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不動産鑑定の現場に密着 - 現地調査から評価書完成までの全工程

不動産鑑定の実務工程を依頼受付から評価書完成まで完全ガイド。現地調査の具体的な作業内容、資料収集の方法、分析手法、評価書作成のポイントまで、鑑定士の仕事の全貌を実務目線で解説します。

鑑定評価業務の全体像

不動産鑑定士の仕事は、単に「不動産の値段を決める」だけではありません。依頼を受けてから鑑定評価書を納品するまでには、多くの工程を経る必要があります。それぞれの工程で求められる知識やスキルは異なり、すべてを高い水準で遂行することが質の高い鑑定評価につながります。

鑑定評価業務の全体的な流れは、不動産鑑定評価基準においても規定されています。基準では、鑑定評価の手順として、対象の確認、資料の収集・整理、分析、鑑定評価手法の適用、試算価格の調整、鑑定評価額の決定という一連のプロセスが示されています。

本記事では、依頼受付から評価書完成までの全工程を、現場目線でリアルに解説します。不動産鑑定の流れの基本を理解したうえで、実務レベルの詳細を学びましょう。

工程1: 依頼受付と対象不動産の確定

依頼の受付

鑑定評価業務は、依頼者からの問い合わせから始まります。依頼者は個人、企業、金融機関、弁護士、税理士、裁判所、行政機関など多岐にわたります。

依頼を受ける際に確認すべき事項は以下のとおりです。

  • 依頼目的: 売買の参考、担保評価、相続税申告、訴訟、会計処理など
  • 対象不動産の概要: 所在地、地番、地目、面積、建物の有無
  • 必要な評価の種類: 正常価格、限定価格、特定価格、賃料評価など
  • 納品期限: いつまでに評価書が必要か
  • 報酬: 鑑定の費用・手数料について合意

対象不動産の確定と鑑定評価の条件設定

依頼内容に基づいて、対象不動産を確定します。この段階で以下を明確にします。

鑑定評価に当たっては、まず、対象不動産を確定しなければならない。対象不動産の確定に当たっては、鑑定評価の対象とする不動産の所在、範囲等の物的事項及び所有権、賃借権等の対象不動産の権利の態様に関する事項を確定しなければならない。― 不動産鑑定評価基準 総論第5章
  • 物的確定: 土地の所在・地番・面積、建物の構造・面積・築年数
  • 権利の態様の確定: 所有権、借地権、区分所有権など
  • 価格時点の設定: いつの時点の価格を求めるか
  • 鑑定評価の条件: 更地としての評価、現状有姿評価など
確認問題

鑑定評価を行う際には、対象不動産の物的事項のみを確定すればよく、権利関係の確定は不要である。

工程2: 資料の収集と整理

収集すべき資料の種類

鑑定評価に必要な資料は膨大であり、資料収集は鑑定業務の中でも時間のかかる工程です。収集する資料は大きく以下の4種類に分けられます。

1. 確認資料

  • 登記事項証明書(土地・建物)
  • 公図・地積測量図
  • 建物図面・各階平面図
  • 固定資産税評価証明書
  • 住宅地図

2. 要因資料

  • 用途地域等の都市計画情報
  • 路線価図・倍率表
  • 地価公示・地価調査のデータ
  • 建築確認台帳記載事項証明
  • ハザードマップ

3. 事例資料

  • 取引事例データ(不動産取引価格情報、レインズ等)
  • 賃貸事例データ
  • 造成事例・建築事例データ

4. その他の資料

  • 対象地域の人口動態・経済データ
  • 不動産市場の動向レポート
  • 対象不動産固有の資料(賃貸借契約書、管理規約等)

資料収集の方法

資料の収集先と方法を整理すると以下のとおりです。

資料収集先方法
登記事項証明書法務局オンライン申請可
公図・地積測量図法務局オンライン申請可
都市計画情報市区町村オンライン閲覧が増加中
路線価国税庁ウェブサイトで閲覧可
地価公示・地価調査国土交通省土地総合情報システム
取引事例国土交通省等不動産情報ライブラリ
ハザードマップ市区町村オンライン閲覧可
建築確認情報特定行政庁窓口確認が基本

近年は多くの資料がオンラインで取得可能になっていますが、役所調査で窓口に出向く必要がある項目もまだ残っています。

工程3: 現地調査の実施

現地調査の目的

現地調査は、書面だけでは把握できない対象不動産の状況を実際に確認するための工程です。鑑定士が自らの目で確認し、五感を使って不動産の特性を把握します。

実地調査を行うに当たっては、対象不動産の確認のために必要な資料をあらかじめ整理しておくとともに、対象不動産について、その内容を熟知するよう努めなければならない。― 不動産鑑定評価基準 総論第8章

現地調査で確認する項目

現地調査で確認すべき主な項目は以下のとおりです。詳細なチェックリストは現地調査のチェックポイントで解説しています。

土地に関する確認事項

  • 接道状況(道路の種類・幅員・接道長さ)
  • 土地の形状(整形・不整形)
  • 地勢(平坦・傾斜・高低差)
  • 周辺環境(商業施設・公共施設・嫌悪施設等)
  • インフラ整備状況(上下水道・ガス・電気)

建物に関する確認事項

  • 外観の状態(外壁、屋根、基礎)
  • 構造(木造、RC造、S造等の確認)
  • 設備の状況(エレベーター、空調、給排水等)
  • 維持管理の状態
  • 増改築・修繕の有無

周辺環境の確認

  • 最寄り駅・バス停からの距離と経路
  • 商業施設、学校、病院等の立地
  • 騒音、振動、臭気等の有無
  • 日照、通風の状況
  • 地域の雰囲気・景観

現地調査の実際の流れ

典型的な現地調査は以下のように進みます。

  1. 事前準備(前日): 資料の確認、調査ルートの計画、必要機材の準備
  2. 対象地への移動: 最寄り駅からの経路を実際に歩いて確認
  3. 周辺環境の把握: 対象地の周囲を徒歩で観察
  4. 対象地の確認: 境界、接道、形状、高低差等を確認
  5. 建物の確認(建物がある場合): 外観・内部の確認
  6. 写真撮影: 対象不動産と周辺環境の記録
  7. 計測: 接道幅員、間口、奥行等の実測
  8. 近隣へのヒアリング(必要に応じて): 地域の情報収集

現地調査に要する時間は、案件の種類によって異なります。更地であれば1〜2時間程度、大規模な収益物件であれば半日以上かかることもあります。

確認問題

鑑定評価基準では、現地調査(実地調査)に先立って対象不動産に関する資料をあらかじめ整理しておくことが求められている。

工程4: 役所調査

訪問する窓口

現地調査と並行して、対象不動産に関連する法規制を確認するため、関係行政機関への調査を行います。

窓口確認事項
都市計画課用途地域、建ぺい率、容積率、都市計画道路、地区計画
建築指導課建築確認の有無、建築基準法上の道路種別
道路課(管理課)道路台帳、道路の認定幅員、セットバックの要否
下水道課下水道の整備状況、受益者負担金
開発指導課開発許可の有無、造成工事の履歴
固定資産税課固定資産税評価額、課税状況
土木事務所国道・県道の状況確認

役所調査の詳細な手順と確認事項については、役所調査の実態で詳しく解説しています。

工程5: 鑑定評価手法の適用

三方式の適用

資料収集と現地調査が完了したら、収集した情報を基に鑑定評価手法を適用します。鑑定評価の三方式から、対象不動産の類型や利用状況に応じて適切な手法を選択・適用します。

原価法の適用

原価法は、対象不動産の再調達原価を求め、減価修正を行って積算価格を算出する手法です。

  • 再調達原価の算出: 土地の取得費+建物の建築費
  • 減価修正: 物理的減価、機能的減価、経済的減価を控除
  • 積算価格の決定

取引事例比較法の適用

取引事例比較法は、類似の取引事例を収集し、事情補正・時点修正・地域要因の比較・個別的要因の比較を行って比準価格を算出する手法です。

  • 取引事例の選択: 類似性の高い事例を複数選定
  • 事情補正: 特殊な事情がある場合の補正
  • 時点修正: 取引時点と価格時点の市場変動を反映
  • 要因比較: 地域要因・個別的要因の比較

収益還元法の適用

収益還元法は、対象不動産が生み出す純収益を還元利回りで割り戻して収益価格を算出する手法です。

  • 総収入の査定: 賃料収入等の見積もり
  • 総費用の査定: 維持管理費、修繕費、公租公課等
  • 純収益の算出: 総収入−総費用
  • 還元利回りの査定と収益価格の算出

試算価格の調整と鑑定評価額の決定

各手法で求めた試算価格を比較検討し、最終的な鑑定評価額を決定します。

鑑定評価の手順の最終段階における、各手法の適用により求められた各試算価格の再吟味及び各試算価格が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価における最終判断として、鑑定評価額を決定する。― 不動産鑑定評価基準 総論第8章

調整にあたっては、以下の観点から各試算価格の説得力を判断します。

  • 各手法に用いた資料の質と量
  • 各手法の適用過程における判断の適切性
  • 対象不動産の類型に対する各手法の適合性
  • 鑑定評価の依頼目的に対する各手法の適合性

工程6: 鑑定評価書の作成

鑑定評価書の構成

鑑定評価書には、鑑定評価基準で定められた記載事項を漏れなく記載する必要があります。

主な記載事項は以下のとおりです。

  1. 鑑定評価額
  2. 鑑定評価の対象
  3. 鑑定評価の依頼目的
  4. 鑑定評価の条件
  5. 価格時点
  6. 価格の種類
  7. 対象不動産の確認事項
  8. 鑑定評価の方法
  9. 鑑定評価の過程
  10. 試算価格の調整
  11. 鑑定評価額の決定の理由
  12. 付記事項

評価書の作成には通常数日から1週間程度を要し、鑑定業務全体の中でも大きな時間を占めます。詳しくは鑑定評価書の書き方実践ガイドをご覧ください。

品質管理とレビュー

評価書を納品する前に、品質管理のためのレビューを行います。

  • 内部レビュー: 上司や他の鑑定士による内容確認
  • 整合性チェック: 数値の計算間違いがないか
  • 基準適合性: 鑑定評価基準の記載要件を満たしているか
  • 論理的整合性: 評価の各段階で矛盾がないか
確認問題

鑑定評価書に記載すべき事項は、鑑定士が自由に決めてよい。

工程7: 納品と依頼者への説明

評価書の納品

鑑定評価書は、依頼者に対して直接手渡しまたは郵送で納品します。近年は電子データでの納品も増えていますが、正式な鑑定評価書は紙媒体での交付が基本です。

依頼者への説明

鑑定評価書を納品する際には、依頼者に対して評価の内容を分かりやすく説明することが重要です。

  • 鑑定評価額の根拠: なぜその金額になったのかを説明
  • 各手法の適用結果: 三方式の各試算価格とその背景
  • 市場動向: 対象エリアの不動産市場の状況
  • 留意事項: 評価の前提条件や制約事項

依頼者は不動産の専門家ではないことが多いため、専門用語を避けて平易な言葉で説明するスキルが求められます。

全工程のタイムスケジュール

一般的な案件の場合

一般的な更地や戸建住宅の鑑定評価における標準的なタイムスケジュールは以下のとおりです。

工程所要日数(目安)主な作業内容
依頼受付・条件確定1〜2日打ち合わせ、契約締結
資料収集2〜3日登記簿、都市計画情報等の取得
現地調査半日〜1日現地での確認・写真撮影
役所調査半日〜1日関係行政機関への確認
分析・評価手法の適用3〜5日三方式の適用、計算
評価書作成3〜5日記載事項の執筆、整理
レビュー・修正1〜2日品質確認、修正対応
合計約2〜3週間

案件の種類や難易度によって所要時間は大きく変わります。鑑定評価にかかる時間と工数で案件種別ごとの詳細を解説しています。

まとめ

不動産鑑定の現場では、依頼受付から評価書完成まで多岐にわたる工程が体系的に進められています。

  • 依頼受付: 目的の確認、対象不動産の確定、条件の設定
  • 資料収集: 確認資料、要因資料、事例資料を幅広く収集
  • 現地調査: 五感を使って不動産の特性を実地確認
  • 役所調査: 法規制や行政情報の確認
  • 評価手法の適用: 三方式を用いた試算価格の算出と調整
  • 評価書作成: 基準に準拠した記載事項の網羅
  • 納品: 依頼者への分かりやすい説明

不動産鑑定士を目指す方は、鑑定評価基準の全体像を学びながら、これらの実務工程がどのように基準と結びついているかを意識すると理解が深まります。実務修習では、まさにこの全工程を実践的に学ぶことになりますので、ぜひ本記事を参考にイメージを膨らませてください。

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