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土地残余法と建物残余法 - 不動産鑑定の収益還元法における算定式と適用要件

不動産鑑定の収益還元法における土地残余法と建物残余法を解説。複合不動産の純収益を土地と建物に配分して収益価格を求める手法の算定式・計算例・適用要件を整理。直接還元法との違い、更地の収益価格の求め方を鑑定評価基準に基づき網羅します。

土地残余法・建物残余法とは

不動産鑑定士試験において、収益還元法の理解を深めるうえで欠かせないのが土地残余法建物残余法です。これらは、土地と建物等から構成される複合不動産の純収益を、土地と建物等にそれぞれ配分することで、いずれか一方の収益価格を求める手法です。

直接還元法が複合不動産全体の収益価格を一括して求めるのに対し、残余法は一方の価格が他の手法で求められることを前提として、残りの構成要素の収益価格を求めるという点に特徴があります。

本記事は土地残余法と建物残余法を対比して両者を整理します。土地残余法に絞った定義・計算手順・数値例は土地残余法とはで詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。


土地残余法

意義

土地残余法は、更地の収益価格を求める場合や、敷地と建物等の結合による複合不動産において建物等の価格が把握できる場合に適用される手法です。

対象不動産が更地である場合において、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定し、収益還元法以外の手法によって想定建物等の価格を求めることができるときは、当該想定建物及びその敷地に基づく純収益から想定建物等に帰属する純収益を控除した残余の純収益を還元利回りで還元する手法(土地残余法という。)を適用することができる。

― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章

算定式

土地残余法の基本的な算定式は以下のとおりです。

$$P_L = \frac{a - B \times R_B}{R_L}$$
記号意味
$P_L$土地の収益価格
$a$建物等及びその敷地の償却前の純収益
$B$建物等の価格
$R_B$償却前の純収益に対応する建物等の還元利回り
$R_L$土地の還元利回り

計算例:

前提条件:
  複合不動産の償却前の純収益:年間600万円
  建物の価格(原価法による):4,000万円
  建物の還元利回り(償却前):8%
  土地の還元利回り:5%

建物に帰属する純収益 = 4,000万円 × 8% = 320万円
土地に帰属する純収益 = 600万円 − 320万円 = 280万円
土地の収益価格 = 280万円 ÷ 5% = 5,600万円

適用要件

土地残余法の適用にはいくつかの重要な要件があります。

要件内容
建物等の価格の把握収益還元法以外の手法(原価法等)によって想定建物等の価格を求めることができること
純収益の配分可能性複合不動産が生み出す純収益を土地及び建物等に適正に配分できること
建物等の新しさ建物等が古い場合には土地に帰属する純収益が的確に求められないため、新築か築後間もないものでなければならない

特に3番目の要件は重要です。建物等が古い場合、建物等の経済価値と建物等に帰属すべき純収益の関係が不安定になり、結果として土地に帰属する残余の純収益の精度が低下するためです。

また、不動産が敷地と建物等との結合によって構成されている場合においても、収益還元法以外の手法によって建物等の価格を求めることができるときは、土地残余法を適用することができるが、建物等が古い場合には複合不動産の生み出す純収益から土地に帰属する純収益が的確に求められないことが多いので、建物等は新築か築後間もないものでなければならない。

― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章

更地の鑑定評価における位置づけ

更地の鑑定評価において、土地残余法による収益価格は重要な試算価格の一つです。更地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定し、その複合不動産が生み出す純収益から建物等に帰属する純収益を控除して、土地の収益価格を求めます。


建物残余法

意義

建物残余法は、土地残余法と逆の発想の手法です。複合不動産の純収益から土地に帰属する純収益を控除し、残余の純収益を建物等の還元利回りで還元して建物等の収益価格を求めます。

不動産が敷地と建物等との結合によって構成されている場合において、収益還元法以外の手法によって敷地の価格を求めることができるときは、当該不動産に基づく純収益から敷地に帰属する純収益を控除した残余の純収益を還元利回りで還元する手法(建物残余法という。)を適用することができる。

― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章

算定式

建物残余法の基本的な算定式は以下のとおりです。

$$P_B = \frac{a - L \times R_L}{R_B}$$
記号意味
$P_B$建物等の収益価格
$a$建物等及びその敷地の償却前の純収益
$L$土地の価格
$R_L$土地の還元利回り
$R_B$償却前の純収益に対応する建物等の還元利回り

計算例:

前提条件:
  複合不動産の償却前の純収益:年間600万円
  土地の価格(取引事例比較法による):5,000万円
  土地の還元利回り:5%
  建物の還元利回り(償却前):8%

土地に帰属する純収益 = 5,000万円 × 5% = 250万円
建物に帰属する純収益 = 600万円 − 250万円 = 350万円
建物の収益価格 = 350万円 ÷ 8% = 4,375万円

建物のみの鑑定評価における位置づけ

建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合における建物のみの鑑定評価額は、「積算価格を標準とし、配分法に基づく比準価格及び建物残余法による収益価格を比較考量して決定する」とされています。


土地残余法と建物残余法の比較

項目土地残余法建物残余法
求める価格土地の収益価格建物等の収益価格
既知の価格建物等の価格土地の価格
建物等の制約新築か築後間もないもの特に制約なし
主な適用場面更地の鑑定評価建物のみの鑑定評価
有効な場面土地と建物等の純収益の配分が適正にできる場合同左

両手法に共通する重要なポイントは、純収益の配分の適正さが収益価格の精度を決定するということです。各構成要素の還元利回りの設定が不適切であれば、残余の純収益に歪みが生じ、結果として求められる収益価格の信頼性が低下します。


残余方式の弱点――誤差が増幅される構造

残余法を使ううえで必ず理解しておくべき性質があります。前提の小さなずれが、答えを大きく動かすという点です。理由は式の形にあります。残余法は「全体から一方を引いた差額」を還元する構造なので、引かれる側の誤差がそのまま差額に乗り、しかも差額は全体より小さいため、相対的な誤差の割合が拡大します。

先ほどの計算例(純収益600万円、建物価格4,000万円、建物還元利回り8%、土地還元利回り5%、土地の収益価格5,600万円)を基準に、前提を一つずつ動かしてみます。

動かす前提変化建物帰属純収益土地帰属純収益土地の収益価格基準との差
(基準)320万円280万円5,600万円
建物還元利回り8% → 9%360万円240万円4,800万円▲14.3%
建物価格4,000万円 → 4,400万円(+10%)352万円248万円4,960万円▲11.4%
複合不動産の純収益600万円 → 570万円(▲5%)320万円250万円5,000万円▲10.7%

3行目に注目してください。純収益をわずか5%低く見積もっただけで、土地の収益価格は10.7%下がります。誤差がおよそ2倍に増幅されています。建物還元利回りを1ポイント動かしただけでも14%動きます。

なぜこうなるのか

土地に帰属する純収益は、全体(600万円)から建物分(320万円)を引いた残り280万円です。全体の5%は30万円ですが、これは残余280万円に対しては10.7%に相当します。引き算の結果が小さいほど、同じ絶対誤差が大きな相対誤差になる――これが増幅の正体です。

建物の割合が大きい不動産ほど残余は小さくなり、増幅の度合いも強まります。建物価格が高く土地の取り分が薄い物件で土地残余法を使うと、答えが極端に不安定になるのはこのためです。

実務上の帰結

この性質から、次の3つが導かれます。

第一に、前提の精度が命になります。 建物価格を原価法でどれだけ正確に求められるか、純収益をどれだけ確からしく査定できるかが、そのまま結果を左右します。基準が「建物等は新築か築後間もないものでなければならない」としているのも、古い建物では価格と帰属純収益の対応が崩れ、増幅された誤差が手に負えなくなるためです。

第二に、試算価格の調整で重みを慎重に置きます。 残余法による収益価格は、他の手法による試算価格と大きく食い違うことがあります。乖離したときに残余法の側を一方的に信じるのは危険です。前提のどれが結果を動かしているかを確認したうえで、重み付けを判断します。

第三に、感度を確認しておきます。 主要な前提を上下に振ってみて、結果がどの範囲で動くかを把握しておくと、評価額の説明に厚みが出ます。「この前提が1ポイント違えば結果はこれだけ動く」と示せることは、評価の弱点を隠さずに提示することでもあり、かえって信頼につながります。

試算価格が食い違ったときの扱いは試算価格の調整で解説しています。


還元利回りの設定

土地と建物等の還元利回りの違い

土地残余法・建物残余法では、土地の還元利回り($R_L$)と建物等の還元利回り($R_B$)を別々に設定する必要があります。

対象不動産が土地及び建物等により構成されている場合に、その物理的な構成要素(土地及び建物等)に係る各還元利回りを各々の価格の構成割合により加重平均して求めるものである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

一般に、建物等の還元利回りは土地の還元利回りよりも高く設定されます。これは建物等には有限の耐用年数があり、経年による減価が生じるため、投資家はより高い収益率を求めるからです。還元利回りの求め方も併せて参照してください。

償却前の純収益との対応

残余法の適用においては、償却前の純収益と対応する還元利回りを用いることが基本です。

建物その他の償却資産を含む不動産の純収益の算定においては、基本的に減価償却費を控除しない償却前の純収益を用いるべきであり、それに対応した還元利回りで還元する必要がある。

― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章

誤りやすいポイント

誤り何が正しいか
土地と建物の還元利回りは同じでよい異なる。建物は減価が進むため土地より高い利回りを用いる
土地残余法は築年数を問わず使える建物等が新築または築後間もない場合に有効
建物に帰属する純収益は総収益から求める純収益(総収益−総費用)を配分する
償却前・償却後の区別は不要純収益と還元利回りは償却前どうし・償却後どうしで対応させる
土地残余法は原価法の一種収益還元法の適用方法のひとつ
建物残余法で土地価格が不要土地価格を他手法で把握していることが前提

還元利回りが土地と建物で異なる理由

土地は減耗しないため、投資の回収は将来の売却によって行われます。一方、建物は時間の経過とともに価値が減少するため、投資額を耐用年数の間に回収する必要があります。この回収分(資本回収)が上乗せされるため、建物の還元利回りは土地より高くなります。

この関係を理解していないと、計算問題で利回りを取り違えて大きく外します。還元利回りの詳細は還元利回りとは?求め方の実務、償却前・償却後の対応関係は収益還元法(直接還元法)の適用手順で解説しています。


よくある質問(FAQ)

Q. 土地残余法と建物残余法はどちらを使うべきですか

他の手法で価格を確実に把握できるほうを控除する側に置きます。建物が新築で再調達原価が明確なら土地残余法、土地の取引事例が豊富で更地価格を把握できるなら建物残余法です。

Q. 土地残余法はなぜ建物が新築でないと使いにくいのですか

建物に帰属する純収益を求めるには建物等の価格が必要ですが、築年数が経過した建物は減価の判定が難しく、価格の把握精度が落ちます。その誤差がそのまま土地の収益価格に転嫁されるため、有効性が低下します。

Q. 土地と建物の還元利回りはどのくらい差がありますか

物件や市場によりますが、建物のほうが高くなります。建物には投資額を耐用年数内に回収する必要(資本回収)があるためです。試験では具体的な数値が与えられるので、どちらが高いかの関係を理解していれば足ります。

Q. 償却前純収益と償却後純収益はどう使い分けますか

還元利回りと対応させるのが原則です。償却前の純収益には償却前の還元利回りを、償却後の純収益には償却後の還元利回りを用います。片方だけ償却前・償却後を取り違えると結果が大きくずれます。

Q. 土地残余法は更地の評価でしか使いませんか

更地の鑑定評価において収益価格を求める際の代表的な適用場面ですが、借地権の評価においても、借地権に帰属する純収益を求める過程で用いられます。詳しくは借地権価格の算出方法を参照してください。

Q. DCF法との違いは何ですか

土地残余法・建物残余法は、単年度の純収益を還元利回りで還元する直接還元法の枠組みで、複合不動産の純収益を土地と建物に配分する方法です。DCF法は複数期間の純収益と復帰価格を現在価値に割り引く手法であり、期間の扱いが根本的に異なります。DCF法の仕組みを参照してください。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 土地残余法の適用要件:建物等は「新築か築後間もないもの」でなければならない
  • 算定式の構成要素(純収益、建物等の価格、各還元利回り)の意味
  • 土地残余法と建物残余法の違い:求める対象、既知の価格、制約の違い
  • 更地の鑑定評価における土地残余法の位置づけ

論文式試験

  • 土地残余法の意義と算定式:純収益の配分の考え方を正確に論述する問題
  • 建物が古い場合の制約の理由:なぜ新築か築後間もないものでなければならないかを説明する問題
  • 残余法の限界:純収益の配分の適正さが収益価格の精度を決定することを論じる問題

暗記のポイント

  1. 土地残余法の算定式:$P_L = (a - B \times R_B) / R_L$
  2. 建物残余法の算定式:$P_B = (a - L \times R_L) / R_B$
  3. 土地残余法の制約:建物等は新築か築後間もないもの
  4. 両手法の共通要件:純収益を土地と建物等に適正に配分できる場合に有効

確認問題

確認問題

確認問題


まとめ

土地残余法と建物残余法は、収益還元法における重要な手法であり、複合不動産の純収益を土地と建物等にそれぞれ配分して、一方の構成要素の収益価格を求める技法です。

土地残余法は更地の鑑定評価において収益価格を求める際に用いられ、建物残余法は建物のみの鑑定評価において用いられます。いずれの手法も、一方の構成要素の価格を他の手法(原価法取引事例比較法)で把握できることが前提です。

両手法の信頼性は、純収益の配分の適正さと各構成要素の還元利回りの設定に依存します。特に土地残余法では建物等が新築か築後間もないものでなければならないという制約があることを、直接還元法DCF法との違いとして明確に理解しておくことが試験対策として重要です。還元利回り割引率の設定方法とも関連づけて学習を進めてください。


基準を演習で定着させる

基準は読んで理解しただけでは、本番で選択肢を判別できません。条文の文言を正確に押さえているかは、実際に問題を解いてはじめて確認できます。

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