価格と賃料の関係 - 鑑定評価の基礎概念
不動産鑑定評価基準の基礎概念「価格と賃料の関係」を解説。元本と果実の相関関係、期待利回り・還元利回りによる価格と賃料の結びつき、価格の種類と賃料の種類の対応関係、賃料の遅行性まで、鑑定評価における価格と賃料の体系を整理します。
価格と賃料の関係とは
不動産鑑定士試験において、価格と賃料の関係は鑑定評価基準の最も基礎的な概念のひとつです。不動産の経済価値は、交換の対価である価格として表示されると同時に、用益の対価である賃料としても表示されます。この二つの関係を正確に理解することが、鑑定評価の全体像を把握する第一歩となります。
鑑定評価基準は、総論第1章第2節において、不動産の価格の特徴を列挙するなかで、価格と賃料の関係について次のように規定しています。
不動産の経済価値は、一般に、交換の対価である価格として表示されるとともに、その用益の対価である賃料として表示される。そして、この価格と賃料との間には、いわゆる元本と果実との間に認められる相関関係を認めることができる。
― 不動産鑑定評価基準 総論第1章第2節
この規定が示すとおり、価格と賃料は別々に存在するものではなく、元本と果実の相関関係をもって密接に結びついています。
元本と果実の相関関係
経済学における元本と果実
元本とは、収益を生み出す源泉となる資産そのものの価値をいいます。果実とは、その元本から定期的に生み出される収益のことです。
不動産に当てはめると、元本に相当するのが不動産の価格であり、果実に相当するのが不動産の賃料(より正確には純賃料)です。預貯金でいえば、元本が預金額であり、果実が利息に該当します。
| 概念 | 一般的な例 | 不動産における対応 |
|---|---|---|
| 元本 | 預金額、株式の時価 | 不動産の価格(交換の対価) |
| 果実 | 利息、配当 | 賃料(用益の対価) |
| 利回り | 利率、配当利回り | 期待利回り、還元利回り |
価格と賃料を結ぶ「利回り」
元本と果実をつなぐのが利回りです。不動産の鑑定評価においては、価格を基礎として賃料を求める際に期待利回りが用いられ、賃料(純収益)を基礎として価格を求める際に還元利回りが用いられます。
この関係式は、鑑定評価の手法のなかで具体的に活用されています。収益還元法の基本的な考え方における直接還元法は、まさに純収益を還元利回りで還元して価格を求める手法です。また、積算法は、価格(基礎価格)に期待利回りを乗じて純賃料を求め、これに必要諸経費等を加算して賃料を求める手法です。
元本と果実の相関関係の具体的内容
元本と果実の相関関係は、次のような具体的な形で現れます。
価格が上昇すれば、賃料にも上昇圧力が生じる。 地価が上昇すれば、不動産所有者は期待する収益水準(期待利回り)を維持するために、賃料の引き上げを求める傾向があります。
賃料が上昇すれば、価格にも上昇圧力が生じる。 不動産から得られる賃料収入が増加すれば、収益還元法の考え方に照らして、不動産の収益価格は上昇します。投資家は、より高い賃料収入を期待して、より高い価格を支払う意思を持ちます。
ただし、価格と賃料は常に同じ比率で変動するわけではありません。賃料には価格に比べて変動が遅れるという「遅行性」があり、また賃貸借契約の拘束によって容易に改定できないという特性があります。この点は継続賃料の評価において特に重要な論点となります。
鑑定評価における価格と賃料の体系
価格の種類と賃料の種類の対応
鑑定評価基準は、価格と賃料のそれぞれについて複数の種類を定めています。両者は、同一の市場概念に基づいて対応関係にあります。
| 価格の種類 | 対応する賃料の種類 | 市場概念 |
|---|---|---|
| 正常価格 | 正常賃料 | 合理的な市場で形成される市場価値 |
| 限定価格 | 限定賃料 | 市場が相対的に限定される場合の市場価値 |
| 特定価格 | (対応なし) | 法令等による社会的要請を背景とする場合 |
| 特殊価格 | (対応なし) | 市場性を有しない不動産の経済価値 |
| (対応なし) | 継続賃料 | 特定の当事者間における経済価値 |
「正常価格」と「公正価値」の違いや正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格の違いも併せて参照してください。
正常価格と正常賃料
正常価格は、市場性を有する不動産について、合理的な市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格です。
正常賃料とは、正常価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等の契約において成立するであろう経済価値を表示する適正な賃料(新規賃料)をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節
正常賃料は、正常価格と「同一の市場概念」の下で求められるものです。つまり、市場参加者が自由意思に基づいて参加し、売り急ぎ・買い進み等の特別な動機がない合理的な市場を前提としています。
限定価格と限定賃料
限定価格は、併合や分割に基づき市場が相対的に限定される場合の価格です。限定賃料も同様に、限定価格と同一の市場概念の下で求められる新規賃料です。
隣接不動産の併合使用を前提とする賃貸借の場合や、経済合理性に反する不動産の分割使用を前提とする賃貸借の場合に限定賃料を求めることがあります。
継続賃料の特殊性
継続賃料は、賃料の種類のなかで唯一、価格の種類と直接的な対応関係を持たないものです。
継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節
継続賃料は、既存の賃貸借契約の継続を前提とし、特定の当事者間における経済価値を表示するものです。正常価格や正常賃料のように不特定多数の市場参加者を前提とするのではなく、現行の契約当事者間での公平を旨とする点に特徴があります。
新規賃料と継続賃料の違い
新規賃料の性格
新規賃料は、新たな賃貸借契約の締結に際して成立する賃料です。正常賃料と限定賃料がこれに該当します。新規賃料を求める鑑定評価の手法には、積算法、賃貸事例比較法、収益分析法があります。
継続賃料の性格
継続賃料は、既存の契約が継続するなかで改定される賃料です。継続賃料を求める鑑定評価の手法には、差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法があります。
| 項目 | 新規賃料 | 継続賃料 |
|---|---|---|
| 前提 | 新たな賃貸借契約 | 既存の契約の継続 |
| 当事者 | 不特定多数の市場参加者 | 特定の契約当事者 |
| 主な手法 | 積算法、賃貸事例比較法、収益分析法 | 差額配分法、利回り法、スライド法 |
| 価格形成の中心 | 市場の需給関係 | 契約の経緯、当事者間の公平 |
新規賃料の求め方と継続賃料の求め方でそれぞれの手法を詳しく解説しています。
実質賃料と支払賃料
実質賃料の意義
鑑定評価基準は、賃料の算定に当たって実質賃料を求めることを原則としています。
実質賃料とは、賃料の種類の如何を問わず賃貸人等に支払われる賃料の算定の期間に対応する適正なすべての経済的対価をいい、純賃料及び不動産の賃貸借等を継続するために通常必要とされる諸経費等から成り立つものである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第2節
実質賃料は、支払賃料に一時金の運用益・償却額を加えた、賃貸人が受け取る経済的対価の全体です。
実質賃料の構成
実質賃料 = 純賃料 + 必要諸経費等
支払賃料 = 実質賃料 − 一時金の運用益及び償却額
| 構成要素 | 内容 |
|---|---|
| 純賃料 | 不動産の純粋な使用収益の対価 |
| 必要諸経費等 | 減価償却費、維持管理費、公租公課、損害保険料、貸倒れ準備費、空室等損失相当額 |
| 一時金の運用益 | 権利金・敷金・保証金等の運用から得られる利益 |
| 一時金の償却額 | 賃料の前払的性格を有する一時金の期間配分額 |
この構成を理解することは、元本と果実の関係を実務に即して把握する上で不可欠です。純賃料は不動産の価格(元本)に期待利回りを乗じて得られるものであり、まさに元本から生じる果実そのものです。
価格と賃料の関係が現れる鑑定評価の手法
価格から賃料を求める手法(積算法)
積算法は、価格と賃料の関係を最も直接的に活用する手法です。基礎価格(不動産の価格)に期待利回りを乗じて純賃料を求め、これに必要諸経費等を加算して賃料を算定します。
ここでの基礎価格は、原価法及び取引事例比較法により求めるものとされています。
賃料(収益)から価格を求める手法(収益還元法)
収益還元法は、不動産が将来生み出す純収益(賃料を基礎とする収益)の現在価値の総和を求めることにより価格を算定する手法です。
収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
直接還元法では、一期間の純収益を還元利回りで還元して収益価格を求めます。DCF法では、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を割引率で現在価値に割り引いて合計します。いずれの方法も、賃料を基礎とする収益から価格を導き出す点で、元本と果実の相関関係を活用しています。
利回りの位置づけ
価格と賃料を結ぶ利回りには、次のような種類があります。
| 利回りの種類 | 用途 | 概要 |
|---|---|---|
| 期待利回り | 積算法 | 基礎価格に対する純賃料の割合。賃料を求める際に使用 |
| 還元利回り | 直接還元法 | 純収益を還元して価格を求める際に使用 |
| 割引率 | DCF法 | 将来の純収益を現在価値に割り引く際に使用 |
| 継続賃料利回り | 利回り法 | 継続賃料を求める際に基礎価格に乗じる利回り |
還元利回り(キャップレート)とはで利回りの詳細を解説しています。
賃料の遅行性と価格との乖離
賃料の遅行性とは
不動産の価格と賃料は、元本と果実の関係にあるとはいえ、常に比例的に変動するわけではありません。実務において重要な現象が「賃料の遅行性」です。
賃料の遅行性とは、不動産の価格が変動しても、賃料がそれに追随するまでに時間的なずれが生じる現象をいいます。この遅行性が生じる主な理由は次のとおりです。
- 賃貸借契約の拘束力: 賃貸借契約は一定期間の拘束力を持ち、契約期間中は原則として賃料の改定が行われない
- 賃料改定の交渉コスト: 賃料の改定には当事者間の合意が必要であり、交渉には時間と費用がかかる
- 借地借家法による保護: 借地借家法に基づく賃借人の保護により、賃料の急激な変更が制限される
価格と賃料の乖離が生じる場面
価格が急激に上昇する局面では、賃料が価格に追いつかず、利回りが低下する傾向があります。逆に、価格が下落する局面では、賃料の下方硬直性により、賃料が高止まりし、見かけ上の利回りが上昇する場合があります。
この現象は、継続賃料の評価において特に重要です。差額配分法において「適正な実質賃料」と「実際実質賃料」の差額が生じる主要な原因のひとつが、この賃料の遅行性です。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 元本と果実の相関関係: 「価格と賃料の間には元本と果実の関係がある」という基準の規定が正確に問われる
- 正常価格と正常賃料の市場概念: 「正常賃料は正常価格と同一の市場概念の下で求められる」という対応関係
- 実質賃料と支払賃料の違い: 実質賃料の定義、支払賃料との関係が頻出
- 継続賃料の定義: 「特定の当事者間において成立するであろう経済価値」という定義の正確さ
論文式試験
- 元本と果実の関係の意義を論じる問題: 価格と賃料の相関関係が鑑定評価の手法にどう反映されているかを体系的に論述する
- 積算法と収益還元法の関係: 価格から賃料を求める手法と賃料から価格を求める手法の関係性を論述する
- 賃料の遅行性と継続賃料: 価格と賃料が乖離する理由と、継続賃料の評価における取扱いを論述する
暗記のポイント
- 「不動産の経済価値は、交換の対価である価格と、用益の対価である賃料として表示される」
- 「価格と賃料の間には、元本と果実の相関関係がある」
- 「正常賃料は、正常価格と同一の市場概念の下で求められる新規賃料」
- 「継続賃料は、特定の当事者間における経済価値を表示する賃料」
- 「実質賃料は、純賃料と必要諸経費等から成り立つ」
まとめ
不動産の価格(交換の対価)と賃料(用益の対価)は、元本と果実の相関関係によって密接に結びついています。この関係は、鑑定評価の手法体系の根幹を成すものです。積算法は価格から賃料を導き、収益還元法は賃料(収益)から価格を導きます。両者をつなぐのが期待利回りや還元利回りといった利回りの概念です。
価格の種類(正常価格・限定価格等)と賃料の種類(正常賃料・限定賃料・継続賃料)は、同一の市場概念に基づいて対応関係にありますが、継続賃料だけは特定の当事者間を前提とする点で特殊です。また、実務上は賃料の遅行性によって価格と賃料に乖離が生じることがあり、これが継続賃料の評価における重要な論点となります。
価格と賃料の関係をさらに深く理解するために、収益還元法の基本的な考え方、還元利回り(キャップレート)の解説、新規賃料の求め方、継続賃料の求め方も併せて参照してください。