を確認したうえで鑑定評価士の判断で適切に反映する
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