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不動産鑑定のDCF法 - 割引率と復帰価格から収益価格を求める計算図解

不動産鑑定のDCF法の計算手順を数値例で図解。保有期間の決定、毎期の純収益の予測(賃料変動・空室率変動を反映)、割引率の設定、復帰価格の算出、現在価値への割引計算まで、賃貸オフィスビル5年保有の事例で具体的な計算過程を解説します。

DCF法の全体像

DCF法(Discounted Cash Flow法)は、収益還元法の手法の一つであり、不動産が将来にわたって生み出す収益を「現在の価値」に換算して合計する方法です。直接還元法が1期間の純収益を一括して還元するのに対し、DCF法は複数期間の収益を個別に予測して合算する点に特徴があります。

DCF法は、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を予測しそれらを明示することから、収益価格を求める過程について説明性に優れたものである。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

DCF法は証券化対象不動産の鑑定評価において原則的に適用が義務づけられる手法であり、投資家への説明責任が重視される局面で力を発揮します。受験上も、計算過程の各ステップが「何のために」「何を予測しているのか」を言語化できることが、論文式・短答式の双方で得点に直結します。

本記事では、DCF法の仕組みで解説した概念を踏まえ、賃貸オフィスビルの保有期間5年というシンプルな事例を用いて、計算プロセスを一行ずつ図解します。「DCF法 計算 例題」「DCF法 復帰価格 計算」「DCF法 図解」といった疑問に対して、数値の出どころまで遡って確認できる構成にしています。


計算手順の全体フロー

ステップ1:保有期間の決定
  └→ 典型的な投資家が保有する期間を設定
      ↓
ステップ2:毎期の純収益の予測
  └→ 各年度の総収益・総費用を個別に予測
      ↓
ステップ3:割引率の決定
  └→ 現在価値に割り引くための率を設定
      ↓
ステップ4:復帰価格の算出
  └→ 保有期間満了時の売却価格を求める
      ↓
ステップ5:収益価格の算出
  └→ 毎期の純収益の現在価値 + 復帰価格の現在価値

この5ステップは「予測(ステップ1・2)→ 率の決定(ステップ3)→ 出口の価値化(ステップ4)→ 現在価値への集約(ステップ5)」という流れで理解すると記憶に定着しやすくなります。以下では各ステップを、対応する基準の記述とともに掘り下げます。


基本算式

DCF法の基本算式は以下のとおりです。

$$P = \sum_{k=1}^{n} \frac{a_k}{(1+Y)^k} + \frac{PR}{(1+Y)^n}$$
  • $P$:求める不動産の収益価格
  • $a_k$:毎期の純収益
  • $Y$:割引率
  • $n$:保有期間
  • $PR$:復帰価格

この算式は大きく2つの部分から構成されています。

部分意味
$\sum \frac{a_k}{(1+Y)^k}$保有期間中の毎期の純収益を現在価値に換算した合計
$\frac{PR}{(1+Y)^n}$保有期間満了時の売却価格(復帰価格)を現在価値に換算した額

直接還元法の算式との対応

DCF法と直接還元法は、いずれも将来収益を価値に変換する点で共通していますが、算式の形が大きく異なります。両者を並べて捉えると、DCF法が直接還元法を「期間ごとに分解したもの」であることが見えてきます。

項目直接還元法DCF法
基本算式$P = \dfrac{a}{R}$$P = \sum \dfrac{a_k}{(1+Y)^k} + \dfrac{PR}{(1+Y)^n}$
純収益の扱い一期間の標準化純収益を一括還元各期の純収益を個別に予測
用いる率還元利回り $R$割引率 $Y$ + 最終還元利回り $R_n$
収益変動の反映率($R$)の中に織り込む各期の収益額に直接反映
説明性簡便だが内訳が見えにくい各期のキャッシュフローを明示できる

このように、直接還元法は「変動を率に押し込める」のに対し、DCF法は「変動を金額として表に出す」手法です。だからこそDCF法は割引率に変動予測を二重に含めない設計になっており、この点は後述するステップ3の理解にも直結します。

等比数列としての理解(無限等比級数との関係)

純収益が毎期一定で永久に続き、変動もないと仮定すると、DCF法の第1項(保有期間を無限大とした極限)は無限等比級数の和に収束し、

$$\sum_{k=1}^{\infty} \frac{a}{(1+Y)^k} = \frac{a}{Y}$$

となります。これは直接還元法の $P = a / R$ と同じ形です。つまり「収益も率も一切変動しない世界」では、DCF法と直接還元法は数学的に一致します。両手法に乖離が生まれるのは、収益や率の将来変動を見込むからにほかなりません。この対応関係を押さえておくと、後述する両手法の検証(クロスチェック)の意味が腑に落ちます。


ステップ1:保有期間の決定

保有期間は、毎期の純収益及び復帰価格について精度の高い予測が可能な期間として決定する必要があり、不動産投資における典型的な投資家が保有する期間を標準とし、典型的な投資家が一般に想定しないような長期にわたる期間を設定してはならない。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

実務では一般に5年〜10年が設定されることが多く、証券化不動産では10年が標準的です。

本記事の計算例では保有期間5年を設定します。

保有期間を「長くしすぎてはいけない」理由

基準は保有期間について「典型的な投資家が一般に想定しないような長期にわたる期間を設定してはならない」と明示しています。これは、保有期間を長くするほど遠い将来のキャッシュフロー予測の精度が落ち、説明性に優れるというDCF法の長所が損なわれるためです。一方で、保有期間を短くしすぎると復帰価格の構成比が高くなり、最終還元利回りの設定が価格全体を支配してしまいます。

保有期間メリット留意点
短い(3年程度)近い将来のため予測精度が高い復帰価格の比重が大きくなり最終還元利回り依存が強まる
標準(5〜10年)投資家行動と整合的でバランスが良い大規模修繕の織り込みなど中期予測が必要
長い(15年超)期中収益の比重が増す遠い将来の予測精度が低下し説明性が低下

保有期間と復帰価格の発生時点

保有期間を $n$ 年と設定した場合、復帰価格は $n$ 年目の期末(= $n+1$ 期の直前)に発生する売却対価として扱います。本例では5年目末に売却することを想定するため、復帰価格は5年目末の割引係数で現在価値に割り戻します。「保有期間中の純収益は1〜5年目」「復帰価格は5年目末」という時間軸の整理が、ステップ5の計算ミスを防ぐ鍵になります。


ステップ2:毎期の純収益の予測

前提条件

項目内容
対象不動産賃貸オフィスビル(RC造、築10年)
延床面積500m2
貸室面積400m2
現行賃料月額3,000円/m2
賃料改定3年目に3%上昇を想定
空室率1〜2年目5%、3年目以降3%に改善

総収益の予測

項目1年目2年目3年目4年目5年目
賃料収入14,400,00014,400,00014,832,00014,832,00014,832,000
共益費2,400,0002,400,0002,400,0002,400,0002,400,000
その他収入600,000600,000600,000600,000600,000
満室想定収益17,400,00017,400,00017,832,00017,832,00017,832,000
空室損失▲870,000▲870,000▲534,960▲534,960▲534,960
有効総収益16,530,00016,530,00017,297,04017,297,04017,297,040

賃料収入の計算根拠

賃料収入は「貸室面積 × 月額単価 × 12か月」で求めます。1〜2年目は、

$$400\text{m}^2 \times 3{,}000\text{円} \times 12\text{か月} = 14{,}400{,}000\text{円}$$

3年目に賃料が3%上昇する想定のため、3年目以降は、

$$14{,}400{,}000 \times 1.03 = 14{,}832{,}000\text{円}$$

となります。このように、DCF法では「いつ・どれだけ賃料が動くか」という予測を数値そのものに反映させる点が重要です。

空室損失の計算根拠

空室損失は「満室想定収益 × 空室率」で求めます。1〜2年目は空室率5%のため、

$$17{,}400{,}000 \times 5\% = 870{,}000\text{円}$$

3年目以降は稼働改善により空室率3%へ低下する想定のため、

$$17{,}832{,}000 \times 3\% = 534{,}960\text{円}$$

となります。空室率を「1〜2年目は高く、3年目以降は低い」と段階的に変えている点が、賃貸市場の回復を織り込んだ予測の例です。

総費用の予測

項目1年目2年目3年目4年目5年目
維持管理費1,800,0001,800,0001,836,0001,836,0001,836,000
公租公課1,500,0001,500,0001,500,0001,500,0001,500,000
損害保険料150,000150,000150,000150,000150,000
修繕費500,000500,000500,0003,500,000500,000
その他経費200,000200,000200,000200,000200,000
総費用4,150,0004,150,0004,186,0007,186,0004,186,000

4年目に大規模修繕(外壁等)の実施を想定し、修繕費が増加しています。

DCF法の適用に当たっては、特に保有期間中における大規模修繕費等の費用の発生時期に留意しなければならない。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

各費用項目の性質

総費用の各項目は、毎期一定のもの・収益に連動して動くもの・特定年度に集中するものに分かれます。予測の際にはこの性質を意識すると、年度ごとの金額設定に一貫性が生まれます。

費用項目性質本例での扱い
維持管理費賃料・物価にやや連動3年目に賃料上昇に合わせ微増(1,800,000→1,836,000)
公租公課評価額に基づき比較的安定全期一定
損害保険料契約条件で固定的全期一定
修繕費通常分+大規模修繕で変動通常500,000、4年目のみ3,500,000
その他経費雑費等全期一定

ポイントは修繕費です。通常の維持的修繕(毎期500,000円)に加え、4年目に外壁改修等の大規模修繕3,000,000円が上乗せされ、合計3,500,000円となっています。基準が「大規模修繕費等の費用の発生時期に留意」と求めているのは、まさにこの一時的な費用増を、平準化せず発生年度にそのまま計上することがDCF法の本質だからです。

純収益の算定

項目1年目2年目3年目4年目5年目
有効総収益16,530,00016,530,00017,297,04017,297,04017,297,040
総費用4,150,0004,150,0004,186,0007,186,0004,186,000
純収益12,380,00012,380,00013,111,04010,111,04013,111,040

4年目の純収益が大規模修繕により一時的に減少していることがわかります。これがDCF法の大きな強みです。直接還元法では表現しにくい時期ごとの収益変動を明示的に反映できます。

純収益の動きを読む

純収益の推移を時系列で眺めると、DCF法が何を「見える化」しているのかが明確になります。

年度純収益前年比主因
1年目12,380,000基準年度
2年目12,380,000±0横ばい
3年目13,111,040+731,040賃料3%上昇+空室率改善
4年目10,111,040▲3,000,000大規模修繕の発生
5年目13,111,040+3,000,000修繕完了で平常化

直接還元法であれば、この5年分を「標準化純収益」という1つの数値に平準化してしまいます。DCF法はあえて4年目の落ち込みを残すことで、投資家に対し「この物件はこの時期にキャッシュフローが沈む」という情報を正直に提示します。これが基準のいう「説明性に優れる」の具体的な中身です。

確認問題

DCF法では建物の減価償却費を各期の費用に計上して純収益を算定する。

償却前純収益を用いる理由

DCF法で減価償却費を控除しない理由は、復帰価格の仕組みと表裏一体です。建物の経年による価値減耗は、保有期間満了時の売却価格(復帰価格)が取得時よりも低くなることを通じて、すでに価格全体に織り込まれます。ここで各期の純収益からも減価償却費を控除すると、価値減耗を二重にカウントしてしまうことになります。したがってDCF法の期中純収益は償却前で統一し、減耗は出口(復帰価格)で一度だけ反映するのが正しい処理です。


ステップ3:割引率の決定

割引率の意義

割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率であり、還元利回りに含まれる変動予測と予測に伴う不確実性のうち、収益見通しにおいて考慮された連続する複数の期間に発生する純収益や復帰価格の変動予測に係るものを除くものである。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

DCF法では収益の変動を各期の純収益に直接反映するため、割引率には「既に反映済みの変動予測」を含める必要がありません。

割引率と還元利回りの関係を整理する

受験生がもっとも混同しやすいのが、割引率 $Y$ と還元利回り $R$ の関係です。両者は概念的に次の式で結ばれます。

$$R = Y - g$$

ここで $g$ は純収益の将来的な変動率(成長率)を表します。還元利回り $R$ は「変動予測を率の中に織り込んだ」ものであり、割引率 $Y$ から将来の収益成長分 $g$ を差し引いた水準になります。逆に言えば、純収益が将来増加する見込み($g > 0$)があるほど、還元利回りは割引率より低くなります。DCF法では成長分を各期の純収益額に織り込むため、割引率にはこの $g$ を含めません。この関係を押さえると、「なぜ割引率の方が還元利回りより高めになりがちか」が直感的に理解できます。

割引率を求める3つの方法

方法内容
(ア) 取引事例比較法類似不動産のIRR(内部収益率)をもとに求める
(イ) 借入金と自己資金$Y = Y_M \times W_M + Y_E \times W_E$
(ウ) 金融資産の利回り国債利回り + 不動産のリスクプレミアム

(イ) 借入金と自己資金から求める方法の補足

(イ)はいわゆる加重平均資本コスト(WACC)の考え方を不動産に適用したもので、各記号は次を意味します。

  • $Y_M$:借入金(負債)に係る利回り(借入金利相当)
  • $W_M$:価格に占める借入金の構成比
  • $Y_E$:自己資金(エクイティ)に求められる利回り
  • $W_E$:価格に占める自己資金の構成比($W_M + W_E = 1$

例えば借入金利2.0%・LTV(借入比率)60%、自己資金期待利回り7.0%・自己資金比率40%とすると、

$$Y = 2.0\% \times 0.6 + 7.0\% \times 0.4 = 1.2\% + 2.8\% = 4.0\%$$

となり、本例で採用する4.0%と整合する水準が得られます。複数の方法でクロスチェックして率の妥当性を確認するのが実務の作法です。

計算例:金融資産の利回りに個別性を加味する方法

項目数値
10年物国債利回り1.0%
不動産のリスクプレミアム2.5%
非流動性プレミアム0.5%
管理の困難性0.3%
個別性調整▲0.3%(優良立地のため)
割引率4.0%

ここでの考え方は「無リスク資産である国債の利回りを出発点に、不動産特有のリスク要因を積み上げ、対象不動産の個別性で微調整する」というものです。国債利回り(無リスク)1.0%にリスクプレミアム類(2.5%+0.5%+0.3%=3.3%)を加え、優良立地によるリスク低減(▲0.3%)を反映して、

$$1.0\% + 2.5\% + 0.5\% + 0.3\% - 0.3\% = 4.0\%$$

と算定しています。本計算例では割引率4.0%を採用します。


ステップ4:復帰価格の算出

復帰価格とは、保有期間満了時点における対象不動産の売却想定価格です。

$$PR = \frac{a_{n+1}}{R_n}$$
  • $a_{n+1}$$n+1$期(6年目)の純収益
  • $R_n$:最終還元利回り

復帰価格の算式の意味

復帰価格の算式は、保有期間満了時点に立って「その先の不動産を直接還元法で評価する」ことを表しています。5年保有後に売却する投資家は、買い手から見れば「6年目以降の収益を生む不動産」を買うことになります。そこで、6年目($n+1$期)の純収益を最終還元利回りで割り戻し、5年目末時点の売却価格を求めるわけです。つまり復帰価格の計算は「未来の時点における直接還元法」であり、ここで $a_{n+1}$(6年目の純収益)を使う理由もここにあります。

最終還元利回りの決定

最終還元利回りは、価格時点の還元利回りをもとに、保有期間満了時点における市場動向並びにそれ以降の収益の変動予測及び予測に伴う不確実性を反映させて求めることが必要である。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

最終還元利回りは、価格時点の還元利回りを基準として、将来の不確実性を加味して決定します。一般に、将来の不確実性が高い分、還元利回りよりやや高めに設定されます。

項目数値
価格時点の還元利回り4.5%
将来の不確実性等+0.5%
最終還元利回り($R_n$5.0%

最終還元利回りが高めになる理由

最終還元利回りが価格時点の還元利回りより高めに設定されるのは、主に次の2点によります。第一に、保有期間満了時点では対象不動産の築年数がさらに進み、建物の老朽化や設備の陳腐化リスクが高まるため、買い手はより高い利回り(=より安い価格)を求めます。第二に、将来時点の市場予測には現時点よりも大きな不確実性が伴うため、その分のプレミアムが上乗せされます。本例では4.5%に+0.5%を加え、5.0%としています。

復帰価格の計算

6年目の純収益は5年目と同水準(13,111,040円)を想定します。

$$PR = \frac{13,111,040}{0.05} = 262,220,800円$$

さらに、売却に要する費用(仲介手数料等、売却価格の3%と想定)を控除します。

$$PR(費用控除後) = 262,220,800 - 262,220,800 \times 3\% = 254,354,176円$$

売却費用を控除する理由は、復帰価格が「売主の手元に最終的に残る正味の回収額」を表すべきだからです。仲介手数料・登記費用・契約に伴う諸費用は、売却によって実際に流出するキャッシュであり、これを差し引いた後の金額こそが投資家にとっての真の回収価値となります。本例では売却価格の3%(262,220,800 × 3% = 7,866,624円)を控除し、254,354,176円を費用控除後の復帰価格としています。

確認問題

DCF法において、最終還元利回りは一般に価格時点の還元利回りよりも低く設定される。

確認問題

復帰価格の算定に用いる純収益は、保有期間最終年度(n年目)ではなく、その翌期(n+1年目)の純収益を用いるのが原則である。


ステップ5:収益価格の算出

すべての要素が揃いました。各年度の純収益と復帰価格を割引率4.0%で現在価値に換算します。

割引係数の意味と求め方

割引係数とは、将来の1円が現在の何円に相当するかを表す係数で、$\dfrac{1}{(1+Y)^k}$ で計算します。割引率4.0%($Y = 0.04$)の場合、各年度の割引係数は次のとおりです。

年度 $k$計算式割引係数
1$1/1.04^1$0.9615
2$1/1.04^2$0.9246
3$1/1.04^3$0.8890
4$1/1.04^4$0.8548
5$1/1.04^5$0.8219

年が進むほど割引係数が小さくなる、すなわち「遠い将来の収益ほど現在価値が小さくなる」点が割引計算の本質です。試験本番では電卓が使えないケースもあるため、$1.04^2 = 1.0816$$1.04^5 \fallingdotseq 1.2167$ のように、累乗を一段ずつ計算する手順に慣れておくと安心です。

現在価値の計算

年度純収益($a_k$割引係数 $\frac{1}{(1+0.04)^k}$現在価値
1年目12,380,0000.961511,904,000
2年目12,380,0000.924611,447,000
3年目13,111,0400.889011,656,000
4年目10,111,0400.85488,643,000
5年目13,111,0400.821910,776,000
純収益の現在価値合計54,426,000

各行は「純収益 × 割引係数」で求めます。例えば1年目は $12{,}380{,}000 \times 0.9615 \fallingdotseq 11{,}904{,}000$ 円、4年目は大規模修繕で純収益が落ちているため $10{,}111{,}040 \times 0.8548 \fallingdotseq 8{,}643{,}000$ 円と、他の年度より現在価値が低くなっています。

項目金額
復帰価格(費用控除後)254,354,176円
割引係数(5年目末)0.8219
復帰価格の現在価値209,052,000円

復帰価格は5年目末に発生するため、5年目の割引係数0.8219で割り戻します。$254{,}354{,}176 \times 0.8219 \fallingdotseq 209{,}052{,}000$ 円です。

最終的な収益価格

$$P = 54,426,000 + 209,052,000 = 263,478,000円$$

収益価格は約2億6,348万円と求められます。

収益価格の構成比

構成要素金額構成比
純収益の現在価値合計54,426,000円20.7%
復帰価格の現在価値209,052,000円79.3%
合計263,478,000円100%

復帰価格の割合が約80%を占めています。これはDCF法の特徴であり、復帰価格(最終還元利回り)の設定が収益価格全体に大きな影響を与えることを示しています。保有期間が短いほどこの傾向は強まり、逆に保有期間を長くとれば期中純収益の比重が増していきます。したがって「保有期間の設定」と「最終還元利回りの設定」は、収益価格の信頼性を左右する二大要素として、鑑定評価書でも丁寧な説明が求められます。


DCF法の感度分析

割引率と最終還元利回りの変動が収益価格に与える影響を確認します。

割引率 \ 最終還元利回り4.5%5.0%5.5%
3.5%301,200,000275,600,000254,800,000
4.0%290,500,000263,478,000245,200,000
4.5%280,300,000256,100,000236,100,000

割引率が0.5%変動すると収益価格は約1,000万円変動し、最終還元利回りが0.5%変動すると約2,000〜2,500万円変動します。このように、最終還元利回りの方が収益価格への感応度が高いことがわかります。

なぜ最終還元利回りの感応度が高いのか

最終還元利回りの感応度が高い理由は、収益価格の約8割を占める復帰価格が $PR = a_{n+1} / R_n$ という割り算で決まるためです。分母である最終還元利回りがわずかに動くだけで、復帰価格そのものが大きく変動します。例えば $R_n$ を5.0%から4.5%へ0.5ポイント下げると、

$$\frac{13{,}111{,}040}{0.045} \fallingdotseq 291{,}356{,}000\text{円}$$

となり、5.0%時の262,220,800円から約2,900万円も増加します(売却費用控除前ベース)。一方、割引率の変動は期中純収益と復帰価格の双方に影響しますが、その効果は累乗の割り戻しを通じて相対的に緩やかに表れます。このため、鑑定評価では最終還元利回りの根拠づけがとりわけ重視されます。


DCF法適用上の留意点とよくある誤り

計算自体は機械的でも、前提の置き方を誤ると価格が大きくぶれます。受験・実務の双方で頻出する留意点を整理します。

論点正しい扱いよくある誤り
期中純収益償却前の純収益を用いる減価償却費を控除してしまう
復帰価格に用いる純収益n+1期(翌期)の純収益n期(最終年度)の純収益を使う
最終還元利回り還元利回りより高めに設定還元利回りと同一・低めに設定
大規模修繕費発生年度にそのまま計上全期に平準化してならす
割引率の変動予測各期の収益に反映済みのため率には含めない還元利回りと混同し変動予測を二重計上
売却費用復帰価格から控除控除を失念し価格を過大評価

賃料の予測における「現行賃料」と「市場賃料」のギャップ

DCF法で期中の賃料を予測する際は、現行の契約賃料が市場賃料と乖離しているケースに注意が必要です。契約賃料が市場賃料を上回る(オーバーレント)状態であれば、契約更新時に賃料が下方改定されるリスクを織り込む必要があり、逆に下回る(アンダーレント)状態であれば、更新時の増額余地を見込みます。本記事の例では3年目に賃料が3%上昇すると単純化していますが、実務ではこうした市場との乖離やテナントの入替え(リーシング)に伴う一時的な空室・フリーレントまで予測対象となります。


出題ポイントと暗記のコツ

短答式・論文式で問われやすい論点

  • 割引率と還元利回りの定義の違い($R = Y - g$ の関係)
  • 復帰価格に用いる純収益は「翌期(n+1期)」である点
  • 最終還元利回りは還元利回りより「高め」に設定される傾向
  • 期中純収益は「償却前」を用いる点
  • DCF法は「説明性に優れる」手法であり、証券化対象不動産で原則適用される点
  • 保有期間は「典型的な投資家が保有する期間」を標準とし、過度に長期としてはならない点

暗記のための語呂・整理

混同しやすい3つの率は、次のように相対的な大小関係で覚えると整理しやすくなります。

$$\text{還元利回り } R \;<\; \text{割引率 } Y, \qquad \text{還元利回り } R \;<\; \text{最終還元利回り } R_n$$

「還元利回りが一番低く、割引率と最終還元利回りはそれより高い」という大小感覚を持っておくと、選択肢の正誤判定で迷いにくくなります(あくまで一般的傾向であり、市場環境により逆転しうる点には留意してください)。

また、5ステップは「保有期間 → 純収益 → 割引率 → 復帰価格 → 収益価格」の順で、「ホ・ジュ・ワ・フ・シュ」と頭文字を並べて手順を想起する方法も有効です。

確認問題

DCF法では、各期の純収益に既に反映させた変動予測を、割引率にも重ねて含めるべきである。


直接還元法との比較検証

同一物件について直接還元法による検証を行うことが実務では重要です。

手法収益価格
DCF法263,478,000円
直接還元法(標準化純収益12,500,000円 / 4.5%)277,778,000円

両者に大きな乖離がある場合は、前提条件の見直しが必要です。

乖離が生じる典型的な要因

DCF法と直接還元法の結果に乖離が出るのは、本質的に「収益変動の織り込み方」が異なるためです。本例では、4年目の大規模修繕や、保有期間が5年と短く復帰価格の比重が高いことが、両手法の差につながっています。乖離の原因として典型的なのは次のとおりです。

乖離要因説明
大規模修繕など一時的費用DCF法は発生年度に計上、直接還元法は標準化で平準化
保有期間の長短期間が短いほど復帰価格(=最終還元利回り)依存が強まる
還元利回りと最終還元利回りの差出口の利回り設定が両手法の前提でずれる
賃料・空室率の変動予測DCF法は段階的に、直接還元法は標準値で反映

乖離が小さければ両手法が相互に妥当性を裏づけ、乖離が大きければどちらかの前提に見直しの余地があるサインとなります。鑑定評価書では、両手法の結果と乖離理由をあわせて記載し、最終的な収益価格の説得力を高めます。


よくある質問(FAQ)

DCF法と直接還元法はどちらを使うべきですか

両手法は対立するものではなく、相互に補完する関係です。基準上、収益価格は両手法を併用して求めることが望ましいとされ、特に証券化対象不動産ではDCF法の適用が原則とされます。DCF法で求めた価格を直接還元法で検証する、という使い方が実務の基本形です。

保有期間6年目の純収益はなぜ必要なのですか

復帰価格を求めるためです。復帰価格は「保有期間満了時点における不動産の売却価格」であり、買い手は満了時点以降(6年目以降)の収益を取得します。そのため、翌期である6年目(n+1期)の純収益を最終還元利回りで還元して、5年目末時点の売却価格を算定します。

割引率と最終還元利回りは同じ値にしてよいですか

理論上は別概念であり、通常は一致しません。割引率は期中の各期収益を現在価値に割り戻す率、最終還元利回りは満了時点の不動産価格を求める率です。最終還元利回りは将来の不確実性を反映して還元利回りより高めになる傾向があり、結果として割引率と近い水準になることはありますが、両者を「同じだから」と安易に揃えるのは誤りです。

修繕費を毎年平準化して計上してはいけないのですか

DCF法の趣旨に反します。基準は「大規模修繕費等の費用の発生時期に留意」することを求めており、一時的な費用は発生年度にそのまま計上するのが原則です。平準化してしまうと、各期の純収益を正確に予測するというDCF法の長所が失われ、直接還元法との違いも曖昧になります。


まとめ

DCF法の計算手順は、保有期間の決定 → 毎期の純収益予測 → 割引率の決定 → 復帰価格の算出 → 現在価値の合計という5つのステップから構成されます。直接還元法と比べて計算過程は複雑ですが、収益の変動予測を個別に明示できる点で説明性に優れた手法です。

本記事の事例では、賃貸オフィスビルの保有期間5年・割引率4.0%・最終還元利回り5.0%という前提のもと、収益価格を約2億6,348万円と算定しました。そのうち約8割を復帰価格の現在価値が占めること、最終還元利回りの感応度が割引率より高いことなど、計算結果から読み取れる構造的な特徴も確認しました。

学習においては、まず基本算式を正確に理解し、各ステップの意味と注意点を把握することが重要です。特に、割引率と最終還元利回りの違い、復帰価格に用いる純収益が翌期(n+1期)であること、期中純収益が償却前であること、復帰価格の構成比が収益価格に与える影響を理解しておきましょう。これらは短答式・論文式の双方で繰り返し問われる定番論点です。

関連記事として、直接還元法の計算手順を完全図解DCF法の仕組みを完全理解キャップレートとは?還元利回り解説もあわせてご覧ください。

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