地域要因の比較とは?不動産鑑定の取引事例比較法における格差率の考え方
不動産鑑定の取引事例比較法における地域要因の比較を解説。近隣地域と類似地域の地域特性の違いを格差率として数量化する方法、比較が必要な場面と不要な場面の区別、事例不動産の所在による適用手順の違いを基準原文に基づき網羅します。
地域要因の比較とは
不動産鑑定士試験において、取引事例比較法の適用プロセスを正確に理解することは必須です。取引事例比較法では、事情補正・時点修正の後に地域要因の比較と個別的要因の比較を行います。地域要因の比較は、取引事例に係る不動産の存する地域と対象不動産の存する近隣地域との間の地域特性の違いを数量的に把握し、価格への影響を修正する作業です。
取引事例等の価格等は、その不動産の存する用途的地域に係る地域要因及び当該不動産の個別的要因を反映しているものであるから、取引事例等に係る不動産が同一需給圏内の類似地域等に存するもの又は同一需給圏内の代替競争不動産である場合においては、近隣地域と当該事例に係る不動産の存する地域との地域要因の比較及び対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を、取引事例等に係る不動産が近隣地域に存するものである場合においては、対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較をそれぞれ行う必要がある。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
この規定から分かるとおり、地域要因の比較が必要となるのは、取引事例に係る不動産が近隣地域以外に存する場合、すなわち同一需給圏内の類似地域等に存する場合又は代替競争不動産に該当する場合です。事例不動産が近隣地域内に存する場合には、地域要因の比較は不要であり、個別的要因の比較のみを行います。
地域要因の比較が必要な場面
事例不動産の所在による区分
地域要因の比較の要否は、事例不動産がどの地域に所在するかによって異なります。
| 事例不動産の所在 | 地域要因の比較 | 個別的要因の比較 |
|---|---|---|
| 近隣地域に存する場合 | 不要 | 必要 |
| 同一需給圏内の類似地域等に存する場合 | 必要 | 必要 |
| 同一需給圏内の代替競争不動産の場合 | 必要 | 必要 |
近隣地域内の事例の場合、事例不動産と対象不動産は同じ地域要因の影響を受けているため、地域要因の比較は不要です。一方、類似地域等の事例を用いる場合は、近隣地域との地域要因の格差を修正する必要があります。
代替競争不動産の場合の留意点
留意事項は、代替競争不動産の事例を用いる場合について特に注意を促しています。
取引事例等として同一需給圏内の代替競争不動産に係るものを選択する場合において、価格形成要因に係る対象不動産との比較を行う際には、個別的要因の比較だけでなく市場の特性に影響を与えている地域要因の比較もあわせて行うべきことに留意すべきである。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章
代替競争不動産は、対象不動産とは異なる用途的地域に存するため、通常の地域要因の比較とは異なるアプローチが求められる場合があります。市場の特性に着目した比較が重要です。
地域要因の比較の方法
地域分析との関連
地域要因の比較を行うにあたっては、地域分析の結果が基礎となります。地域分析とは、対象不動産の存する近隣地域の特性を分析するとともに、同一需給圏内における類似地域等の特性との比較を行う作業です。
地域分析で把握すべき価格形成要因は、不動産の種別(宅地、農地、林地等)及び所在する地域の種別(住宅地域、商業地域、工業地域等)によって異なります。住宅地域の地域要因と商業地域の地域要因では、重視すべき項目が大きく異なるため、それぞれの地域特性に即した比較が必要です。
格差率による比較
地域要因の比較は、実務的には格差率によって行われます。近隣地域を基準(100とする)として、事例の存する地域との間の格差を数量的に把握します。
例えば、住宅地域における地域要因の比較項目として以下のようなものが挙げられます。
| 比較項目 | 内容 |
|---|---|
| 交通接近条件 | 最寄駅への距離、通勤・通学の利便性 |
| 生活環境 | 商業施設、公共施設、教育施設への接近性 |
| 住環境 | 日照、通風、騒音、振動等の環境条件 |
| 行政的条件 | 用途地域、容積率、建ぺい率等の公法上の規制 |
| 街路条件 | 道路の幅員、舗装状況、歩道の有無 |
| 画地条件 | 地域内の標準的な画地の規模、形状等 |
これらの項目ごとに近隣地域と事例の存する地域を比較し、総合的な格差率を求めます。
標準的な土地を設定する方法
地域要因の比較と個別的要因の比較を明確に区分するため、標準的な土地を設定して行う方法が認められています。
また、このほか地域要因及び個別的要因の比較については、それぞれの地域における個別的要因が標準的な土地を設定して行う方法がある。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
この方法では、それぞれの地域において個別的要因が標準的な土地(いわゆる標準画地)を想定し、これらの間で地域要因の格差を把握します。標準画地同士の比較であるため、個別的要因の違いが混入せず、純粋に地域要因の格差のみを把握できるという利点があります。
用途地域別の地域要因比較の着眼点
住宅地域の場合
住宅地域において重視される地域要因は以下のとおりです。
| 要因項目 | 格差に影響する内容 |
|---|---|
| 交通利便性 | 最寄駅・バス停への距離、ターミナル駅へのアクセス時間 |
| 教育施設 | 学校、塾、図書館等への近接性 |
| 商業施設 | スーパー、コンビニ等日常生活の利便性 |
| 街並み | 住宅街としての統一性、景観、緑地の充実度 |
| 安全性 | 治安、洪水リスク、地盤の安定性 |
| 用途地域 | 第一種低層住居専用地域と近隣商業地域では価格水準が異なる |
商業地域の場合
商業地域で重視される地域要因は住宅地域と異なります。
| 要因項目 | 格差に影響する内容 |
|---|---|
| 集客力 | 通行量、来街者数、商圏の広さ |
| 繁華性 | 商業施設の集積度、ブランド力 |
| 交通アクセス | 鉄道駅への距離、バスルートの有無 |
| 容積率 | 高度利用の可能性 |
| 顧客動線 | 主要動線上に位置するかどうか |
| 行政施策 | 再開発事業、都市計画道路等の計画の有無 |
地域要因の比較と賃料評価
地域要因の比較は、価格を求める場合だけでなく賃料を求める場合にも行われます。ただし、留意事項は両者の違いについて注意を促しています。
賃料を求める場合の地域要因の比較に当たっては、賃料固有の価格形成要因が存すること等により、価格を求める場合の地域と賃料を求める場合の地域とでは、それぞれの地域の範囲及び地域の格差を異にすることに留意することが必要である。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章
たとえば、同じ住宅地域でも、分譲住宅の取引市場と賃貸住宅の賃貸市場では、需要者の属性や重視する要因が異なることがあります。このため、価格の地域要因と賃料の地域要因では、地域の範囲や格差の程度が異なる場合があるという点に留意が必要です。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 地域要因の比較が必要な場面:事例不動産が近隣地域に存する場合は地域要因の比較は不要。類似地域等や代替競争不動産の場合に必要
- 標準画地を設定する方法の存在と意義
- 賃料と価格における地域要因の比較の違い
- 代替競争不動産の場合の地域要因比較の留意点
論文式試験
- 地域要因の比較の意義:取引事例比較法の適用プロセスにおける位置づけを論述する問題
- 地域分析と地域要因の比較の関連:地域分析で把握した地域特性をどのように比較に反映させるか
- 用途地域別の比較項目:住宅地域と商業地域で重視すべき要因の違いを論述する問題
暗記のポイント
- 地域要因の比較が必要な場合と不要な場合の区分を正確に覚える
- 「それぞれの地域における個別的要因が標準的な土地を設定して行う方法がある」という条文表現
- 代替競争不動産の場合は「市場の特性に影響を与えている地域要因の比較」が必要
まとめ
地域要因の比較は、取引事例比較法の適用において、事例不動産と対象不動産の地域特性の違いを修正する重要な作業です。比較が必要となるのは事例不動産が同一需給圏内の類似地域等や代替競争不動産に該当する場合であり、近隣地域内の事例では不要です。
比較の方法としては、地域要因の各項目について格差率を求めて総合する方法や、標準的な土地を設定して純粋に地域要因の格差のみを把握する方法があります。用途地域ごとに重視すべき比較項目が異なるため、地域分析の結果を踏まえた適切な比較項目の選定が重要です。
次のステップとして、個別的要因の比較の方法を理解し、取引事例比較法の適用手順の全体像を把握することが、試験対策として効果的です。また、価格形成要因の体系的な理解が地域要因の比較の基礎となります。