農地・林地の鑑定評価のポイント
農地・林地の鑑定評価のポイントを解説。農地地域・林地地域の地域要因(気象・土壌・水利等)、個別的要因の特徴、比準価格を標準とする評価手法、宅地見込地との関係、農地法等の公法上の規制が鑑定評価に与える影響まで整理します。
農地・林地の鑑定評価とは
不動産鑑定士試験において、農地及び林地の鑑定評価は、宅地の鑑定評価とは異なる特殊な論点を含む分野です。鑑定評価基準は、不動産の種別として宅地のほかに農地と林地を区分し、それぞれの特性に応じた地域要因・個別的要因を定めています。
農地地域とは、農業生産活動のうち耕作の用に供されることが、自然的、社会的、経済的及び行政的観点からみて合理的と判断される地域をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第2章第1節
林地地域とは、林業生産活動のうち木竹又は特用林産物の生育の用に供されることが、自然的、社会的、経済的及び行政的観点からみて合理的と判断される地域をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第2章第1節
農地地域の地域要因
農地地域の地域要因は、宅地地域とは大きく異なります。農業生産活動に関連する自然的条件が中心となります。
| 地域要因 | 内容 |
|---|---|
| 日照、温度、湿度、風雨等の気象の状態 | 農業生産に直結する自然条件 |
| 起伏、高低等の地勢の状態 | 耕作の効率性に影響 |
| 土壌及び土層の状態 | 作物の生育に不可欠 |
| 水利及び水質の状態 | 灌漑の可否・効率性 |
| 洪水、地すべり等の災害の発生の危険性 | 農業経営のリスク |
| 道路等の整備の状態 | 農機具の搬入、農作物の搬出 |
| 集落との位置関係 | 農家の通作の利便性 |
| 集荷地又は産地市場との位置関係 | 農産物の出荷の利便性 |
| 消費地との距離及び輸送施設の状態 | 市場へのアクセス |
| 行政上の助成及び規制の程度 | 農業施策の影響 |
林地地域の地域要因
林地地域の地域要因は、林業生産活動に関連するものが中心です。
| 地域要因 | 内容 |
|---|---|
| 日照、温度、湿度、風雨等の気象の状態 | 木竹の生育条件 |
| 標高、地勢等の状態 | 林業経営の効率性 |
| 土壌及び土層の状態 | 樹木の生育条件 |
| 林道等の整備の状態 | 木材の搬出路 |
| 労働力確保の難易 | 林業労働者の確保 |
| 行政上の助成及び規制の程度 | 林業施策の影響 |
農地・林地の個別的要因
農地の個別的要因
| 個別的要因 | 内容 |
|---|---|
| 日照、乾湿、雨量等の状態 | 個別の農地の微気象 |
| 土壌及び土層の状態 | 個別の農地の土質 |
| 農道の状態 | 農道へのアクセス |
| 灌漑排水の状態 | 用水の確保と排水 |
| 耕うんの難易 | 耕作のしやすさ |
| 集落との接近の程度 | 通作距離 |
| 集荷地との接近の程度 | 出荷の利便性 |
| 災害の危険性の程度 | 個別の災害リスク |
| 公法上及び私法上の規制、制約等 | 農地法等の規制 |
林地の個別的要因
| 個別的要因 | 内容 |
|---|---|
| 日照、乾湿、雨量等の状態 | 個別の林地の微気象 |
| 標高、地勢等の状態 | 個別の林地の地形 |
| 土壌及び土層の状態 | 個別の林地の土質 |
| 木材の搬出、運搬等の難易 | 搬出路の整備状況 |
| 管理の難易 | 林業管理のしやすさ |
| 公法上及び私法上の規制、制約等 | 森林法等の規制 |
農地・林地の鑑定評価手法
農地の鑑定評価
農地の鑑定評価額は、比準価格を標準とし、収益価格を参考として決定します。
この場合における農地の鑑定評価額は、比準価格を標準とし、収益価格を参考として決定するものとする。再調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきである。
― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第1節
| 手法 | 位置づけ | 理由 |
|---|---|---|
| 比準価格 | 標準 | 農地の取引事例との比較が最も有効 |
| 収益価格 | 参考 | 農業収益に基づく価格だが精度に限界 |
| 積算価格 | 関連づけ(可能な場合) | 再調達原価が把握できる場合 |
林地の鑑定評価
林地の鑑定評価も農地と同様に、比準価格を標準とし、収益価格を参考として決定します。
なお、農地・林地の鑑定評価は、公共事業の用に供する土地の取得等、農地を農地以外のもの(又は林地を林地以外のもの)とするための取引に関連して行われることが多い点に特徴があります。
宅地見込地との関係
宅地見込地の意義
農地や林地が宅地化する過程にある場合、その土地は宅地見込地として区分されます。
見込地とは、宅地地域、農地地域、林地地域等の相互間において、ある種別の地域から他の種別の地域へと転換しつつある地域のうちにある土地をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第2章第1節
宅地見込地の鑑定評価額は、比準価格と造成後の更地を想定した開発法的手法を関連づけて決定します。
熟成度の概念
宅地見込地の鑑定評価においては、熟成度が重要な概念です。熟成度とは、農地等から宅地への転換の進行の程度をいいます。
- 熟成度が高い: 宅地化が間近。宅地としての要因をより重視
- 熟成度が低い: 宅地化まで相当期間。転換前の要因をより重視
| 熟成度 | 評価の方向性 |
|---|---|
| 高い | 転換後の宅地の価格を基礎に造成費等を控除 |
| 低い | 比準価格を標準に宅地化の期待性を加味 |
地域の転換・移行と価格形成
鑑定評価基準は、地域の種別の転換について次の重要な規定を置いています。
宅地地域、農地地域、林地地域等の相互間において、ある種別の地域から他の種別の地域へと転換しつつある地域及び宅地地域、農地地域等のうちにあって、細分されたある種別の地域から、その地域の他の細分された地域へと移行しつつある地域があることに留意すべきである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第2章第1節
地域要因の分析においても、転換又は移行の程度に応じて重視すべき要因が異なります。
転換し、又は移行すると見込まれる転換後又は移行後の種別の地域の地域要因をより重視すべきであるが、転換又は移行の程度の低い場合においては、転換前又は移行前の種別の地域の地域要因をより重視すべきである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第3章第2節
地域分析・個別分析の手法において、この地域の転換・移行の分析が特に重要となります。
農業補償・立木補償との関係
農地や林地が公共事業の用に供される場合、土地の鑑定評価とは別に補償が行われることがあります。
- 農地の場合: 「土地の取得により通常生ずる損失の補償として農業補償が別途行われる場合がある」
- 林地の場合: 「土地の取得により通常生ずる損失の補償として立木補償等が別途行われる場合がある」
鑑定評価額と補償額は別の概念であり、鑑定評価は土地自体の経済価値を求めるものであるのに対し、補償は土地の取得によって生じる損失を填補するものです。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 農地地域・林地地域の定義: 「農業生産活動のうち耕作の用に供される」「林業生産活動のうち木竹又は特用林産物の生育の用に供される」
- 農地・林地の鑑定評価手法: 「比準価格を標準、収益価格を参考」
- 見込地の定義: 「ある種別の地域から他の種別の地域へと転換しつつある地域のうちにある土地」
- 熟成度に応じた地域要因の分析: 高い場合と低い場合で重視すべき要因が異なる
論文式試験
論点1: 農地の鑑定評価手法と宅地の鑑定評価手法の違い。 比準価格を標準とする理由と、収益価格が参考にとどまる理由を論述する問題です。
論点2: 宅地見込地の鑑定評価と熟成度。 熟成度の高低に応じた評価アプローチの違いを論述する問題です。
暗記のポイント
- 農地・林地の鑑定評価: 「比準価格を標準、収益価格を参考」
- 宅地見込地: 「ある種別の地域から他の種別の地域へと転換しつつある地域のうちにある土地」
- 農地地域の地域要因: 気象、地勢、土壌、水利、災害リスク、道路、集落、集荷地、消費地
- 補償との関係: 「農業補償」「立木補償」は鑑定評価とは別に行われる
まとめ
農地及び林地の鑑定評価は、宅地の鑑定評価とは異なる地域要因・個別的要因の分析が必要です。農地地域では気象、土壌、水利が、林地地域では標高、地勢、林道整備が特に重要な要因となります。
農地・林地の鑑定評価手法は、比準価格を標準とし収益価格を参考とするのが基本です。宅地見込地への転換過程にある場合は、熟成度に応じた評価アプローチの使い分けが必要です。
農地・林地の鑑定評価の理解を深めるために、不動産の種別と類型の完全整理、地域分析・個別分析の方法、価格形成要因の解説、更地の鑑定評価、開発法とはも併せて参照してください。