個別的要因の比較とは?不動産鑑定の取引事例比較法で格差率を求める方法
不動産鑑定の取引事例比較法における個別的要因の比較を解説。対象不動産と事例不動産の個別特性の違いを格差率として求める方法を整理。地域要因の比較との関係、面積・形状・接道状況等の要因別の比較手順を鑑定評価基準に基づき網羅します。
個別的要因の比較とは
不動産鑑定士試験の学習において、取引事例比較法の適用プロセスにおける個別的要因の比較は、対象不動産と事例不動産の個別の特性の違いを価格に反映させる重要な作業です。事情補正、時点修正、地域要因の比較とともに、取引事例比較法の4つの補正・修正の一つとして位置づけられています。
本記事は取引事例比較法での個別的要因の比較(格差率の求め方)に特化しています。個別的要因そのものの概念・全体像は個別的要因とはをご覧ください。
取引事例等の価格等は、その不動産の存する用途的地域に係る地域要因及び当該不動産の個別的要因を反映しているものであるから、取引事例等に係る不動産が同一需給圏内の類似地域等に存するもの又は同一需給圏内の代替競争不動産である場合においては、近隣地域と当該事例に係る不動産の存する地域との地域要因の比較及び対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を、取引事例等に係る不動産が近隣地域に存するものである場合においては、対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較をそれぞれ行う必要がある。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
この規定から分かるとおり、個別的要因の比較は、事例不動産がどの地域に存するかにかかわらず常に必要です。地域要因の比較が不要な近隣地域内の事例であっても、個別的要因の比較は行わなければなりません。
個別的要因とは
価格形成要因の体系における位置づけ
価格形成要因は、一般的要因、地域要因、個別的要因の3つに分類されます。個別的要因は、不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因です。
| 要因の分類 | 作用の範囲 | 具体例 |
|---|---|---|
| 一般的要因 | 不動産の価格形成全般 | 人口動態、経済成長率、金利水準 |
| 地域要因 | 特定の地域の価格水準 | 交通利便性、商業集積度、用途地域 |
| 個別的要因 | 個々の不動産の価格 | 面積、形状、接道状況、築年数 |
個別的要因の比較は、地域分析で把握される地域の標準的な水準からの個別の乖離を修正する作業です。同じ地域内に存する不動産であっても、それぞれの個別的要因の優劣によって価格は異なります。
個別的要因の比較の方法
格差率の算定
個別的要因の比較は、地域要因の比較と同様に格差率によって行われます。対象不動産を基準(100とする)として、事例不動産との間の格差を数量的に把握します。
格差率が100を超える場合は対象不動産が事例不動産よりも条件が良いことを意味し、100未満の場合は対象不動産の条件が劣ることを意味します。
標準画地を設定する方法
基準では、地域要因と個別的要因の比較をより明確に区分するため、標準的な土地を設定して行う方法が認められています。この方法では、次の2段階で比較を行います。
| 段階 | 比較の対象 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 標準画地同士の比較 | 近隣地域の標準画地と事例地域の標準画地との地域要因の格差を把握 |
| 第2段階 | 標準画地と個別の土地の比較 | 各地域の標準画地と実際の不動産との個別的要因の格差を把握 |
この方法により、地域要因の格差と個別的要因の格差を混同することなく、それぞれを明確に把握できます。
土地に関する個別的要因の比較項目
宅地の個別的要因
宅地の個別的要因として比較の対象となる主な項目を整理します。
| 比較項目 | 内容 | 格差への影響 |
|---|---|---|
| 面積 | 地積の大小 | 過大・過小な面積は減価要因 |
| 形状 | 整形・不整形の別 | 不整形地は利用効率が低下 |
| 接道状況 | 接面道路の幅員、方位、数 | 角地・二方路は増価、無道路地は大幅減価 |
| 高低差 | 道路との高低差、地勢 | 高低差がある場合は造成費等で減価 |
| 日照・通風 | 南向き、隣接建物の影響 | 住宅地では特に重要 |
| 地盤 | 地盤の良否、液状化リスク | 地盤が軟弱な場合は基礎工事費増加 |
| 埋蔵文化財 | 埋蔵文化財包蔵地の有無 | 開発制限による減価 |
| 土壌汚染 | 汚染の有無と程度 | 浄化費用等による減価 |
住宅地と商業地の重視項目の違い
住宅地と商業地では、個別的要因のうち重視すべき項目が異なります。
| 要因項目 | 住宅地での重要度 | 商業地での重要度 |
|---|---|---|
| 日照・通風 | 高い | 低い |
| 接面道路の幅員 | 中程度 | 高い |
| 面積の大小 | 中程度 | 高い |
| 角地・二方路 | 中程度 | 高い |
| 容積率の消化可能性 | 低い | 高い |
| 閑静さ | 高い | 低い |
建物に関する個別的要因の比較項目
取引事例比較法を建物及びその敷地に適用する場合には、土地の個別的要因に加えて建物の個別的要因の比較も必要です。
| 比較項目 | 内容 | 格差への影響 |
|---|---|---|
| 築年数 | 建築からの経過年数 | 経年による物理的減価 |
| 構造・工法 | RC造、S造、木造等 | 耐用年数・耐震性に影響 |
| 設計・間取り | 動線の合理性、居室の配置 | 機能性・使いやすさに影響 |
| 設備 | 空調、エレベーター、防災設備 | 機能的陳腐化の有無 |
| 維持管理 | メンテナンスの状態 | 良好な管理は減価を緩和 |
| 耐震性 | 耐震基準への適合状況 | 旧耐震は大幅な減価要因 |
| リフォーム履歴 | 大規模修繕の有無と時期 | 修繕により経済的残存耐用年数が延長 |
建物の個別的要因の比較においては、原価法における減価修正の考え方(物理的減価、機能的減価、経済的減価)との関連を意識することが重要です。
個別的要因の比較と配分法
配分法における個別的要因の比較
取引事例が対象不動産と異なる類型の複合的な不動産に係る場合には、配分法を用いて対象不動産の類型に係る事例資料を求めることがあります。配分法を適用した後の事例資料に対しても、個別的要因の比較は必要です。
取引事例が対象不動産と同類型の不動産の部分を内包して複合的に構成されている異類型の不動産に係る場合においては、当該取引事例の取引価格から対象不動産と同類型の不動産以外の部分の価格が取引価格等により判明しているときは、その価格を控除し、又は当該取引事例について各構成部分の価格の割合が取引価格、新規投資等により判明しているときは、当該事例の取引価格に対象不動産と同類型の不動産の部分に係る構成割合を乗じて、対象不動産の類型に係る事例資料を求めるものとする(この方法を配分法という。)。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
個別的要因の比較と賃料評価
賃料を求める場合の個別的要因の比較にも、特有の留意事項があります。
賃料を求める場合の個別的要因の比較に当たっては、契約内容、土地及び建物に関する個別的要因等に留意することが必要である。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章
賃料の場合、価格を求める場合の個別的要因に加えて、契約内容に関する要因(賃貸面積、契約期間、一時金の条件、特約事項等)も個別的要因の比較の対象となります。賃貸事例比較法の適用においては、この点に特に注意が必要です。
格差率の計算を数値例で理解する
個別的要因の比較は、各要因の格差を掛け合わせて総合格差率を求めます。ここでの計算手順を数値例で示します。
前提
対象不動産を100として、取引事例Aの各要因を評価します。
| 要因 | 対象 | 事例A | 格差 |
|---|---|---|---|
| 間口・奥行 | 100 | 98 | 事例がやや劣る |
| 形状 | 100 | 103 | 事例が優る |
| 接面街路の幅員 | 100 | 100 | 同等 |
| 角地・二方路 | 100 | 105 | 事例が優る(角地) |
| 地勢・地盤 | 100 | 100 | 同等 |
総合格差率の算出
各要因の格差を掛け合わせます。
事例Aは対象より総合で約6.0%優る、という判定です。したがって事例の単価に乗じる補正率は、
事例が優っているぶん、事例の価格を引き下げて対象に合わせます。事例単価が350千円/㎡なら、
分数の向きを間違えないために
分子=対象不動産/分母=取引事例
事例が優る(分母が大きい)なら補正率は1未満=減額、事例が劣る(分母が小さい)なら1超=増額です。計算後に「優れた事例の価格は下がったか」を確認すると、向きの誤りを防げます。
加算ではなく乗算である理由
各要因の格差は、独立に価格へ作用するのではなく相乗的に作用します。間口が狭く、かつ形状も不整形な画地は、それぞれの減価を単純に足した以上に効用が落ちます。この性質を反映するため、格差率は掛け合わせるのが原則です。
個別的要因の比較において、取引事例が対象不動産より優れている場合、その事例の価格は増額方向に補正される。
格差率そのものはどう決めるのか
計算の手順は上のとおりですが、実務で本当に難しいのは「間口が狭いことをなぜ98とするのか」という格差率の根拠づけです。ここが説明できないと、計算がいくら正しくても評価書としては通りません。
根拠の3つの出どころ
| 出どころ | 内容 | 強み・弱み |
|---|---|---|
| 取引事例の分析 | 条件の異なる複数の事例の単価差から、要因ごとの格差を逆算する | 最も客観的だが、要因を分離できるだけの事例数が要る |
| 市場参加者への聴取 | 当該地域で取引を行う不動産業者等に、要因ごとの価格への影響を確認する | 実勢を反映できる。聴取先の偏りに注意 |
| 公的評価等で用いられる要因格差の考え方 | 地価公示・固定資産税評価等で蓄積された標準的な格差の考え方を参照する | 体系的で説明しやすい。個別事情は反映しにくい |
実務ではこの3つを突き合わせます。 事例分析から出た数値が聴取結果と大きく食い違うなら、どちらかの前提を疑う必要があります。一つの出どころだけで格差率を決めると、なぜその数字なのかを問われたときに答えられません。
主観を排するための検証
格差率は「感覚で置く」ものではありません。次の2つの検証を通すと、恣意性を減らせます。
第一に、複数事例で整合するかを見ます。 同じ要因(たとえば角地であること)について、事例Aでは+5%、事例Bでは+15%と付けているなら、その差を説明できなければなりません。同一の地域で同一の要因に対して大きく異なる格差を付けているのは、多くの場合、格差率ではなく別の要因を取り違えています。
第二に、逆算して確かめます。 各事例に補正を施した後の単価が、事例間で近い値に収束しているかを確認します。補正後の単価がばらついたままなら、補正が不十分か、比較の前提が違っています。補正後に収束すること自体が、格差率が妥当だったことの傍証になります。
| 事例 | 補正前の単価 | 補正後の単価 | 判定 |
|---|---|---|---|
| A | 350千円/㎡ | 330千円/㎡ | ― |
| B | 310千円/㎡ | 328千円/㎡ | Aと整合的 |
| C | 400千円/㎡ | 355千円/㎡ | 他と乖離。要因の取り違えか、事例自体に問題 |
この表のCのようなケースでは、格差率を動かして無理に合わせるのではなく、その事例を採用すべきかどうかに立ち返るのが正しい対応です。
補正が大きい事例は、そもそも選ばない
見落とされがちですが、補正の大きさは事例の適格性の指標でもあります。
個別的要因の比較で30%も40%も補正しなければならない事例は、対象不動産と個別性が大きく異なるということです。補正の計算自体は可能でも、その補正の妥当性を立証する負担が重くなり、結果として評価全体の説得力が落ちます。
事例選択の段階で、補正が小さくて済む事例を優先する――これが取引事例比較法の精度を上げる最も効果的な方法です。事例の選択基準は取引事例の選択と要件、比準価格の全体の流れは比準価格とはで扱っています。
地域要因の比較との切り分け
個別的要因の比較と地域要因の比較は、混同すると二重補正になります。切り分けの基準は明快です。
| 地域要因の比較 | 個別的要因の比較 | |
|---|---|---|
| 比較の対象 | 近隣地域 ↔ 類似地域 | 対象不動産 ↔ 事例不動産 |
| 何を比べるか | 地域の水準 | 画地・建物の個別条件 |
| いつ行うか | 事例が類似地域に存する場合 | 常に行う |
| 例 | 最寄駅からの距離、地域の環境水準 | 間口、形状、角地、接面街路の幅員 |
近隣地域内の事例には地域要因の比較を行いません(地域要因が共通のため)。個別的要因の比較のみを行います。この扱いは短答式・計算問題の双方で頻出です。
判断に迷う項目
| 項目 | どちらか | 理由 |
|---|---|---|
| 最寄駅からの距離 | 地域要因(地域の交通条件) | ただし同一地域内で著しい差があれば個別的要因として扱う場合も |
| 接面街路の幅員 | 個別的要因 | 当該画地が接する街路の条件 |
| 地域の街路条件(街路網の整備水準) | 地域要因 | 地域全体の街路の状況 |
| 用途地域の指定 | 地域要因 | 地域に及ぶ規制 |
| 当該画地固有の高さ制限(日影規制の影響等) | 個別的要因 | その画地だけに及ぶ制限 |
「地域全体に及ぶか、その不動産だけか」で切り分けるのが原則です。
よくある質問(FAQ)
Q. 格差率は足すのですか掛けるのですか
掛けます。各要因の格差は相乗的に作用するためです。間口が狭く形状も悪い画地は、それぞれの減価を足した以上に効用が落ちます。
Q. 補正率の分数はどちらが分子ですか
分子=対象不動産、分母=取引事例です。事例が優れていれば分母が大きくなり、補正率は1未満(減額)になります。
Q. 近隣地域内の事例にも地域要因の比較をしますか
しません。地域要因を共通にするため、個別的要因の比較のみを行います。類似地域等の事例の場合に地域要因の比較が加わります。
Q. 個別的要因の格差はどう査定しますか
同一地域内の取引事例の単価分布を分析し、要因の違いが価格差にどう現れているかを把握して査定します。感覚で置くのではなく、複数の事例から実証的に導くのが基本です。
Q. 建物の個別的要因は何を見ますか
建築の年次、構造・材質、設計・設備の良否、施工の質と量、維持管理の状態、耐震性、遵法性などです。土地とは比較項目が異なります。
Q. 配分法との関係は何ですか
配分法は、複合不動産の取引事例から土地部分(または建物部分)の価格を抽出する方法です。抽出したうえで、その部分について個別的要因の比較を行います。順序としては配分法が先です。詳しくは配分法とはを参照してください。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 個別的要因の比較の要否:近隣地域内の事例でも個別的要因の比較は必要(地域要因の比較は不要だが個別的要因の比較は常に必要)
- 住宅地と商業地で重視すべき個別的要因の違い
- 標準画地を設定する方法における地域要因と個別的要因の分離
- 賃料を求める場合の個別的要因に含まれる「契約内容」
論文式試験
- 個別的要因の比較の意義と方法:格差率の算定方法、標準画地を用いた方法を論述する問題
- 地域要因と個別的要因の関係:両者を明確に区分する必要性を論述する問題
- 用途地域別の比較項目:住宅地・商業地・工業地における重要な個別的要因を具体的に挙げる問題
暗記のポイント
- 個別的要因の比較は事例不動産の所在にかかわらず常に必要
- 格差率の算定方法:「対象不動産の個別的要因 ÷ 事例不動産の個別的要因」
- 標準画地を設定する方法では、地域要因と個別的要因を明確に分離できる
- 賃料の個別的要因には契約内容も含まれる
まとめ
個別的要因の比較は、取引事例比較法の適用プロセスにおいて、対象不動産と事例不動産の個別の特性の違いを価格に反映させる不可欠な作業です。地域要因の比較が不要な近隣地域内の事例であっても、個別的要因の比較は常に必要です。
比較の方法としては、各比較項目について格差率を算定し総合する方法が基本であり、標準画地を設定することで地域要因と個別的要因を明確に分離する方法もあります。重視すべき比較項目は用途地域によって異なるため、地域分析の結果を踏まえた適切な比較項目の選定が重要です。
取引事例比較法の適用手順の全体像の中で個別的要因の比較を位置づけ、事情補正や時点修正との関係を理解しておくことが試験対策として有効です。また、原価法の減価修正や収益還元法の純収益の査定においても個別的要因の分析は基礎となるため、鑑定評価の3手法を横断的に理解することが重要です。
基準を演習で定着させる
基準は読んで理解しただけでは、本番で選択肢を判別できません。条文の文言を正確に押さえているかは、実際に問題を解いてはじめて確認できます。
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