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不動産鑑定の収益還元法(直接還元法)を完全図解 - 適用手順と計算方法

収益還元法(直接還元法)の適用手順を完全図解。純収益の算定から還元利回りの求め方、収益価格の算出までの流れを、鑑定評価基準の引用とともに試験対策の視点で解説します。

はじめに ― 収益還元法は「収益性」から不動産の価値を測る手法

鑑定評価の三方式のうち、収益還元法は収益性に着目した手法です。「この不動産からどれだけの収益が得られるか」を基礎として、将来の収益を現在の価値に換算することで不動産の価格を求めます。

収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

収益還元法で求められる試算価格は「収益価格」と呼ばれます。収益用不動産(賃貸マンション、オフィスビル等)の評価では最も重視される手法であり、近年は自用の不動産についてもその適用が求められています。

収益還元法には大きく分けて「直接還元法」と「DCF法」の2つの方法があります。本記事では、直接還元法に焦点を当ててその適用手順を解説します。DCF法の詳細についてはDCF法の仕組みを完全理解をご覧ください。


直接還元法とDCF法の違い

まず、直接還元法とDCF法の違いを概観しておきましょう。

項目直接還元法DCF法
基本的な考え方一期間の純収益を還元利回りで割り戻す保有期間の各期の純収益と復帰価格を割引率で割り戻す
対象期間単一年度(標準化された1年間の純収益)複数年度(通常5〜10年の保有期間)
収支変動の反映純収益を安定的なものとして捉える各年の収支変動を個別に予測
適用の容易さ比較的簡潔詳細な将来予測が必要
主な適用場面一般的な収益不動産の評価証券化対象不動産の評価、大規模投資案件

直接還元法は、収益が比較的安定している不動産に適しており、その構造がシンプルで理解しやすいという特徴があります。


直接還元法の基本公式

直接還元法の基本公式は次のとおりです。

収益価格 = 純収益(a) ÷ 還元利回り(R)

ここで、

  • 純収益(a):対象不動産から得られる1年間の標準化された純収益
  • 還元利回り(R):キャップレートとも呼ばれ、純収益と不動産価格の関係を表す率
直接還元法は、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法である。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

例えば、年間の純収益が500万円、還元利回りが5%の場合:

収益価格 = 500万円 ÷ 0.05 = 1億円

この計算は「年間500万円の収益を生む不動産は、利回り5%で運用するなら1億円の価値がある」ということを意味しています。


Step 1:総収益の算定

総収益とは

総収益とは、対象不動産から得られる収入の総額です。賃貸不動産の場合、主に以下の項目で構成されます。

項目内容
支払賃料テナントから受け取る月額(年額)賃料
共益費テナントから受け取る共益費(管理費)
水道光熱費収入テナントに請求する水道光熱費
駐車場収入駐車場の賃料収入
その他収入看板設置料、アンテナ設置料、自動販売機収入等

空室損・貸倒れ損の控除

満室を前提とした総収入から、空室による損失(空室損)と、テナントの賃料未払いによる損失(貸倒れ損)を控除して、実効的な総収益を算出します。

実効総収益 = 潜在的総収益 − 空室等損失 − 貸倒れ損

確認問題

直接還元法における総収益の算定においては、空室損を考慮する必要はない。


Step 2:総費用の算定

総費用の内訳

総費用とは、対象不動産の運営に必要な経費の総額です。主に以下の項目で構成されます。

項目内容
維持管理費建物の清掃費、保守点検費、管理委託費
水道光熱費共用部分の水道光熱費(オーナー負担分)
修繕費日常的な小修繕の費用
プロパティマネジメントフィー不動産管理会社への報酬
テナント募集費用仲介手数料、広告費等
公租公課固定資産税、都市計画税
損害保険料火災保険、地震保険等の保険料
大規模修繕積立金将来の大規模修繕に備えた積立金

資本的支出と費用的支出の区別

修繕費の中には、建物の価値を維持するための通常の修繕(費用的支出)と、建物の価値を増加させる大規模修繕(資本的支出)があります。直接還元法の純収益算定においては、この区別が重要です。


Step 3:純収益の算定

純収益の計算

純収益は、総収益から総費用を差し引いて求めます。

純収益 = 総収益 − 総費用

なお、純収益の算定においては、対象不動産の標準的な状態を前提とすることが重要です。一時的に高い賃料で契約されている場合や、空室率が一時的に高い場合には、これらを標準化した上で純収益を求めます。

純収益の種類

鑑定評価における純収益には、いくつかの種類があります。

種類内容
NOI(Net Operating Income)営業純収益。減価償却費を控除しない純収益
NCF(Net Cash Flow)純キャッシュフロー。NOIから資本的支出を控除し、一時金の運用益を加算

直接還元法では、NOIを用いる場合とNCFを用いる場合がありますが、いずれの場合も還元利回りとの整合性が重要です。NOIを用いる場合はNOI利回りを、NCFを用いる場合はNCF利回りを使用します。


Step 4:還元利回り(キャップレート)の決定

還元利回りとは

還元利回りとは、純収益と不動産価格の関係を表す率であり、キャップレート(Cap Rate)とも呼ばれます。

還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

還元利回りの求め方

基準では、還元利回りの求め方として以下の方法が示されています。

  1. 類似の不動産の取引事例との比較から求める方法 ― 類似不動産の取引利回りを参考にする
  2. 借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法 ― 資金調達コストを反映
  3. 土地と建物に係る還元利回りから求める方法 ― 土地・建物各々の利回りを加重平均
  4. 割引率との関係から求める方法 ― 割引率から純収益の変動率を考慮して求める

実務上は、①の取引事例との比較が最も基本的な方法です。還元利回りの詳細についてはキャップレートとは?をご覧ください。

確認問題

還元利回り(キャップレート)は、将来の収益変動の予測や不確実性を一切含まない確定的な率である。


Step 5:収益価格の算出

純収益と還元利回りが決まれば、収益価格を算出できます。

収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り

計算例

あるオフィスビルの評価を例にとります。

項目金額
潜在的総収益3,000万円
空室損(5%)△150万円
実効総収益2,850万円
総費用1,050万円
純収益(NOI)1,800万円
還元利回り4.5%

収益価格 = 1,800万円 ÷ 0.045 = 4億円


収益還元法が重視されるケース

収益還元法は、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効である。また、不動産の価格は、一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり、収益は、不動産の経済価値の本質を形成するものである。したがって、この手法は、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものにはすべて適用すべきものであり、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるものである。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

この規定は非常に重要です。収益還元法は賃貸不動産だけでなく、自用の不動産にも適用すべきとされています。自用の住宅であっても、賃貸に出した場合を想定して収益価格を求めることが基準上求められています。

確認問題

収益還元法は、賃貸用不動産にのみ適用される手法であり、自用の住宅には適用できない。


試験での出題ポイント

  1. 直接還元法の基本公式 ― 収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り
  2. 純収益の算定 ― 総収益から総費用を差し引く構造の理解
  3. 還元利回りの求め方 ― 基準が定める4つの方法を列挙できるか
  4. 還元利回りの性質 ― 将来の変動予測と不確実性を含む
  5. 自用不動産への適用 ― 賃貸を想定して適用すべきとする基準の規定
  6. 直接還元法とDCF法の違い ― 分析期間と収支変動の扱い
  7. 空室損の考慮 ― 潜在的総収益から空室損を控除すること

暗記のポイント

基本公式の暗記

純÷利=収」 = 純収益 ÷ 還元利回り = 収益価格

総収益の算定

潜在 − 空室 − 貸倒 = 実効」 = 潜在的総収益 − 空室損 − 貸倒れ損 = 実効総収益

還元利回りの4つの求め方

類(るい)・借(しゃく)・土建(どけん)・割(わり)
= 類似事例比較・借入金と自己資金・土地と建物・割引率との関係

重要キーワード一覧

キーワード暗記ポイント
直接還元法「一期間の純収益」を「還元利回り」で還元
収益価格収益還元法で求めた試算価格の名称
純収益総収益 − 総費用
還元利回り変動予測と不確実性を含む
自用不動産「賃貸を想定することにより適用される」

まとめ

収益還元法(直接還元法)は、不動産の収益性に着目して価値を求める手法です。

  • 基本公式は「収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り
  • 純収益は「総収益 − 総費用」で求める
  • 還元利回りの求め方は基準で4つの方法が示されている
  • 自用の不動産にも適用すべきとされている(賃貸を想定)
  • 文化財等の市場性を有しない不動産を除きすべての不動産に適用
  • 試算価格の名称は「収益価格

収益還元法は不動産の経済価値の本質を反映する手法であり、鑑定評価において極めて重要な位置を占めています。DCF法についてはDCF法の仕組みを完全理解で詳しく解説しています。

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