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不動産鑑定のDCF法 - 割引率と復帰価格から収益価格を求める計算図解

不動産鑑定のDCF法の計算手順を数値例で図解。保有期間の決定、毎期の純収益の予測(賃料変動・空室率変動を反映)、割引率の設定、復帰価格の算出、現在価値への割引計算まで、賃貸オフィスビル5年保有の事例で具体的な計算過程を解説します。

DCF法の全体像

DCF法(Discounted Cash Flow法)は、収益還元法の手法の一つであり、不動産が将来にわたって生み出す収益を「現在の価値」に換算して合計する方法です。直接還元法が1期間の純収益を一括して還元するのに対し、DCF法は複数期間の収益を個別に予測して合算する点に特徴があります。

DCF法は、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を予測しそれらを明示することから、収益価格を求める過程について説明性に優れたものである。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

本記事では、DCF法の仕組みで解説した概念を踏まえ、具体的な数値例を用いて計算プロセスを図解します。


計算手順の全体フロー

ステップ1:保有期間の決定
  └→ 典型的な投資家が保有する期間を設定
      ↓
ステップ2:毎期の純収益の予測
  └→ 各年度の総収益・総費用を個別に予測
      ↓
ステップ3:割引率の決定
  └→ 現在価値に割り引くための率を設定
      ↓
ステップ4:復帰価格の算出
  └→ 保有期間満了時の売却価格を求める
      ↓
ステップ5:収益価格の算出
  └→ 毎期の純収益の現在価値 + 復帰価格の現在価値

基本算式

DCF法の基本算式は以下のとおりです。

$$P = \sum_{k=1}^{n} \frac{a_k}{(1+Y)^k} + \frac{PR}{(1+Y)^n}$$
  • $P$:求める不動産の収益価格
  • $a_k$:毎期の純収益
  • $Y$:割引率
  • $n$:保有期間
  • $PR$:復帰価格

この算式は大きく2つの部分から構成されています。

部分意味
$\sum \frac{a_k}{(1+Y)^k}$保有期間中の毎期の純収益を現在価値に換算した合計
$\frac{PR}{(1+Y)^n}$保有期間満了時の売却価格(復帰価格)を現在価値に換算した額

ステップ1:保有期間の決定

保有期間は、毎期の純収益及び復帰価格について精度の高い予測が可能な期間として決定する必要があり、不動産投資における典型的な投資家が保有する期間を標準とし、典型的な投資家が一般に想定しないような長期にわたる期間を設定してはならない。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

実務では一般に5年〜10年が設定されることが多く、証券化不動産では10年が標準的です。

本記事の計算例では保有期間5年を設定します。


ステップ2:毎期の純収益の予測

前提条件

項目内容
対象不動産賃貸オフィスビル(RC造、築10年)
延床面積500m2
貸室面積400m2
現行賃料月額3,000円/m2
賃料改定3年目に3%上昇を想定
空室率1〜2年目5%、3年目以降3%に改善

総収益の予測

項目1年目2年目3年目4年目5年目
賃料収入14,400,00014,400,00014,832,00014,832,00014,832,000
共益費2,400,0002,400,0002,400,0002,400,0002,400,000
その他収入600,000600,000600,000600,000600,000
満室想定収益17,400,00017,400,00017,832,00017,832,00017,832,000
空室損失▲870,000▲870,000▲534,960▲534,960▲534,960
有効総収益16,530,00016,530,00017,297,04017,297,04017,297,040

総費用の予測

項目1年目2年目3年目4年目5年目
維持管理費1,800,0001,800,0001,836,0001,836,0001,836,000
公租公課1,500,0001,500,0001,500,0001,500,0001,500,000
損害保険料150,000150,000150,000150,000150,000
修繕費500,000500,000500,0003,500,000500,000
その他経費200,000200,000200,000200,000200,000
総費用4,150,0004,150,0004,186,0007,186,0004,186,000

4年目に大規模修繕(外壁等)の実施を想定し、修繕費が増加しています。

DCF法の適用に当たっては、特に保有期間中における大規模修繕費等の費用の発生時期に留意しなければならない。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

純収益の算定

項目1年目2年目3年目4年目5年目
有効総収益16,530,00016,530,00017,297,04017,297,04017,297,040
総費用4,150,0004,150,0004,186,0007,186,0004,186,000
純収益12,380,00012,380,00013,111,04010,111,04013,111,040

4年目の純収益が大規模修繕により一時的に減少していることがわかります。これがDCF法の大きな強みです。直接還元法では表現しにくい時期ごとの収益変動を明示的に反映できます。

確認問題

DCF法では建物の減価償却費を各期の費用に計上して純収益を算定する。


ステップ3:割引率の決定

割引率の意義

割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率であり、還元利回りに含まれる変動予測と予測に伴う不確実性のうち、収益見通しにおいて考慮された連続する複数の期間に発生する純収益や復帰価格の変動予測に係るものを除くものである。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

DCF法では収益の変動を各期の純収益に直接反映するため、割引率には「既に反映済みの変動予測」を含める必要がありません。

割引率を求める3つの方法

方法内容
(ア) 取引事例比較法類似不動産のIRR(内部収益率)をもとに求める
(イ) 借入金と自己資金$Y = Y_M \times W_M + Y_E \times W_E$
(ウ) 金融資産の利回り国債利回り + 不動産のリスクプレミアム

計算例:金融資産の利回りに個別性を加味する方法

項目数値
10年物国債利回り1.0%
不動産のリスクプレミアム2.5%
非流動性プレミアム0.5%
管理の困難性0.3%
個別性調整▲0.3%(優良立地のため)
割引率4.0%

本計算例では割引率4.0%を採用します。


ステップ4:復帰価格の算出

復帰価格とは、保有期間満了時点における対象不動産の売却想定価格です。

$$PR = \frac{a_{n+1}}{R_n}$$
  • $a_{n+1}$$n+1$期(6年目)の純収益
  • $R_n$:最終還元利回り

最終還元利回りの決定

最終還元利回りは、価格時点の還元利回りをもとに、保有期間満了時点における市場動向並びにそれ以降の収益の変動予測及び予測に伴う不確実性を反映させて求めることが必要である。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

最終還元利回りは、価格時点の還元利回りを基準として、将来の不確実性を加味して決定します。一般に、将来の不確実性が高い分、還元利回りよりやや高めに設定されます。

項目数値
価格時点の還元利回り4.5%
将来の不確実性等+0.5%
最終還元利回り($R_n$5.0%

復帰価格の計算

6年目の純収益は5年目と同水準(13,111,040円)を想定します。

$$PR = \frac{13,111,040}{0.05} = 262,220,800円$$

さらに、売却に要する費用(仲介手数料等、売却価格の3%と想定)を控除します。

$$PR(費用控除後) = 262,220,800 - 262,220,800 \times 3\% = 254,354,176円$$
確認問題

DCF法において、最終還元利回りは一般に価格時点の還元利回りよりも低く設定される。


ステップ5:収益価格の算出

すべての要素が揃いました。各年度の純収益と復帰価格を割引率4.0%で現在価値に換算します。

現在価値の計算

年度純収益($a_k$割引係数 $\frac{1}{(1+0.04)^k}$現在価値
1年目12,380,0000.961511,904,000
2年目12,380,0000.924611,447,000
3年目13,111,0400.889011,656,000
4年目10,111,0400.85488,643,000
5年目13,111,0400.821910,776,000
純収益の現在価値合計54,426,000
項目金額
復帰価格(費用控除後)254,354,176円
割引係数(5年目末)0.8219
復帰価格の現在価値209,052,000円

最終的な収益価格

$$P = 54,426,000 + 209,052,000 = 263,478,000円$$

収益価格は約2億6,348万円と求められます。

収益価格の構成比

構成要素金額構成比
純収益の現在価値合計54,426,000円20.7%
復帰価格の現在価値209,052,000円79.3%
合計263,478,000円100%

復帰価格の割合が約80%を占めています。これはDCF法の特徴であり、復帰価格(最終還元利回り)の設定が収益価格全体に大きな影響を与えることを示しています。


DCF法の感度分析

割引率と最終還元利回りの変動が収益価格に与える影響を確認します。

割引率 \ 最終還元利回り4.5%5.0%5.5%
3.5%301,200,000275,600,000254,800,000
4.0%290,500,000263,478,000245,200,000
4.5%280,300,000256,100,000236,100,000

割引率が0.5%変動すると収益価格は約1,000万円変動し、最終還元利回りが0.5%変動すると約2,000〜2,500万円変動します。このように、最終還元利回りの方が収益価格への感応度が高いことがわかります。


直接還元法との比較検証

同一物件について直接還元法による検証を行うことが実務では重要です。

手法収益価格
DCF法263,478,000円
直接還元法(標準化純収益12,500,000円 / 4.5%)277,778,000円

両者に大きな乖離がある場合は、前提条件の見直しが必要です。


まとめ

DCF法の計算手順は、保有期間の決定 → 毎期の純収益予測 → 割引率の決定 → 復帰価格の算出 → 現在価値の合計という5つのステップから構成されます。直接還元法と比べて計算過程は複雑ですが、収益の変動予測を個別に明示できる点で説明性に優れた手法です。

学習においては、まず基本算式を正確に理解し、各ステップの意味と注意点を把握することが重要です。特に、割引率と最終還元利回りの違い、復帰価格の構成比が収益価格に与える影響を理解しておきましょう。

関連記事として、直接還元法の計算手順を完全図解DCF法の仕組みを完全理解キャップレートとは?還元利回り解説もあわせてご覧ください。

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