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不動産鑑定における継続賃料の4手法を計算例で比較 - 差額配分法・利回り法ほか

不動産鑑定における継続賃料の4手法を計算例で比較。差額配分法(正常実質賃料との差額を配分)、利回り法(継続賃料利回りによる算定)、スライド法、賃貸事例比較法の算式と計算過程を統一事例で解説。配分率の決定や直近合意時点の概念も整理します。

継続賃料の鑑定評価

継続賃料とは、既に賃貸借契約が存在する不動産について、賃料改定時に適正と認められる賃料です。新規賃料が自由な市場を前提とするのに対し、継続賃料は既存の契約関係を前提として、賃貸人・賃借人の公平を図りつつ決定されるものです。

継続賃料の鑑定評価額は、現行賃料を前提として、契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点(以下「直近合意時点」という。)以降において、公租公課、土地及び建物価格、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の変動等のほか、賃貸借等の契約の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容を総合的に勘案し、契約当事者間の公平に留意の上決定するものである。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第2節

本記事では、継続賃料の求め方で解説した概念を踏まえ、4手法を具体的な数値例で比較します。


共通前提条件

以下の事案を想定して、4手法の計算例を示します。

項目内容
対象不動産事務所ビル1フロア(200m2)
現行賃料(実質賃料)月額1,000,000円(年額12,000,000円)
直近合意時点3年前
価格時点現時点
契約の経緯正常な取引で締結、これまで1回改定済み

直近合意時点から価格時点にかけての変動:

項目直近合意時点価格時点変動率
基礎価格250,000,000円270,000,000円+8.0%
公租公課2,400,000円/年2,520,000円/年+5.0%
近隣賃料水準m2月額5,000円m2月額5,400円+8.0%
消費者物価指数100103.5+3.5%

手法1:差額配分法

意義と算式

差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料(正常実質賃料)現行の実質賃料との差額を求め、その差額を賃貸人・賃借人に配分して継続賃料を求める手法です。

$$継続賃料 = 現行実質賃料 + 差額 \times 配分率$$

差額 = 正常実質賃料 − 現行実質賃料

計算例

ステップ1:正常実質賃料の算定

新規賃料の手法を適用して、価格時点における正常実質賃料を求めます。ここでは、積算法等で求めた結果として年額13,500,000円(月額1,125,000円)とします。

ステップ2:差額の算定

項目金額
正常実質賃料(年額)13,500,000円
現行実質賃料(年額)12,000,000円
差額1,500,000円

ステップ3:配分率の決定と継続賃料の算出

差額の配分率は、一般に2分の1(折半)が基本とされますが、契約の経緯や当事者の事情によって異なる場合があります。

項目金額
差額1,500,000円
配分率(賃借人への帰属分)1/2
賃借人帰属分750,000円
現行実質賃料12,000,000円
継続賃料(年額)12,750,000円

月額換算:1,062,500円

注意点

  • 正常実質賃料の算定精度が結果に大きく影響する
  • 配分率の決定は判断を要する部分であり、画一的に1/2とは限らない
  • 差額がマイナス(現行賃料 > 正常賃料)の場合にも同様に配分する
確認問題

差額配分法において、正常実質賃料と現行実質賃料の差額は常に2分の1ずつ配分される。


手法2:利回り法

意義と算式

利回り法は、直近合意時点における基礎価格に継続賃料利回りを乗じて純賃料を求め、これに必要諸経費等を加算して継続賃料を求める手法です。

$$継続賃料 = 基礎価格 \times 継続賃料利回り + 必要諸経費等$$

利回り法は積算法と類似しますが、「期待利回り」ではなく継続賃料利回りを使用する点が異なります。

継続賃料利回りとは

継続賃料利回りは、直近合意時点における実際の純賃料の利回りを基準として、価格時点における利回りを求めるものです。

$$直近合意時点の利回り = \frac{直近合意時点の純賃料}{直近合意時点の基礎価格}$$

計算例

ステップ1:直近合意時点の利回り算定

項目金額
現行実質賃料(年額)12,000,000円
必要諸経費等(直近合意時点)3,600,000円
純賃料8,400,000円
基礎価格(直近合意時点)250,000,000円
直近合意時点の利回り3.36%

ステップ2:継続賃料利回りの決定

直近合意時点の利回り(3.36%)を基準に、価格時点の市場環境の変化等を考慮して、継続賃料利回りを3.40%と決定します。

ステップ3:継続賃料の算出

項目金額
基礎価格(価格時点)270,000,000円
継続賃料利回り3.40%
純賃料9,180,000円
必要諸経費等(価格時点)3,780,000円
継続賃料(年額)12,960,000円

月額換算:1,080,000円

必要諸経費等の内訳

費目年額
減価償却費1,000,000円
維持管理費600,000円
公租公課2,520,000円
損害保険料80,000円
空室等損失相当額― (継続中のため計上しない場合あり)
合計を端数調整3,780,000円

手法3:スライド法

意義と算式

スライド法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて価格時点の純賃料を求め、これに価格時点における必要諸経費等を加算して継続賃料を求める手法です。

$$継続賃料 = 直近合意時点の純賃料 \times 変動率 + 価格時点の必要諸経費等$$

変動率の決定

変動率は、直近合意時点から価格時点にかけての以下のような指標を総合的に勘案して決定します。

指標変動率
消費者物価指数+3.5%
地価の変動率+8.0%
近隣賃料水準の変動率+8.0%
公租公課の変動率+5.0%

これらを総合的に勘案し、変動率を+5.5%と決定します。

計算例

項目金額
直近合意時点の純賃料8,400,000円
変動率×1.055
価格時点の純賃料8,862,000円
必要諸経費等(価格時点)3,780,000円
継続賃料(年額)12,642,000円

月額換算:1,053,500円

注意点

  • 変動率の決定が結果を大きく左右する
  • 物価指数だけでなく、地価・賃料水準・公租公課など複数の指標を勘案する必要がある
  • 変動率の根拠を合理的に説明できることが重要

手法4:賃貸事例比較法

継続賃料における賃貸事例比較法

新規賃料における賃貸事例比較法と基本的な考え方は同じですが、継続賃料の場合は契約内容の類似性に特に留意する必要があります。

$$比準賃料 = 賃貸事例の実質賃料 \times 事情補正 \times 時点修正 \times 地域要因比較 \times 個別的要因比較 \times 契約内容比較$$

計算例

近隣の継続賃料改定事例を収集して比準します。

項目事例X事例Y
改定後実質賃料(m2・月)5,500円5,200円
所在地同一駅徒歩4分同一駅徒歩7分
改定時点2ヶ月前6ヶ月前
前回改定からの期間3年2年
契約形態普通賃貸借普通賃貸借

事例Xの比準計算:

補正項目補正率
事情補正100/100
時点修正100/100
地域要因比較100/101
個別的要因比較100/99
契約内容比較100/100
$$比準賃料X = 5,500 \times \frac{100}{100} \times \frac{100}{100} \times \frac{100}{101} \times \frac{100}{99} = 5,499円/m2$$

比較考量の結果、比準賃料 5,350円/m2(月額1,070,000円、年額12,840,000円)と決定します。

確認問題

スライド法の変動率は消費者物価指数の変動率のみで決定される。


4手法の結果比較と調整

手法継続賃料(年額)月額改定率
差額配分法12,750,000円1,062,500円+6.25%
利回り法12,960,000円1,080,000円+8.0%
スライド法12,642,000円1,053,500円+5.35%
賃貸事例比較法12,840,000円1,070,000円+7.0%

調整の考え方

手法説得力の評価
差額配分法正常賃料との乖離を直接的に把握でき有用。ただし配分率の決定に裁量が入る
利回り法基礎価格の変動を的確に反映。利回りの設定にやや幅がある
スライド法純賃料の変動を把握するのに有効。変動率の根拠が問われる
賃貸事例比較法市場の実勢を反映。ただし継続賃料の改定事例は収集しにくい

各手法の特徴と信頼性を総合的に検討し、継続賃料(実質賃料)12,800,000円(年額)、月額1,066,667円と決定します。


新規賃料との関係

賃料の種類金額(年額)対象
新規賃料13,500,000円市場で新たに成立する賃料
継続賃料12,800,000円既存契約の改定賃料

継続賃料が新規賃料を下回る場合、これは契約の経緯や当事者間の信頼関係が反映された結果であり、賃借人にとっての「居すわり利益」とも呼ばれます。逆に、市場賃料が下落局面にある場合は、継続賃料が新規賃料を上回ることもあります。


まとめ

継続賃料の鑑定評価は、差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法の4手法を併用し、契約の経緯や当事者間の公平に配慮して決定するものです。各手法はそれぞれ異なる観点から賃料水準を捉えており、単独の手法に依存するのではなく、複数の手法の結果を比較検討することが重要です。

関連記事として、新規賃料の4手法を計算例で比較継続賃料の求め方鑑定評価基準 各論第2章の要点もあわせてご覧ください。

#スライド法 #利回り法 #差額配分法 #継続賃料 #賃貸事例比較法

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