DCF法の割引率とは?不動産鑑定における決定方法と還元利回りとの違い
不動産鑑定DCF法における割引率の意義と決定方法を解説。還元利回りとの概念的な違い、数式上の関係(R=Y-g)、割引率を求める3つの方法を基準原文に基づき整理。将来の収益を現在価値に割り引く際のリスクと期待収益率の考え方を網羅します。
割引率とは
不動産鑑定士試験において、DCF法の理解には割引率の正確な把握が不可欠です。割引率は、DCF法において将来の収益を現在価値に割り引く際に使用される率であり、不動産投資のリスクと期待収益率を反映した重要な指標です。
割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率であり、還元利回りに含まれる変動予測と予測に伴う不確実性のうち、収益見通しにおいて考慮された連続する複数の期間に発生する純収益や復帰価格の変動予測に係るものを除くものである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
この定義は、割引率と還元利回りの関係を理解するうえで極めて重要です。還元利回りが将来の収益の変動予測と予測に伴う不確実性を包括的に含むのに対し、割引率はDCF法の収益見通しで既に考慮された変動予測を除いたものとなっています。
割引率と還元利回りの違い
概念的な違い
| 項目 | 還元利回り(R) | 割引率(Y) |
|---|---|---|
| 使用場面 | 直接還元法、復帰価格の算定 | DCF法における現在価値への割引 |
| 含まれる要素 | 変動予測+予測に伴う不確実性の全て | 不確実性のうち収益見通しで考慮済みの変動予測を除いたもの |
| 純収益との関係 | 一期間の純収益から直接価格を求める | 毎期の純収益を個別に割り引く |
数式上の関係
還元利回りの求め方で解説した方法(エ)の式が両者の関係を示しています。
純収益が年率 $g$ で成長すると想定される場合、還元利回り $R$ は割引率 $Y$ から成長率 $g$ を控除した値となります。DCF法では毎期の純収益の変動を個別に予測するため、割引率にはその変動予測部分が含まれません。一方、直接還元法の還元利回りには、将来の変動予測が圧縮されて含まれています。
割引率を求める3つの方法
基準の留意事項は、割引率を求める方法として3つの方法を例示しています。
方法(ア):取引事例との比較から求める方法
取引事例に係る割引率は、基本的に取引利回りをもとに算定される内部収益率(Internal Rate of Return(IRR)。将来収益の現在価値と当初投資元本とを等しくする割引率をいう。)として求める。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章
この方法では、類似の不動産の取引事例からIRR(内部収益率)を算定し、これを割引率の参考とします。取引事例の収集・選択は取引事例比較法の適用方法に準じます。
適用要件:
- 取引事例について毎期の純収益が予測可能であること
- 対象不動産と類似性を有する取引事例に係る利回りが豊富に収集可能な場合に有効
方法(イ):借入金と自己資金に係る割引率から求める方法
資金調達構成に着目して、借入金と自己資金のそれぞれの割引率を加重平均する方法です。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| $Y$ | 割引率 |
| $Y_M$ | 借入金割引率 |
| $W_M$ | 借入金割合 |
| $Y_E$ | 自己資金割引率 |
| $W_E$ | 自己資金割合 |
この方法は、不動産の取得に際し標準的な資金調達能力を有する需要者の資金調達の要素に着目した方法であり、不動産投資に係る利回り及び資金調達に際する金融市場の動向を反映させることに優れている。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章
適用上の留意点:
- 不動産投資において典型的な投資家が想定する借入金割合及び自己資金割合を基本とすること
方法(ウ):金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法
国債等の金融資産の利回りをベースとし、不動産固有のリスクを加算して求める方法です。
比較の対象となる金融資産の利回りとしては、一般に10年物国債の利回りが用いられる。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章
この方法は、いわゆる積上げ法(ビルドアップ・アプローチ)に相当します。
割引率 = 無リスク利率 + 不動産のリスクプレミアム
不動産の個別性として加味されるものには、以下の4つがあります。
| リスク要因 | 内容 |
|---|---|
| 投資対象としての危険性 | 自然災害等の発生や土地利用に関する計画及び規制の変更によってその価値が変動する可能性 |
| 非流動性 | 希望する時期に必ずしも適切な買い手が見つかるとは限らないこと |
| 管理の困難性 | 賃貸経営管理について専門的な知識と経験を必要とし、管理の良否により収益が異なること |
| 資産としての安全性 | 特に土地については一般に滅失することがないこと(安全性はプラスの要因) |
3つの方法の比較
| 方法 | 着目点 | 有効な場面 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| (ア) 取引事例比較 | 市場の実勢(IRR) | 類似事例の利回りが豊富に収集可能な場合 | 市場実勢を直接反映 |
| (イ) 借入金・自己資金 | 資金調達構成 | 典型的な投資家の資金調達を反映したい場合 | 金融市場と連動 |
| (ウ) 金融資産+個別性 | リスクプレミアム | 収益予測の不確実性が金融資産との比較で把握可能な場合 | 理論的な積上げ |
割引率の設定における留意点
収益予測との整合性
割引率は収益見通しにおいて考慮されなかった収益予測の不確実性の程度に応じて異なることに留意する。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章
DCF法では、毎期の純収益と復帰価格を個別に予測します。この予測の精度や確実性の程度によって、適用すべき割引率の水準が異なります。収益予測を保守的に行った場合(不確実性を収益予測に多く織り込んだ場合)には、割引率は相対的に低く設定できます。逆に、楽観的な収益予測を行った場合には、予測の不確実性が大きいため、割引率を高く設定する必要があります。
地域別・用途別の差異
還元利回り及び割引率は、地方別、用途的地域別、品等別等によって異なる傾向を持つため、対象不動産に係る地域要因及び個別的要因の分析を踏まえつつ適切に求めることが必要である。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
割引率は、不動産の所在地域や用途によって異なる水準となります。一般に、リスクの低い大都市中心部のオフィスビルは割引率が低く、地方の商業施設などはリスクが高いため割引率も高く設定されます。
金融市場との関連
還元利回り及び割引率は、共に比較可能な他の資産の収益性や金融市場における運用利回りと密接な関連があるので、その動向に留意しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
割引率は不動産市場だけでなく、金融市場全体の金利水準や投資環境の影響を受けます。鑑定評価の基準の全体像を理解するうえで、マクロ経済と不動産市場の関連を把握することが重要です。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 割引率の定義と還元利回りとの違い
- 3つの求め方の名称と特徴
- IRRの定義:「将来収益の現在価値と当初投資元本とを等しくする割引率」
- 金融資産の利回りに加味する不動産の個別性の4要素
論文式試験
- 割引率の意義と求め方:3つの方法を体系的に論述する問題
- 割引率と還元利回りの関係:$R = Y - g$ の式を踏まえた理論的説明
- 収益予測と割引率の整合性:予測の不確実性と割引率の水準の関係を論じる問題
暗記のポイント
- 割引率の定義:「還元利回りに含まれる変動予測のうち、収益見通しにおいて考慮された変動予測を除いたもの」
- 方法(イ):$Y = Y_M W_M + Y_E W_E$
- 方法(ウ)のベース利回り:「一般に10年物国債の利回り」
- 不動産の個別性4要素:危険性、非流動性、管理の困難性、安全性
まとめ
割引率は、DCF法において将来の収益を現在価値に割り引く際に使用される率であり、還元利回りとの概念的な違いを正確に理解することが重要です。基準の留意事項は3つの求め方を例示しており、取引事例からIRRを求める方法、資金調達構成から求める方法、金融資産の利回りに不動産の個別性を加味する方法があります。
割引率の設定においては、収益予測との整合性が特に重要です。DCF法では毎期の純収益を個別に予測するため、予測に織り込まれなかった不確実性の程度に応じて割引率を設定する必要があります。
最終還元利回りとの関係や、証券化対象不動産のDCF法適用における割引率の位置づけも併せて理解することで、収益還元法全体の体系的な学習が可能になります。