全部事項証明書(登記事項証明書)とは?見方・取得方法・謄本との違い
全部事項証明書(登記事項証明書)とは何か、登記簿謄本との違い、4種類の証明書の使い分け、表題部・権利部甲区乙区の見方、下線や順位番号の意味、法務局での取得方法と手数料、地番と住居表示のズレまで、記載例つきで実務・試験の両面から解説します。
不動産を売買するとき、相続の手続をするとき、住宅ローンを借りるとき。ほぼ必ず「全部事項証明書を取ってきてください」と言われます。ところが実際に法務局で受け取った紙を見ると、見慣れない用語が縦にも横にも並んでいて、どこを見れば何がわかるのかがわかりません。「甲区」「乙区」「順位番号」「受付番号」、そして意味ありげに引かれた下線。説明を受けないまま渡されることも多い書類です。
しかしこの1枚(実際には数枚)は、その不動産が「どこにある、どんな形の、誰のものか」「誰かの担保に入っていないか」を国が証明している、不動産取引の出発点となる書面です。読み方さえわかれば、所有者が何年に誰から買ったのか、ローンをいつ完済したのか、今も借金の担保に入っているのかまで、順を追って読み取れます。
この記事では、全部事項証明書とは何か、よく聞く「登記簿謄本」とはどう違うのかという基本から、4種類ある証明書の使い分け、表題部・権利部の具体的な読み方、架空の記載例を使った読み解き練習、法務局での取得方法、そして取得時に多くの人がつまずく「地番と住居表示のズレ」までを一通り解説します。あわせて、不動産鑑定士が実務でこの書面のどこを見ているか、不動産鑑定士試験(行政法規・不動産登記法)ではどこが問われるかも整理します。
本記事の役割
本記事は登記事項証明書(全部事項証明書)の見方と取得方法を、一般の方向けに解説します。建物を新築したときに必要となる表題登記そのものの手続については 表題登記とは?必要な場面・申請義務・費用をわかりやすく解説 を、試験科目としての不動産登記法の体系は 不動産登記法 - 表示登記と権利登記の仕組み を参照してください。
全部事項証明書とは何か ― 「登記簿謄本」との関係
登記記録の内容を国が証明した書面
日本の不動産は、一筆の土地ごと、一個の建物ごとに「登記記録」が作られ、法務局(登記所)のコンピュータに記録されています。そこには、その不動産の所在・面積といった物理的な情報と、所有者や抵当権といった権利の情報が記録されています。
この登記記録に記録されている事項を証明した書面が 登記事項証明書 です。そして、登記事項証明書のうち、登記記録に記録されている事項の全部を証明したものが 全部事項証明書 です。
つまり「全部事項証明書」は、登記事項証明書という大きな箱の中にある一種類、という関係になります。日常的に「登記事項証明書を取ってきて」と言われた場合、実務上ほとんどのケースでこの全部事項証明書を指しています。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 登記記録 | 法務局のコンピュータに記録されている、その不動産のデータそのもの |
| 登記事項証明書 | 登記記録の内容を証明した書面(総称)。実務で使うのは主に4種類 |
| 全部事項証明書 | 登記事項証明書のうち、記録事項の全部を証明したもの |
| 登記簿謄本 | 紙の登記簿の写しに認証を付けたもの。現在は多くの場面で登記事項証明書と同義に使われる |
なぜ「登記簿謄本」という呼び方が残っているのか
かつて登記は、紙の帳簿(登記簿)で管理されていました。その紙をコピーして、法務局が「これは登記簿の写しに相違ない」と認証したものが「登記簿謄本」です。謄本とは、原本の内容を全部写したもののことです(一部を写したものは「抄本」と呼ばれました)。
その後、1990年代から2000年代にかけて全国の法務局で登記のコンピュータ化が進み、登記簿は紙の帳簿から電磁的記録(データ)へと移行しました。データにはもはや「写す原本の紙」がありませんから、「謄本」という言葉が使えません。そこで、データの内容を証明する書面という意味で 登記事項証明書 という名称に変わりました。
つまり、登記簿謄本と登記事項証明書は、名前が変わっただけで実質的には同じものです。制度が変わっても呼び名だけは世間に残り、金融機関の必要書類リストや不動産会社の説明では今も「登記簿謄本」と書かれていることが珍しくありません。法務局の窓口で「登記簿謄本をください」と言っても問題なく通じますし、交付されるのは登記事項証明書です。
- 銀行の必要書類に「登記簿謄本」とある → 全部事項証明書を持っていけば足ります
- 役所の申請書に「登記事項証明書」とある → 同じく全部事項証明書で対応できます
- どちらか判断がつかない場合 → 全部事項証明書を取っておけば、情報量として不足しません
なお、ごく一部にコンピュータ化されていない登記記録(旧法の紙の登記簿のまま残っているもの)が存在し、その場合は現在でも「登記簿謄本」として交付されます。ただし一般の取引で遭遇することはまれです。
登記事項証明書で「証明されないこと」
見方に入る前に、この書面の限界を先に押さえておくと理解が早くなります。登記事項証明書は強力な資料ですが、次のことは証明していません。
| 証明されること | 証明されないこと |
|---|---|
| 登記記録にそう記録されている、という事実 | 記録された内容が真実である、ということ |
| 所有権登記名義人が誰か | その人が本当の所有者であること(例外はあるが登記に公信力はない) |
| 登記された面積・構造 | 現況の面積・構造が登記どおりであること |
| 抵当権が登記されているか | 現在の借入残高がいくらか |
特に重要なのが「登記に公信力がない」という点です。登記を信じて取引した人が、それだけで必ず保護されるわけではありません。登記は権利変動を第三者に主張するための対抗要件(民法177条)であって、記録内容の真実性を国が保証する制度ではないのです。だからこそ実務では、登記事項証明書に加えて現地の確認や当事者への聞き取りが必要になります。
登記事項証明書は4種類 ― どれを取ればいいか
登記事項証明書には制度上いくつかの種類がありますが、窓口の交付請求書にチェック欄が並び、実務でも実際に使い分けるのは次の4つです。ここで迷う人が非常に多いところなので、用途から逆算して選べるように整理しておきます。
| 種類 | 内容 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 全部事項証明書 | 登記記録の全部。過去に抹消された登記も下線付きですべて載る | 売買・相続・融資などほとんどの場面。迷ったらこれ |
| 現在事項証明書 | 現在効力のある登記だけ。抹消済みの履歴は載らない | 現在の権利関係だけを簡潔に示したいとき |
| 一部事項証明書(何区何番事項証明書) | 指定した区・順位番号の登記だけ | 権利者が非常に多い物件で、必要な部分だけ欲しいとき |
| 閉鎖事項証明書 | 閉鎖された登記記録の内容 | 建物滅失後・合筆後など、過去をさかのぼるとき |
全部事項証明書 ― 迷ったらこれ
過去の登記もすべて載るのが最大の特徴です。誰から誰へ所有権が移ってきたか、いつ抵当権が設定され、いつ抹消されたかという履歴が読めるため、取引の相手方や物件の来歴を確認する用途に向いています。
不動産会社・金融機関・司法書士が「登記簿謄本を」と言うときは、まずこれを想定していると考えて構いません。情報量が最も多く、他の証明書で足りる場面は全部事項証明書でも足ります。判断に迷ったら全部事項証明書が正解です。
現在事項証明書 ― 今だけを見たいとき
抹消された古い登記(下線が引かれる部分)が省かれ、現在効力を有する登記だけが記載されます。所有者が何度も変わり抵当権の設定・抹消が繰り返された物件では、全部事項証明書が十数ページに及ぶこともあり、そうしたケースで「現在の状態だけ確認したい」という場合に使います。
ただし、履歴が消えるということは判断材料も消えるということです。たとえば「直前に短期間で所有者が入れ替わっている」といった注意すべき兆候は、現在事項証明書では読み取れません。取引の安全を確認したい場面では全部事項証明書を選ぶべきです。
一部事項証明書(何区何番事項証明書)
「甲区3番だけ」「乙区5番だけ」というように、区と順位番号を指定してその部分だけを証明してもらう形式です。共有者が数十名いる山林や、区分所有建物で権利登記が大量にある場合など、限られた場面で使われます。請求書には「何区何番事項証明書」と書かれており、どの部分が必要かを自分で特定できることが前提です。一般の方が使う機会はほとんどありません。
閉鎖事項証明書 ― 過去をさかのぼるとき
登記記録は、その不動産が存在しなくなったときに閉鎖されます。閉鎖された記録は通常の登記事項証明書には出てこないため、専用の「閉鎖事項証明書」で取得します。閉鎖が起きる典型は次のようなケースです。
- 建物が取り壊された(滅失登記により建物の登記記録が閉鎖される)
- 土地が合筆された(合筆によって消滅する側の地番の記録が閉鎖される)
- 土地区画整理・土地改良が行われた(換地処分により、従前の地番の記録が閉鎖され、換地の記録が起こされる)
- 区分建物の敷地権化などにより従前の記録が整理された
なお、分筆では原則として元の地番の記録は閉鎖されません。5番を5番1と5番2に分ける場合、元の記録はそのまま残り、分かれた側の記録が新たに起こされるだけだからです。分筆の経緯は、閉鎖事項証明書ではなく通常の全部事項証明書の表題部(「5番1から分筆」といった記載)から追えます。
相続で「昔この土地は祖父名義だったはずだが、今の証明書に出てこない」という場合や、境界紛争で過去の分合筆の経緯を追う場合に使います。なお紙の登記簿時代に閉鎖されたものは「閉鎖登記簿謄本」として交付され、コンピュータ化後に閉鎖されたものが「閉鎖事項証明書」になります。保存期間の定めがあるため、古すぎるものは取得できないことがあります。
場面別・どれを取ればよいか
| あなたの状況 | 取るべきもの |
|---|---|
| 家や土地を買う・売る | 全部事項証明書 |
| 相続手続・遺産分割協議 | 全部事項証明書(被相続人名義のもの全部) |
| 住宅ローンの申込み・借換え | 全部事項証明書 |
| 抵当権抹消の確認をしたい | 全部事項証明書(抹消に下線が入る) |
| 補助金・許認可の添付書類 | 提出先の指定に従う(多くは全部事項証明書で可) |
| 取り壊した建物の記録を調べたい | 閉鎖事項証明書 |
| 昔の地番の経緯を追いたい | 閉鎖事項証明書+公図(旧公図) |
表題部の見方 ― 不動産の「物理的な姿」
登記記録は大きく 表題部 と 権利部 に分かれ、権利部はさらに 甲区 と 乙区 に分かれます。この3層構造さえ頭に入れば、証明書は一気に読めるようになります。
| 区分 | 記録される内容 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 表題部 | 所在・地番・地目・地積/家屋番号・種類・構造・床面積 | どこにある、どんなモノか |
| 権利部 甲区 | 所有権に関する事項 | 誰のものか |
| 権利部 乙区 | 所有権以外の権利に関する事項 | 誰の担保・誰の利用権が付いているか |
表題部と権利部の役割分担、申請義務の有無といった制度面は 不動産登記法の表示登記と権利登記 で詳しく扱っています。ここでは証明書の紙面をどう読むかに絞ります。
土地の表題部
| 欄 | 意味 | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| 所在 | 市区町村・字までの表示 | 郵便の住所(住居表示)とは別物 |
| 地番 | その土地に付けられた番号 | 「◯番◯」の形。住居表示の「◯番◯号」と混同しやすい |
| 地目 | 土地の用途による区分 | 宅地・田・畑・山林・雑種地など。現況と一致しないことがある |
| 地積 | 登記された面積(㎡) | 実測とは限らない。特に山林・原野は誤差が大きい |
| 原因及びその日付 | 地目変更・分筆・合筆などの経緯 | 土地の来歴が読める |
地目は自由に書けるわけではなく、規則で定められた区分(宅地、田、畑、山林、原野、雑種地、公衆用道路、ため池、墓地など)から、土地の主たる用途に従って定められます。畑を造成して家を建てれば地目は宅地に変更すべきですが、変更登記がされないまま「畑」で残っている土地は実際に存在します。地目は現況を保証しないという前提で読んでください。
地積の表示精度は地目によって異なります。ルールはこうです。
| 土地の種別 | 記録の単位 |
|---|---|
| 宅地・鉱泉地 | 0.01㎡(1㎡の100分の1)単位。小数点以下まで載る |
| 宅地・鉱泉地以外で10㎡を超えるもの(畑・山林・原野など) | 1㎡単位。1㎡未満は切り捨て |
| 宅地・鉱泉地以外で10㎡以下のもの | 0.01㎡単位 |
つまり、証明書の地積が「180」と整数で載っているか「180:25」と小数点以下まで載っているかは、その土地の地目によって決まっています。これは制度上の丸めであって、測量の誤差とは別の話です。畑が宅地に地目変更されると、地積の表示も小数点以下まで載るようになる、という現象はここから来ています。
そして実務上いちばん重要なのが、登記地積が必ずしも実際の面積ではないという点です。明治期の地租改正時の測量に由来する地積がそのまま残っている土地も多く、実測すると登記より広い(縄伸び)、狭い(縄縮み)というズレが生じます。売買代金を面積で計算する場合、この差は直接お金に響きます。
建物の表題部
| 欄 | 意味 | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| 所在 | 建物が建っている土地の所在・地番 | 建物は土地の地番で位置を示す |
| 家屋番号 | 建物ごとの番号 | 原則として敷地の地番と同じ番号が付く |
| 種類 | 居宅・共同住宅・店舗・事務所・倉庫など | 用途変更しても登記が直っていないことがある |
| 構造 | 木造かわらぶき2階建、鉄筋コンクリート造陸屋根5階建 など | 主要構造・屋根・階数の3要素で表す |
| 床面積 | 各階ごとの面積(㎡) | 区分建物とそれ以外で測り方が違う |
| 原因及びその日付 | 新築年月日、増築、種類変更など | 建築年がわかる=築年数の判断材料 |
床面積の測り方には重要な違いがあります。
- 一戸建てなど(区分建物以外):壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積、いわゆる 壁芯(かべしん)
- マンションなどの区分建物(専有部分):壁その他の区画の内側線で囲まれた部分、いわゆる 内法(うちのり)
マンションを買った人が「パンフレットでは70.00㎡だったのに、登記事項証明書では67.5㎡になっている」と驚くのは、この違いが原因です。パンフレットは壁芯、登記は内法で測っているためで、どちらかが間違っているわけではありません。
この差は税制上も影響します。住宅ローン控除など「床面積◯㎡以上」という要件は登記床面積で判定されるのが原則で、壁芯では条件を満たしていても内法では満たさない、という事態が起こり得ます。区分建物の登記の仕組みは 不動産登記法の区分建物の登記 に詳しくまとめています。
表題部でよく見る特殊な記載
- 「余白」:まだ記録がない欄、または移記の都合で空けてある欄。異常ではありません
- 「◯番◯、◯番◯から合筆」:複数の土地が1つにまとめられた経緯
- 「◯番◯から分筆」:1つの土地が分けられた経緯
- 「昭和◯年◯月◯日新築」:建物の建築時期。築年数の根拠になります
- 「敷地権の表示」:マンションの専有部分と敷地利用権が一体化していることを示す欄
権利部の見方 ― 甲区(所有権)と乙区(それ以外)
甲区 ― 所有権に関する事項
甲区には、所有権に関する登記が記録されます。所有権保存・所有権移転が中心ですが、それだけではありません。
| 甲区に載る主な登記 | 意味 |
|---|---|
| 所有権保存 | その不動産について最初にされる所有権の登記 |
| 所有権移転 | 売買・相続・贈与・財産分与などによる所有者の交代 |
| 所有権登記名義人表示変更 | 所有者の住所・氏名の変更(引越し、婚姻など) |
| 差押・仮差押 | 税金の滞納や債権回収のため権利が押さえられている状態 |
| 仮処分 | 権利をめぐる争いがあり、処分を制限されている状態 |
| 買戻特約 | 売主が一定期間内に買い戻せる特約の登記 |
差押・仮差押・仮処分が甲区に入っている物件は要注意です。所有者に強制執行がかかっている、あるいは所有権をめぐる紛争があるという意味で、そのまま取引を進めてよい状態ではありません。一般の方が全部事項証明書を読む価値のうち、かなりの部分がここにあります。
乙区 ― 所有権以外の権利に関する事項
乙区には、所有権以外の権利が記録されます。担保の権利と、利用の権利の2系統があると考えると整理しやすくなります。
| 乙区に載る主な権利 | 系統 | 意味 |
|---|---|---|
| 抵当権 | 担保 | 特定の債権を担保する。住宅ローンの典型 |
| 根抵当権 | 担保 | 極度額の範囲で継続的な取引を一括担保する |
| 地上権 | 利用 | 他人の土地に建物等を所有するための物権 |
| 賃借権 | 利用 | 賃貸借に基づく権利(登記されることは少ない) |
| 地役権 | 利用 | 通行・引水などのため他人の土地を利用する権利 |
| 配偶者居住権 | 利用 | 相続で配偶者が居住建物に住み続けられる権利 |
抵当権の登記には、債権額・利息・損害金・債務者・抵当権者が記録されます。ここで注意したいのは、債権額は設定時の金額であって、現在の残債ではないことです。3,000万円の抵当権が付いていても、実際の残高が800万円ということは普通にあります。残高は金融機関の残高証明書でなければわかりません。
根抵当権の場合は債権額の代わりに極度額が記録されます。根抵当権は「この枠の中で何度も貸したり返したりする」という担保なので、個々の債権額ではなく上限額が示されるわけです。事業用不動産では根抵当権を目にする機会が多くなります。
順位番号と受付番号 ― 優劣を決める2つの番号
権利部には必ず順位番号と受付年月日・受付番号が記載されます。この2つは、複数の権利がぶつかったときにどちらが優先するかを決める、極めて重要な情報です。
| 番号 | 意味 |
|---|---|
| 順位番号 | 甲区・乙区それぞれの中で、登記された順に振られる通し番号 |
| 受付年月日・受付番号 | 法務局が申請を受け付けた日と、その日の通し番号 |
権利の優劣は原則として登記の前後によって決まります。同じ区の中では順位番号の若い方が優先し、甲区と乙区のように区が違う場合は受付番号の若い方が優先する、という関係になります。乙区に抵当権が2つあるなら、順位番号1番の抵当権者が先に配当を受け、残った分を2番が取る、ということです。
受付年月日は取引の日付を読む鍵でもあります。たとえば甲区の所有権移転と乙区の抵当権設定が、まったく同じ日付・連続した受付番号で並んでいれば、それはその日に売買代金の決済とローンの実行が同時に行われたことを意味します。不動産の決済現場で実際に起きている手続が、そのまま番号に刻まれているわけです。
下線の意味 ― 「もう効力がない」の印
全部事項証明書を初めて見た人が最も戸惑うのが、あちこちに引かれた下線です。これには明確な意味があります。
下線が引かれている事項=抹消された事項(現在は効力がない)
証明書の末尾にも「下線のあるものは抹消事項であることを示す」といった注記が入っています。読み方は単純で、下線が引かれている部分は無視して読めばよいのです。
| 見え方 | 意味 |
|---|---|
| 下線なし | 現在も効力がある登記 |
| 下線あり | すでに抹消・変更されて効力を失った登記 |
| 乙区の抵当権に下線 | ローンを完済して抵当権を抹消したということ |
| 甲区の所有者名に下線 | すでに次の人へ所有権が移っている(前の所有者) |
現在事項証明書には、この下線部分がそもそも載りません。逆に言えば、全部事項証明書の価値は「下線付きの部分=過去の履歴まで読める」点にあります。
共同担保目録と信託目録
抵当権が複数の不動産にまたがって設定されている場合(土地と建物の両方に、あるいは複数筆の土地に)、証明書の末尾に 共同担保目録 が付きます。ここには、同じ債権を担保している不動産の一覧が載ります。
共同担保目録は、実務では「その所有者が同じ担保の中でどの不動産をひとまとまりとして扱っているか」を知る手がかりになります。たとえば道路に接していない土地が、隣の土地と一緒に共同担保に入っていれば、その2筆は一体で利用・評価されている可能性が高いと推測できます。証明書を請求するときに「共同担保目録を含める」という欄があるので、必要な場合はチェックを入れてください。
信託が設定されている不動産では、同様に 信託目録 が付き、委託者・受託者・受益者や信託の目的が記録されます。
実例で読み解く ― 1通を最初から最後まで
ここまでの知識を使って、架空の全部事項証明書を読んでみます。以下は説明のために作成した記載例です(実在の物件ではありません)。
なお実物では抹消事項に下線が引かれますが、ここでは文字に下線を引けないため、該当箇所の右側に ←下線あり と注記して示します。読むときは「下線あり=もう効力がない」と置き換えてください。
記載例:土地
【表題部】(土地の表示) 調製 平成11年 5月14日
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
不動産番号 0000000000000
所 在 〇〇市〇〇町一丁目
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① 地 番 ② 地 目 ③ 地 積 ㎡ 原因及びその日付〔登記の日付〕
──────────────────────────────────────
5番3 畑 180 5番1から分筆 ←②③に下線あり
〔平成10年 2月20日〕
5番3 宅地 180:25 ②③令和 3年 5月20日地目変更
〔令和 3年 5月25日〕
【権利部(甲区)】(所有権に関する事項)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
──────────────────────────────────────
1 所有権保存 昭和60年 4月 8日 所有者 〇〇市〇〇町
第4321号 丙 山 三 郎
←所有者の記載に下線あり
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2 所有権移転 平成10年 3月 5日 原因 平成10年3月5日売買
第1234号 所有者 〇〇市〇〇町
甲 野 太 郎
←所有者の記載に下線あり
──────────────────────────────────────
3 所有権移転 令和 3年 6月10日 原因 令和3年6月10日売買
第5678号 所有者 〇〇市××町
乙 川 次 郎
【権利部(乙区)】(所有権以外の権利に関する事項)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
──────────────────────────────────────
1 抵当権設定 平成10年 3月 5日 原因 平成10年3月5日金銭消費
第1235号 貸借同日設定
債権額 金2,000万円
債務者 甲野太郎
抵当権者 △△銀行
←1番の記載全体に下線あり
──────────────────────────────────────
2 1番抵当権抹消 令和 3年 6月10日 原因 令和3年6月10日弁済
第5679号
──────────────────────────────────────
3 抵当権設定 令和 3年 6月10日 原因 令和3年6月10日金銭消費
第5680号 貸借同日設定
債権額 金3,500万円
利息 年0.5%
債務者 乙川次郎
抵当権者 □□銀行
この1通から読み取れること
順に読み解いていきます。
1. 土地は分筆されてできた土地で、途中で地目が変わっている(表題部)
「5番1から分筆」とあるので、この土地はもともと5番1という大きな土地の一部でした。平成10年2月に分筆され、5番3という地番が付いています。当初の地目は「畑」でしたが、令和3年5月に「宅地」へ地目変更されています。畑を宅地に転用して土地を売る準備をしたという流れが読み取れます。
地積の表示が「180」から「180:25」へ変わっている点にも意味があります。すでに触れたとおり、宅地以外の土地(10㎡を超えるもの)は1㎡未満を切り捨てて記録するのに対し、宅地は0.01㎡単位まで記録するという決まりがあるためです。畑だったころは整数の「180」としか表示されていなかったものが、宅地になったことで小数点以下まで表示されるようになった、という関係です。なお、地目変更にあわせて地積の表示がどこまで変わるかは事案により、別途地積更正登記を伴うこともあります。
そして旧行の地目・地積には下線が引かれます。表題部でも下線のルールは同じで、下線が引かれた「畑」「180」はもう効力がなく、現在の地目は宅地、地積は180.25㎡だと読みます。
2. 前の前の所有者は丙山三郎(甲区1番)
甲区の1番は「所有権保存」です。所有権保存は、その不動産について最初にされる所有権の登記でしたから、この土地(正確には分筆前の5番1)の権利部は昭和60年の丙山三郎の保存登記から始まっている、と読めます。分筆をしても権利部の記録は新しい地番の記録に引き継がれるため、分筆前の登記がそのまま1番として残っているわけです。
所有者名に下線が引かれているので、丙山三郎はすでに所有者ではありません。
3. 平成10年に甲野太郎が買い、ローンを組んだ(甲区2番+乙区1番)
甲区2番の所有権移転は「平成10年3月5日売買」、受付は平成10年3月5日第1234号。そして乙区1番の抵当権設定が、同じ平成10年3月5日で第1235号です。受付番号が1つ違いで連続しています。
これは、同じ日に売買と融資が同時に実行されたことを意味します。買主が銀行から2,000万円を借り、その金で代金を払い、同時に銀行がその土地に抵当権を設定する。日本の不動産決済の典型的な形が、そのまま番号に現れています。
4. 令和3年6月10日に、完済・売却・新規ローンがすべて同日に行われた(甲区3番+乙区2番・3番)
令和3年6月10日の欄を、受付番号順に並べ替えてみます。
| 受付番号 | 内容 | 意味 |
|---|---|---|
| 第5678号 | 甲区3番 所有権移転(甲野→乙川) | 売買による所有者の交代 |
| 第5679号 | 乙区2番 1番抵当権抹消(原因:弁済) | 売主のローンを完済して担保を外した |
| 第5680号 | 乙区3番 抵当権設定(乙川・□□銀行) | 買主が新たに3,500万円のローンを組んだ |
つまりこの日、「買主のローンが実行される → その資金で売主が旧ローンを完済 → 旧抵当権を抹消 → 所有権を移転 → 新抵当権を設定」という一連の手続が、同じ法務局の受付でまとめて処理されたわけです。実際の決済は金融機関の一室で1〜2時間ほどで行われますが、その内容が3行の登記として残ります。
5. 乙区1番には下線が引かれている
抹消された登記であることを示す下線です。したがって現在この土地に効力を有する担保は、乙区3番の□□銀行の抵当権(債権額3,500万円)だけです。乙区1番の△△銀行の抵当権は、すでに存在しません。
ここで、抹消の登記(乙区2番)そのものには下線が引かれない点に注意してください。下線が付くのは「抹消された側」であって、「抹消した」という登記は現に効力を有する記録として残ります。全部事項証明書に「1番抵当権抹消」という行がしっかり残っているからこそ、いつ・どういう理由で担保が外れたのかを後から追えるわけです。
6. 現在の状態
以上を1文にまとめると、この土地の現在の姿は次のとおりです。
〇〇市〇〇町一丁目5番3の宅地180.25㎡は、令和3年6月10日に乙川次郎が甲野太郎から購入したもので、□□銀行の抵当権(債権額3,500万円)が付いている。差押えや仮処分はない。
全部事項証明書を読むというのは、この1文を自分で作れるようになる、ということです。
取得方法と手数料 ― 窓口・郵送・オンライン
誰でも取得できる
登記事項証明書は、その不動産の所有者でなくても、誰でも取得できます。不動産登記法は、何人も、手数料を納付して登記事項証明書の交付を請求することができる旨を定めています(不動産登記法119条)。理由を説明する必要も、本人確認書類を出す必要もありません。
これは「不動産の権利関係を公示することで取引の安全を図る」という登記制度の目的から来ています。買おうとしている土地の所有者を確認できなければ、安心して取引できないからです。裏を返せば、自分が所有する不動産の情報も、他人から見られるということでもあります。
なお、DV・ストーカー被害などで住所を知られると危険がある人については、登記記録上の住所に代わる事項を記載してもらう申出の制度が設けられています。該当する場合は法務局に相談してください。
3つの取得ルート
| 方法 | 手続 | 特徴 |
|---|---|---|
| 法務局の窓口 | 交付請求書に記入して提出、手数料は収入印紙で納付 | その場で受け取れる。地番がわからなくても職員や備付けの資料で調べられる |
| 郵送請求 | 請求書に収入印紙を貼り、返信用封筒を同封して法務局へ郵送 | 出向かなくてよいが往復で日数がかかる |
| オンライン請求 | 「登記・供託オンライン申請システム」から請求 | 手数料が最も安い。受取は窓口か郵送を選べる |
どの法務局でも全国の不動産の証明書が取れます。登記情報はオンラインで共有されているため、東京の法務局で北海道の土地の証明書を取ることもできます。「その物件を管轄する法務局まで行かなければならない」というのは、コンピュータ化以前の話です。
手数料
手数料は請求方法によって異なり、オンライン請求が最も安く設定されています。
| 請求方法 | 受取方法 | 手数料の水準 |
|---|---|---|
| 書面(窓口・郵送)請求 | 窓口または郵送 | 1通600円 |
| オンライン請求 | 郵送で受取 | 1通500円 |
| オンライン請求 | 法務局の窓口で受取 | 1通480円 |
手数料は改定されることがあります。上記は長く用いられてきた水準ですが、請求前に必ず法務局(法務省)のウェブサイトで最新の金額を確認してください。また、1通の枚数が一定枚数を超える場合に加算される取扱いもあります。
郵送請求の場合、手数料は収入印紙で納めます。現金や切手では受け付けられないため、事前に郵便局等で購入しておく必要があります。窓口請求でも同様に収入印紙で納付し、法務局内の印紙売場で購入できるのが一般的です。
オンライン請求の流れ
- 「登記・供託オンライン申請システム」に申請者情報を登録する
- 「かんたん証明書請求」から、不動産の所在・地番(家屋番号)を入力する
- 全部事項証明書か現在事項証明書か、共同担保目録を含めるかを選ぶ
- インターネットバンキングやATM(ペイジー)で手数料を納付する
- 郵送で受け取る、または指定した法務局の窓口で受け取る
システムには受付可能な曜日・時間帯が決まっており、24時間いつでも請求できるわけではありません。利用可能時間は公式サイトのお知らせで確認してください。なお、オンラインで請求しても交付されるのは紙の証明書です。PDFで届くわけではありません。
登記情報提供サービスとの違い ― 「証明力」があるかどうか
インターネットで登記の内容を見られる 登記情報提供サービス という仕組みもあります。こちらは登記事項証明書より安く、PDFで即座に内容を確認できるため、実務では非常によく使われます。
| 登記事項証明書 | 登記情報提供サービス | |
|---|---|---|
| 形式 | 紙(登記官の認証文・職印あり) | PDF(認証文なし) |
| 証明力 | あり。公的な証明書として提出できる | なし。あくまで閲覧用データ |
| 入手 | 窓口・郵送・オンライン請求 | インターネットで即時 |
| 費用 | 1通600円程度(請求方法による) | より安価(1件あたり数百円程度) |
| 主な用途 | 官公署・金融機関への提出 | 調査・内容確認 |
決定的な違いは 証明力の有無 です。登記情報提供サービスで取得したPDFには登記官の認証文も職印もないため、「登記事項証明書を提出してください」と言われた場面では使えません。逆に、自分で内容を確認するだけなら、こちらのほうが速くて安く済みます。
提出用は証明書、調査用は提供サービス。この使い分けが基本です。
取得時の最大のつまずき ― 住居表示と地番は別の番号
証明書の請求でつまずく原因の第1位が、地番がわからないというものです。
私たちが普段「住所」として使っている「〇〇市〇〇町一丁目2番3号」という表示は、住居表示に関する法律に基づく住居表示です。これは郵便物の配達や訪問のために、建物の位置をわかりやすく示す番号です。
これに対して地番は、土地一筆ごとに登記所が付けた番号です。土地を管理するための番号なので、建物の並び順とは無関係に振られており、分筆・合筆のたびに枝番が増えていきます。
| 住居表示 | 地番 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 住居表示に関する法律 | 不動産登記法 |
| 付ける対象 | 建物(の出入口) | 土地(一筆) |
| 目的 | 郵便・訪問のわかりやすさ | 土地の特定・管理 |
| 表記 | 「2番3号」 | 「5番3」「5番地3」 |
| 変わり方 | 住居表示の実施・変更で変わる | 分筆・合筆で枝番が増える |
「2番3号」の「号」まで付いていれば住居表示、というのが簡易な見分け方です。住居表示の番号で証明書を請求しても、目的の土地の記録は出てきません。まったく別の土地が出てくることさえあります。
なお、住居表示が実施されていない地域(郊外や農村部に多い)では、住所そのものが地番で表されています。この場合は住所=地番なので、そのまま請求できます。
地番の調べ方
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 権利証・登記識別情報 | 自分の不動産なら、書類に地番が書かれている |
| 固定資産税の納税通知書 | 課税明細に地番と地積が載っている。最も手軽 |
| 売買契約書・重要事項説明書 | 物件の表示欄に地番が記載されている |
| 法務局の窓口で聞く | 住居表示を伝えれば、備付けのブルーマップ等で調べてもらえる |
| ブルーマップを見る | 図書館や法務局に備え付けられている |
| 登記情報提供サービスの地番検索 | 対応地域であれば、住所から地番をオンラインで調べられる |
ブルーマップというのは、住宅地図の上に地番を青色で重ねて印刷した地図のことです(正式には「住居表示地番対照住宅地図」)。黒い文字が住居表示、青い文字が地番になっており、住所から地番を引くための定番資料です。法務局や大きな図書館に備え付けられているほか、不動産会社や鑑定事務所では日常的に使われています。
公図もあわせて取ると理解が進む
土地の位置関係を把握したい場合は、証明書と一緒に 公図(地図または地図に準ずる図面)を取得すると格段にわかりやすくなります。
- 法14条地図:不動産登記法14条1項に基づく地図。測量に基づき、精度が高い
- 地図に準ずる図面(いわゆる公図):旧土地台帳附属地図等に由来する図面。位置関係の把握には使えるが、形状・寸法の精度は高くない
法14条地図の整備は全国で進められていますが、いまだ「地図に準ずる図面」しかない地域が多く残っています。公図を見るときは、「隣とどう接しているか」は読めても「正確な形と寸法」は読めないと割り切ってください。
建物の場合は、建物図面・各階平面図をあわせて取得すると、敷地のどこに建物が建っているかがわかります。
不動産鑑定の実務で登記をどう使うか
ここからは、不動産鑑定士が実務で登記事項証明書をどう扱っているかという視点です。一般の方にとっても「プロがどこを見ているか」は、そのまま自分の物件をチェックする観点になります。
対象不動産の確認の出発点
不動産鑑定評価では、評価に入る前に 対象不動産の確認 を行います。これは大きく 物的確認(そのモノが本当にあるか、登記どおりか)と 権利の態様の確認(どんな権利が付いているか)に分かれます。
対象不動産の確認に当たっては、第1節により確定された対象不動産についてその内容を明瞭にしなければならない。対象不動産の確認は、対象不動産の物的確認及び権利の態様の確認に分けられ、実地調査、聴聞、公的資料の確認等により、的確に行う必要がある。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章
登記事項証明書がここで果たす役割は、基準の文言のなかにはっきり書かれています。物的確認について、基準はこう述べています。
また、物的確認を行うに当たっては、対象不動産について登記事項証明書等により登記又は登録されている内容とその実態との異同について把握する必要がある。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章
「登記されている内容とその実態との異同」を把握せよ、というのがそのまま基準の要求です。つまり鑑定士は、登記を読むだけでも、現地を見るだけでも足りず、両者を突き合わせてズレを把握することを求められています。
さらに、鑑定評価に用いる資料は 確認資料・要因資料・事例資料 に分けられますが、その確認資料の筆頭に挙げられているのが登記事項証明書です。
確認資料とは、不動産の物的確認及び権利の態様の確認に必要な資料をいう。確認資料としては、登記事項証明書、土地又は建物等の図面、写真、不動産の所在地に関する地図等があげられる。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章
手順の全体像は 対象不動産の確認とは?物的確認と権利確認の実務 にまとめています。
ただし、登記だけを見て確認を終えることはできません。登記に公信力がない以上、登記と現況の突き合わせが不可欠です。
鑑定士がチェックしている6つのポイント
| # | 見るところ | なぜ見るか |
|---|---|---|
| 1 | 表題部の地積と実測の差 | 縄伸び・縄縮み。単価×面積で価格が動くため、どちらを採るかは評価額に直結する |
| 2 | 地目と現況の一致 | 「畑」のまま宅地利用されている=転用手続の要否や、農地法上の制約の有無につながる |
| 3 | 甲区の共有・持分 | 共有物件は単独所有より処分の自由度が低く、共有持分そのものの評価は別問題になる |
| 4 | 甲区の差押・仮処分 | 権利関係に争いや強制執行がある。評価の前提条件を整理する必要がある |
| 5 | 乙区の地上権・賃借権・地役権 | 底地・借地の評価になるのか、更地として評価してよいのかを分ける |
| 6 | 共同担保目録の範囲 | 複数筆が一体で担保・利用されているかの手がかりになる |
未登記建物と増築未登記
現地に行くと建物があるのに、登記事項証明書がない。あるいは登記上は「木造2階建 100.00㎡」なのに、現地には明らかに増築された部分がある。実務ではこうしたケースに頻繁に遭遇します。
| パターン | 内容 | 評価上の扱い |
|---|---|---|
| 未登記建物 | 建物が登記されていない | 存在自体は評価対象になり得るが、権利関係の確認が難しくなる |
| 増築未登記 | 増築部分の変更登記がされていない | 登記床面積と現況床面積が乖離する。現況で捉える必要がある |
| 滅失未登記 | 取り壊したのに滅失登記がされていない | 登記上は存在するが現実には存在しない |
登記は申請主義であり、権利に関する登記は原則として申請義務がありません(相続登記など一部の例外を除く)。そのため、登記が現況に追いついていない不動産は普通にあるという前提で調査する必要があります。土地・建物の評価にあたって現地で何を確認するかは 現地調査で不動産鑑定士が見ているポイント を参照してください。
依頼するときに用意する書類として
不動産鑑定を依頼する場合、登記事項証明書は依頼者に用意をお願いする書類の筆頭に挙がります。土地と建物の両方、そして関係する筆すべてが必要です。何を揃えればよいかは 不動産鑑定に必要な書類一覧 に整理してあります。鑑定評価の全体の進み方は 不動産鑑定の流れ を、できあがった評価書の読み方は 不動産鑑定評価書の読み方 をご覧ください。
試験(不動産登記法)での出題ポイント
不動産鑑定士試験の短答式では、行政法規の一科目として不動産登記法が出題されます。登記事項証明書そのものを問う問題はそう多くありませんが、その前提となる登記記録の構造と表示・権利の区別は繰り返し問われます。
頻出の論点
| 論点 | 押さえるべき内容 |
|---|---|
| 登記記録の構成 | 表題部と権利部。権利部は甲区(所有権)と乙区(所有権以外)に区分される |
| 表示に関する登記 | 不動産の物理的状況の登記。申請義務があるものが多い |
| 権利に関する登記 | 所有権・抵当権等の登記。原則として申請義務がない(相続登記等は例外) |
| 対抗要件 | 不動産物権変動は登記をしなければ第三者に対抗できない(民法177条) |
| 公信力 | 日本の不動産登記に公信力はない |
| 登記事項証明書の請求 | 何人も手数料を納付して請求できる(不動産登記法119条) |
| 登記の順位 | 権利の順位は登記の前後による |
| 法14条地図 | 不動産登記法14条1項の地図。多くの地域では「地図に準ずる図面」で運用 |
申請義務のある登記(期間の数字が狙われる)
「表示に関する登記は義務、権利に関する登記は任意」が原則ですが、近年の法改正で権利の登記にも義務が入りました。期間と過料の金額はそのまま出題されるので、正確に覚えてください。
| 登記 | 期間 | 制裁 |
|---|---|---|
| 建物を新築したときの表題登記 | 所有権取得の日から1か月以内(不動産登記法47条) | 過料 |
| 土地の地目・地積の変更登記 | 変更があった日から1か月以内 | 過料 |
| 建物の滅失登記 | 滅失の日から1か月以内 | 過料 |
| 相続登記(2024年4月1日から義務化) | 相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内 | 10万円以下の過料 |
| 住所等変更登記(2026年4月1日から義務化) | 変更の日から2年以内 | 5万円以下の過料 |
相続登記の義務化は、所有者不明土地問題への対応として導入されたものです。義務化の施行日より前に発生した相続にも適用され、その場合は施行日を起算点とする猶予が設けられています。試験でも実務でも影響の大きい改正です。表題登記の申請義務については 表題登記とは?必要な場面・申請義務・費用 で詳しく扱っています。
引っかけのパターン
行政法規の短答式は、1語の入れ替えで正誤を分ける問題が中心です。不動産登記法では次のパターンが典型です。
- 「表示に関する登記」と「権利に関する登記」の入れ替え(義務の有無が逆になる)
- 「甲区」と「乙区」の入れ替え(差押えは甲区、抵当権は乙区)
- 「1か月以内」を「2週間以内」「3か月以内」に変える
- 「何人も請求できる」を「利害関係人に限り請求できる」に変える
- 「公信力はない」を「公信力がある」に変える
- 「壁の中心線」と「内側線」の入れ替え(区分建物の床面積は内法)
こうした1語トラップは、テキストを読むだけでは対処しにくく、肢の形で繰り返し当たるのが最も効率的です。不動産登記法の体系的な整理は 不動産鑑定士試験対策の不動産登記法、表示登記と権利登記の対比は 表示登記と権利登記の仕組み にまとめています。
よくある質問(FAQ)
Q. 「登記簿謄本」と「全部事項証明書」は違うものですか
実質的に同じものです。紙の登記簿の時代の呼び名が「登記簿謄本」、コンピュータ化後の正式名称が「登記事項証明書」で、そのうち記録事項の全部を証明したものが「全部事項証明書」です。銀行や役所の必要書類に「登記簿謄本」と書かれていても、全部事項証明書を提出すれば問題ありません。
Q. 自分の家ではない不動産の証明書を取れますか
取れます。不動産登記法は、何人も手数料を納付して登記事項証明書の交付を請求できると定めています。所有者の許可も、請求理由の説明も不要です。これは取引の安全のために登記内容を公示するという制度の趣旨によるものです。
Q. 全部事項証明書と現在事項証明書、どちらを取ればよいですか
迷ったら全部事項証明書です。現在事項証明書は抹消済みの登記が省かれるため、過去の所有者や抵当権の履歴が読めません。売買や相続など判断を伴う場面では、履歴まで見える全部事項証明書を選んでください。
Q. 下線が引いてある部分は何ですか
すでに抹消され、効力を失った事項です。証明書の末尾にも「下線のあるものは抹消事項であることを示す」旨の注記があります。乙区の抵当権に下線があれば、そのローンは完済されて担保が外れているという意味です。読むときは下線部分を飛ばして構いません。
Q. 抵当権の債権額が3,000万円と書かれています。今も3,000万円の借金がありますか
いいえ。債権額は抵当権を設定した時点の金額であって、現在の残高ではありません。返済が進んでいれば残高はそれより少なくなっています。現在の残高を知るには、金融機関が発行する残高証明書が必要です。
Q. 登記の面積と実際の面積が違います。どちらが正しいのですか
登記地積は必ずしも実測値ではなく、古い測量に由来する数値がそのまま残っていることがあります。実測すると広い場合を「縄伸び」、狭い場合を「縄縮み」と呼びます。売買では、登記地積で取引するのか実測して精算するのかを契約で定めるのが通常です。
Q. マンションの登記床面積がパンフレットより小さいのはなぜですか
測り方が違うためです。パンフレットは壁の中心線で測る壁芯面積、区分建物の登記は壁の内側線で測る内法面積です。同じ部屋でも内法のほうが小さくなります。住宅ローン控除など床面積の要件は登記床面積で判定されるのが原則なので、要件ぎりぎりの物件では注意が必要です。
Q. 地番がわからず請求できません
固定資産税の納税通知書に添付されている課税明細を見るのが最も手軽です。それがなければ、法務局の窓口で住居表示を伝えれば、備付けのブルーマップ等で調べてもらえます。「〇番〇号」と号が付く表示は住居表示であって地番ではない、という点だけ覚えておいてください。
Q. 手数料はいくらですか
書面(窓口・郵送)請求で1通600円、オンライン請求は受取方法により500円または480円という水準が長く用いられています。ただし手数料は改定されることがあるため、請求前に法務局のウェブサイトで最新の金額を確認してください。郵送請求では収入印紙で納付します。
Q. インターネットで見られる「登記情報提供サービス」ではだめですか
自分で内容を確認するだけなら十分ですが、証明力がありません。認証文も登記官の職印もないPDFなので、官公署や金融機関へ「登記事項証明書」として提出することはできません。提出用は証明書、調査用は提供サービス、と使い分けてください。
Q. 取り壊した建物の記録を見たいのですが出てきません
滅失登記により登記記録が閉鎖されているためです。閉鎖事項証明書を請求してください。ただし保存期間の定めがあるため、古すぎるものは取得できないことがあります。
Q. 遠方の不動産の証明書を取りに行く必要がありますか
必要ありません。登記情報は全国の法務局で共有されているため、最寄りの法務局でどこの不動産の証明書でも取得できます。オンライン請求で郵送してもらうこともできます。
まとめ
- 全部事項証明書=登記事項証明書のうち、登記記録の全部を証明したもの。「登記簿謄本」は紙の登記簿時代の呼び名で、実質的に同じもの
- 実務で使う証明書は主に4種類。迷ったら全部事項証明書。過去の履歴まで読めるのが最大の価値
- 構造は表題部(どこにある、どんなモノか)/甲区(誰のものか)/乙区(誰の担保・利用権が付いているか)の3層
- 下線=抹消された事項。効力がないので飛ばして読む
- 受付年月日・受付番号を並べると、決済がどう行われたかまで読み取れる
- 抵当権の債権額は設定時の金額であって現在の残高ではない
- 区分建物の登記床面積は内法。パンフレットの壁芯より小さくなる
- 誰でも取得でき、全国どの法務局でも取れる。手数料はオンライン請求が最も安いが、金額は最新情報を法務局で確認する
- 請求時の最大のつまずきは地番と住居表示の混同。「〇番〇号」は住居表示。地番は納税通知書やブルーマップで調べる
- 登記に公信力はない。登記地積と実測、登記床面積と現況、未登記建物など、登記と現実のズレは実務では普通に起こる
登記事項証明書は、慣れてしまえば1分で要点をつかめる書面です。表題部で「どんなモノか」、甲区で「誰のものか」、乙区で「何が付いているか」。この3つを順に確認し、下線を飛ばして読む。それだけで、その不動産の現状と来歴の大半が把握できます。不動産に関わるすべての手続の土台になる知識ですから、一度自分の家の証明書を取って読んでみることをおすすめします。
登記まわりをもう少し深く
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