条件付き鑑定評価を解説
鑑定評価基準が定める3種の条件(対象確定条件・想定上の条件・調査範囲等条件)を体系的に解説。想定上の条件に必要な「合理性」と「実現性」の2要件、未竣工建物の評価、証券化対象不動産でのER活用など具体的な条件設定場面と、鑑定評価報告書への記載義務まで整理します。
鑑定評価の「条件」とは
不動産の鑑定評価は、対象不動産の現実の状態を前提として行うのが原則です。しかし、依頼目的や対象不動産の状況によっては、一定の条件を付して鑑定評価を行う必要が生じる場合があります。
鑑定評価基準は、鑑定評価の条件について詳細な規定を設けています。条件を付すことができる場面と、条件設定にあたっての制約を正確に理解することは、鑑定士試験において非常に重要です。
不動産の鑑定評価に当たっては、基本的事項として、鑑定評価の基本的事項の確定に関連して必要となる鑑定評価の条件を明確にしなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章
本記事では、鑑定評価の条件の全体像を概観した上で、特に条件付き鑑定評価の重要論点を整理します。
鑑定評価の条件の3分類
体系的整理
鑑定評価基準は、鑑定評価の条件を以下の3種類に分類しています。
| 条件の種類 | 内容 | 規定箇所 |
|---|---|---|
| 対象確定条件 | 対象不動産の所在、範囲、類型等を確定する条件 | 総論第5章第1節 |
| 想定上の条件 | 対象不動産について想定する条件 | 総論第5章第1節 |
| 調査範囲等条件 | 調査の範囲を限定する条件 | 総論第5章第1節 |
これらの条件はいずれも、鑑定評価報告書に明記しなければなりません。条件の内容によって鑑定評価額が大きく変わり得るため、利用者に対する情報開示の観点から、条件の内容と設定理由を明確に記載する必要があります。
対象確定条件
対象確定条件の意義
対象確定条件は、鑑定評価の対象となる不動産を確定するための条件です。対象不動産の物的な範囲(所在・地番・面積等)と権利の態様(所有権・借地権等)を明らかにします。
基準は対象確定条件として以下の3つの類型を定めています。
- 現状所与の条件: 対象不動産の現実の利用状況と権利関係を所与として評価する
- 独立鑑定評価の条件: 対象不動産を独立のものとして評価する(独立鑑定評価と部分鑑定評価の違いを参照)
- 部分鑑定評価の条件: 対象不動産を全体の一部として評価する
未竣工建物等の対象確定条件
未竣工建物等の鑑定評価では、対象確定条件の設定が特に重要です。造成中の土地や建築中の建物について、竣工後の状態を前提として鑑定評価を行う場合、以下の条件を設定します。
- 竣工を前提とする条件(建物が設計図書のとおりに竣工するものとする)
- 着工を前提とする条件(建物の建築が確実に着工されるものとする)
これらは対象不動産の物的状態に関する条件であり、対象確定条件の一種です。
想定上の条件
想定上の条件の意義
想定上の条件は、対象不動産について、現実には存在しない状態を想定して鑑定評価を行うための条件です。対象確定条件が対象不動産の「何を」評価するかを確定するのに対し、想定上の条件は「どのような状態として」評価するかを定めるものです。
想定上の条件を設定するに当たっては、対象不動産に係る諸事項について調査及び確認した上で、鑑定評価の依頼目的に照らして、設定することに合理性があり、かつ、実現性があるものでなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節
想定上の条件が許容される場面
想定上の条件は、合理性と実現性の2つの要件を満たす場合にのみ設定できます。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 合理性 | 依頼目的に照らして条件を設定する合理的な理由がある |
| 実現性 | 想定した状態が実現する可能性がある |
例えば、以下のようなケースでは想定上の条件の設定が認められます。
- 土壌汚染の除去を想定する条件: 土壌汚染が存在する土地について、汚染が除去されたものとして評価(売買に際して汚染除去が予定されている場合)
- 用途変更を想定する条件: 現在は工場用地だが、住宅地への転用が確実な場合にその転用後の状態で評価
- 建物取壊しを想定する条件: 取壊し予定の建物について、取壊し後の更地として評価
想定上の条件が許容されない場面
合理性や実現性を欠く想定上の条件は設定できません。
- 市街化調整区域の土地について、市街化区域に編入されたものとして評価する(実現性が不確実)
- 特段の理由なく、容積率が実際より高いものとして評価する(合理性を欠く)
想定上の条件は、依頼目的に照らして合理性があれば、実現性がなくても設定できる。
調査範囲等条件
調査範囲等条件の意義
調査範囲等条件は、不動産鑑定士の調査の範囲を限定する条件です。通常の鑑定評価では、鑑定士は対象不動産に関する必要な調査を全て行いますが、調査範囲等条件を設定することで、特定の事項についての調査を省略できます。
この条件は、特に証券化対象不動産の鑑定評価において重要です。証券化対象不動産のDCF法適用に関連して、エンジニアリング・レポート(ER)の結果を活用する場合、建物の物理的調査はERに依拠し、鑑定士の調査範囲を限定することがあります。
調査範囲等条件の設定要件
調査範囲等条件を設定する場合は、以下の点に留意が必要です。
- 条件の内容を鑑定評価報告書に明記しなければならない
- 調査を省略することにより鑑定評価額に影響を与える可能性がある場合は、その旨を記載する
- 依頼者との間で条件について合意が必要
条件設定と鑑定評価額の関係
条件が鑑定評価額に与える影響
条件の設定は、鑑定評価額に大きな影響を与えます。以下に代表的な例を示します。
| 条件の種類 | 条件の内容 | 鑑定評価額への影響 |
|---|---|---|
| 想定上の条件 | 土壌汚染がないものとする | 汚染除去費用相当額だけ高くなる |
| 対象確定条件 | 更地として評価する | 建物の存在を無視した評価になる |
| 調査範囲等条件 | 地下埋設物の調査を行わない | 地下埋設物のリスクが反映されない |
このため、鑑定評価の利用者は、鑑定評価書に記載された条件の内容を十分に理解した上で、鑑定評価額を活用する必要があります。鑑定評価の依頼目的と利用者の範囲で述べたとおり、利用者の範囲を明確にすることも重要です。
条件に反する場合の責任
鑑定士が条件を設定する際に、その条件が上記の要件(合理性・実現性等)を満たしていない場合、鑑定評価の信頼性が損なわれます。不動産鑑定士の倫理規程の観点からも、安易な条件設定は避けなければなりません。
条件設定の実務的な流れ
依頼段階での確認
条件付き鑑定評価の実務は、まず依頼段階での確認から始まります。
- 依頼者から鑑定評価の依頼目的と利用目的を確認する
- 対象不動産の現状を把握し、条件設定の必要性を判断する
- 設定すべき条件の合理性と実現性を検討する
- 依頼者と条件の内容について合意する
条件の記載方法
鑑定評価報告書における条件の記載は、具体的かつ明確でなければなりません。
鑑定評価に当たっての条件を設定した場合には、その内容及びその設定の根拠を記載しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第9章
条件の記載例は以下のとおりです。
- 「対象土地について、建築基準法第42条第2項道路のセットバック部分を除いた有効面積をもって評価する」(対象確定条件)
- 「対象土地に存する土壌汚染が除去されたものとして評価する」(想定上の条件)
- 「対象建物の構造躯体に関する詳細調査はエンジニアリング・レポートに依拠するものとする」(調査範囲等条件)
調査範囲等条件は、鑑定評価報告書に記載する必要はない。
条件付き鑑定評価の具体的場面
未竣工建物の鑑定評価
未竣工建物等の鑑定評価は、条件付き鑑定評価の代表的な場面です。完成前の建物について、竣工後の状態を前提として鑑定評価を行います。不動産開発プロジェクトの資金調達や、証券化の場面で活用されます。
借地権付建物の更地評価
担保評価において、借地権付建物の敷地を更地として評価する場面があります。金融機関が将来の処分可能性を考慮して、権利関係を除いた土地本来の価値を把握したい場合に、この条件が設定されます。
証券化対象不動産の評価
証券化対象不動産の鑑定評価では、DCF法の適用にあたり、テナントの入替や修繕費用の見通しなど、多くの想定を置く必要があります。これらの想定は想定上の条件として明示され、利用者(投資家)に開示されます。
試験における条件設定の出題パターン
短答式の典型パターン
鑑定理論の短答式攻略法で述べたように、条件に関する出題では以下の点が問われます。
- 3種類の条件の区別(対象確定条件・想定上の条件・調査範囲等条件)
- 想定上の条件の要件(合理性+実現性)
- 条件の記載義務(鑑定評価報告書への記載)
論文式の出題
論文式では、特定の事例について「どのような条件を設定すべきか」を問う出題があります。その場合は、条件の種類を正しく分類した上で、設定の合理性と実現性を論じる必要があります。鑑定理論の論文答案の書き方の技法を活用してください。
まとめ
条件付き鑑定評価は、対象不動産の現実の状態とは異なる前提で鑑定評価を行う手法です。鑑定評価基準は対象確定条件、想定上の条件、調査範囲等条件の3種類を規定しており、それぞれの要件と設定場面を正確に理解することが求められます。
特に想定上の条件については、合理性と実現性の両方を満たすことが必須です。条件の内容は鑑定評価報告書に明記し、利用者に対して十分な情報開示を行わなければなりません。
関連テーマとして、対象確定条件の3つの類型、鑑定評価の3条件、鑑定評価報告書の記載事項もあわせて確認してください。