法人税法の不動産取引と税務の基礎知識
法人税法における不動産取引の時価の重要性を詳しく解説。低額譲渡・高額譲渡の課税リスク、同族会社間取引と時価、減価償却の税務、鑑定評価による時価証明の活用まで、不動産鑑定士試験対策に必要な知識を網羅します。
法人税法における不動産取引の時価の重要性
法人税法は、法人の所得に対して課税する法律です。法人が不動産取引を行う場合、その取引価格が税務上の「時価」と乖離していると、様々な課税上の問題が生じます。法人税法においては、資産の譲渡や取得に関して時価が極めて重要な概念であり、不動産鑑定評価はその時価を客観的に立証する手段として大きな役割を果たしています。
法人税法第22条第2項は、法人の各事業年度の所得の金額の計算について、益金の額に算入すべき金額を規定しています。
内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。― 法人税法 第22条第2項
注目すべきは、無償による資産の譲渡や無償による資産の譲受けも益金に算入される点です。法人税法は、法人間の取引は時価で行われるべきであるという前提(時価主義)に立っており、時価と異なる価格で取引が行われた場合には、税務上の調整が行われます。
法人税と不動産でも基本的な事項を解説していますが、本記事ではより詳細に、不動産取引における時価の問題と鑑定評価の活用について掘り下げます。
法人税法における「時価」の意義
時価の定義
法人税法における「時価」とは、一般的に不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する価額を意味するとされています。法人税法本体には時価の明確な定義規定はありませんが、法人税基本通達において具体的な取扱いが示されています。
不動産鑑定評価における「正常価格」の概念と比較すると、法人税法上の時価は以下のように対応します。
| 概念 | 定義 | 根拠 |
|---|---|---|
| 法人税法上の時価 | 不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する価額 | 法人税基本通達等 |
| 正常価格 | 市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格 | 不動産鑑定評価基準 |
両者は本質的に同様の概念を表しており、不動産鑑定評価による正常価格は、法人税法上の時価を立証する上で最も信頼性の高い根拠の一つとされています。
時価が問題となる場面
法人の不動産取引において時価が問題となる主な場面は以下の通りです。
- 低額譲渡:時価よりも著しく低い価格での譲渡
- 高額譲渡:時価よりも著しく高い価格での取得
- 無償譲渡:対価なしでの資産の移転
- 同族会社間取引:特殊関係者間での取引
- 現物出資:不動産を出資する場合の評価
- 適格合併・非適格合併:合併に伴う資産の移転
法人税法上の「時価」と不動産鑑定評価基準における「正常価格」は、本質的に異なる概念であり、鑑定評価額は法人税法上の時価の立証には使用できない。
低額譲渡と課税リスク
低額譲渡とは
低額譲渡とは、法人が資産を時価よりも著しく低い価格で譲渡することをいいます。法人税法上、低額譲渡が行われた場合、譲渡側法人には時価と実際の譲渡価格との差額について課税上の問題が生じます。
法人から法人への低額譲渡
法人が他の法人に対して時価よりも低い価格で不動産を譲渡した場合、譲渡側法人は時価で譲渡したものとして益金が計算されます。時価と実際の譲渡価格との差額は、寄附金として取り扱われます。
法人が資産を低い価額で譲渡した場合には、当該譲渡により、当該資産の譲渡の時における時価に相当する金額と当該対価の額との差額のうち実質的に贈与したと認められる金額は、寄附金の額に含まれるものとする。― 法人税法 第37条関連(法人税基本通達9-4-2の要旨)
一方、取得側法人は、時価と取得価格との差額について受贈益(益金)として課税される可能性があります。
具体例を示します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 不動産の時価 | 1億円 |
| 実際の譲渡価格 | 5,000万円 |
| 差額 | 5,000万円 |
- 譲渡側法人:時価1億円で譲渡したものとして、譲渡収入1億円を計上。差額5,000万円は寄附金として処理(損金算入限度額に注意)
- 取得側法人:差額5,000万円を受贈益として益金に算入
法人から個人への低額譲渡
法人が個人(役員等)に対して時価より低い価格で不動産を譲渡した場合、差額は役員賞与(役員の場合)又は給与(使用人の場合)として取り扱われます。役員賞与は法人の損金に算入できないため、法人側・個人側の双方に課税が生じる、いわゆる二重課税の問題が発生します。
高額譲渡と課税リスク
高額譲渡(高額取得)とは
高額譲渡とは、法人が資産を時価よりも著しく高い価格で取得する(又は時価よりも高い価格で売りつけられる)ことをいいます。法人が時価よりも高額で不動産を取得した場合にも、税務上の問題が生じます。
法人が高額で取得した場合
法人が時価よりも高い価格で不動産を取得した場合、時価を超える部分は取得原価ではなく、寄附金又は役員賞与等として処理される可能性があります。
例えば、時価1億円の不動産を1億5,000万円で取得した場合、差額の5,000万円は以下のように取り扱われる可能性があります。
| 取引相手 | 差額の取扱い |
|---|---|
| 第三者法人 | 寄附金(損金算入限度額あり) |
| 役員・関連個人 | 役員賞与(損金不算入) |
| 関連法人 | 寄附金(グループ法人税制の適用可能性あり) |
取得原価への影響
高額で取得した不動産の取得原価は、税務上は時価を基準として修正される可能性があります。その結果、減価償却費の計算や将来の売却時の譲渡損益にも影響が及びます。
法人が役員から時価1億円の不動産を1億5,000万円で取得した場合、差額の5,000万円は法人の損金に算入される。
同族会社間取引と時価
同族会社の定義
法人税法上の同族会社とは、株主等の3人以下並びにこれらと特殊の関係のある個人及び法人がその法人の発行済株式総数の50%超を保有する会社をいいます(法人税法第2条第10号)。
同族会社とは、会社(中略)の株主等(中略)の三人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資(中略)の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合その他政令で定める場合におけるその会社をいう。― 法人税法 第2条第10号
同族会社間取引の税務リスク
同族会社間(親族が経営する会社間、又はオーナーと会社の間)の不動産取引は、第三者間取引と異なり、取引価格が恣意的に決定される可能性があるため、税務当局から特に厳しい目で見られます。
同族会社間取引においては、以下の税務リスクがあります。
- 同族会社の行為計算の否認(法人税法第132条):同族会社の行為又は計算で、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものは、税務署長が否認できる
- 低額譲渡・高額譲渡:時価と異なる価格での取引は、前述の通り寄附金・受贈益・役員賞与等の問題を生じさせる
- 不動産の無償使用:同族会社が代表者所有の不動産を無償で使用する場合、適正な賃料との差額が問題となる
行為計算の否認
法人税法第132条は、同族会社の行為又は計算で、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものについて、税務署長がその行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより法人税を計算することができると規定しています。
税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。― 法人税法 第132条第1項
この規定は同族会社特有の課税上の問題に対処するためのものであり、不動産取引において時価と著しく乖離した価格での取引は、行為計算の否認の対象となるリスクがあります。
法人の不動産の減価償却と税務
減価償却の基本
法人が所有する建物は、その使用に伴い価値が減少するため、減価償却によりその取得価額を各事業年度の費用として配分します。法人税法における減価償却は、損金経理を要件として損金に算入されます。
償却方法
建物及び建物附属設備の減価償却方法は、税制改正により変遷があります。
| 取得時期 | 建物 | 建物附属設備・構築物 |
|---|---|---|
| 1998年3月31日以前取得 | 旧定額法又は旧定率法 | 旧定額法又は旧定率法 |
| 1998年4月1日〜2007年3月31日取得 | 旧定額法のみ | 旧定額法又は旧定率法 |
| 2007年4月1日〜2016年3月31日取得 | 定額法のみ | 定額法又は定率法 |
| 2016年4月1日以後取得 | 定額法のみ | 定額法のみ |
現行法上、建物・建物附属設備・構築物はすべて定額法のみが認められており、定率法は選択できません。
耐用年数
法人税法上の減価償却に用いる耐用年数は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(耐用年数省令)に規定されています。主な建物の法定耐用年数は以下の通りです。
| 構造 | 用途 | 法定耐用年数 |
|---|---|---|
| 鉄骨鉄筋コンクリート造 | 事務所 | 50年 |
| 鉄骨鉄筋コンクリート造 | 住宅 | 47年 |
| 鉄骨造(骨格材の肉厚4mm超) | 事務所 | 38年 |
| 木造 | 住宅 | 22年 |
中古資産の耐用年数
中古不動産を取得した場合は、法定耐用年数ではなく見積法又は簡便法による耐用年数を使用することができます。
簡便法の計算式
- 法定耐用年数を全部経過した場合:$法定耐用年数 \times 20\%$
- 法定耐用年数の一部を経過した場合:$法定耐用年数 - 経過年数 + 経過年数 \times 20\%$(1年未満切り捨て、最低2年)
減価償却と鑑定評価
不動産鑑定評価における建物の評価(原価法)でも、減価修正として経過年数に応じた減価を行いますが、鑑定評価上の減価と税務上の減価償却は必ずしも一致しません。
- 税務上の減価償却:法定耐用年数に基づく定額法による均等償却
- 鑑定評価上の減価修正:物理的減価、機能的減価、経済的減価を個別に判定
鑑定評価では建物の実態に即した減価修正を行うのに対し、税務上の減価償却は法定耐用年数に基づく画一的な計算となるため、両者の結果は異なることが一般的です。
2016年4月1日以後に取得した建物附属設備については、法人税法上、定率法を選択して減価償却を行うことができる。
鑑定評価による時価証明の活用
鑑定評価が求められる場面
法人の不動産取引において、不動産鑑定評価による時価証明が特に重要となる場面をまとめます。
| 場面 | 鑑定評価の目的 | リスク |
|---|---|---|
| 同族会社間の不動産売買 | 取引価格の妥当性を立証 | 低額譲渡・高額譲渡による課税 |
| 法人と役員間の不動産売買 | 時価での取引であることを証明 | 役員賞与認定 |
| 現物出資 | 出資する不動産の時価を評価 | 過大評価・過小評価による課税問題 |
| 法人の合併・分割 | 移転する不動産の時価を評価 | 合併比率・分割比率の適正性 |
| グループ内取引 | グループ法人間の取引価格の妥当性を立証 | 寄附金課税 |
| 事業承継 | 事業用不動産の時価を把握 | 承継に伴う課税リスク |
鑑定評価の信頼性と税務調査
税務調査において不動産の取引価格が問題となった場合、不動産鑑定評価書は時価を立証する最も有力な証拠の一つとなります。ただし、鑑定評価書があれば必ず税務当局に認められるわけではなく、以下の点が重視されます。
- 鑑定評価基準に準拠した適正な評価であること
- 評価の前提条件や手法の選択が合理的であること
- 鑑定士の独立性が確保されていること(利害関係のない鑑定士による評価)
- 評価時点が取引時点と近接していること
路線価・固定資産税評価額との関係
法人の不動産取引の時価について、路線価や固定資産税評価額を参考にする方法もありますが、これらはあくまで一つの参考指標に過ぎません。
| 評価指標 | 時価との関係 | 特徴 |
|---|---|---|
| 不動産鑑定評価額 | 時価そのものを表す | 最も直接的な時価の証拠 |
| 公示価格・基準地価 | 時価の参考指標 | 標準的な土地についての価格 |
| 路線価 | 公示価格の概ね80%水準 | 相続税・贈与税の課税基準 |
| 固定資産税評価額 | 公示価格の概ね70%水準 | 固定資産税の課税基準 |
不動産鑑定評価は、対象不動産の個別的要因(形状、接道状況、環境等)を反映した時価を算定するため、路線価等の画一的な指標よりも実態に即した時価を把握することができます。不動産鑑定が必要な5つのケースでも解説されているように、税務上の時価証明は鑑定評価の重要な活用場面です。
グループ法人税制と不動産取引
グループ法人税制の概要
2010年度税制改正により導入されたグループ法人税制は、完全支配関係(100%の持株関係)にある法人グループ内の取引について、特別な税務上の取扱いを定めるものです。
完全支配関係法人間の寄附金
完全支配関係がある法人間で寄附が行われた場合、支出側は全額損金不算入、受入側は全額益金不算入とされます。これにより、グループ内での資産移転に伴う課税関係が調整されます。
完全支配関係法人間の譲渡損益の繰延べ
完全支配関係がある法人間で一定の資産(帳簿価額1,000万円以上の不動産等)を譲渡した場合、その譲渡損益は繰り延べられ、グループ外への譲渡等が行われた時点で実現します。
この規定は、経済的に一体であるグループ法人間の資産移転に課税することは適当でないという考え方に基づいています。不動産鑑定評価においては、グループ法人間取引であっても時価を適切に把握しておくことが、将来の税務リスクの軽減につながります。
まとめ
法人税法における不動産取引では、時価の概念が中核をなしています。低額譲渡は寄附金課税や役員賞与認定のリスクを、高額譲渡は過大な取得原価の否認リスクをそれぞれ生じさせます。特に同族会社間や法人と役員間の取引では、行為計算の否認規定(法人税法第132条)の適用リスクも加わるため、時価の立証が極めて重要です。
不動産鑑定評価は、法人税法上の時価を客観的に立証する最も信頼性の高い手段であり、同族会社間取引、現物出資、合併・分割、事業承継など多くの場面で活用されています。減価償却については、建物・建物附属設備・構築物がすべて定額法に統一されている点を押さえておきましょう。
法人税法と不動産鑑定評価の関係をさらに深く学ぶには、法人税と不動産の基礎や鑑定評価書の読み方も参照してください。