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市場抽出法と投資家調査 - 不動産鑑定で還元利回りを求める方法と実務活用

還元利回りを求める方法は基準に5つ例示されています。最も基本的な市場抽出法の取引利回り算出手順、割引率のIRRとしての求め方、投資家調査や不動産インデックスの「参考として活用」する位置づけ、各方法の着目点と使い分けを体系的に整理します。

市場抽出法の意義

不動産鑑定士試験において、収益還元法の適用で最も重要な要素の一つが還元利回りおよび割引率の求め方です。基準は、還元利回りを求める方法として複数の方法を例示しており、その中で最も基本的かつ有効とされるのが市場抽出法(類似の不動産の取引事例との比較から求める方法)です。

類似の不動産の取引事例との比較から求める方法

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

この方法は、対象不動産と類似性の高い不動産の取引事例から得られる利回りを基礎として、還元利回りを求めるものです。不動産市場の実勢を直接反映できる点で、最も説得力の高い方法とされています。


還元利回りを求める方法の全体像

基準は、還元利回りを求める方法として以下の5つを例示しています。

方法着目点特に有効な場合
(ア)市場抽出法類似取引事例の利回り類似性の高い取引事例が豊富な場合
(イ)借入金・自己資金法資金調達構成不動産投資の資金調達動向を反映する場合
(ウ)土地・建物法物理的構成要素土地・建物の利回りが異なる市場の場合
(エ)割引率との関係純収益の変動率純収益が一定の趨勢を有する場合
(オ)借入金償還余裕率借入金返済の安全性収益のみを返済原資とする場合

これらの方法は、一つの方法を採用する場合と複数の方法を組み合わせて採用する場合があります。


市場抽出法の適用方法

取引利回りの算出

市場抽出法では、まず類似の不動産の取引事例から利回り(取引利回り)を算出します。取引利回りとは、取引事例に係る不動産の純収益を取引価格で除した値です。

$$取引利回り = 純収益 ÷ 取引価格$$

補正の実施

算出した取引利回りに対して、以下の補正を行います。

補正の種類内容
取引時点の補正取引時点と価格時点の利回り水準の変動を補正
取引事情の補正特殊な事情がある場合の補正
地域要因の比較事例不動産の所在する地域と対象不動産の所在する地域との比較
個別的要因の比較事例不動産と対象不動産の個別的要因の比較

この補正の過程は、取引事例比較法の適用方法に準じて行われます。

償却前後の純収益への留意

取引事例から得られる利回りについては、償却前後のいずれの純収益に対応するものであるかに留意する必要があります。

対象不動産の評価において償却前の純収益を用いる場合には、取引利回りも償却前の純収益に対応するものを採用しなければなりません。この整合性の確保は、正確な収益価格を得るために不可欠です。


割引率を求める方法としての市場抽出法

割引率の市場抽出法

DCF法における割引率についても、市場抽出法が最も基本的な方法です。

割引率の市場抽出法では、取引事例に係る割引率を内部収益率(IRR)として求めます。

取引事例に係る割引率は、基本的に取引利回りをもとに算定される内部収益率(Internal Rate of Return(IRR)。将来収益の現在価値と当初投資元本とを等しくする割引率をいう。)として求める。

― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章

還元利回りと割引率の関係

市場抽出法で求めた還元利回りと割引率には、以下の関係があります。

還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率である。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

純収益が変動しない場合、還元利回りと割引率は一致しますが、純収益が変動する場合には両者は異なる値となります。


投資家調査の活用

投資家調査とは

基準は、還元利回りおよび割引率を求める際に、投資家等の意見や整備された不動産インデックス等を参考として活用することを認めています。

また、必要に応じ、投資家等の意見や整備された不動産インデックス等を参考として活用する。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

投資家調査とは、不動産投資に関する機関投資家やアセットマネジャー等の市場参加者から、期待利回りや市場の見通し等について意見を収集する調査です。

投資家調査の位置づけ

投資家調査は、市場抽出法等の基本的な方法を補完する参考情報として位置づけられます。投資家調査のみに依拠して還元利回りや割引率を決定することは基準の趣旨に反しますが、市場の動向を把握するための有用な資料です。

不動産インデックスの活用

不動産インデックス(不動産投資収益率指数等)は、市場全体の利回りの動向を把握するために活用されます。個別の不動産の利回りを直接示すものではありませんが、市場の一般的な動向を把握する上で有益です。


他の方法との関係

借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法

この方法は、資金調達構成に着目して還元利回りを求めるものです。

この方法は、不動産の取得に際し標準的な資金調達能力を有する需要者の資金調達の要素に着目した方法であり、不動産投資に係る利回り及び資金調達に際する金融市場の動向を反映させることに優れている。

― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章

金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法

この方法は、債券等の金融資産の利回りを基礎として、不動産の個別性(投資対象としての危険性、非流動性、管理の困難性、資産としての安全性等)を加味して求めるものです。この方法は、不動産市場の特性を反映する上で有用です。

割引率との関係から求める方法

この方法は、割引率と純収益の変動率から還元利回りを求めるものであり、次の式で表されます。

還元利回り = 割引率 − 純収益の変動率

純収益が永続的に得られ、かつ一定の趨勢を有する場合に有効です。


市場抽出法の実務上の意義

なぜ市場抽出法が重視されるか

市場抽出法は、不動産市場の実勢を最も直接的に反映できる方法です。市場参加者が実際にどの程度の利回りで取引を行っているかという事実に基づくため、説得力が高いとされています。

特に、証券化対象不動産の鑑定評価においては、取引事例が比較的豊富に得られることが多く、市場抽出法の有効性が高くなります。

市場抽出法の限界

一方、市場抽出法には以下の限界があります。

  • 取引事例が少ない地域・類型では適用が困難
  • 取引事例の純収益の正確な把握が難しい場合がある
  • 市場が過熱している局面では、取引利回りが適正な水準から乖離している可能性がある

このような限界を補うために、他の方法との併用や投資家調査の活用が重要です。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 還元利回りを求める方法の列挙(5つの方法)
  • 市場抽出法の取引事例の収集・選択は取引事例比較法に準ずる
  • 投資家等の意見や不動産インデックスは「参考として活用」する位置づけ
  • 取引利回りの「償却前後」の区別

論文式試験

  • 還元利回りおよび割引率の意義と求め方の論述
  • 市場抽出法が有効となる場合とその理由
  • 複数の手法の併用の観点からの利回りの検証

暗記のポイント

  1. 還元利回りを求める5つの方法の名称と着目点
  2. 市場抽出法は「類似性の高い取引事例に係る取引利回りが豊富に収集可能な場合には特に有効
  3. 割引率のIRRとしての求め方
  4. 投資家等の意見は「参考として活用」
確認問題


まとめ

市場抽出法は、還元利回りおよび割引率を求める方法の中で最も基本的かつ市場の実勢を直接反映できる方法です。類似の不動産の取引事例から取引利回りを算出し、必要な補正を行って対象不動産の利回りを導きます。

投資家調査や不動産インデックスは、市場抽出法を補完する参考情報として位置づけられます。還元利回りの決定に当たっては、市場抽出法を中心としつつ、借入金・自己資金法や金融資産利回り法等の他の方法との総合的な検討が求められます。

還元利回り・割引率の理解を深めるには、還元利回りの解説DCF法の仕組み収益還元法の基本直接還元法の手順を参照してください。

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