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鑑定評価基準 総論第7章を条文ごとに深掘り解説

不動産鑑定評価基準・総論第7章「鑑定評価の方式」を条文ごとに深掘り解説。原価法・取引事例比較法・収益還元法(直接還元法・DCF法)の手法適用の詳細を体系的に整理します。

はじめに ― 総論第7章は鑑定評価の「実技の章」

不動産鑑定評価基準(以下「基準」といいます)の総論第7章は「鑑定評価の方式」を定めた章です。鑑定評価の三方式(原価法・取引事例比較法・収益還元法)の具体的な手順と適用上の留意点を規定しており、基準の中で最もボリュームが大きく、実務に直結する章です。

第6章までに行った地域分析・個別分析の結果を踏まえ、具体的に「いくらなのか」を算出する――これが第7章の役割です。三方式は不動産の価格の三面性(費用性・市場性・収益性)にそれぞれ着目しており、複数の手法を併用することで多角的な評価が可能になります。

不動産鑑定士試験においても、第7章は短答式・論文式ともに最も出題頻度が高いテーマです。各手法の定義、手順、適用上の留意点を条文レベルで正確に理解しておくことが求められます。

本記事では、総論第7章の条文を逐一取り上げ、三方式の手法適用の詳細を深掘りして解説します。第7章の全体像を効率よく把握したい方は第7章の要点整理もあわせてご覧ください。


総論第7章の全体構成 ― 3つの節のマップ

総論第7章は、次の3つの節で構成されています。学習を始める前に章全体の地図を頭に入れておくと、個々の規定の位置づけが明確になり、知識の整理が格段に楽になります。

テーマ主な内容
第1節価格を求める鑑定評価の手法原価法・取引事例比較法・収益還元法(直接還元法・DCF法)の定義と手順
第2節賃料を求める鑑定評価の手法積算法・賃貸事例比較法・収益分析法(新規賃料)、差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法(継続賃料)
第3節試算価格又は試算賃料の調整各試算価格の再吟味と説得力に係る判断、鑑定評価額決定への道筋

他の章との接続関係

第7章は単独で完結する章ではなく、基準全体の流れの中に位置づけて理解する必要があります。

  • 総論第6章: 地域分析で把握した標準的使用や価格水準が、事例の選択や地域要因の比較の前提となる
  • 総論第8章: 手順としての「鑑定評価の手法の適用」「試算価格又は試算賃料の調整」において第7章の規定が実際に使われる
  • 各論第1章〜第3章: 類型別・目的別に、第7章の手法の具体的な適用方法が定められる

つまり、第7章は鑑定評価の「道具箱」であり、各論はその道具の「使い方マニュアル」という関係にあります。


三方式の基本構造 ― 費用性・市場性・収益性

三方式の分類基準

基準は、鑑定評価の手法を不動産の価格の三面性に対応させて分類しています。

不動産の価格を求める鑑定評価の手法は、不動産の再調達に要する原価に着目する原価法、不動産の取引事例に着目する取引事例比較法及び不動産から生み出される収益に着目する収益還元法に大別される。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
手法着目する性格基本的な考え方試算価格の名称
原価法費用性再び造るのにいくらかかるか積算価格
取引事例比較法市場性類似の不動産がいくらで取引されたか比準価格
収益還元法収益性将来どれだけの収益を生み出すか収益価格

鑑定評価の三方式について基本を確認したい方は鑑定評価の三方式とはをご覧ください。

三方式の併用原則

鑑定評価の手法の適用に当たっては、鑑定評価の手法を当該案件に即して適切に適用すべきである。この場合、地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係る市場の特性等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により三手法の併用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

併用原則の要点は以下の3点です。

  1. 複数の手法を適用すべきである(原則)
  2. 三手法の併用が困難な場合でも、適用できなかった手法の考え方を参酌すべきである
  3. 市場の特性を適切に反映した手法を選択すべきである

なぜ併用が原則なのか。一つの手法だけでは、不動産の価格形成の一面しか捉えられないからです。費用性・市場性・収益性は相互に関連しながら価格を形成しており、複数の試算価格を突き合わせることで、判断の偏りや資料の誤りを発見・是正できます。この発想は後述する「試算価格の調整」に直結します。


原価法 ― 費用性に着目する手法

原価法の定義

原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

原価法の基本式は以下のとおりです。

$$積算価格 = 再調達原価 - 減価額$$

原価法の詳細は原価法とはをご覧ください。

再調達原価の意義と求め方

再調達原価とは、対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額をいう。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

再調達原価の求め方には2つの方法があります。

方法内容適用場面
直接法対象不動産について直接的に再調達原価を求める建設費等の資料が入手できる場合
間接法類似の不動産の再調達原価を基に間接的に求める直接的な資料が入手できない場合

建物の再調達原価の構成

基準は、建物の再調達原価の構成要素を詳しく規定しています。

建物の再調達原価は、建設請負により、請負者が発注者に対して直ちに使用可能な状態で引き渡す通常の場合を想定し、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求めるものとする。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
構成要素内容
直接工事費材料費、労務費、直接経費
間接工事費共通仮設費、現場管理費
一般管理費等本社経費、利潤
付帯費用設計監理料、開発リスク相当額等

土地の再調達原価

土地の再調達原価は、その素地の標準的な取得原価に当該土地の標準的な造成費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求めるものとする。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

土地の再調達原価を求めるには、造成等の開発の経緯がある場合に限られます。既成市街地の更地のように造成の経緯が不明な土地では、再調達原価の把握が困難であり、原価法の適用が制約されます。

減価修正

基準は、減価修正について3つの減価要因と2つの方法を規定しています。

3つの減価要因

減価の要因としては、物理的要因、機能的要因及び経済的要因があり、これらの要因は、それぞれ独立して不動産の減価に影響を与えるのみならず、互いに関連して影響を与える場合がある。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
減価要因内容具体例
物理的要因経年劣化、使用による損耗外壁の劣化、設備の老朽化
機能的要因設計・設備等の陳腐化、機能不足間取りの旧式化、エレベーター未設置
経済的要因外部環境の変化に伴う価値の減少近隣地域の衰退、需要の減退

「互いに関連して影響を与える場合がある」という後段も出題されやすいポイントです。たとえば設備の旧式化(機能的要因)が進んだ建物は賃貸需要の減退(経済的要因)を招きやすく、減価要因は単独ではなく複合的に作用します。

2つの減価修正の方法

減価修正の方法としては、耐用年数に基づく方法及び観察減価法があり、これらを併用するものとする。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
方法内容特徴
耐用年数に基づく方法経過年数と耐用年数から減価率を算出客観的な数値に基づく
観察減価法実態を直接観察して減価額を判断実態に即した判断が可能

基準では、この2つを「併用する」と明記しています。「いずれか一方」ではありません。

減価修正の目的 ― 減価償却との違い

減価修正の目的は、減価の要因に基づき発生した減価額を対象不動産の再調達原価から控除して価格時点における対象不動産の適正な積算価格を求めることである。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

名称の似た会計上の「減価償却」が取得原価の費用配分を目的とするのに対し、減価修正は価格時点の適正な価値の把握を目的とし、再調達原価を基礎に経済的観点から個別に減価を判定する点で本質的に異なります。

耐用年数に基づく方法の留意点

耐用年数に基づく方法には定額法・定率法等がありますが、これらを機械的に適用するのではなく、対象不動産の経過年数よりも経済的残存耐用年数に重点をおいて判断すべきとされています。

$$耐用年数 = 経過年数 + 経済的残存耐用年数$$

経済的残存耐用年数とは、価格時点において、対象不動産の用益が市場価値を持続できると見込まれる期間を指します。物理的にはまだ使用可能でも、機能的・経済的に競争力を失えば経済的残存耐用年数は短く判定されます。「築年数が浅い=減価が小さい」とは限らない点が、画一的な減価償却との本質的な違いです。

原価法の数値例

定額法(残価率ゼロ)による簡単な計算例を示します。

  • 再調達原価: 1億円
  • 経過年数: 10年、経済的残存耐用年数: 30年(耐用年数40年)
$$減価額 = 1億円 \times \frac{10}{10 + 30} = 2,500万円$$
$$積算価格 = 1億円 - 2,500万円 = 7,500万円$$

実際の鑑定評価では、この耐用年数に基づく結果に観察減価法による実態の観察を併用し、最終的な減価額を決定します。


取引事例比較法 ― 市場性に着目する手法

取引事例比較法の定義

取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

取引事例比較法の詳細は取引事例比較法とはをご覧ください。

取引事例比較法の手順

取引事例比較法は、以下の7段階で進められます。

手順内容
1. 事例の収集近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等から多数の取引事例を収集
2. 事例の選択適切な事例を選択(4つの選択要件に基づく)
3. 事情補正特殊な事情の影響を排除
4. 時点修正取引時点から価格時点までの市場変動を反映
5. 地域要因の比較事例の属する地域と近隣地域の地域要因を比較
6. 個別的要因の比較事例の個別的要因と対象不動産の個別的要因を比較
7. 比準価格の算定比較考量を行い、比準価格を決定

取引事例の選択要件

取引事例は、原則として近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るもののうちから選択するものとし、必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域に存する不動産に係るもののうちから、対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等には、同一需給圏内の代替競争不動産に係るもののうちから選択するものとする。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

事例の選択にあたっての4つの要件を整理します。

要件内容
地域的要件近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等に存する不動産に係るもの
事情の正常性取引事情が正常なもの、又は正常に補正できるもの
時点修正の可能性時点修正をすることが可能なもの
要因比較の可能性地域要因・個別的要因の比較が可能なもの

事情補正

取引事例に係る取引が特殊な事情を含み、これが当該取引事例に係る価格に影響を及ぼしているときは適切に補正しなければならない。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

事情補正が必要となる特殊な事情の例を示します。

特殊な事情価格への影響
売り急ぎ市場価格より低くなる傾向
買い進み市場価格より高くなる傾向
親族間取引市場価格と乖離する傾向
隣接地の併合目的増分価値を含む高めの価格
投機的取引市場の実態と乖離した価格

時点修正

取引事例に係る取引の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準の変動があると認められる場合には、当該取引事例の価格を価格時点の価格に修正しなければならない。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

時点修正は、取引時点と価格時点の間に価格水準の変動がある場合に行います。地価公示の標準地や都道府県地価調査の基準地の価格の推移、不動産価格指数等を活用して修正率を査定します。

地域要因・個別的要因の比較

事情補正・時点修正を行った後、取引事例の属する地域と対象不動産の属する近隣地域の地域要因の比較、及び取引事例と対象不動産の個別的要因の比較を行います。

比較の種類比較対象比較内容
地域要因の比較事例の属する地域 vs 近隣地域交通利便性、環境条件、行政条件等
個別的要因の比較事例の不動産 vs 対象不動産面積、形状、接道条件等

ここで重要なのは、地域要因の比較と個別的要因の比較は別々の段階として行うということです。事例地と対象地を直接比べるのではなく、まず「地域と地域」を比べ、次に「個々の画地」を比べるという二段構えにより、総論第6章の地域分析・個別分析の枠組みがそのまま手法に組み込まれています。

配分法による事例資料の活用

対象不動産が更地である場合に、更地の取引事例が乏しく、土地と建物からなる複合不動産の取引事例しか得られないことがあります。このようなとき、複合不動産の取引事例から土地部分の価格を抽出して活用する技術が配分法です。

方式内容適用できる場合
控除方式複合不動産の取引価格から建物等の価格を控除して土地の価格を求める建物等の価格が取引の事情に即して適切に判明しているとき
比率方式複合不動産の取引価格に土地の価格の構成割合を乗じて土地の価格を求める価格の構成割合が取引の事情に即して適切に判明しているとき

配分法は「事例資料の不足を補う技術」であり、複合不動産の事例を土地の評価に活かす橋渡しの役割を果たします。短答式では「控除」と「割合を乗じる」の2方式があることが問われやすいポイントです。

比準価格算定の計算イメージ

事情補正・時点修正・地域要因の比較・個別的要因の比較は、実務上、次のような連乗形式で適用されるのが一般的です。

$$比準価格 = 事例価格 \times 事情補正 \times 時点修正 \times 地域要因の比較 \times 個別的要因の比較$$

たとえば事例価格100,000円/㎡について、売り急ぎで10%安($\frac{100}{90}$)、時点修正+2%、地域要因で対象地域が5%優る($\frac{105}{100}$)、個別的要因で対象地が4%劣る($\frac{96}{100}$)とすると、

$$100{,}000 \times \frac{100}{90} \times 1.02 \times \frac{105}{100} \times \frac{96}{100} \fallingdotseq 114{,}240円/㎡$$

となります。各段階が価格にどう作用するかを数値で追うと、手順の意味が立体的に理解できます。


収益還元法 ― 収益性に着目する手法

収益還元法の定義と特別な位置づけ

収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

収益還元法の詳細は収益還元法とはをご覧ください。

基準は、収益還元法に特別な位置づけを与えています。

収益還元法は、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効である。また、不動産の価格は、一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり、収益は、不動産の経済価値の本質を形成するものである。したがって、この手法は、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものにはすべて適用すべきものであり、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるものである。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

この規定の要点は以下の3つです。

  1. 収益還元法は賃貸用不動産に特に有効
  2. 収益は不動産の経済価値の本質を形成する
  3. 市場性を有する不動産にはすべて適用すべき(自用の不動産にも賃貸を想定して適用)

直接還元法

直接還元法は、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法である。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

直接還元法の基本式は以下のとおりです。

$$収益価格 = \frac{一期間の純収益}{還元利回り}$$
構成要素内容
純収益総収益から総費用を控除した対象不動産に帰属する収益
還元利回り(キャップレート)一期間の純収益から価格を直接求める際に使用する利回り

純収益の求め方

純収益は、不動産に帰属する適正な収益(以下「対象不動産の純収益」という。)をいい、一般に、総収益から総費用を控除して求めるものとする。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
収益項目内容
総収益賃料収入、共益費収入、駐車場収入、その他の収入
総費用維持管理費、水道光熱費、修繕費、PMフィー、テナント募集費用、公租公課、損害保険料、空室等損失相当額
純収益総収益 - 総費用

還元利回りの査定

還元利回りは、直接還元法の収益価格及び一期間の純収益から求められる利回りであり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

還元利回りの査定方法として、基準は以下の方法を示しています。

査定方法内容
類似の不動産の取引事例から求める方法類似不動産の純収益と取引価格の比率から査定
借入金と自己資金の構成割合から求める方法加重平均資本コスト(WACC)の考え方
金融資産の利回りとの関連から求める方法長期国債利回り等にリスクプレミアムを加算
対象不動産の純収益の変動予測に基づく方法将来の収益変動を見込んだ利回り査定

直接還元法の数値例

  • 総収益: 1,200万円(賃料収入・共益費収入等)
  • 総費用: 200万円(維持管理費・公租公課等)
  • 純収益: 1,000万円
  • 還元利回り: 5%
$$収益価格 = \frac{1{,}000万円}{0.05} = 2億円$$

注目すべきは利回りの感応度です。還元利回りが4.5%なら収益価格は約2億2,222万円、5.5%なら約1億8,182万円となり、0.5ポイントの差で価格が約2割変動します。還元利回りの査定が収益価格の精度を左右する理由がここにあります。

DCF法

DCF法は、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法である。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

DCF法の詳細はDCF法の仕組みをご覧ください。

DCF法の構成要素を整理します。

構成要素内容
各期の純収益保有期間中の各年の純収益を個別に見積もる
復帰価格保有期間終了時の想定売却価格
割引率(ディスカウントレート)各期の純収益及び復帰価格を現在価値に割り引く際の利率

DCF法の基本式

DCF法による収益価格は、次の式で表されます。

$$P = \sum_{k=1}^{n} \frac{a_k}{(1+Y)^k} + \frac{P_R}{(1+Y)^n}$$
記号意味
$P$収益価格
$a_k$$k$期の純収益
$Y$割引率
$P_R$復帰価格
$n$保有期間(分析期間)

第1項が「保有期間中の各期の純収益の現在価値の合計」、第2項が「復帰価格の現在価値」です。この式の構造を理解しておくと、定義の文言(「発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する」)がそのまま数式に対応していることが分かります。

割引率と還元利回りの違い

項目還元利回り割引率
使用する手法直接還元法DCF法
性質一期間の純収益から直接価格を求める将来のキャッシュフローを現在価値に変換する
将来の変動の扱い利回りに内包される各期のキャッシュフローに明示的に反映

復帰価格の求め方

復帰価格は、保有期間の満了時点における対象不動産の価格をいい、保有期間の満了時点における純収益等の見通しを的確に把握した上で、直接還元法等により求めるものとする。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

復帰価格は、DCF法の分析期間終了時点における不動産の売却価格です。通常、分析期間終了時点の翌年度の純収益を最終還元利回り(ターミナルキャップレート)で還元して求めます。

$$P_R = \frac{a_{n+1}}{R_t}$$

ここで $a_{n+1}$ は第 $n+1$ 期の純収益、$R_t$ は最終還元利回りです。最終還元利回りは、保有期間満了時点における建物の老朽化や将来予測の不確実性の増大を反映して、価格時点の還元利回りよりやや高めに査定されることが多いとされます。

直接還元法とDCF法の比較

比較項目直接還元法DCF法
収益の把握一期間を一定と仮定複数期間を個別に見積もり
使用する利回り還元利回り割引率
復帰価格考慮しない明示的に考慮
有効な場面安定的な収益の不動産収益変動が予測される不動産
証券化対象不動産併用原則として適用が必要

試算価格の調整と鑑定評価額の決定

試算価格の調整の意義

三方式の適用により複数の試算価格(積算価格・比準価格・収益価格)が得られた後、これらを統合して鑑定評価額を決定するプロセスが「試算価格の調整」です。

試算価格又は試算賃料の調整とは、鑑定評価の手法の適用により求められた各試算価格又は各試算賃料の再吟味を行い、各試算価格又は各試算賃料が有する説得力に係る判断を行うことをいう。
不動産鑑定評価基準 総論第7章

調整の手順

手順内容
1. 各試算価格の再吟味適用した手法の妥当性、使用した資料の信頼性を再検討
2. 説得力の判断対象不動産の類型、市場特性に照らし、各試算価格の相対的説得力を判断
3. 鑑定評価額の決定説得力の判断に基づき最終的な鑑定評価額を決定

説得力に係る判断の考慮事項

各試算価格の再吟味を行い、各試算価格が有する説得力に係る判断を行うに当たっては、資料の選択、検討及び活用の適否、各手法に共通する価格形成要因に係る判断の整合性、並びに単価と総額との関連の適否等についても注意しなければならない。
不動産鑑定評価基準 総論第7章

試算価格の調整は、単なる平均ではありません。対象不動産の類型と市場特性に応じて、各試算価格の説得力に差があることを認識し、より説得力の高い試算価格を重視して鑑定評価額を決定します。

対象不動産の類型説得力が高い試算価格理由
賃貸マンション収益価格収益性が価格形成の中心
新築戸建住宅積算価格、比準価格建設費と市場取引が価格の基礎
更地(住宅地)比準価格取引事例が豊富
事業用不動産収益価格事業収益が価格を左右

試算価格が大きく乖離した場合の対応も押さえておきましょう。乖離はどちらかの試算過程に問題がある「シグナル」と捉え、資料の信頼性、要因分析の整合性、単価と総額の関連等に立ち返って再吟味することが、調整の第一歩です。


賃料を求める手法

賃料評価の基本原則 ― 実質賃料

賃料を求める鑑定評価の手法の適用にあたって求められる賃料は、一般に実質賃料です。実質賃料とは、賃料の種類のいかんを問わず、賃貸人等に支払われる賃料の算定の期間に対応する適正なすべての経済的対価をいい、純賃料および必要諸経費等のほか、権利金等の一時金の運用益・償却額も含めて把握されます。支払賃料を求めることを依頼された場合には、実質賃料とあわせて、その内訳としての支払賃料を求めることになります。

短答式では「鑑定評価で求める賃料は原則として支払賃料である」という誤りの選択肢が出されることがあるため、原則は実質賃料という点を確実に押さえてください。

新規賃料を求める手法

基準は、新規賃料を求める手法として3つの手法を規定しています。

手法基本的な考え方試算賃料
積算法基礎価格に期待利回りを乗じた純賃料に必要諸経費等を加算積算賃料
賃貸事例比較法類似の賃貸事例の賃料を比較比準賃料
収益分析法対象不動産を事業に供した場合の収益を分析収益賃料

積算法の基本式は次のとおりです。

$$積算賃料 = 基礎価格 \times 期待利回り + 必要諸経費等$$

基礎価格とは、積算賃料を求めるための基礎となる元本価格であり、契約内容(賃貸借の範囲・条件)に即して把握される点に特徴があります。

継続賃料を求める手法

継続賃料の評価では、既存の契約関係を前提とする4つの手法が規定されています。

手法基本的な考え方
差額配分法実際実質賃料と正常実質賃料の差額を当事者に配分
利回り法基礎価格に継続賃料利回りを乗じて純賃料を求め、必要諸経費等を加算
スライド法現行賃料に変動率を乗じて試算賃料を求める
賃貸事例比較法類似の賃貸事例の賃料を比較

賃貸事例比較法は新規賃料・継続賃料の双方に登場する唯一の手法です。継続賃料の評価で用いる場合には、継続中の契約に係る事例(継続賃料の改定事例等)との比較が必要となる点で、新規賃料の場合と資料の性質が異なります。

価格の手法と賃料の手法の対応関係

第7章の構造を一気に整理できるのが、いわゆる「3方式6手法」の対応表です。

方式着目する性格価格を求める手法(試算価格)新規賃料を求める手法(試算賃料)
原価方式費用性原価法(積算価格)積算法(積算賃料)
比較方式市場性取引事例比較法(比準価格)賃貸事例比較法(比準賃料)
収益方式収益性収益還元法(収益価格)収益分析法(収益賃料)

価格と賃料は「元本と果実」の関係にあり、同じ三面性(費用性・市場性・収益性)から元本価格と果実たる賃料の双方にアプローチする――この対称構造を押さえると、6つの手法名と試算価格・試算賃料の名称を混同しなくなります。


よくある質問

原価法は土地だけの評価にも適用できますか

適用できる場合があります。造成地や埋立地のように、素地の取得原価・造成費等から再調達原価を適切に把握できる土地であれば原価法を適用できます。一方、既成市街地内の更地のように造成の経緯をたどれない土地では再調達原価の把握が困難なため、適用は事実上制約されます。この場合は取引事例比較法や収益還元法(土地残余法等)が中心となります。

直接還元法とDCF法はどちらを使うべきですか

優劣の問題ではなく、収益の変動予測の必要性や説明の明示性に応じて使い分け・併用するものです。収益が安定している不動産では直接還元法が簡明で有効、収益の変動が見込まれる不動産や投資判断目的ではDCF法が有効です。なお、証券化対象不動産の評価では各論第3章によりDCF法の適用が原則とされ、直接還元法等による検証もあわせて行うこととされています。

三手法をすべて適用できない場合はどうすればよいですか

基準は、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により三手法の併用が困難な場合でも、その考え方をできるだけ参酌するよう求めています。たとえば取引事例の乏しい収益物件で取引事例比較法を適用できない場合でも、市場で観察される利回り水準との比較を還元利回りの査定に反映させるなど、市場性の観点を別の手法の中に取り込む形で考え方を活かします。


試験対策 ― 条文暗記の最重要ポイント

絶対に暗記すべき定義

暗記対象定義のキーワード重要度
原価法「再調達原価」「減価修正」最重要
取引事例比較法「多数の取引事例」「事情補正及び時点修正」「地域要因・個別的要因の比較」「比較考量」最重要
収益還元法「将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和」最重要
再調達原価「再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額」重要
還元利回り「一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用する利回り」重要
割引率「将来発生する純収益及び復帰価格を現在価値に割り引く際の利率」重要

頻出の引っかけパターン

  • 「原価法は市場性に着目する手法である」(正しくは費用性
  • 「取引事例比較法の試算価格は積算価格である」(正しくは比準価格
  • 「減価修正の方法はいずれか一方でよい」(正しくは併用
  • 「収益還元法は賃貸用不動産にのみ適用される」(正しくはすべての市場性ある不動産に適用すべき)
  • 「試算価格の調整は各試算価格の平均を求めることである」(正しくは説得力に係る判断を行うこと)

論文式試験での問われ方

第7章は論文式でも定番の出題分野とされています。問われ方のパターンを意識して論証を準備すると効率的です。

  • 定義の説明型: 「原価法について説明せよ」「減価修正について、減価の要因と減価修正の方法に言及して説明せよ」
  • 比較型: 「直接還元法とDCF法の異同について述べよ」「還元利回りと割引率の関係を説明せよ」
  • 適用型: 「自用の事務所ビルの評価に収益還元法を適用する意義を述べよ」
  • 横断型: 「試算価格の調整において留意すべき事項を、鑑定評価の手順(総論第8章)と関連づけて述べよ」

いずれのパターンでも、定義→趣旨(なぜそう規定されているか)→留意点の三段構成で書けるよう、条文の文言と趣旨をセットで記憶しておくことが重要です。

暗記のコツ ― 構造で覚える

  • 三面性(費用性・市場性・収益性)→3方式→6手法(価格3+新規賃料3)→継続賃料4手法、というツリー構造で全体を覚える
  • 取引事例比較法の手順は「収集→選択→事情補正→時点修正→地域要因→個別的要因→比較考量」の流れを一連のフレーズとして繰り返す
  • 減価の3要因は「物理・機能・経済」、減価修正の2方法は「耐用年数・観察」のセットで記憶する
  • 定義は一言一句が問われるため、「適正な原価の総額」「現在価値の総和」などのキーワードを穴埋め形式で自己テストする

まとめ

総論第7章「鑑定評価の方式」は、鑑定評価の三方式の手法適用を詳細に規定する、基準の中核をなす章です。本記事で解説した要点を改めて整理します。

  1. 三方式は不動産の費用性・市場性・収益性にそれぞれ着目し、積算価格・比準価格・収益価格を求める
  2. 原価法は再調達原価から減価額を差し引いて積算価格を求め、減価修正では耐用年数に基づく方法と観察減価法を併用する
  3. 取引事例比較法は事例の収集→選択→事情補正→時点修正→要因比較→比較考量の7段階で比準価格を求める
  4. 収益還元法は市場性を有する不動産にすべて適用すべきとされ、直接還元法とDCF法の2つの方法がある
  5. 三方式は原則として併用すべきであり、困難な場合でも考え方を参酌すべきである
  6. 試算価格の調整は平均ではなく、各試算価格の説得力に係る判断に基づいて鑑定評価額を決定する
  7. 賃料の評価は実質賃料が原則であり、価格の三方式と新規賃料の3手法は「3方式6手法」として対応している

第7章の全体像は第7章の要点整理を、三方式の比較は鑑定評価の三方式とはを、各手法の個別解説は原価法とは取引事例比較法とは収益還元法とはDCF法の仕組みをそれぞれご覧ください。

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