鑑定評価の依頼目的と利用者の範囲
鑑定評価の依頼目的は、求める価格の種類や条件設定を左右する出発点です。依頼目的と正常価格・限定価格・特定価格の対応関係、提出先・開示先の確認義務、利害関係等の3つの観点からの開示制度、鑑定評価書の「利用者」の範囲を基準に基づき整理します。
依頼目的の確認の意義
不動産鑑定士試験において、鑑定評価の依頼目的の確認は鑑定評価の基本的事項の確定の出発点として位置づけられています。鑑定評価は依頼者のニーズに応じて行われるものであり、依頼目的が異なれば、求める価格の種類や条件設定も異なります。
鑑定評価に当たっては、まず、鑑定評価の基本的事項を確定しなければならない。このため、鑑定評価の依頼目的、条件及び依頼が必要となった背景について依頼者に明瞭に確認するものとする。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第1節
本記事では、鑑定評価基準の全体像を前提に、依頼目的の確認と利用者の範囲に関する規定を解説します。
依頼目的と価格の種類の関連
依頼目的に対応した価格の種類
鑑定評価で求める価格の種類は、依頼目的に応じて決定されます。
不動産の鑑定評価によって求める価格は、基本的には正常価格であるが、鑑定評価の依頼目的に対応した条件により限定価格、特定価格又は特殊価格を求める場合がある
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節
条件設定との関連
依頼目的は、鑑定評価の条件設定とも密接に関連します。対象確定条件や想定上の条件は、依頼目的に応じて設定されるものです。
依頼者・提出先等の確認
確認すべき事項
基準は、鑑定評価に当たって以下の事項を確認するよう求めています。
依頼者並びに鑑定評価書が依頼者以外の者へ提出される場合における当該提出先及び鑑定評価額が依頼者以外の者へ開示される場合における当該開示の相手方
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第2節
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 依頼者 | 鑑定評価を依頼した者 |
| 提出先 | 鑑定評価書が依頼者以外の者へ提出される場合の提出先 |
| 開示の相手方 | 鑑定評価額が依頼者以外の者へ開示される場合の相手方 |
| 鑑定評価額の公表の有無 | 鑑定評価額が公表されるかどうか |
利用者の利益の保護
鑑定評価書の利用者とは、依頼者のみならず、提出先や開示の相手方を含む概念です。
「鑑定評価書の利用者」とは、依頼者及び提出先等のほか、法令等に基づく不動産鑑定士による鑑定評価を踏まえ販売される金融商品の購入者等をいう。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第5章
鑑定評価の条件設定において「利用者の利益を害するおそれがないか」が要件とされるのは、鑑定評価書が依頼者以外の第三者にも影響を及ぼすためです。
利害関係等の確認と開示
関与不動産鑑定士・関与不動産鑑定業者
基準は、鑑定評価に関与するすべての不動産鑑定士(関与不動産鑑定士)および関与不動産鑑定士の所属する不動産鑑定業者(関与不動産鑑定業者)について、利害関係等の確認と開示を求めています。
利害関係等の3つの観点
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 対象不動産に関する利害関係等 | 対象不動産に対する利害関係、利害関係を有する者との縁故・特別の利害関係 |
| 依頼者との関係 | 特別の資本的関係、人的関係及び取引関係 |
| 提出先等との関係 | 特別の資本的関係、人的関係及び取引関係 |
開示の意義
利害関係等の開示は、鑑定評価の公正性と透明性を確保するための制度です。不動産鑑定士は、基準第1章第4節で規定される責務として、公平妥当な態度を保持することが求められています。
不動産の鑑定評価に当たっては、自己又は関係人の利害の有無その他いかなる理由にかかわらず、公平妥当な態度を保持すること。
― 不動産鑑定評価基準 総論第1章第4節
利害関係等の開示は、この公平妥当な態度の保持を制度的に担保するものです。
鑑定評価報告書への記載
記載が必要な事項
鑑定評価報告書には、以下の事項を記載しなければなりません。
| 記載事項 | 基準の規定 |
|---|---|
| 鑑定評価額及び価格又は賃料の種類 | 総論第9章第2節Ⅰ |
| 鑑定評価の条件 | 総論第9章第2節Ⅱ |
| 対象不動産の確認に関する事項 | 総論第9章第2節Ⅳ |
| 依頼目的と価格の種類との関連 | 総論第9章第2節Ⅴ |
| 鑑定評価額の決定の理由の要旨 | 総論第9章第2節Ⅶ |
| 関与不動産鑑定士等の利害関係等 | 総論第9章第2節Ⅸ |
| 依頼者及び提出先等の氏名又は名称 | 総論第9章第2節Ⅺ |
| 鑑定評価額の公表の有無の確認内容 | 総論第9章第2節Ⅻ |
依頼目的と価格の種類との関連の記載
鑑定評価の依頼目的に対応した条件により、当該価格又は賃料を求めるべきと判断した理由を記載しなければならない。特に、特定価格を求めた場合には法令等による社会的要請の根拠、また、特殊価格を求めた場合には文化財の指定の事実等を明らかにしなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第9章第2節
証券化対象不動産における特則
証券化関係者との関係の記載
証券化対象不動産の鑑定評価においては、依頼者と証券化関係者との関係についても、鑑定評価報告書に記載しなければなりません。
証券化対象不動産は関係者が多岐にわたり利害関係が複雑であるため、より厳格な情報開示が求められます。
投資家保護の観点
証券化対象不動産の鑑定評価は、依頼者のみならず広範な投資家に重大な影響を及ぼします。この点において、利用者の範囲が一般の鑑定評価より広いことに留意が必要です。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 鑑定評価の基本的事項の確定で確認すべき事項
- 利害関係等の確認の3つの観点
- 鑑定評価報告書の記載事項(Ⅰ〜Ⅻ)
- 「鑑定評価書の利用者」の範囲
論文式試験
- 依頼目的と価格の種類の関連についての論述
- 利害関係等の開示が求められる趣旨の論述
- 条件設定と利用者保護の関連の論述
暗記のポイント
- 基本的事項の確定で確認する3事項(依頼目的・条件・背景)
- 利害関係等の3つの観点(対象不動産・依頼者・提出先等)
- 鑑定評価報告書の記載事項の全体構成(Ⅰ〜Ⅻ)
- 「鑑定評価書の利用者」の定義
まとめ
鑑定評価の依頼目的の確認は、鑑定評価の基本的事項を確定するための出発点であり、求める価格の種類や条件設定に直結します。また、鑑定評価書の利用者の範囲は依頼者にとどまらず、提出先等や金融商品の購入者等にまで及ぶため、利用者の利益の保護が鑑定評価の全過程において考慮されなければなりません。
利害関係等の確認と開示は、鑑定評価の公正性と透明性を制度的に担保する仕組みであり、不動産鑑定士の倫理規程とも密接に関連します。
関連するテーマとして、鑑定評価報告書の記載事項、鑑定評価条件の設定、価格概念の体系、鑑定評価の条件の3類型も参照してください。