不動産鑑定の直接還元法 - 純収益と還元利回りから収益価格を求める計算図解
不動産鑑定の直接還元法の計算手順を数値例で図解。総収益(賃料・共益費・一時金運用益等)の算定、総費用(維持管理費・公租公課等)の控除、純収益の算出、還元利回りの決定、収益価格の算出まで、オフィスビルの事例で計算過程を解説します。
直接還元法の全体像
不動産鑑定士試験において、直接還元法は収益還元法の中核的な手法です。不動産の収益性(インカムアプローチ)に着目し、「この不動産が1年間に生み出す純収益はいくらか」を出発点として、還元利回りで割り戻すことにより収益価格を求めます。
収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を収益価格という。)。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
直接還元法は、一期間の純収益を還元利回りで割ることで不動産の価格を一括して求める方法であり、DCF法と並ぶ収益価格の算出方法です。本記事では、計算手順を具体的な数値例とともに図解します。
計算手順の全体フロー
ステップ1:総収益の算定
└→ 支払賃料 + 一時金の運用益・償却額 + その他収入
↓
ステップ2:総費用の算定
└→ 維持管理費 + 公租公課 + 損害保険料 + 空室損失等
↓
ステップ3:純収益の算定
└→ 総収益 − 総費用 = 純収益
↓
ステップ4:還元利回りの決定
└→ 市場の実勢を反映した利回りを求める
↓
ステップ5:収益価格の算出
└→ 純収益 ÷ 還元利回り = 収益価格
基本算式
直接還元法の基本算式は極めてシンプルです。
- $P$:求める不動産の収益価格
- $a$:一期間の純収益
- $R$:還元利回り
たとえば、年間純収益が500万円、還元利回りが5%であれば、収益価格は $500万円 \div 0.05 = 1億円$ と算出されます。
ステップ1:総収益の算定
賃貸用不動産の場合
賃貸用不動産の総収益は以下の項目を合算して求めます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 支払賃料 | 賃借人が毎月支払う賃料 |
| 共益費 | 共用部分の管理費用として受け取る金額 |
| 保証金・敷金の運用益 | 預り金的性格の一時金を運用して得られる益 |
| 権利金等の運用益・償却額 | 賃料の前払的性格の一時金に係る収益 |
| 駐車場使用料等 | その他付帯収入 |
計算例:オフィスビル
| 項目 | 年間金額 |
|---|---|
| 支払賃料 | 18,000,000円(月額150万円 x 12) |
| 共益費 | 3,600,000円(月額30万円 x 12) |
| 保証金運用益(運用利回り2%) | 600,000円(保証金3,000万円 x 2%) |
| 駐車場使用料 | 1,200,000円(月額10万円 x 12) |
| 総収益(満室想定) | 23,400,000円 |
空室等損失の控除
賃貸用不動産についてのDCF法の適用に当たっては、特に賃貸借契約の内容並びに賃料及び貸室の稼動率の毎期の変動に留意しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
直接還元法でも空室損失を考慮する必要があります。満室想定の総収益から、想定される空室率に応じた金額を控除します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 総収益(満室想定) | 23,400,000円 |
| 空室等損失(空室率5%) | ▲1,170,000円 |
| 有効総収益 | 22,230,000円 |
直接還元法の基本算式 P = a / R において、Rは割引率を意味する。
ステップ2:総費用の算定
賃貸用不動産の総費用に含まれる項目は以下のとおりです。
| 費目 | 内容 | 計算例 |
|---|---|---|
| 維持管理費 | 清掃費、設備保守、管理委託費等 | 2,400,000円 |
| 修繕費 | 経常的な修繕に要する費用 | 800,000円 |
| 公租公課 | 固定資産税、都市計画税 | 2,000,000円 |
| 損害保険料 | 火災保険等の保険料 | 200,000円 |
| 貸倒れ準備費 | 賃料の回収不能に備える費用 | 100,000円 |
| 総費用 | 5,500,000円 |
償却前と償却後の純収益
基準では、建物等を含む不動産の純収益について償却前の純収益と償却後の純収益の区別が重要とされています。
建物その他の償却資産を含む不動産の純収益の算定においては、基本的に減価償却費を控除しない償却前の純収益を用いるべきであり、それに対応した還元利回りで還元する必要がある。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 償却前の純収益 | 減価償却費を控除しない。実務で多用される |
| 償却後の純収益 | 減価償却費を控除する。対応する還元利回りも異なる |
重要:純収益と還元利回りの整合性
償却前の純収益を使う場合は償却前に対応する還元利回りを、償却後の純収益を使う場合は償却後に対応する還元利回りを使用する必要があります。両者を混在させると、収益価格に誤差が生じます。
ステップ3:純収益の算定
計算例の続き
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 有効総収益 | 22,230,000円 |
| 総費用(減価償却費を含まない) | ▲5,500,000円 |
| 償却前の純収益 | 16,730,000円 |
標準化された純収益
直接還元法における純収益は、対象不動産の初年度の純収益を採用する場合と標準化された純収益を採用する場合があることに留意しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
初年度の純収益をそのまま採用すると、たまたまその年だけ高い(または低い)純収益だった場合に、収益価格が歪んでしまいます。そのため、中長期的に安定して得られると見込まれる標準化された純収益を採用することが多くあります。
| 手法 | 特徴 |
|---|---|
| 初年度純収益 | 当該年度の実績ベース。短期的変動の影響を受けやすい |
| 標準化された純収益 | 過去実績の平均や中長期予測に基づく。安定的 |
ステップ4:還元利回りの決定
還元利回りの意義
還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
還元利回りは単なる利回りではなく、将来の変動予測と不確実性を織り込んだ率です。この点がDCF法の割引率との大きな違いです。
還元利回りを求める5つの方法
基準は還元利回りを求める方法として以下の5つを例示しています。
| 方法 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| (ア) 取引事例比較法 | 類似不動産の取引事例から得られる利回りをもとに補正して求める |
| (イ) 借入金と自己資金 | 資金調達構成に応じた加重平均:$R = R_M W_M + R_E W_E$ |
| (ウ) 土地と建物等 | 物理的構成に応じた加重平均:$R = R_L W_L + R_B W_B$ |
| (エ) 割引率との関係 | 割引率から純収益の変動率を差し引く:$R = Y - g$ |
| (オ) 借入金償還余裕率 | 借入金返済の安全性を加味:$R = R_M W_M \times DSCR$ |
方法(イ)の計算例
借入金と自己資金の構成に着目する方法で実際に計算してみます。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 借入金還元利回り($R_M$) | 3.5% |
| 借入金割合($W_M$) | 70% |
| 自己資金還元利回り($R_E$) | 6.0% |
| 自己資金割合($W_E$) | 30% |
方法(エ)の計算例
割引率が5.0%、純収益の年間成長率が0.5%と想定される場合:
純収益が成長すると見込まれる場合、還元利回りは割引率より低くなります。逆に、純収益が減少すると見込まれる場合は割引率より高くなります。
還元利回りを求める方法のうち、「割引率との関係から求める方法」は R = Y + g の算式で表される。
ステップ5:収益価格の算出
計算例の完成
ステップ3で算定した純収益と、ステップ4で決定した還元利回りを用いて収益価格を算出します。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 償却前の純収益($a$) | 16,730,000円 |
| 還元利回り($R$) | 4.25% |
| 収益価格($P$) | 393,647,000円(≒3億9,365万円) |
土地残余法と建物残余法
直接還元法の応用手法として、土地残余法と建物残余法があります。これらは複合不動産の純収益を土地と建物に配分する手法です。
土地残余法
更地の評価や、建物価格が既知の場合に土地の価格を求める手法です。
- $P_L$:土地の収益価格
- $a$:建物等及びその敷地の償却前の純収益
- $B$:建物等の価格
- $R_B$:建物等の還元利回り
- $R_L$:土地の還元利回り
計算例:
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 複合不動産の純収益 | 16,730,000円 |
| 建物の価格 | 150,000,000円 |
| 建物の還元利回り | 5.5% |
| 土地の還元利回り | 3.5% |
土地の収益価格は約2億4,229万円と求められます。
建物残余法
土地価格が既知の場合に建物の価格を求める手法です。
注意点: 土地残余法は、建物等が新築か築後間もないものでなければなりません。古い建物の場合、純収益の配分が的確に行えないためです。
直接還元法とDCF法の使い分け
鑑定評価の三方式の中で収益還元法は特に重要ですが、直接還元法とDCF法はどのように使い分けるのでしょうか。
| 比較項目 | 直接還元法 | DCF法 |
|---|---|---|
| 基本算式 | $P = a / R$ | $P = \Sigma a_k/(1+Y)^k + PR/(1+Y)^n$ |
| 収益の把握 | 1期間の純収益 | 複数期間の純収益 + 復帰価格 |
| 将来変動の反映 | 還元利回りに包含 | 各期の収益に個別反映 |
| 説明性 | シンプル | 過程が明示的で優れる |
| 適用場面 | 安定収益物件 | 収益変動が大きい物件 |
直接還元法又はDCF法のいずれの方法を適用するかについては、収集可能な資料の範囲、対象不動産の類型及び依頼目的に即して適切に選択することが必要である。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
よくある計算ミスと注意点
1. 純収益と還元利回りの不整合
最も多いミスは、償却前の純収益に対して償却後の還元利回りを適用する(またはその逆)ケースです。必ず整合性を確認しましょう。
2. 総収益に含める項目の漏れ
保証金の運用益や権利金の償却額は見落としやすい項目です。賃料だけでなく、一時金に関連する収益も忘れずに計上します。
3. 空室率の未考慮
満室を前提とした収益で計算してしまうケースも散見されます。市場の実態を反映した空室率を適用する必要があります。
4. 還元利回りの根拠不足
還元利回りは収益価格を大きく左右します。取引事例からの利回りや、複数の方法を組み合わせて、合理的な根拠を持って決定することが重要です。
直接還元法における土地残余法は、建物が古い場合でも適用可能である。
まとめ
直接還元法は、$P = a / R$ というシンプルな算式でありながら、純収益の算定と還元利回りの決定に鑑定評価の本質が凝縮されています。計算手順を正確に理解することは、鑑定評価基準の全体像を把握するうえで不可欠です。
学習のポイントとしては、まず基本算式を確実に覚え、次に純収益の算定プロセス(総収益 → 空室損失控除 → 総費用控除)を整理し、最後に還元利回りの5つの求め方を理解するという順序が効果的です。
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