共同ビル・複合不動産の鑑定評価
共同ビル・複合不動産の鑑定評価を解説。建物及びその敷地の4類型(自用・貸家・借地権付・区分所有)の評価方法、三方式の併用原則、貸家及びその敷地における収益価格の位置づけ、配分法の活用、最有効使用の判定まで整理します。
複合不動産の鑑定評価とは
不動産鑑定士試験において、複合不動産の鑑定評価は、建物及びその敷地として一体的に把握される不動産の評価に関する重要テーマです。複合不動産とは、土地と建物が結合して有機的にその効用を発揮している不動産を指す実務的な用語であり、鑑定評価基準における「建物及びその敷地」に該当します。
鑑定評価基準は、各論第1章第2節の冒頭で、建物及びその敷地について各類型の鑑定評価方法を定めていますが、その基本的な考え方は土地と建物を一体として評価することにあります。
建物及びその敷地の類型
鑑定評価基準は、建物及びその敷地の類型として、以下の4つを定めています。
建物及びその敷地の類型は、その有形的利用及び権利関係の態様に応じて、自用の建物及びその敷地、貸家及びその敷地、借地権付建物、区分所有建物及びその敷地等に分けられる。
― 不動産鑑定評価基準 総論第2章第2節
| 類型 | 定義 | 主な鑑定評価手法 |
|---|---|---|
| 自用の建物及びその敷地 | 建物所有者と敷地所有者が同一人で、使用収益を制約する権利の付着なし | 積算価格、比準価格、収益価格を関連づけ |
| 貸家及びその敷地 | 建物所有者と敷地所有者が同一人で、建物が賃貸借に供されている | 収益価格を標準、積算価格・比準価格を比較考量 |
| 借地権付建物 | 借地権を権原とする建物が存する場合 | 自用の場合と賃貸の場合で異なる |
| 区分所有建物及びその敷地 | 専有部分と共用部分の共有持分及び敷地利用権 | 自用の場合と賃貸の場合で異なる |
不動産の種別と類型の完全整理で類型の体系を確認できます。
自用の建物及びその敷地の鑑定評価
基本的な考え方
自用の建物及びその敷地の鑑定評価額は、積算価格、比準価格及び収益価格を関連づけて決定するものとされています。
三方式を併用することが原則であり、各試算価格の説明力を検討した上で鑑定評価額を決定します。試算価格の調整の手順に従い、各試算価格の再吟味と説明力の検討を行います。
最有効使用との関係
自用の建物及びその敷地の鑑定評価においては、最有効使用の判定が重要です。
- 用途変更が最有効使用の場合: 用途変更後の経済価値の上昇の程度、必要な改造費等を考慮
- 建物の取壊しが最有効使用の場合: 建物の解体による発生材料の価格から取壊し費用を控除した額を、更地の最有効使用に基づく価格に加減
この判定は、更地と建付地の評価額の差で解説した最有効使用との格差の問題と密接に関連しています。
貸家及びその敷地の鑑定評価
収益価格を標準とする理由
貸家及びその敷地の鑑定評価額は、収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量して決定します。
貸家及びその敷地の鑑定評価額は、実際実質賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量して決定するものとする。
― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第2節
貸家及びその敷地では、賃貸借契約の存在が価格形成の中心的な要因です。賃料収入に基づく収益性が価格の基礎となるため、収益還元法による収益価格が最も規範性の高い試算価格となります。
総合的に勘案すべき事項
貸家及びその敷地の鑑定評価においては、以下の事項を総合的に勘案する必要があります。
| 勘案事項 | 内容 |
|---|---|
| 将来における賃料の改定の実現性とその程度 | 賃料が改定される可能性と改定幅 |
| 一時金の額及び契約条件 | 授受された一時金と将来見込まれる一時金 |
| 契約締結の経緯、借家期間及び建物の残存耐用年数 | 契約の背景と残存期間 |
| 貸家及びその敷地の取引慣行並びに取引利回り | 市場における取引の実態 |
| 借家権価格 | 借家人に帰属する経済的利益 |
配分法の活用
配分法の意義
鑑定評価基準は、取引事例比較法の適用方法のひとつとして配分法を定めています。配分法は、複合不動産の取引事例から、対象不動産と同類型の部分に係る価格を求める方法です。
取引事例が対象不動産と同類型の不動産の部分を内包して複合的に構成されている異類型の不動産に係る場合においては、当該取引事例の取引価格から対象不動産と同類型の不動産以外の部分の価格が取引価格等により判明しているときは、その価格を控除し、又は当該取引事例について各構成部分の価格の割合が取引価格、新規投資等により判明しているときは、当該事例の取引価格に対象不動産と同類型の不動産の部分に係る構成割合を乗じて、対象不動産の類型に係る事例資料を求めるものとする。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
割合法と控除法
複合不動産価格をもとに土地部分又は建物部分に帰属する額を配分する方法には、割合法と控除法の2つがあります。
| 方法 | 内容 | 適用場面 |
|---|---|---|
| 割合法 | 複合不動産価格に敷地(又は建物)の構成割合を乗じて求める | 構成割合が把握可能な場合 |
| 控除法 | 複合不動産価格から建物(又は敷地)の価格を控除して求める | 一方の価格が直接的に把握可能な場合 |
部分鑑定評価の考え方
部分鑑定評価の意義
部分鑑定評価とは、不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として、その不動産の構成部分を鑑定評価の対象とすることをいいます。
対象確定条件の解説で説明しているとおり、部分鑑定評価は対象確定条件のひとつです。建付地の鑑定評価や、建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合における建物のみの鑑定評価がこれに該当します。
部分鑑定評価の留意点
部分鑑定評価においては、全体としての不動産の経済価値と構成部分に配分される価値との整合性に留意する必要があります。土地部分の価値と建物部分の価値の合計が、全体としての価値と一致する必要はありませんが、その乖離の理由を合理的に説明できなければなりません。
共同ビルの鑑定評価
共同ビルの特殊性
共同ビルとは、複数の権利者が共同で建設・所有するビルのことです。共同ビルの鑑定評価においては、以下のような特殊性を考慮する必要があります。
| 特殊性 | 内容 |
|---|---|
| 権利関係の複雑さ | 複数の権利者が存在し、区分所有や共有等の態様がある |
| 管理・運営の制約 | 複数の権利者間での合意形成が必要 |
| 用途の混在 | 低層部が商業施設、高層部が住居等の複合用途 |
| 処分の制約 | 単独での処分が困難な場合がある |
区分所有建物との関連
共同ビルは、多くの場合区分所有建物及びその敷地の形態をとります。区分所有建物の鑑定評価においては、一棟の建物全体の価値を把握した上で、各専有部分への配分を行う必要があります。
積算価格は、区分所有建物の対象となっている一棟の建物及びその敷地の積算価格を求め、当該積算価格に当該一棟の建物の各階層別及び同一階層内の位置別の効用比により求めた配分率を乗ずることにより求めるものとする。
― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第2節
試験での出題ポイント
短答式試験
- 建物及びその敷地の類型の区分: 自用、貸家、借地権付建物、区分所有の違い
- 貸家及びその敷地: 「収益価格を標準とする」という鑑定評価の方法
- 配分法の定義: 割合法と控除法の違い
- 部分鑑定評価の意味: 対象確定条件のひとつとしての位置づけ
論文式試験
論点1: 自用の建物及びその敷地と貸家及びその敷地の鑑定評価の違い。 前者が三方式を関連づけるのに対し、後者が収益価格を標準とする理由を論述する問題です。
論点2: 配分法の意義と適用方法。 割合法と控除法のそれぞれの特徴と適用場面を論述する問題です。
論点3: 区分所有建物における階層別・位置別効用比。 一棟全体の価格から各専有部分への配分方法を論述する問題です。
暗記のポイント
- 自用の建物及びその敷地: 「積算価格、比準価格及び収益価格を関連づけて決定」
- 貸家及びその敷地: 「収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量」
- 配分法の2方法: 「割合法」(構成割合を乗じる)と「控除法」(他の部分の価格を控除)
- 部分鑑定評価: 「不動産の構成部分を鑑定評価の対象とすること」
まとめ
複合不動産の鑑定評価は、建物及びその敷地として一体的に把握される不動産を対象とし、その類型(自用、貸家、借地権付建物、区分所有)に応じた手法を適用します。自用の建物及びその敷地では三方式を関連づけ、貸家及びその敷地では収益価格を標準とします。
複合不動産の構成部分への価格配分には配分法(割合法・控除法)が活用され、部分鑑定評価の考え方に基づいて各構成部分の価格を合理的に求めます。
複合不動産の鑑定評価の理解を深めるために、自用の建物及びその敷地の評価、更地と建付地の評価額の差、区分所有建物の鑑定評価、収益還元法の基本的な考え方、原価法の仕組みと適用方法も併せて参照してください。