定期借地権の鑑定評価
定期借地権の鑑定評価を解説。一般定期借地権・事業用定期借地権・建物譲渡特約付借地権の3種類の比較、普通借地権との違い、残存期間に応じた価格の逓減、更地返還の費用負担、取引慣行の成熟度に応じた評価手法の使い分けまで整理します。
定期借地権の鑑定評価とは
不動産鑑定士試験において、定期借地権の鑑定評価は、普通借地権とは異なる特殊な論点を含む分野です。定期借地権は、借地借家法第2章第4節に規定されるもので、契約期間の満了に伴う更新がなされない点が最大の特徴です。
鑑定評価基準は、借地権の鑑定評価に関する各論第1章第1節において、定期借地権の評価に特有の事項を定めています。借地権の鑑定評価で普通借地権の評価方法を解説していますが、本記事では定期借地権に焦点を当てて解説します。
普通借地権と定期借地権の違い
基本的な違い
| 項目 | 普通借地権 | 定期借地権 |
|---|---|---|
| 更新 | あり(正当事由がなければ更新拒絶不可) | なし(契約期間満了で終了) |
| 期間 | 30年以上(更新後は初回20年、以後10年) | 種類に応じて50年以上等 |
| 契約の方式 | 制限なし | 書面による契約等の要件あり |
| 期間満了時 | 建物買取請求権等あり | 原則として更地返還 |
| 借地権価格 | 取引慣行の成熟度による | 残存期間に応じて逓減 |
定期借地権の種類
借地借家法は、3種類の定期借地権等を定めています。
| 種類 | 存続期間 | 利用目的 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 一般定期借地権 | 50年以上 | 制限なし | 更新なし、建物買取請求権なし |
| 事業用定期借地権等 | 10年以上50年未満 | 専ら事業用 | 公正証書による設定 |
| 建物譲渡特約付借地権 | 30年以上 | 制限なし | 期間満了時に建物を譲渡 |
定期借地権の鑑定評価の留意事項
基準が定める留意事項
鑑定評価基準は、借地権の鑑定評価において勘案すべき事項として、定期借地権に固有の事項を加えています。
普通借地権の評価で勘案すべき(ア)~(キ)の事項に加え、定期借地権の評価では以下の事項も勘案する必要があります。
| 勘案事項 | 内容 |
|---|---|
| (ク) 借地期間満了時の建物等に関する契約内容 | 更地返還か建物譲渡かの取決め |
| (ケ) 契約期間中に建物の建築及び解体が行われる場合における建物の使用収益が期待できない期間 | 建物利用が不可能な期間のコスト |
更新がないことの影響
定期借地権の最大の特徴は、契約期間の満了に伴う更新がなされないことです。この特性は価格形成に次のような影響を与えます。
- 残存期間の経過に伴い価格が逓減: 普通借地権は更新が前提のため価格が比較的安定するのに対し、定期借地権は残存期間が短くなるほど価格が低下する
- 更地返還の費用負担: 期間満了時に原則として更地返還が求められるため、建物の解体費用を見込む必要がある
- 建物の経済的耐用年数との関係: 借地期間と建物の経済的耐用年数の整合性が重要
定期借地権の価格の構成
借地権の価格の意義
借地権の価格は、借地借家法に基づき土地を使用収益することにより借地権者に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものである。
― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第1節
借地権者に帰属する経済的利益の中心は以下の2つです。
- 安定的利益: 土地を長期間占有し、独占的に使用収益し得る借地権者の安定的利益
- 賃料差額に基づく利益: 適正な賃料と実際支払賃料との乖離に基づく経済的利益
定期借地権の場合の特殊性
定期借地権の場合、これらの経済的利益は残存期間の制約を受けます。
| 要素 | 普通借地権 | 定期借地権 |
|---|---|---|
| 安定的利益 | 更新を前提に長期にわたる | 残存期間に限定される |
| 賃料差額 | 長期的に持続し得る | 残存期間の範囲内で持続 |
| 復帰の可能性 | 更新により持続 | 期間満了で消滅 |
定期借地権の鑑定評価手法
取引慣行の成熟度による区分
定期借地権も普通借地権と同様に、取引慣行の成熟度によって評価手法が異なります。
取引慣行の成熟度が高い地域では、借地権及び借地権を含む複合不動産の取引事例に基づく比準価格、土地残余法による収益価格、賃料差額を還元して得た価格、借地権割合により求めた価格を関連づけて決定します。
取引慣行の成熟度が低い地域では、土地残余法による収益価格、賃料差額を還元して得た価格、更地等の価格から底地価格を控除して得た価格を関連づけて決定します。
DCF法の活用
定期借地権の鑑定評価においては、有限の期間における収益を現在価値に割り引くDCF法のアプローチが有効です。定期借地権は契約期間の満了で権利が消滅するため、残存期間にわたる純収益の現在価値の総和として権利価格を把握することが理論的に整合的です。
底地との関係
定期借地権が付着した底地の鑑定評価においても、定期借地権固有の留意事項が適用されます。
定期借地権及び定期借地権が付着した底地の鑑定評価に当たって留意すべき事項は次のとおりである。(ア)定期借地権は、契約期間の満了に伴う更新がなされないこと。(イ)契約期間満了時において、借地権設定者に対し、更地として返還される場合又は借地上の建物の譲渡が行われる場合があること。
― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第1節(留意事項)
底地の鑑定評価も併せて参照してください。
前払地代の取扱い
定期借地権に特有の概念として前払地代があります。前払地代とは、賃料の前払的性格を有する一時金で、定期借地権に係る賃貸借契約において授受されることがあります。
留意事項は、前払地代について「各期の前払地代及び運用益を、それぞれ考慮するものとする」と規定しています。前払地代は、権利金等の他の一時金とは性格が異なるため、その経済的効果を適切に把握する必要があります。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 定期借地権の定義: 「借地借家法第2章第4節に規定する定期借地権等」
- 更新の有無: 定期借地権は「契約期間の満了に伴う更新がなされない」
- 追加の勘案事項: (ク)借地期間満了時の建物等の契約内容、(ケ)使用収益が期待できない期間
- 前払地代: 定期借地権に特有の一時金の性格
論文式試験
論点1: 定期借地権と普通借地権の価格形成の違い。 更新の有無が価格にどう影響するかを論述する問題です。
論点2: 定期借地権の残存期間と価格の関係。 残存期間の経過に伴う価格の逓減メカニズムを論述する問題です。
暗記のポイント
- 定期借地権の最大の特徴: 「契約期間の満了に伴う更新がなされない」
- 追加勘案事項(ク): 「借地期間満了時の建物等に関する契約内容」
- 追加勘案事項(ケ): 「建物の使用収益が期待できない期間」
- 期間満了時: 「更地として返還又は建物の譲渡」
まとめ
定期借地権の鑑定評価は、更新がなされないという最大の特徴を踏まえた上で、残存期間の経過に伴う価格の逓減、期間満了時の建物に関する契約内容、使用収益が期待できない期間等の固有の事項を勘案して行います。
定期借地権の価格は、残存期間に限定された経済的利益を反映するものであり、普通借地権とは価格形成のメカニズムが異なります。DCF法的なアプローチが理論的に整合的であり、有限の期間における収益の現在価値として把握されます。
定期借地権の理解を深めるために、借地権の鑑定評価、底地の鑑定評価、不動産の種別と類型の完全整理、DCF法の仕組み、収益還元法の基本的な考え方も併せて参照してください。