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鑑定評価書の書き方実践ガイド - 不動産鑑定士の実務修習生向け

鑑定評価書の書き方を実務修習生向けに徹底解説。12の必須記載事項の実践的な書き方、よくある指摘事項と対策、修了考査で注意すべきポイントまで、合格に直結する鑑定評価書作成の実践ガイドです。

鑑定評価書とは何か

鑑定評価書は、不動産鑑定士が行った鑑定評価の結果とその過程を文書化したものであり、鑑定評価業務の最終成果物です。依頼者や利害関係人に対して、鑑定評価額の根拠を明確に示す重要な書類であり、その記載内容は不動産鑑定評価基準によって厳密に規定されています。

不動産鑑定士は、鑑定評価の結果についてその内容を明らかにした鑑定評価報告書を作成しなければならない。― 不動産鑑定評価基準 総論第9章

鑑定評価書の品質は、不動産鑑定士としての信頼性を左右します。実務修習においても、評価書の作成は最も重要な学習項目の一つであり、修了考査では実際に評価書を作成する課題が課されます。

本記事では、実務修習生を主な対象として、鑑定評価書の12の必須記載事項の実践的な書き方、よくある指摘事項、そして修了考査で注意すべきポイントを解説します。

鑑定評価書の全体構成

基準が求める記載事項

鑑定評価基準では、鑑定評価報告書に記載すべき事項として以下を規定しています。

  1. 鑑定評価額
  2. 鑑定評価の対象とした不動産の表示
  3. 鑑定評価の依頼目的
  4. 鑑定評価の条件
  5. 価格時点
  6. 価格又は賃料の種類
  7. 対象不動産の確認に関する事項
  8. 鑑定評価の方法に関する事項
  9. 鑑定評価額の決定の理由の要旨
  10. 付記事項
  11. 鑑定評価を行った不動産鑑定士の氏名
  12. 関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者に係る利害関係等

典型的な目次構成

実務で作成される鑑定評価書の典型的な目次構成は以下のとおりです。

内容ページ数目安
表紙鑑定評価額、対象不動産の表示1ページ
第1章鑑定評価の基本的事項2〜3ページ
第2章対象不動産の確認3〜5ページ
第3章一般的要因の分析2〜3ページ
第4章地域分析3〜5ページ
第5章個別分析2〜3ページ
第6章鑑定評価手法の適用10〜20ページ
第7章試算価格の調整と鑑定評価額の決定2〜3ページ
第8章付記事項1〜2ページ
添付資料位置図、公図、写真等数ページ

記載事項1: 鑑定評価額

書き方のポイント

鑑定評価額は、鑑定評価書の冒頭に明確に記載します。

記載例

鑑定評価額  金 ○○,○○○,○○○ 円
(金○千○百万円)
  • 数字は明確に記載し、桁の読み間違いが起こらないようにする
  • 漢数字での表記も併記するのが一般的
  • 端数処理のルールは事務所の方針に従う(千円未満切り捨てが一般的)

よくある指摘事項

  • 鑑定評価額と本文中の計算結果が一致していない
  • 端数処理が統一されていない

記載事項2: 対象不動産の表示

書き方のポイント

対象不動産を特定するための情報を正確に記載します。

土地の場合

  • 所在及び地番
  • 地目(登記簿上の地目と現況地目)
  • 地積(登記簿面積と実測面積がある場合は両方記載)

建物の場合

  • 所在及び家屋番号
  • 種類(居宅、事務所、店舗等)
  • 構造(木造、RC造等)
  • 床面積(各階)
  • 建築年月

よくある指摘事項

  • 登記事項証明書の内容と記載が不一致
  • 現況と登記簿の相違点の説明が不足
  • 建物の未登記部分の記載漏れ
確認問題

鑑定評価書における対象不動産の表示では、登記簿上の地目と現況地目が異なる場合、登記簿上の地目のみを記載すればよい。

記載事項3-6: 基本的事項

依頼目的の記載

依頼目的は、鑑定評価の結果がどのように利用されるかを明確にする項目です。

記載例

  • 「売買の参考とするため」
  • 「担保評価のため」
  • 「相続税申告のための不動産評価」
  • 「会社合併に伴う資産評価のため」

依頼目的によって、求めるべき価格の種類が異なります。

鑑定評価の条件

鑑定評価の条件は、評価の前提となる設定事項です。

対象確定条件

  • 独立鑑定評価: 対象不動産の現実の利用状況を前提
  • 部分鑑定評価: 複合不動産の一部のみを対象
  • 併合鑑定評価: 複数の不動産をまとめて評価

地域要因・個別的要因についての想定上の条件

調査範囲等条件

  • 土壌汚染の調査を行わない場合等の限定

価格時点と価格の種類

  • 価格時点: 「令和○年○月○日」と具体的に記載
  • 価格の種類: 正常価格、限定価格、特定価格、特殊価格のいずれか
正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。― 不動産鑑定評価基準 総論第5章

記載事項7: 対象不動産の確認

物的確認の記載

現地調査で確認した内容を正確に記載します。

土地の物的確認

  • 確認日時
  • 確認方法(実地調査による)
  • 土地の現況(利用状態、形状、地勢等)
  • 接道状況の確認結果
  • インフラの整備状況

建物の物的確認

  • 建物の外観・内部の状態
  • 設備の状況
  • 維持管理の状態
  • 増改築の有無

権利の態様の確認

  • 所有権の確認(登記事項証明書による)
  • 借地権・借家権の有無
  • 担保権の設定状況
  • その他の権利制限

よくある指摘事項

  • 確認日時の記載が不正確
  • 現況と資料の相違に対する説明が不足
  • 権利関係の確認が不十分

記載事項8: 鑑定評価の方法

一般的要因の分析

マクロ経済の動向や不動産市場全体のトレンドを記載します。

  • 経済情勢(GDP成長率、金利動向、物価動向)
  • 不動産市場の動向(取引件数、価格水準の推移)
  • 金融政策の影響
  • 人口動態

地域分析の記載

対象不動産が所在する地域の特性を分析・記載します。

近隣地域の分析

  • 地域の範囲の特定
  • 地域の標準的使用の判定
  • 地域要因の分析(交通接近条件、環境条件、行政的条件等)

類似地域・同一需給圏の分析

  • 類似地域の範囲の特定
  • 類似地域との比較

個別分析の記載

対象不動産の個別的要因を分析・記載します。

  • 土地の個別的要因(接道、形状、規模、地勢等)
  • 建物の個別的要因(構造、築年数、管理状態等)
  • 対象不動産の最有効使用の判定
確認問題

鑑定評価書における地域分析では、近隣地域の分析のみを記載すればよい。

記載事項8(続き): 鑑定評価手法の適用

原価法の記載

原価法を適用した場合の記載事項です。

記載すべき項目

  • 再調達原価の算定根拠
  • 土地: 取引事例比較法等による素地価格+造成費
  • 建物: 直接法または間接法による建築費の算定
  • 減価修正の内容
  • 物理的減価: 経過年数に基づく減価
  • 機能的減価: 設計の陳腐化等
  • 経済的減価: 周辺環境の変化等
  • 積算価格の算出過程

よくある指摘事項

  • 再調達原価の算定根拠が不明確
  • 減価修正の各項目の説明が不十分
  • 経済的残耐用年数の判断理由が記載されていない

取引事例比較法の記載

記載すべき項目

  • 採用した取引事例の概要(所在、面積、取引価格、取引時点)
  • 事情補正の内容と根拠
  • 時点修正の内容と根拠
  • 地域要因の比較
  • 個別的要因の比較
  • 比準価格の算出過程

よくある指摘事項

  • 採用事例の選択理由が不明確
  • 事情補正の根拠が薄い
  • 要因比較の格差率の根拠が不十分
  • 複数事例間の比準価格のバラつきに対する説明がない

収益還元法の記載

収益還元法を適用した場合は、以下を記載します。

直接還元法の場合

  • 総収入の査定根拠(賃料水準、稼働率等)
  • 総費用の査定根拠(管理費、修繕費、公租公課等)
  • 純収益の算出
  • 還元利回りの査定根拠
  • 収益価格の算出

DCF法の場合

  • 分析期間の設定根拠
  • 各期の収入・費用の査定
  • 割引率の査定根拠
  • 復帰価格の査定
  • DCF法による収益価格の算出

記載事項9: 試算価格の調整と鑑定評価額の決定

調整の記載方法

各手法で求めた試算価格を比較検討し、鑑定評価額を決定する過程を記載します。

鑑定評価の手順の最終段階における、各手法の適用により求められた各試算価格の再吟味及び各試算価格が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価における最終判断として、鑑定評価額を決定する。― 不動産鑑定評価基準 総論第8章

記載例の構成

1. 各試算価格の概要
   積算価格: ○○○,○○○千円
   比準価格: ○○○,○○○千円
   収益価格: ○○○,○○○千円

2. 各試算価格の再吟味
   (各手法の適用過程を振り返り、妥当性を検証)

3. 各試算価格の説得力の判断
   (対象不動産の類型、市場特性等を踏まえた判断)

4. 鑑定評価額の決定
   金○○○,○○○,○○○円

よくある指摘事項

  • 各試算価格の乖離理由の分析が不十分
  • 「中庸を採った」だけの機械的な調整になっている
  • どの試算価格を重視したかの理由が不明確
  • 市場の実態を踏まえた判断がされていない
確認問題

試算価格の調整では、各手法で求めた試算価格の単純平均をもって鑑定評価額とするのが原則である。

記載事項10-12: 付記事項等

付記事項の記載

付記事項は、鑑定評価額に関連する留意事項を記載する欄です。

  • 調査範囲の限定がある場合の説明
  • 将来の価格変動に関する見通し
  • その他、評価額の利用にあたって留意すべき事項

鑑定士の署名

評価を行った不動産鑑定士の氏名を記載し、署名または記名押印します。

利害関係等の記載

対象不動産に関する利害関係の有無を記載します。利害関係がある場合は、その内容を具体的に記載する義務があります。

修了考査で注意すべきポイント

修了考査の概要

実務修習の修了考査では、与えられた条件に基づいて鑑定評価書を作成する課題が課されます。限られた時間の中で質の高い評価書を仕上げるため、以下のポイントを意識しましょう。

合格するための実践的アドバイス

1. テンプレートを準備する

修了考査では時間が限られるため、事前に各章のテンプレートを作成しておくと効率的です。一般的要因の分析や地域分析の定型的な記述は、あらかじめ準備しておきましょう。

2. 論理的整合性を最優先する

数値の計算が合っていることは最低条件です。それに加えて、地域分析の結論と最有効使用の判定が整合しているか、試算価格の調整理由が説得力を持っているかなど、全体の論理的整合性が問われます。

3. 基準の趣旨に沿った記述を心がける

鑑定評価基準の条文や趣旨に沿った記述を心がけましょう。独自の用語や独自の手法を使うのではなく、基準で認められた方法に従うことが重要です。

4. 時間配分を事前に計画する

工程時間配分の目安
条件の読み込み・整理全体の10%
地域分析・個別分析全体の15%
鑑定評価手法の適用全体の40%
試算価格の調整全体の15%
全体の見直し・整合性チェック全体の20%

5. 計算間違いを防ぐ

計算間違いは最も減点されやすいポイントです。計算結果は必ず検算し、端数処理を統一し、各手法の結果と最終的な鑑定評価額が整合していることを確認しましょう。

まとめ

鑑定評価書は不動産鑑定士の実力が最も端的に表れる成果物です。本記事のポイントを整理します。

  • 12の必須記載事項: 鑑定評価基準で定められた記載事項を漏れなく記載する
  • 対象不動産の確認: 物的確認と権利の態様の確認を正確に行い、記載する
  • 鑑定評価手法の適用: 各手法の適用過程を、根拠とともに明確に記述する
  • 試算価格の調整: 機械的な平均ではなく、説得力のある判断と理由を示す
  • 修了考査対策: テンプレート準備、論理的整合性の確保、時間配分の計画が合格のカギ

鑑定評価書の作成スキルは、実務を通じて磨かれていくものです。鑑定評価の全工程を理解し、鑑定評価基準の全体像を体系的に学びながら、実践的な評価書作成能力を身につけてください。

初めて評価書を書く方は、鑑定評価の三方式の基本から確実に押さえたうえで、各手法の適用方法を一つずつ習得していくことをおすすめします。

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