国有財産法と公有財産の管理を解説
国有財産法の概要と財産分類(行政財産・普通財産)を詳しく解説。行政財産の管理・使用許可、普通財産の売払い・貸付け、台帳価格と鑑定評価の関係、地方自治法に基づく公有財産との比較、公有財産処分における鑑定評価の義務まで整理します。
国有財産法の概要と目的
国有財産法は、国が所有する財産の取得・管理・処分に関する基本的な事項を定めた法律です。国有地の売却、庁舎の管理、国有地の貸付けなど、国有財産の適正な管理と効率的な処分を確保するための法的枠組みを提供しています。
この法律は、国有財産の取得、維持、保存及び運用並びに処分に適正を期するため、国有財産に関する事務の総括及び国有財産に関する基本的事項を定めることを目的とする。― 国有財産法 第1条
不動産鑑定士試験の行政法規科目において、国有財産法は出題頻度が比較的高い法律の一つです。特に、行政財産と普通財産の区分、処分における鑑定評価の活用、台帳価格の意義などが重要な論点となります。
国有財産の定義
国有財産法にいう「国有財産」とは、国が所有するすべての財産を指すわけではなく、同法が定める特定の種類の財産に限定されています。
国有財産とは、国の負担において国有となった財産又は法令の規定により若しくは寄附により国有となった財産であって次に掲げるものをいう。― 国有財産法 第2条第1項
| 国有財産の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 不動産 | 土地、建物 |
| 船舶、航空機 | 国が所有する船舶・航空機 |
| 特定の動産 | 国の所有に属する美術品等 |
| 地上権、地役権等 | 国が権利者となる用益物権 |
| 特許権、著作権等 | 国が権利者となる知的財産権 |
| 株式等の有価証券 | 国が保有する出資持分等 |
不動産鑑定評価との関連では、特に土地・建物の管理と処分が重要です。国有地は全国に広く所在しており、その適正な評価と管理は鑑定評価の重要な活用分野です。
国有財産の分類:行政財産と普通財産
行政財産と普通財産の区分
国有財産法は、国有財産を行政財産と普通財産の2つに大別しています。この区分は国有財産法の体系を理解するうえでの基本であり、管理・処分の方法が大きく異なります。
国有財産は、行政財産と普通財産とに分類する。― 国有財産法 第3条第1項
行政財産とは、国が直接その事務・事業の用に供し、または供するものと決定した財産です。普通財産とは、行政財産以外の一切の国有財産です。
| 区分 | 定義 | 具体例 |
|---|---|---|
| 行政財産 | 国の事務・事業の用に供する財産 | 庁舎、公務員宿舎、国道用地、国立学校施設 |
| 普通財産 | 行政財産以外の国有財産 | 未利用国有地、旧軍用地、物納財産 |
行政財産の4つの種類
行政財産は、さらに次の4種類に分類されます。
行政財産とは、次に掲げる種類の財産をいう。
一 公用財産 国において国の事務、事業又はその職員の住居の用に供し、又は供するものと決定したもの
二 公共用財産 国において直接公共の用に供し、又は供するものと決定したもの
三 皇室用財産 国において皇室の用に供し、又は供するものと決定したもの
四 森林経営用財産 国において森林経営の用に供し、又は供するものと決定したもの
― 国有財産法 第3条第2項
| 種類 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 公用財産 | 国の事務・事業に供する財産 | 官庁の庁舎、公務員宿舎 |
| 公共用財産 | 直接公共の用に供する財産 | 国道、国営公園、河川区域の土地 |
| 皇室用財産 | 皇室の用に供する財産 | 皇居、御用邸 |
| 森林経営用財産 | 森林経営の用に供する財産 | 国有林野 |
このうち、不動産鑑定評価との関連で最も重要なのは、普通財産の処分(売払い・貸付け)の場面です。公共事業と補償の基礎知識で解説されている収用や補償とも密接に関連しています。
国有財産法において、行政財産とは国の事務・事業の用に供する財産であり、普通財産とは行政財産以外の一切の国有財産をいう。
行政財産の管理と使用許可
行政財産の処分制限
行政財産は国の事務・事業の用に供されるべき財産であるため、原則として処分が禁止されています。
行政財産は、貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、信託し、若しくは出資の目的とし、又は私権を設定することができない。― 国有財産法 第18条第1項
この処分制限は、行政財産が行政目的のために不可欠な財産であることに鑑み、みだりに処分されることを防止する趣旨です。行政財産を処分するためには、まず用途廃止(行政財産としての用途を廃止し、普通財産に転換すること)を行ったうえで、普通財産として処分する必要があります。
使用許可の制度
行政財産を処分することはできませんが、一定の場合には使用許可(目的外使用許可)によって行政財産の一部を他者に使用させることが認められています。
行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる。― 国有財産法 第18条第6項
使用許可の例としては、庁舎内の食堂や売店の設置、庁舎の屋上への通信アンテナの設置などがあります。
使用許可の特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法的性質 | 行政処分(許可) |
| 許可の条件 | 用途又は目的を妨げない限度 |
| 使用料 | 原則として徴収する |
| 期間 | 原則として1年以内 |
| 取消し | 国の必要がある場合には許可を取り消すことができる |
使用許可は行政処分であり、民法上の賃貸借契約とは法的性質が異なります。このため、借地借家法の適用はなく、国は必要がある場合には許可を取り消すことができます。
行政財産の貸付けの例外
平成18年の国有財産法改正により、一定の場合には行政財産の貸付けが認められるようになりました。
- 庁舎の余裕部分について、地方公共団体や民間事業者に貸し付けること
- 行政財産の敷地について、合築(官民複合施設の建設)のために貸し付けること
この改正は、行政財産の有効活用を促進し、行政コストの削減と民間事業者の利便性向上を図る趣旨に基づいています。
普通財産の処分:売払い・貸付け
普通財産の処分方法
普通財産は行政目的に供されていない財産であるため、行政財産と異なり処分が可能です。主な処分方法は以下のとおりです。
| 処分方法 | 内容 |
|---|---|
| 売払い | 普通財産の所有権を移転すること |
| 貸付け | 普通財産を一定期間、他者に使用させること |
| 交換 | 普通財産と他の財産を交換すること |
| 譲与 | 普通財産を無償で譲渡すること |
| 出資 | 普通財産を法人への出資に充てること |
売払いの方法
普通財産の売払いは、原則として一般競争入札により行います。これは、国有財産の処分における公正性と透明性を確保するためです。
ただし、以下の場合には随意契約(特定の相手方との契約)が認められます。
- 国の事業のため必要な場合: 事業の遂行上、特定の土地を取得する必要がある場合の交換等
- 隣接地の所有者への売却: 形状・面積等の関係で単独利用が困難な土地(いわゆる「残地」)を隣接地の所有者に売却する場合
- 時価の算定が困難な場合: 面積が著しく狭小な土地等
- 地方公共団体への売却: 公共目的のための譲渡
売払い価格の算定
普通財産の売払い価格は、時価を基準として算定されます。
普通財産を売り払うときは、適正な対価によるものでなければならない。― 国有財産法(趣旨を反映した要約)
ここでいう「適正な対価」の算定において、不動産鑑定評価が重要な役割を果たします。国が所有する土地の売払いにあたっては、不動産鑑定士による鑑定評価を取得し、その結果を参考として売払い価格を決定するのが通常の実務です。
貸付けの方法
普通財産の貸付けは、売払いと同様に適正な対価(賃料)に基づいて行われます。
| 貸付けの種類 | 内容 |
|---|---|
| 建物の所有を目的とする土地の貸付け | 借地借家法の適用あり |
| その他の土地の貸付け | 民法の賃貸借の規定が適用 |
| 建物の貸付け | 借地借家法の適用あり |
普通財産の貸付けには民法や借地借家法が適用されるため、行政財産の使用許可とは法的性質が大きく異なります。土地収用法の概要で解説されている公共事業用地の取得においても、国有財産の貸付地の取扱いが問題となることがあります。
行政財産は、原則として売払い、貸付け等の処分を行うことができず、用途廃止により普通財産に転換した後に処分する必要がある。
国有財産の台帳価格と鑑定評価
国有財産台帳の制度
国有財産法は、国有財産の適正な管理のために国有財産台帳の作成を義務づけています。
各省各庁の長は、その所管に属する国有財産について、国有財産台帳を備え、国有財産の現況、取得、処分等に関する事項を記載しなければならない。― 国有財産法 第32条(趣旨)
国有財産台帳には、財産の所在、種目、数量、価格等が記載されます。このうち台帳価格は、国有財産の管理状況を把握するための基礎的な情報です。
台帳価格の算定基準
台帳価格は、次の方法で算定されます。
| 取得の種類 | 台帳価格の算定方法 |
|---|---|
| 購入による取得 | 購入価格 |
| 交換による取得 | 交換時における評価額 |
| 収用による取得 | 補償金の額 |
| 寄附による取得 | 受入れ時の評価額 |
| 建設・造成による取得 | 工事費等の合計額 |
台帳価格と時価の乖離
国有財産の台帳価格は、取得時の価格を基礎として算定されるため、年月の経過とともに時価との乖離が生じます。特に、長期にわたり保有されている国有地の場合、取得時の台帳価格と現在の時価の間に著しい差異が生じていることがあります。
このため、国有財産の処分にあたっては、台帳価格をそのまま売払い価格とするのではなく、処分時点における適正な時価を不動産鑑定評価により算定することが求められます。
国有財産の鑑定評価
国有財産の売払いや貸付けにおいて鑑定評価が活用される主な場面は以下のとおりです。
- 売払い価格の算定: 一般競争入札の予定価格や随意契約の売払い価格を決定するために鑑定評価を実施
- 貸付料の算定: 普通財産の貸付けにおける適正賃料を算定するために鑑定評価を実施
- 交換価格の算定: 国有財産と他の財産を交換する際の交換比率を決定するために鑑定評価を実施
- 台帳価格の改定: 評価替えにあたり、時価の変動を反映するために鑑定評価を活用
正常価格とは何かを理解する4つの基本概念で解説されている「正常価格」の考え方が、国有財産の適正な対価の判定においても基礎となります。
公有財産(地方自治法の財産管理)との関係
公有財産の定義と分類
公有財産とは、地方公共団体が所有する財産のうち、地方自治法が定める特定の財産をいいます。地方自治法は国有財産法と同様に、公有財産を行政財産と普通財産に分類しています。
公有財産とは、普通地方公共団体の所有に属する財産のうち次に掲げるものをいう。
一 不動産
二 船舶、浮標、浮桟橋及び浮ドック並びに航空機
三 前二号に掲げるものの従物
四 地上権、地役権、鉱業権その他これらに準ずる権利
― 地方自治法 第238条第1項
| 区分 | 国有財産法 | 地方自治法 |
|---|---|---|
| 法律名 | 国有財産法 | 地方自治法第238条以下 |
| 財産の所有者 | 国 | 地方公共団体(都道府県・市町村) |
| 分類 | 行政財産・普通財産 | 行政財産・普通財産 |
| 行政財産の種類 | 公用・公共用・皇室用・森林経営用 | 公用・公共用 |
| 処分の制限 | 行政財産は原則処分禁止 | 行政財産は原則処分禁止 |
行政財産と普通財産の区分
地方自治法における行政財産は、公用財産(地方公共団体の事務・事業に供する財産)と公共用財産(住民の一般的利用に供する財産)に分類されます。国有財産法と異なり、皇室用財産と森林経営用財産の区分はありません。
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| 公用財産 | 市庁舎、学校、消防署、公民館 |
| 公共用財産 | 市道、公園、広場 |
| 普通財産 | 遊休地、物納土地、廃校後の学校跡地 |
行政財産の管理
地方自治法においても、行政財産は原則として貸付け・売払い等の処分が禁止されています。
行政財産は、次項から第六項までに定めるものを除くほか、これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、出資の目的とし、若しくは信託し、又はこれに私権を設定することができない。― 地方自治法 第238条の4第1項
例外として、行政財産の目的外使用許可が認められています。これは国有財産法における行政財産の使用許可と同様の制度です。
公有財産の処分における鑑定評価の義務
適正な対価による処分
地方公共団体が普通財産を売払い・貸付け等により処分する場合には、適正な対価によることが求められます。
普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、これを交換し、出資の目的とし、若しくは支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けてはならない。― 地方自治法 第237条第2項
この「適正な対価」の算定において、不動産鑑定評価が実質的に義務づけられているのが実務上の重要なポイントです。
鑑定評価の義務づけの根拠
地方自治法自体には不動産鑑定評価の実施を直接義務づける規定はありませんが、多くの地方公共団体は条例や内規において、一定金額以上の財産の処分に際して不動産鑑定評価を取得することを義務づけています。
また、不動産鑑定評価基準の留意事項において、公有財産の取得・処分は鑑定評価の対象として想定されている分野です。公示地価とは何かで解説されている地価公示制度も、公有財産の適正な対価を判断する際の参考指標となります。
処分に必要な議会の議決
地方公共団体が一定の基準を超える財産を処分する場合には、議会の議決が必要とされています。
条例で定める場合を除くほか、議会の議決に付さなければならない契約及び財産の取得又は処分
― 地方自治法 第96条第1項第8号
具体的な基準は各地方公共団体の条例で定められていますが、例えば土地の売払いについては面積2,000平方メートル以上かつ予定価格5,000万円以上などの基準が設けられていることが一般的です。
住民監査請求との関係
地方公共団体の財産の処分が「適正な対価」によらないと考えられる場合、住民は住民監査請求(地方自治法第242条)を行い、監査委員に対して是正措置を講ずることを求めることができます。
不動産鑑定評価を取得せずに公有財産を低廉な価格で売却した場合や、鑑定評価額を大幅に下回る価格で売却した場合には、住民監査請求や住民訴訟の対象となるリスクがあります。このような観点からも、公有財産の処分における鑑定評価の実施は極めて重要です。
地方自治法において、地方公共団体の普通財産は適正な対価なくして譲渡することができないが、条例または議会の議決がある場合には適正な対価なくして譲渡することが認められる。
国有財産法と地方自治法の比較
国有財産法と地方自治法の財産管理に関する規定を比較整理します。
| 比較項目 | 国有財産法 | 地方自治法 |
|---|---|---|
| 対象財産 | 国有財産 | 公有財産 |
| 所有者 | 国 | 地方公共団体 |
| 財産の分類 | 行政財産・普通財産 | 行政財産・普通財産 |
| 行政財産の処分 | 原則禁止 | 原則禁止 |
| 使用許可 | 目的外使用許可あり | 目的外使用許可あり |
| 普通財産の処分 | 適正な対価で処分 | 適正な対価で処分 |
| 台帳制度 | 国有財産台帳 | 公有財産台帳 |
| 処分の統括 | 財務大臣 | 長(知事・市町村長) |
| 鑑定評価の活用 | 処分時に鑑定評価を実施 | 条例・内規で義務づけ |
両法とも、行政財産は原則処分禁止、普通財産は適正な対価による処分という基本的な枠組みを共有しています。不動産鑑定評価は、いずれの場合においても「適正な対価」を算定するための不可欠な手段として位置づけられています。
まとめ
国有財産法と公有財産の管理について、本記事で解説した内容のポイントを整理します。
- 国有財産の分類: 行政財産(公用・公共用・皇室用・森林経営用)と普通財産に大別。管理・処分の方法が根本的に異なる
- 行政財産の管理: 原則として処分禁止。使用許可(目的外使用許可)により限定的な利用を認める。処分するには用途廃止が必要
- 普通財産の処分: 売払い・貸付け等が可能。原則として一般競争入札。適正な対価(時価)に基づく
- 台帳価格と鑑定評価: 台帳価格は取得時の価格を基礎とし、時価と乖離が生じる。処分時には鑑定評価により適正な時価を算定
- 公有財産: 地方自治法に基づき、国有財産法と同様の行政財産・普通財産の区分で管理。処分には適正な対価が必要であり、鑑定評価が実質的に義務化
- 議会の議決と住民監査請求: 一定規模以上の財産処分には議会の議決が必要。鑑定評価を欠いた処分は住民監査請求のリスク
国有財産・公有財産の管理と処分は、公共事業と補償の基礎知識や土地収用法の概要と密接に関連する分野です。また、鑑定評価書の読み方を学ぶことで、国有財産・公有財産の処分における鑑定評価の実際の内容を理解することができるでしょう。