鑑定評価基準 総論第9章を条文ごとに深掘り解説
鑑定評価基準 総論第9章「鑑定評価報告書」を条文ごとに逐条解説。必須記載事項12項目、報告書の形式、利害関係の開示義務など、報告書作成の条文趣旨と試験対策ポイントを体系的にまとめます。
総論第9章の全体像と位置づけ
不動産鑑定評価基準(以下「基準」といいます)の総論第9章は「鑑定評価報告書」について定めた章です。鑑定評価の全手順を経て最終的に作成される鑑定評価報告書の記載事項と様式について、体系的に規定しています。
鑑定評価報告書は、鑑定評価のプロセスと結果を文書化し、依頼者や利害関係者に対して報告するための公式な文書です。不動産鑑定士の専門的判断が凝縮されたものであり、評価の品質と信頼性を外部から検証するための重要な手がかりとなります。
総論第9章は、鑑定評価基準の総論部分の最終章にあたり、第1章から第8章で規定された評価理論・手順の結実としての報告書を規定するものです。鑑定評価基準全体の構造については鑑定評価基準の全体像を掴むを参照してください。
以下に、総論第9章で扱われる主なテーマを整理します。
| テーマ | 内容の概要 |
|---|---|
| 報告書の意義 | 鑑定評価報告書の役割と法的位置づけ |
| 必須記載事項 | 報告書に必ず記載すべき事項の列挙 |
| 記載の方法 | 各記載事項の具体的な記載方法 |
| 報告書の形式 | 報告書の体裁・様式に関する規定 |
| 関与不動産鑑定士 | 鑑定評価に関与した鑑定士に関する記載 |
| 利害関係等の開示 | 利害関係の有無の開示義務 |
以下では、各テーマに沿って条文の内容と趣旨、試験上の出題ポイントを逐条的に解説していきます。
鑑定評価報告書の意義と目的
報告書の社会的役割
鑑定評価報告書は、不動産鑑定士が行った鑑定評価の結果を外部に伝達するための唯一の公式文書です。依頼者のみならず、金融機関、投資家、裁判所、税務当局など、さまざまな利害関係者が鑑定評価報告書の内容に基づいて意思決定を行います。
不動産鑑定士は、鑑定評価の結果について、鑑定評価報告書を作成し、依頼者に交付しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第9章
報告書は以下のような場面で活用されます。
| 活用場面 | 利用者 | 主な利用目的 |
|---|---|---|
| 不動産取引 | 売主・買主 | 取引価格の参考 |
| 融資審査 | 金融機関 | 担保価値の把握 |
| 証券化 | 投資家・格付機関 | 投資判断の基礎 |
| 課税 | 税務当局 | 課税価格の算定 |
| 訴訟 | 裁判所・当事者 | 争訟における証拠 |
| 企業会計 | 企業・監査法人 | 資産の時価評価 |
報告書作成義務の趣旨
基準が報告書の作成と交付を義務づけている趣旨は、鑑定評価の透明性と検証可能性を確保することにあります。鑑定評価の過程と結論が文書として残されることで、第三者による事後的な検証が可能となり、鑑定評価の信頼性が担保されます。
また、報告書は不動産鑑定士の責任を明確にする機能も有しています。報告書に記載された内容について、不動産鑑定士は専門家としての責任を負うこととなります。
必須記載事項の全体像
12の必須記載事項
総論第9章は、鑑定評価報告書に記載すべき事項を具体的に列挙しています。これらの記載事項は、鑑定評価の基本的事項から評価の過程、最終的な結論に至るまでを体系的にカバーしています。
鑑定評価報告書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第9章
基準が定める必須記載事項を一覧にすると、以下のとおりです。
| 番号 | 記載事項 | 内容の概要 |
|---|---|---|
| 1 | 鑑定評価額 | 最終的に決定された鑑定評価額 |
| 2 | 鑑定評価の対象とした不動産の表示 | 対象不動産の所在、地番、面積等 |
| 3 | 鑑定評価の依頼目的及び条件 | 依頼目的、対象確定条件、想定条件等 |
| 4 | 価格時点 | 価格又は賃料の判定の基準日 |
| 5 | 価格又は賃料の種類 | 正常価格、限定価格等の種類とその理由 |
| 6 | 対象不動産の確認に関する事項 | 物的確認と権利の確認の結果 |
| 7 | 鑑定評価額の決定の理由の要旨 | 評価額決定に至った理由の概要 |
| 8 | 関与不動産鑑定士の対象不動産に関する利害関係等 | 利害関係の有無とその内容 |
| 9 | 関与不動産鑑定士及び鑑定評価額の決定に関与した者 | 関与した鑑定士の氏名等 |
| 10 | 不動産鑑定業者の名称 | 鑑定業者の名称 |
| 11 | その他必要と認められる事項 | 上記以外で必要な事項 |
| 12 | 付属資料 | 位置図、写真等の付属資料 |
これらの記載事項は、鑑定評価報告書の骨格を形成するものです。いずれの事項も、鑑定評価の過程と結論を理解するうえで不可欠な情報です。
鑑定評価報告書の記載事項の詳細は鑑定評価報告書の記載事項を参照してください。
鑑定評価報告書において、鑑定評価額と対象不動産の表示さえ記載すれば、その他の記載事項は任意である。
各記載事項の詳細解説(前半)
鑑定評価額
鑑定評価額は、鑑定評価報告書の核心をなす情報です。試算価格の調整を経て最終的に決定された金額を記載します。
鑑定評価額は、不動産鑑定士の専門的判断の結論として位置づけられるものであり、その決定に至った過程は「鑑定評価額の決定の理由の要旨」の項目で詳しく説明されます。
鑑定評価の対象とした不動産の表示
対象不動産の表示は、鑑定評価の対象を明確に特定するための記載事項です。
| 記載すべき内容 | 土地の場合 | 建物の場合 |
|---|---|---|
| 所在 | 所在地、地番 | 所在地、家屋番号 |
| 数量 | 地目、地積 | 構造、階数、床面積 |
| 権利の種類 | 所有権、借地権等 | 所有権、借家権等 |
| その他 | 用途地域、都市計画 | 建築年月、用途 |
鑑定評価の依頼目的及び条件
依頼目的は、鑑定評価が何のために行われるのかを明示する事項です。依頼目的によって求めるべき価格の種類が異なり得るため、この記載は評価の方向性を理解するうえで重要です。
鑑定評価の依頼目的は、売買の参考、担保評価、課税、争訟、資産評価等、鑑定評価の結果がどのような目的で使用されるかを明確に記載しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第9章
条件には、対象確定条件と想定上の条件があります。
| 条件の種類 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 対象確定条件 | 評価対象の確定に関する条件 | 更地として評価、自用として評価 |
| 地域要因・個別的要因についての想定条件 | 特定の条件を想定する場合 | 建物完成後を想定して評価 |
| 調査範囲等の条件 | 調査の範囲を限定する場合 | 土壌汚染調査を行わない |
価格時点
価格時点は、鑑定評価額がいつの時点の価格であるかを示す基準日です。
鑑定評価は、価格時点における対象不動産の適正な価格又は賃料を求めるものであるから、価格時点は鑑定評価の基礎となるきわめて重要な事項である。
― 不動産鑑定評価基準 総論第9章
不動産の価格は時間の経過とともに変動するため、いつの時点の価格であるかが明確でなければ、鑑定評価額の意味が不確定となります。
価格又は賃料の種類
鑑定評価で求める価格の種類(正常価格、限定価格、特定価格、特殊価格)又は賃料の種類(正常賃料、限定賃料、継続賃料)を明記します。価格の種類によって評価の前提条件が異なるため、読者が鑑定評価額の性格を正しく理解するうえで不可欠な情報です。
各記載事項の詳細解説(後半)
対象不動産の確認に関する事項
物的確認と権利の態様の確認の結果を記載します。実地調査の結果、登記記録との照合結果、確認した権利関係の内容などを具体的に記述します。
| 記載する確認結果 | 内容 |
|---|---|
| 物的確認の結果 | 実地調査の日時、確認した物的状態 |
| 権利の確認の結果 | 確認した権利関係、登記記録の内容 |
| 登記記録と現況の相違 | 相違がある場合はその内容と対応 |
| 確認できなかった事項 | 確認が困難であった事項とその理由 |
鑑定評価額の決定の理由の要旨
鑑定評価額の決定の理由の要旨は、報告書の中核をなす記載事項です。鑑定評価の過程で行った分析と判断を要約し、最終的な鑑定評価額の決定に至った理由を説明します。
鑑定評価額の決定の理由の要旨には、価格形成要因に関する分析の結果、鑑定評価の手法の適用の概要並びに試算価格又は試算賃料の調整及び鑑定評価額の決定に係る判断の要旨を記載しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第9章
この記載事項には、以下の内容が含まれます。
| 記載すべき内容 | 具体的な記述 |
|---|---|
| 価格形成要因の分析結果 | 一般的要因、地域分析、個別分析の概要 |
| 手法適用の概要 | 適用した手法と各試算価格 |
| 試算価格の調整の概要 | 各試算価格の再吟味と説得力の判断 |
| 鑑定評価額決定の判断 | 鑑定評価額を決定するに至った最終判断 |
| 市場分析の結果 | 対象不動産に係る市場の特性 |
鑑定評価報告書の読み方については鑑定評価書の読み方と記載事項のポイントを参照してください。
利害関係等の開示
関与不動産鑑定士の対象不動産に関する利害関係等の開示は、鑑定評価の公正性と独立性を担保するための重要な記載事項です。
関与不動産鑑定士及び当該関与不動産鑑定士の属する不動産鑑定業者が対象不動産に関して利害関係又は対象不動産に関し利害関係を有する者との縁故若しくは特別の利害関係を有するかどうかについて記載しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第9章
利害関係の開示が求められる理由は、鑑定評価の公正性に疑義が生じることを防止するためです。利害関係がある場合には、その内容を明示することで、報告書の利用者がその影響を判断できるようにします。
| 開示すべき利害関係 | 具体例 |
|---|---|
| 対象不動産に関する利害関係 | 対象不動産の所有、担保権の設定等 |
| 利害関係を有する者との縁故 | 依頼者との親族関係、取引関係等 |
| 特別の利害関係 | 鑑定評価額の高低により報酬が変動する契約等 |
鑑定評価報告書における「鑑定評価額の決定の理由の要旨」には、価格形成要因の分析結果と鑑定評価の手法の適用の概要を記載しなければならない。
関与不動産鑑定士に関する規定
関与不動産鑑定士の意義
基準は、鑑定評価に関与した不動産鑑定士(関与不動産鑑定士)に関する事項を報告書に記載することを求めています。
鑑定評価に関与した不動産鑑定士の氏名を記載しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第9章
関与不動産鑑定士の記載は、鑑定評価の責任の所在を明確にするためのものです。鑑定評価報告書に記載された不動産鑑定士は、その内容について専門家としての責任を負います。
署名又は記名押印
報告書には、関与不動産鑑定士の署名又は記名押印が必要です。これにより、鑑定評価報告書の真正性(当該不動産鑑定士が作成したものであること)が担保されます。
| 記載事項 | 内容 |
|---|---|
| 氏名 | 関与不動産鑑定士の氏名 |
| 登録番号 | 不動産鑑定士の登録番号 |
| 署名又は記名押印 | 報告書の真正性の担保 |
| 不動産鑑定業者の名称 | 所属する鑑定業者の名称 |
複数の不動産鑑定士が関与する場合
鑑定評価に複数の不動産鑑定士が関与する場合には、各不動産鑑定士の役割分担を明確にして記載する必要があります。主たる評価者と補助的な評価者を区分し、それぞれの関与の範囲を明示します。
報告書の形式と付属資料
報告書の形式
基準は、鑑定評価報告書の形式についても規定しています。報告書の体裁は、利用者にとっての読みやすさと理解のしやすさを考慮して作成されるべきです。
鑑定評価報告書は、報告書の利用者が容易にその内容を理解し得るように記載しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第9章
この規定は、報告書が専門家向けの技術文書としてだけでなく、依頼者や関係者にとっても理解可能な文書として作成されるべきことを示しています。
| 形式上の留意点 | 内容 |
|---|---|
| 明確性 | 記載内容が明確で曖昧さがないこと |
| 簡潔性 | 必要な情報を過不足なく簡潔に記載すること |
| 体系性 | 記載事項が論理的な順序で体系的に配列されていること |
| 一覧性 | 必要な情報が容易に参照できること |
付属資料
報告書には、本文の記載内容を補足する付属資料を添付します。
| 付属資料 | 内容・目的 |
|---|---|
| 対象不動産の位置図 | 対象不動産の所在位置の確認 |
| 対象不動産の写真 | 物的状態の視覚的な確認 |
| 公図・地積測量図の写し | 土地の形状・面積の確認 |
| 都市計画図の写し | 公法上の規制の確認 |
| 取引事例等の位置図 | 採用した事例の位置関係 |
| 収支予測表 | 収益還元法を適用した場合の収支明細 |
付属資料は報告書本文と一体をなすものであり、報告書の信頼性と説得力を高める役割を果たしています。
鑑定評価書と鑑定調査書の違いについては鑑定評価書と調査書の違いを参照してください。
鑑定評価報告書に関する責任と倫理
不動産鑑定士の責任
鑑定評価報告書は、不動産鑑定士の専門家としての判断を公式に表明するものです。報告書の記載内容について、不動産鑑定士は法的な責任を負います。
不動産鑑定士が不適切な鑑定評価を行い、報告書の利用者に損害を与えた場合には、不法行為責任や債務不履行責任が問われる可能性があります。また、不動産の鑑定評価に関する法律に基づく行政処分(戒告、業務停止、登録消除等)の対象ともなり得ます。
守秘義務と情報開示
不動産鑑定士は守秘義務を負っていますが、鑑定評価報告書には評価に必要な情報を適切に開示する義務もあります。この守秘義務と情報開示義務の間のバランスをとることが求められます。
| 開示すべき情報 | 守秘すべき情報 |
|---|---|
| 鑑定評価額と決定の理由 | 依頼者のプライバシーに関する情報 |
| 対象不動産の確認結果 | 取引事例の具体的な当事者情報 |
| 価格形成要因の分析結果 | 第三者の個人情報 |
| 利害関係の有無と内容 | 依頼の背景にある機密情報 |
報告書の保存義務
不動産鑑定士は、鑑定評価報告書の写しを一定期間保存する義務があります。これは、事後的な検証や照会に対応するため、また紛争が生じた場合の証拠として保全するためです。
関与不動産鑑定士が対象不動産に関して利害関係を有する場合、鑑定評価報告書にはその旨及びその内容を記載しなければならない。
総論第9章の試験対策ポイント
択一式試験での出題傾向
択一式試験では、鑑定評価報告書の記載事項に関する正誤判定が出題されます。頻出パターンとしては以下のようなものがあります。
- 必須記載事項の列挙からの出題: 記載事項の一部を省略したり、記載不要な事項を追加したりして正誤を問う
- 各記載事項の内容の入れ替え: 「鑑定評価額の決定の理由の要旨」に記載すべき内容を別の記載事項の内容と入れ替えるなど
- 利害関係の開示に関する出題: 開示すべき利害関係の範囲や開示方法に関する正誤を問う
論文式試験での活用
論文式試験では、鑑定評価報告書そのものが出題テーマとなることは多くありませんが、「鑑定評価の手順を述べよ」といった設問の最終段階で報告書の作成に言及する場面があります。
また、鑑定評価の信頼性や品質管理に関する設問においては、報告書の記載事項が鑑定評価の信頼性を確保するためにどのような役割を果たしているかを論じることが求められる場合があります。
暗記すべきポイント
| 暗記すべき事項 | 理由 |
|---|---|
| 必須記載事項の全項目 | 択一式で正確に列挙できること |
| 決定の理由の要旨の構成要素 | 論文式で記述できること |
| 利害関係の開示対象の範囲 | 択一式で範囲を判断できること |
| 報告書の形式に関する原則 | 利用者の理解可能性という基本原則 |
まとめ
鑑定評価基準 総論第9章は、鑑定評価報告書の記載事項と作成方法について体系的に規定しています。本記事で解説した要点を改めて整理します。
- 鑑定評価報告書は不動産鑑定士の専門的判断が凝縮された公式文書であり、評価の透明性と検証可能性を確保する役割を担う
- 必須記載事項は鑑定評価額、対象不動産の表示、依頼目的及び条件、価格時点、価格の種類、対象不動産の確認、決定の理由の要旨、利害関係等、関与不動産鑑定士、鑑定業者の名称、その他の事項、付属資料の12項目
- 鑑定評価額の決定の理由の要旨は報告書の中核をなし、価格形成要因の分析結果、手法適用の概要、調整及び決定の判断を記載する
- 利害関係等の開示は鑑定評価の公正性と独立性を担保するために不可欠
- 報告書の形式は利用者が容易に内容を理解し得るように記載すべき
- 関与不動産鑑定士の氏名及び署名又は記名押印により、責任の所在が明確にされる
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