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会計学の頻出論点パターン集|会計公準から財務諸表分析まで答案の型で整理

不動産鑑定士試験の会計学を「答案の型」で整理した論点パターン集。会計公準(ギルマンの三公準)・企業会計原則の一般原則7つ・減損会計・財務諸表分析まで、問われ方/骨子/答案例/間違えやすい点を論点ごとに掲載します。

不動産鑑定士試験の会計学は、多くの受験生が「簿記ができないから捨てる科目」と誤解しています。しかし論文式試験で実際に問われるのは、仕訳を速く正確に切る技術よりも、「なぜその会計処理をするのか」を言葉で説明する力です。会計公準、企業会計原則の一般原則、取得原価主義と時価評価、減損会計——これらはいずれも計算ではなく理論であり、覚えるべき定義と論理の筋道は驚くほど限られています。範囲を絞れば、会計学は教養科目のなかで最も安定した得点源になります。

問題は、多くの教材が「範囲の説明」で終わっていることです。減損会計の3ステップを理解しても、本試験で「固定資産の減損会計の目的と測定方法について述べよ」と問われたとき、白紙の答案用紙を前にして何をどの順番で、何字書けばよいのかが分からなければ得点にはなりません。会計学の失点の大半は「知らなかった」ではなく「知っていたのに書けなかった」で発生します。

そこで本記事は、会計学を論点ごとの「答案の型」として再編成しました。各論点について「どう問われるか/答案の骨子/実際の答案例/必ず入れるキーワード/間違えやすい点」を揃えてあります。とりわけ検索需要が高いにもかかわらず解説が薄くなりがちな会計公準(ギルマンの三公準)は、定義・相互関係・鑑定評価との接点まで最も厚く扱います。また、不動産鑑定士試験の会計学で最重要の減損会計は、使用価値が鑑定理論の収益還元法とそのまま接続する論点なので、両者の対応関係まで踏み込みます。


この記事の位置づけ ― 「範囲の地図」でも「勉強法」でもなく「答案の型」

本サイトには会計学の記事が複数ありますが、それぞれ役割が違います。本記事だけを読んでも学習計画は立ちませんし、逆に勉強法の記事を読んでも答案は書けません。次の表で自分がいま必要なものを選んでください。

目的読むべき記事本記事との違い
出題範囲の全体像を知りたい会計学の重要論点あちらは「どこが出るか」の地図。本記事は「出たらどう書くか」
何ヶ月で何をやるか決めたい会計学の勉強法あちらは学習手順とロードマップ。本記事は各論点の答案パターン
仕訳を確実に取りたい会計学の仕訳問題あちらは借方貸方の型。本記事は理論答案の型
原価計算を固めたい会計学の原価計算あちらは計算手順。本記事は理論中心(計算は代表パターンのみ)
財務諸表分析を深めたい会計学の財務諸表分析あちらは指標と財務諸表の構造。本記事は分析論点の答案化
問題を解いて確認したい会計学の演習問題10選あちらは問題と解答。本記事は問題の前段にある「型」

つまり本記事は、知識と答案のあいだを埋めるレイヤーです。読み方としては、まず論点の「答案の骨子」だけを通読して型を頭に入れ、そのうえで「答案例」を1本ずつ手で書き写す。これが最も効率のよい使い方です。書き写しは無駄に見えますが、会計学の答案は定型句の集合体なので、手が定型句を覚えると本試験での初速がまったく変わります。論文式全体の答案作法は論文式の答案作成の基本、科目間の時間配分は論文式の科目別時間配分にまとめてあります。


会計学の答案の型 ― すべての論点に共通する4ステップ

会計学の理論答案は、論点が何であれ次の4ステップで書けます。この型を最初に固定してしまうことが、会計学攻略の最大のショートカットです。

4ステップ・フレーム

ステップ書く内容目安字数(400字答案の場合)
① 定義問われている概念の定義を、教科書の言い回しで正確に60〜100字
② 根拠その処理を支える上位規範(会計公準・一般原則・会計基準名)60〜100字
③ 処理具体的にどう会計処理・測定するか(要件・手順・数式)120〜180字
④ 理由づけなぜそうするのか(目的・投資家保護・比較可能性・保守主義など)80〜120字

この4ステップの順番には意味があります。採点者は答案を上から読むので、冒頭に定義が来ていない答案は「分かっていない答案」に見えます。逆に、内容が薄くても定義が正確に置かれていれば、そこまでで一定の点が入ります。論文式試験の採点基準でも触れているとおり、論文式の採点はキーワードの拾い上げが基礎になるため、定義を先に置くのは点の取りこぼしを防ぐ最も安全な戦術です。

書き出しと締めの定型句

答案の初速を上げるために、書き出しと締めの型を丸暗記しておきます。

書き出しの型

  • 「◯◯とは、〜をいう。」(定義型。最も汎用性が高い)
  • 「◯◯の目的は、〜にある。」(目的を問われたとき)
  • 「◯◯については、〜と〜の二つの考え方が対立する。」(対立軸を問われたとき)

締めの型

  • 「以上より、◯◯は〜という趣旨から要請されるものである。」
  • 「したがって、◯◯は、△△の観点から合理性を有すると解される。」
  • 「なお、この点は□□とは区別を要する。」(比較・区別を問われたとき)

字数配分と時間配分

不動産鑑定士試験の論文式会計学は、理論と計算が混在する形式で出題されます。理論小問1問あたりに使える時間はおおむね10〜20分、字数は300〜600字程度が現実的なレンジです。したがって、次の三段階で書き分けられるように準備しておくと本試験で困りません。

想定字数構成使う場面
200字版定義+理由づけのみ小問が多く時間が足りないとき
400字版定義+根拠+処理+理由づけ(標準)標準的な小問
600〜800字版400字版+具体例・数値例・対比・例外配点の大きいメイン設問

本記事の答案例はすべて400字版で書いてあります。これを骨格として、時間があれば具体例や対比を足し、時間がなければ処理の記述を削る、という運用が最も安定します。

減点されない書き方の細則

  • 条文番号・基準番号を無理に書かない。「企業会計基準第◯号」の番号が曖昧なら、「固定資産の減損に係る会計基準」のように名称で書く。番号の誤りは印象を悪くします。
  • 箇条書きに逃げない。理論答案は文章で書く。要件列挙のときだけ箇条書きを使う。
  • 「〜と思う」「〜だろう」を使わない。「〜と解される」「〜と考えられる」に置き換える。
  • 数値には必ず単位を書く。計算過程は残す。答えだけの答案は部分点が入りません(部分点の稼ぎ方参照)。

論点1: 会計公準 ― 会計理論のいちばん下の土台

会計公準は、会計学の理論問題で最も「型どおりに書けば取れる」論点です。にもかかわらず、多くの受験生が直前期に慌てて詰め込み、三公準の名称だけを覚えて相互関係を説明できないまま本試験に臨みます。ここは本記事で最も厚く扱います。

会計公準とは何か

会計公準(accounting postulates)とは、企業会計が成立するために当然の前提として承認されている基礎的な仮定をいいます。 ポイントは「証明されたもの」ではなく「前提として置かれるもの」だという点です。幾何学における公理と同じ位置づけで、これがなければ会計という計算体系そのものが成り立ちません。

会計公準の重要性は、上位規範として個々の会計処理を正当化するところにあります。たとえば「なぜ固定資産を耐用年数にわたって少しずつ費用にするのか」と問われたとき、最終的な答えは「継続企業の公準があるから」に行き着きます。答案で「公準にさかのぼって理由を説明できる」と、他の受験生と明確に差がつきます。

公準・原則・基準・手続の4層構造

会計公準を単体で覚えても使えません。上下関係のなかに置いて覚えるのが正解です。

階層内容具体例
第1層:会計公準会計が成り立つための基礎的前提企業実体の公準、継続企業の公準、貨幣的評価の公準
第2層:会計原則公準を前提に会計処理が従うべき一般的指針企業会計原則の一般原則、発生主義、実現主義、費用収益対応の原則
第3層:会計基準原則を具体化した個別のルール固定資産の減損に係る会計基準、収益認識に関する会計基準
第4層:会計手続基準を実際に適用する具体的処理定額法・定率法、低価法、償却原価法

上の層が下の層を基礎づけ、下の層は上の層に反してはならない、という関係です。この4層構造を1行の図として書けるようにしておくと、「◯◯の会計処理の理論的根拠を述べよ」という問い方に対して必ず上の層を指し示すという定型の解き方ができるようになります。

三公準それぞれの内容

企業実体の公準(entity postulate)

企業を、その出資者から独立した一個の会計単位(会計主体)とみなす前提です。会計が測定する対象の「範囲」を画定する公準といえます。

この公準から導かれる帰結は次のとおりです。

  • 出資者の家計と企業の会計が分離される(個人事業主が私用で使った金銭は「引出金」として区別される)
  • 出資者からの元入れは収益ではなく資本として扱われる(資本取引と損益取引の区分の原則の土台になる)
  • 会計単位をどこに引くかによって、個別財務諸表と連結財務諸表という二つの体系が生じる

発展:会計単位を法的実体(法人格)で切るか、経済的実体(支配関係のある企業集団)で切るかという問題があり、後者を採るのが連結財務諸表です。連結会計の理論的根拠を問われたら、この企業実体の公準の拡張として説明すると筋が通ります。

継続企業の公準(going concern postulate)

企業は解散・清算を予定せず、半永久的に事業活動を継続するという前提です。ゴーイング・コンサーンの公準とも呼ばれます。会計が測定する「時間」を規定する公準です。

この公準がもたらす最大の帰結が期間損益計算です。企業が永続するのであれば、企業の一生が終わるまで待って利益を計算するわけにはいきません。そこで人為的に一定期間(会計期間)で区切り、その期間ごとの利益を計算する必要が生じます。ここから、次のような会計の主要な仕組みが芋づる式に導かれます。

継続企業の公準から導かれるもの説明
期間損益計算企業の一生を人為的に区切って各期の損益を計算する
発生主義・費用収益対応現金収支ではなく期間帰属で収益・費用を認識する必要が生じる
減価償却固定資産の取得原価を耐用年数にわたり各期に配分する
経過勘定(前払費用・未払費用等)期間帰属を調整するための勘定が必要になる
取得原価主義の基礎直ちに売却する前提がないため、処分価額ではなく取得原価で測定できる

逆に考えると理解が早い論点です。もし企業が明日清算するなら、資産は「いくらで売れるか(清算価値)」で測るのが正しく、減価償却も費用配分も不要になります。実際、継続企業の前提に重要な疑義が生じた場合には注記が求められ、清算を前提とする場合には測定基礎が変わります。答案で「もし継続企業の公準がなければ〜」という反実仮想を1文入れると、理解の深さが伝わります。

貨幣的評価の公準(monetary unit postulate)

会計が対象とする事象を、すべて貨幣額によって測定・記録・報告するという前提です。会計が測定する「尺度」を規定します。

帰結と限界の両方を書けることが重要です。

  • 帰結:異質な資産(土地・建物・機械・在庫)を貨幣という共通尺度で合算でき、貸借対照表という一覧が作れる。複式簿記による貸借一致の検証も可能になる。
  • 限界1:貨幣額で測定できないものは会計の対象外になる。人的資源、ブランド、技術力、経営者の能力などは原則として財務諸表に載らない。
  • 限界2:貨幣価値の変動(インフレーション)が捨象される。取得時点の1万円と現在の1万円を同じものとして合算してよいのか、という名目貨幣資本維持の問題が生じる。

この限界2は、インフレ会計・物価変動会計の論点につながります。また、不動産鑑定評価における名目値と実質値の区別、還元利回りに変動予測を織り込むか否かという議論とも通底しており、鑑定士試験の会計学らしい出題ポイントです。

ギルマンの三公準 ― 呼び方の違いに惑わされない

「会計公準」を調べるとギルマンの三公準という言い方に出会います。米国の会計学者ステファン・ギルマン(Stephen Gilman)が示した会計の基礎的前提を指したもので、日本の会計学テキストで定番の紹介のされ方をしています。

ここで受験生が混乱するのが、テキストによって列挙される三つが微妙に違うという点です。整理すると次のようになります。

整理の仕方挙げられる三つ
一般的な三公準(多数説的な整理)企業実体の公準/継続企業の公準/貨幣的評価の公準
ギルマンの整理として紹介されることが多いもの企業実体の公準/会計期間の公準/貨幣的評価の公準

違いは真ん中だけで、「継続企業」と置くか「会計期間」と置くかです。しかしこれは対立ではありません。継続企業の公準を前提とするからこそ、企業の一生を人為的に区切る会計期間が要請されるのであって、継続企業が原因、会計期間が結果という関係にあります。どちらを三公準に挙げるかは、原因側を掲げるか結果側を掲げるかの整理の差にすぎません。

答案での対処法は明快です。

会計公準として一般に、企業実体の公準、継続企業(会計期間)の公準、貨幣的評価の公準の三つが挙げられる。

このように「継続企業(会計期間)」と併記して書けば、どちらの整理にも対応でき、かつ両者の関係を理解していることが伝わります。名称の暗記に不安があるなら、この一文を丸暗記してください。

なお、公準を性格によって二分する整理もあります。会計の計算構造そのものを支える前提を構造的公準(上記の三公準がこれにあたります)、会計が社会制度として機能するために要請される前提を要請的公準と呼ぶものです。答案で必須の知識ではありませんが、「公準にも種類がある」と一言添えられると厚みが出ます。細かい分類には諸説あるので、確信が持てない分類名を無理に書く必要はありません。

三公準の相互関係 ― 一つ抜けると何が崩れるか

三公準は並列に3つ覚えるのではなく、「範囲・時間・尺度」という3軸として覚えます。会計が測定を行うには、①何を測るか(範囲)、②いつからいつまでを測るか(時間)、③何で測るか(尺度)の3つが決まっている必要があり、それぞれに対応するのが三公準です。

公準決めていることこれが無いと
企業実体測定の範囲(誰の会計か)出資者の家計と混ざり、企業の成績が測れない
継続企業測定の時間(いつを区切るか)期間損益計算ができず、減価償却も費用配分も根拠を失う
貨幣的評価測定の尺度(何で測るか)異質な資産を合算できず、貸借対照表が作れない

この表がそのまま「三公準の相互関係を説明せよ」への答案骨子になります。

会計公準と不動産鑑定評価の接点

鑑定士試験の会計学は鑑定理論との接続を意識した出題がなされることがあります。三公準は次のように鑑定評価と対応させられます。

  • 企業実体の公準 ↔ 鑑定評価における対象確定:会計が「誰の会計か」を画定するように、鑑定評価は「どの範囲の不動産を、どういう条件で評価するのか」を対象確定条件として画定します。範囲を先に決めなければ測定が始まらないという構造は共通です。
  • 継続企業の公準 ↔ 収益還元法の永続性の想定:収益還元法、とりわけ直接還元法は純収益が永続的に生じることを想定して還元します。これは継続企業の想定と同じ発想であり、逆に清算を前提とするなら評価の枠組み自体が変わります。
  • 貨幣的評価の公準 ↔ 価格の貨幣表示と名目・実質:鑑定評価も価格を貨幣額で表示します。物価変動をどう扱うか(名目値か実質値か、変動予測を利回りに織り込むか)という問題は、会計における名目貨幣資本維持の議論と同型です。

答案例:会計公準について説明せよ(約400字)

会計公準とは、企業会計が成立するための基礎的前提として承認されている仮定をいい、一般に企業実体の公準、継続企業(会計期間)の公準、貨幣的評価の公準の三つが挙げられる。企業実体の公準は、企業を出資者から独立した会計単位とみなすものであり、資本主の家計と企業会計を区分する根拠となる。継続企業の公準は、企業が半永久的に事業を継続するとの前提であり、企業の一生を人為的に区切って各期の損益を計算する期間損益計算を要請する。減価償却をはじめとする費用配分の思考は、この公準に支えられている。貨幣的評価の公準は、会計の対象を貨幣額により測定・記録するものであり、異質な資産の合算と統一的な財務報告を可能にする反面、貨幣価値の変動が捨象されるという限界を伴う。これら三公準は、それぞれ測定の範囲・時間・尺度を画定するものであって、いずれを欠いても会計の計算構造は成立しない。会計公準は会計原則および個別の会計基準の上位に位置し、これらを理論的に基礎づける役割を担う。

答案例:継続企業の公準と減価償却の関係を述べよ(約400字)

継続企業の公準とは、企業が解散・清算を予定せず、半永久的に事業活動を継続するという前提をいう。この前提の下では、企業の一生が終了するのを待って損益を計算することができないため、企業活動を人為的に一定期間に区切り、当該期間に帰属する収益と費用を対応させて期間損益を計算する必要が生じる。減価償却は、この期間損益計算の要請から導かれる手続である。すなわち、固定資産は複数期間にわたり収益の獲得に貢献するのであるから、その取得原価を取得時に一括して費用とするのではなく、収益の獲得に貢献する各期間に費用として配分することが、費用収益対応の原則に適合する。したがって減価償却の本質は、資産の価値の下落を測定することにあるのではなく、取得原価を耐用年数にわたって計画的・規則的に配分する費用配分の手続にある。仮に継続企業の公準が妥当せず、清算を前提とするのであれば、資産は処分可能価額により測定されるべきこととなり、減価償却は理論的根拠を失うこととなる。

会計公準のキーワードと間違えやすい点

必ず入れるキーワード:基礎的前提/会計単位/期間損益計算/費用配分/貨幣額による測定/上位規範/名目貨幣資本維持

間違えやすい点

よくある誤り正しい理解
会計公準を「ルール」と書く公準は証明されたルールではなく前提・仮定。「〜とみなす」「〜と仮定する」と書く
継続企業=会社が潰れないこと、と説明する倒産しないという事実の主張ではなく、測定のための想定。実際に疑義が生じれば注記等で対応する
三公準を並列に列挙して終わる範囲・時間・尺度という役割の違いと、公準どうしのつながりまで書く
貨幣的評価の限界に触れない人的資源等が計上されない、物価変動が捨象されるという限界を1文入れると差がつく
ギルマンの列挙の違いにこだわる「継続企業(会計期間)」と併記して回避する

論点2: 企業会計原則の一般原則7つ ― 意味と違反例をセットで

一般原則は、会計公準の次に位置する第2層の規範です。7つを暗唱できることは前提として、それぞれの原則に違反する具体例を1つずつ言えるかが答案の質を分けます。「原則の内容を述べよ」だけでなく「〜の処理は一般原則のいずれに違反するか」という形で問われうるためです。

7原則の一覧と違反例

一般原則内容典型的な違反例
真実性の原則企業の財政状態および経営成績に関して真実な報告を提供する粉飾決算、逆粉飾。他の6原則すべての違反は結果的に真実性違反となる
正規の簿記の原則正確な会計帳簿を作成する簿外資産・簿外負債の存在、取引の記録漏れ、証憑のない記帳
資本取引・損益取引区分の原則資本取引と損益取引を明瞭に区別し、資本剰余金と利益剰余金を混同しない株主からの払込資本を収益として計上する、資本剰余金を配当原資として利益と混同する
明瞭性の原則利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、誤解を与えないようにする重要な会計方針の注記の欠落、重要項目の一括表示による情報の埋没
継続性の原則いったん採用した会計処理の原則および手続を毎期継続して適用する正当な理由なく定額法から定率法へ変更し、利益を操作する
保守主義の原則将来の危険に備えて慎重な判断に基づく会計処理を行う過度な引当金計上による秘密積立金の形成(過度の保守主義もまた違反)
単一性の原則目的別に形式の異なる財務諸表を作成する場合も、基礎となる会計記録は単一でなければならない税務申告用と金融機関提出用で異なる帳簿を作る(二重帳簿)

論述で狙われる3つの原則の深掘り

7つのうち、単独で論述テーマになりやすいのは真実性・継続性・保守主義の3つです。

真実性の原則 ― 「相対的真実」がキーワード

真実性の原則は他の6原則を統括する最高規範です。ここで問われるのは「真実」の意味です。会計上の真実は、唯一絶対に定まる客観的事実ではありません。減価償却の方法、棚卸資産の評価方法、引当金の見積りなど、複数の会計処理が容認されており、どれを採用するかで利益額は変わります。したがって、一般に公正妥当と認められる会計処理の原則および手続に従って処理された結果としての真実、すなわち相対的真実が求められている、というのが答案の核です。「絶対的真実ではなく相対的真実である」という一文は必ず書いてください。

継続性の原則 ― 「なぜ必要か」を2つ書く

継続性の原則が要請される理由は2つです。

  1. 利益操作の排除:会計処理の変更が自由であれば、経営者は都合のよい方法を選んで利益を意図的に増減できる。
  2. 財務諸表の期間比較可能性の確保:処理方法が期ごとに変われば、期間比較によって企業の趨勢を判断することができなくなる。

そのうえで、「正当な理由」がある場合には変更が認められることを書きます。正当な理由とは、経営環境の変化や会計基準の改正など、変更に合理性が認められる場合をいい、変更したときはその旨・理由・影響額を注記します。「変更は一切許されない」と書くと誤りです。

保守主義の原則 ― 「過度は不可」を必ず添える

保守主義(安全性の原則)は、予測される将来の危険に備えて慎重な判断に基づく処理を求めるものです。収益は確実になるまで計上せず、費用・損失は発生の可能性が高まれば早期に計上する、という非対称な処理をもたらします。低価法や引当金の計上がその現れです。

答案では必ず「ただし、過度の保守主義は認められない」と書きます。過度な引当金や過小な資産計上は、企業の財政状態を実際より悪く見せる秘密積立金を生み、結果として真実性の原則に違反するからです。保守主義と真実性の緊張関係を1文で示せると、理解の深さが伝わります。

答案例:継続性の原則について述べよ(約400字)

継続性の原則とは、企業がいったん採用した会計処理の原則および手続を、毎期継続して適用し、みだりに変更してはならないとする原則をいう。この原則が要請される理由は二つある。第一に、複数の会計処理が一般に公正妥当と認められる場合、経営者が期ごとに有利な方法を選択できるとすれば、恣意的な利益操作が可能となり、財務諸表の信頼性が損なわれるからである。第二に、処理方法が期ごとに変動すれば、期間比較によって企業の経営成績の趨勢を判断することができなくなり、財務諸表の期間比較可能性が失われるからである。もっとも、継続性の原則は変更を一切禁止する趣旨ではない。経営環境の著しい変化や会計基準の改正など、変更に正当な理由が認められる場合には、より適切な会計処理へ変更することが許容される。この場合には、変更した旨、変更の理由およびその影響額を注記し、財務諸表の利用者が期間比較を行いうるようにしなければならない。以上より、継続性の原則は、利益操作の排除と期間比較可能性の確保を通じて、真実性の原則の実現に資するものである。

間違えやすい点

  • 真実性を「絶対的真実」と書くのは典型的な失点。相対的真実。
  • 継続性を「変更禁止」と書くのも誤り。正当な理由による変更は可。
  • 単一性の原則を「財務諸表は1つだけ」と誤解する。形式が複数あってもよい(形式多元)が、基礎となる会計記録は単一でなければならない(実質一元)。この「実質一元・形式多元」という表現をそのまま使うと簡潔にまとまります。
  • 明瞭性と正規の簿記を混同する。正規の簿記は記録の正確性、明瞭性は表示の分かりやすさ。記録と表示の対比で覚えます。

論点3: 発生主義・実現主義・費用収益対応の原則

期間損益計算の中核をなす3つの原則です。「収益はいつ計上するか、費用はいつ計上するか、両者をどう結びつけるか」という問いに答える論点であり、単独でも他論点の理由づけとしても頻出します。

3つの原則の役割分担

原則対象内容
発生主義費用(および収益の認識の基礎)現金収支の有無にかかわらず、経済的事実の発生に基づいて認識する
実現主義収益財貨の引渡しまたは役務の提供と、対価としての貨幣性資産の受領があった時点で収益を認識する
費用収益対応の原則費用と収益の結びつけ発生した費用のうち、当期の収益に対応する部分を当期の費用として計上する

現金主義との対比を必ず押さえます。現金主義は現金の収支に基づいて損益を認識する方法で、客観性には優れますが、信用取引や固定資産投資が一般化した現代の企業では、期間損益を適切に示せません。そこで発生主義が採用されます。ただし発生主義を収益にそのまま適用すると、未実現の収益(値上がり益など)まで計上され、処分可能性のない利益が配当されてしまうおそれがあります。そのため収益については、発生主義に実現という歯止めをかけた実現主義が採られます。この「発生主義に対する実現の歯止め」という説明が答案の肝です。

費用収益対応の原則には2種類の対応があります。

  • 個別的対応(直接対応):売上高と売上原価のように、収益と費用が個別の因果関係で結びつくもの。
  • 期間的対応(間接対応):販売費及び一般管理費や減価償却費のように、期間を媒介として結びつくもの。

収益認識に関する会計基準との関係

現行制度では、収益認識について企業会計基準「収益認識に関する会計基準」が適用され、約束した財またはサービスの支配が顧客に移転した時点で、その対価の額で収益を認識するという枠組みが採られています。適用の手順は次の5ステップです。

  1. 顧客との契約を識別する
  2. 契約における履行義務を識別する
  3. 取引価格を算定する
  4. 取引価格を履行義務に配分する
  5. 履行義務の充足により収益を認識する

答案では、伝統的な実現主義とこの基準の関係を「支配の移転」という統一的な基準によって収益認識を精緻化したものと位置づけると整理できます。細かい適用指針までは踏み込まず、5ステップと「支配の移転」というキーワードを押さえれば十分です。

答案例:実現主義が採用される理由(約400字)

期間損益計算においては、費用は発生主義により、経済的事実の発生に基づいて認識される。しかし収益についてまで発生主義を貫くとすれば、未だ販売されていない資産の価値増加、すなわち未実現の収益までもが期間損益に算入されることとなる。未実現の収益は、対価として貨幣性資産を受領しておらず、その金額の客観性および処分可能性を欠くため、これを利益に含めれば、裏づけのない利益が計上され、配当を通じて資本の払戻しが生じるおそれがある。そこで収益については、発生主義に実現という要件を加えた実現主義が採用される。実現主義とは、財貨の引渡しまたは役務の提供が完了し、その対価として現金または現金等価物たる貨幣性資産を受領した時点で収益を認識する考え方をいう。これにより、収益は客観的かつ処分可能な形で測定され、分配可能利益の算定に資することとなる。なお現行制度では、収益認識に関する会計基準により、履行義務の充足すなわち財またはサービスに対する支配の顧客への移転をもって収益を認識することとされている。

論点4: 取得原価主義と時価評価 ― 鑑定士試験らしい対立軸

資産の測定をどの基礎で行うかという論点です。不動産鑑定士試験では、会計上の測定基礎と鑑定評価の価格概念の違いに接続しうるため、対立軸を明確に書けることが求められます。

対立軸の整理

観点取得原価主義時価主義(公正価値測定)
測定基礎実際の取得に要した支出額測定日における市場での価格
長所客観性・検証可能性が高い、未実現利益を排除できる、処分可能利益を算定できる現在の経済的実態を反映、投資家の意思決定に有用、含み損益が財務諸表に表れる
短所時間の経過とともに簿価が実態から乖離、含み損益が表れない見積りに主観が介入、未実現利益の計上、価格変動により利益が不安定化
支える考え方継続企業の公準、実現主義、保守主義投資家への情報提供機能、意思決定有用性

現行の日本の会計制度は、いずれか一方を貫くのではなく、資産の性質と保有目的に応じて測定基礎を使い分ける混合測定を採っています。事業投資として保有する固定資産や棚卸資産は原則として取得原価を基礎とし、事業投資とはいえない金融資産は時価で測定する、という整理です。「なぜ有価証券は保有目的別に評価が分かれるのか」という問いには、この事業投資か金融投資かという区分で答えます。

会計の「公正価値」と鑑定評価の「正常価格」

不動産鑑定士試験ならではの論点がここです。両者は「適正な価格」を指す点で似ていますが、同一ではありません。

  • 正常価格は、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいいます。合理的な市場の条件を満たすことが前提とされ、市場参加者の合理性や相当の期間市場に公開されていることなどが要求されます。
  • 公正価値は、会計上の測定日において、市場参加者間の秩序ある取引が行われると想定した場合の、資産の売却によって受け取るであろう価格(出口価格)として定義されます。

両者の相違は、出口価格という視点の有無測定日という時点の考え方想定される市場の条件の厳格さに表れます。詳しい比較は正常価格と公正価値の違いで整理していますので、会計学と鑑定理論をまたぐ設問に備えるならあわせて読んでください。なお正常価格の成立要件そのものは正常価格の要件にまとめてあります。

答案では、「会計上の公正価値の測定において、不動産については鑑定評価が用いられる場面がある」という実務的接点まで書けると、鑑定士試験の答案として説得力が増します。


論点5: 減価償却 ― 会計の費用配分と鑑定の減価修正は別物

減価償却は計算でも理論でも問われる二刀流の論点です。そして鑑定士受験生が最も混同しやすいのが、会計の減価償却と鑑定評価の減価修正の違いです。

減価償却の意義(理論の核)

減価償却とは、有形固定資産の取得原価を、その耐用年数にわたって一定の減価償却方法により、計画的・規則的に各事業年度に配分する手続をいいます。ここで押さえるべきは次の3点です。

  1. 本質は費用配分であって、資産の価値評価ではない。市場価値が下がったから償却するのではありません。
  2. 計画的・規則的であることが要件。恣意的な償却(利益が出た年に多く償却する等)は認められません。
  3. 自己金融効果を持つ。減価償却費は現金支出を伴わない費用であるため、その分だけ資金が企業内に留保されます。

定額法と定率法

$$\text{定額法の償却額} = \frac{\text{取得原価} - \text{残存価額}}{\text{耐用年数}}$$
$$\text{定率法の償却額} = (\text{取得原価} - \text{減価償却累計額}) \times \text{償却率}$$
方法費用配分パターン理論的根拠
定額法毎期同額各期の用役提供が均等であるとみる
定率法初期に多く、後期に少ない初期ほど用役提供能力が高い。修繕費の増加と合算すると期間費用が平準化する
生産高比例法利用度に比例用役の提供が利用量に比例する資産(鉱業用資産、航空機等)に適合

計算例:定額法と200%定率法

取得原価30,000千円、耐用年数10年、残存価額ゼロの機械を期首に取得した場合を考えます。

定額法

$$\frac{30{,}000}{10} = 3{,}000 \text{千円/年}$$

毎期3,000千円を償却し、10年で簿価ゼロになります。

200%定率法(償却率0.200=$\frac{1}{10} \times 2.0$

年度期首簿価償却額期末簿価
1年目30,0006,00024,000
2年目24,0004,80019,200
3年目19,2003,84015,360
4年目15,3603,07212,288
5年目12,2882,4589,830

定率法では初年度の償却額が定額法の2倍になります。なお税法上の200%定率法では、通常の計算による償却額が償却保証額を下回った年度以降、改定取得価額に改定償却率を乗じた額を毎期均等に償却して簿価をゼロに導く仕組みが採られます。本試験では償却率・改定償却率・保証率は与えられるので、与えられた率をどこに掛けるかだけ正確に処理できれば足ります。仕訳としての処理は会計学の仕訳問題、計算問題としての反復は会計学の演習問題10選を使ってください。

減価償却と減価修正の決定的な違い

鑑定評価基準は、原価法における減価修正について次のように定めています。

減価修正の目的は、減価の要因に基づき発生した減価額を対象不動産の再調達原価から控除して価格時点における対象不動産の適正な積算価格を求めることである。減価修正を行うに当たっては、減価の要因に着目して対象不動産を部分的かつ総合的に分析検討し、減価額を求めなければならない。― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

そして減価額を求める方法については、次のように定められています。

減価額を求めるには、次の二つの方法があり、これらを併用するものとする。― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

ここでいう二つの方法とは、経過年数と経済的残存耐用年数の和として把握される耐用年数を基礎とする耐用年数に基づく方法と、各減価の要因の実態を調査して減価額を直接求める観察減価法です。この「併用するものとする」という定めに、両者の違いが端的に表れています。

観点会計の減価償却鑑定評価の減価修正
目的取得原価の期間配分(費用の計算)価格時点における適正な積算価格の算定(価格の計算)
出発点取得原価(実際の支出額)再調達原価(価格時点で新たに造る場合の原価)
減価の把握耐用年数に基づく規則的配分のみ耐用年数に基づく方法と観察減価法を併用
考慮する要因物理的な使用・時の経過を耐用年数に織り込む物理的要因・機能的要因・経済的要因の3要因
経済的陳腐化原則として反映されない(減損会計が別途対応)経済的要因として明示的に減価に反映される
年数の考え方法定耐用年数等による経過年数と経済的残存耐用年数の和を耐用年数とする

答案で書くべき核心は、会計は「費用をいくら計上するか」を決める手続、鑑定は「価格がいくらか」を決める手続という目的の違いです。この目的の違いから、鑑定では観察減価法を併用して個別の実態を織り込み、経済的要因まで減価に取り込む必要が生じます。減価修正の詳細は減価修正の2つの方法にまとめています。


論点6: 減損会計 ― 会計学と鑑定理論が直結する最重要論点

鑑定士試験の会計学で最も重要な論点です。理由は明快で、減損会計の使用価値は、将来キャッシュ・フローの割引現在価値であり、鑑定理論のDCF法とまったく同じ構造をしているからです。会計学と鑑定理論の両方で得点に直結するため、ここは時間を投じる価値があります。

減損会計の目的

固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態をいい、減損処理とは、そのような場合に、一定の条件のもとで回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理をいいます。

ここで書くべき理由づけは次の2点です。

  1. 取得原価基準の下では、収益性が低下しても簿価が据え置かれ、回収可能性を超える金額が資産として繰り越されてしまう。これは将来に損失を先送りすることを意味する。
  2. したがって減損処理は、取得原価基準の下での帳簿価額の修正であり、時価評価を導入したものではない。

「減損会計は時価評価ではない」という一文は、答案で非常に効きます。あくまで取得原価主義の枠内で、回収可能性の見地から簿価を切り下げる処理だからです。

3ステップの手順

減損会計は、兆候→認識→測定の3段階で進みます。ここは順番と判定基準を正確に。

ステップ内容判定基準
① 兆候の把握減損の兆候があるかを判断営業損益・営業CFの継続的なマイナス、事業の廃止・再編、経営環境の著しい悪化、市場価格の著しい下落など
② 減損損失の認識兆候がある資産(グループ)について、認識すべきか判定割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合に認識する
③ 減損損失の測定帳簿価額を回収可能価額まで減額回収可能価額=正味売却価額と使用価値のいずれか高い方

用語の定義も正確に押さえます。

  • 正味売却価額:資産または資産グループの時価から処分費用見込額を控除して算定される額。
  • 使用価値:資産または資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値。

なぜ「割引前」で認識し、「割引後」で測定するのか

減損会計の論述で最も頻繁に問われるのがこの点です。答案の骨子は次のとおりです。

  • 認識の段階で割引前を用いる理由:減損の存在が相当程度確実な場合に限って減損損失を認識するためです。割引後の金額で判定すれば、時間価値の分だけ簿価を下回りやすくなり、収益性が実際には低下していない資産にまで減損処理が及びかねません。割引前という厳しめのハードルを置くことで、減損処理の頻度を抑え、経営者の恣意の介入も抑制されます。
  • 測定の段階で割引後を用いる理由:実際に減額する金額は、その資産から回収できる金額でなければなりません。将来の回収額は時間価値を考慮した現在価値で評価するのが合理的であり、また処分による回収(正味売却価額)と使用による回収(使用価値)のうち、企業はより有利な方を選択できるため、両者の高い方をもって回収可能価額とします。

この「認識は慎重に、測定は経済実態で」という対比を1文で示せると、答案の質が一段上がります。

資産のグルーピングと戻入れ

  • グルーピング:減損は、他の資産または資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位でグルーピングして判定します。個別の機械1台ではなく、店舗や事業単位で判定するのが通常です。
  • 共用資産・のれん:複数の資産グループに共通して使用される本社建物等の共用資産や、のれんについては、より大きな単位でグルーピングして判定する方法などが定められています。
  • 戻入れ:日本基準では、減損損失の戻入れは行いません。事務的負担と、減損の目的が「回収可能性を反映した簿価の切下げ」にあることを理由とします。国際的な会計基準では戻入れを求めるものがあり、この違いは対比として問われうるポイントです。

計算例:減損損失の算定

ある事業用資産グループについて、次の資料があるとします(単位:百万円)。

項目金額
帳簿価額(土地600、建物400)1,000
割引前将来キャッシュ・フロー(今後5年間、各年150)750
5年経過後の処分による収入(割引前)200
資産の時価850
処分費用見込額30
割引率年5%

ステップ②:認識の判定

$$\text{割引前将来CFの総額} = 150 \times 5 + 200 = 950$$

950百万円 < 帳簿価額1,000百万円 → 減損損失を認識する

ステップ③:測定

使用価値を求めます。年金現価係数(5年・5%)は約4.3295、複利現価係数(5年・5%)は約0.7835です。

$$\text{使用価値} = 150 \times 4.3295 + 200 \times 0.7835 \fallingdotseq 649.4 + 156.7 = 806.1$$

正味売却価額を求めます。

$$\text{正味売却価額} = 850 - 30 = 820$$

回収可能価額は、いずれか高い方なので820百万円。

$$\text{減損損失} = 1{,}000 - 820 = 180 \text{百万円}$$

仕訳

借方に減損損失180、貸方に土地・建物(帳簿価額の比率などの合理的な基準で配分)180を計上します。

使用価値と収益還元法・DCF法の対応

ここが鑑定士試験ならではの深掘りポイントです。減損会計の使用価値は、将来キャッシュ・フローの現在価値として算定されます。一方、鑑定評価基準は収益還元法を次のように定義しています。

収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を収益価格という。)。― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

さらにDCF法については次のとおりです。

収益価格を求める方法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法(以下「直接還元法」という。)と、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法(Discounted Cash Flow法(以下「DCF法」という。))がある。― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

構造を並べると対応が一目で分かります。

減損会計(使用価値)鑑定評価(DCF法)
継続的使用から生ずる将来キャッシュ・フロー保有期間中の各期の純収益
使用後の処分から生ずるキャッシュ・フロー復帰価格(保有期間満了時点の価格)
割引率割引率
現在価値の合計=使用価値現在価値の合計=収益価格
$$\text{使用価値} = \sum_{k=1}^{n} \frac{CF_k}{(1+r)^k} + \frac{\text{処分収入}}{(1+r)^n}$$
$$\text{DCF法の収益価格} = \sum_{k=1}^{n} \frac{a_k}{(1+Y)^k} + \frac{P_R}{(1+Y)^n}$$

数式としては同型です。ただし、両者は目的も前提も異なります

観点減損会計の使用価値鑑定評価の収益価格
前提とする主体当該企業による継続使用(企業固有の価値)市場参加者の想定(市場価値)
キャッシュ・フロー企業の事業計画に基づく将来CF市場の標準的な賃料・費用に基づく純収益
目的帳簿価額の切下げ額の算定適正な価格の判定
位置づけ会計上の測定値鑑定評価による試算価格

「同じ割引現在価値でも、企業固有の価値か市場価値かが違う」——この一文を書ければ、会計学と鑑定理論をまたぐ設問で確実に差がつきます。DCF法そのものの仕組みはDCF法の仕組み、収益還元法の全体像は収益還元法を参照してください。

答案例:減損会計の意義と手順(約400字)

固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態をいい、減損処理は、そのような場合に回収可能性を反映させるよう帳簿価額を減額する会計処理をいう。取得原価基準の下では、収益性が低下しても取得原価を基礎とした帳簿価額が繰り越されるため、回収可能性を超える金額が資産として計上され、損失が将来に繰り延べられる。減損処理はこれを是正するものであり、時価評価を導入するものではなく、取得原価基準の下での帳簿価額の修正と位置づけられる。手続は三段階からなる。第一に減損の兆候の有無を判断し、第二に兆候がある資産グループについて、割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合に減損損失を認識する。第三に、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減額分を減損損失として計上する。回収可能価額とは、正味売却価額と使用価値のいずれか高い方をいう。認識に割引前の金額を用いるのは、減損の存在が相当程度確実な場合に限って認識し、測定の恣意性を抑制する趣旨である。

間違えやすい点

  • 認識と測定で使う金額を取り違える。認識=割引前、測定=割引後(現在価値)。ここを逆に書くと大きな失点です。
  • 回収可能価額を「いずれか低い方」と書く。正しくは高い方。企業は有利な方法で回収できるからです。
  • 「減損は時価評価である」と書く。取得原価基準の枠内の処理です。
  • 戻入れができると書く。日本基準では戻入れを行いません。
  • 兆候の段階で減損損失を計上してしまう。兆候はあくまで判定の入口です。

論点7: 資産除去債務・リース会計・棚卸資産の評価

いずれも「経済的実質を財務諸表に反映させる」という共通の思想を持つ論点です。まとめて理解すると効率的です。

資産除去債務

資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるものをいいます。定期借地上の建物の解体撤去義務、アスベスト除去義務などが典型です。

会計処理の骨格は次のとおりです。

  1. 発生時に、除去に要する割引前将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)で負債を計上する。
  2. 同額を関連する有形固定資産の帳簿価額に加算する(資産・負債の両建処理)。
  3. 資産計上額は、減価償却を通じて耐用年数にわたり費用配分する。
  4. 時の経過による割引額の増加(利息費用)は、発生時の費用として処理し、減価償却費と同じ区分に計上する。

理論的根拠として、将来において確実に発生する除去費用を、資産の使用期間にわたって費用配分することが費用収益対応の原則に適合すること、また債務としての性格を有する以上、負債として認識することが情報の有用性に資することを書きます。

不動産との接点も大きい論点です。定期借地権付き建物の評価では、期間満了時の建物解体費用を織り込む必要があり、会計上の資産除去債務と同じ経済的事象を扱っています。

リース会計

リース取引の会計処理は、法形式ではなく経済的実質を重視するという考え方の代表例です。ファイナンス・リース取引は、法形式は賃貸借であっても、経済的実質は売買と同視できるため、借手は資産と負債を計上(オンバランス)します。

伝統的な区分は次のとおりです。

区分判定の考え方借手の処理
ファイナンス・リース解約不能(ノンキャンセラブル)かつフルペイアウト売買処理(リース資産・リース債務を計上)
オペレーティング・リース上記以外賃貸借処理(支払リース料を費用計上)

フルペイアウトの判定には、リース料総額の現在価値が見積現金購入価額のおおむね90%以上であること(現在価値基準)、解約不能期間が経済的耐用年数のおおむね75%以上であること(経済的耐用年数基準)という数値基準が用いられてきました。ファイナンス・リースはさらに、所有権移転か所有権移転外かで償却方法(耐用年数と残存価額の扱い)が変わります。

なお、リース会計は国際的な動向を踏まえた見直しが行われており、借手についてはリースの区分によらず使用権資産とリース負債を計上する方向へ移行することとされています。適用時期が絡む論点なので、答案では「基準の改正により、借手はリースを原則としてオンバランスする方向にある」という程度に留め、細かい適用時期や経過措置には踏み込まないのが安全です。ここは前述の「確信が持てない細目は書かない」の典型例です。

理論として問われるのは、なぜファイナンス・リースを資産計上するのかです。答案の核は「リース物件から生ずる経済的利益を実質的に享受し、その使用に伴うコストを実質的に負担している以上、法形式が賃貸借であっても、経済的実質に即して資産・負債として認識すべきである」という実質優先思考(substance over form)です。

棚卸資産の評価

棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とすることを原則としつつ、期末における正味売却価額が取得原価より下落している場合には、正味売却価額をもって貸借対照表価額とし、差額を当期の費用として処理します。

ここでの答案ポイントは、これが「低価法」という選択適用の評価方法ではなく、収益性の低下に基づく簿価切下げとして位置づけられているという点です。すなわち、取得原価基準の下でも、投資額の回収が見込めなくなった場合には帳簿価額を切り下げるという考え方であり、固定資産の減損会計と同じ思想に立っています。両者を「収益性低下に基づく簿価の切下げ」という共通軸で結びつけて説明できると、答案が構造的になります。

払出単価の計算方法としては、個別法、先入先出法、平均原価法(総平均法・移動平均法)、売価還元法があります。後入先出法は現行制度では認められていません。理由は、期末在庫が古い取得原価のまま滞留し、実際の物の流れとも乖離するため、財務諸表の有用性を損なうと考えられたことにあります。


論点8: 財務諸表の体系 ― 表示の枠組みを押さえる

理論問題では「◯◯はどの財務諸表のどの区分に表示されるか」という形で問われます。体系を先に押さえておけば、個別論点の学習効率が上がります。

財務諸表の種類

財務諸表示すもの
貸借対照表(B/S)一定時点の財政状態(ストック)
損益計算書(P/L)一定期間の経営成績(フロー)
キャッシュ・フロー計算書(C/F)一定期間の資金の増減
株主資本等変動計算書純資産の変動内訳
附属明細表・注記補足情報

貸借対照表の構造

資産・負債・純資産の3区分からなり、資産と負債は流動・固定に分類されます。分類基準は次の2つです。

  • 正常営業循環基準:企業の主目的たる営業取引から生じた資産・負債は、期間の長短にかかわらず流動項目とする。
  • 一年基準(ワン・イヤー・ルール):正常営業循環に含まれないものは、決算日の翌日から起算して1年以内に決済期限が到来するかで流動・固定を分ける。

正常営業循環基準が先に適用され、それに該当しないものに一年基準が適用されるという順序が問われます。

純資産の部は、株主資本(資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式)と、株主資本以外の項目(その他の包括利益累計額、新株予約権、非支配株主持分)に区分されます。

損益計算書の構造

段階的に利益を計算する区分損益計算が特徴です。

利益計算意味
売上総利益売上高 − 売上原価商品・製品そのものの収益力
営業利益売上総利益 − 販売費及び一般管理費本業の収益力
経常利益営業利益 + 営業外収益 − 営業外費用財務活動を含む経常的な収益力
税引前当期純利益経常利益 + 特別利益 − 特別損失臨時的損益を含めた期間の成果
当期純利益税引前当期純利益 − 法人税等(税効果調整後)株主に帰属する最終的な成果

減損損失は原則として特別損失に計上される点は、減損会計とあわせて押さえてください。

包括利益は、当期純利益にその他の包括利益(その他有価証券評価差額金の当期変動額、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定等)を加えたものです。当期純利益と包括利益の関係を「リサイクリングを通じて結びつけられる」と説明できると理解が深いと伝わります。

キャッシュ・フロー計算書の3区分

区分内容見方
営業活動によるCF本業から生み出した資金プラスが継続していることが健全性の基本
投資活動によるCF固定資産・有価証券の取得売却成長企業では通常マイナス
財務活動によるCF借入・返済、増資、配当資金調達と分配の状況

営業活動によるCFの表示方法には、主要な取引ごとに総額表示する直接法と、税引前当期純利益に非資金損益項目等を加減して表示する間接法があります。間接法が実務上多く用いられるのは、損益計算書の利益とキャッシュ・フローの関係が明示され、作成負担も小さいためです。

フリー・キャッシュ・フローは、一般に営業活動によるCFと投資活動によるCFの合計として捉えられ、企業が自由に使える資金を示します。不動産投資分析でも同じ発想が用いられます。


論点9: 財務諸表分析 ― 指標は「式・意味・鑑定との接点」で覚える

指標を丸暗記しても答案では使えません。式・何を測っているか・数値が悪いとどう解釈するかの3点セットで覚えます。

収益性の指標

指標意味
売上高総利益率$\dfrac{\text{売上総利益}}{\text{売上高}}$商品・製品の基礎的な収益力
売上高営業利益率$\dfrac{\text{営業利益}}{\text{売上高}}$本業の収益力
総資産利益率(ROA)$\dfrac{\text{利益}}{\text{総資産}}$投下された総資本の運用効率
自己資本利益率(ROE)$\dfrac{\text{当期純利益}}{\text{自己資本}}$株主資本の収益力

ROEはデュポン分解によって3要素に分解できます。この分解は論述でも使えます。

$$ROE = \frac{\text{当期純利益}}{\text{売上高}} \times \frac{\text{売上高}}{\text{総資産}} \times \frac{\text{総資産}}{\text{自己資本}}$$

すなわち売上高当期純利益率(収益性)×総資産回転率(効率性)×財務レバレッジ(資本構成)です。ROEが高い理由が収益性なのか、回転率なのか、単に借入を増やしただけなのかを判別できる点が、この分解の価値です。

安全性の指標

指標判断の目安
流動比率$\dfrac{\text{流動資産}}{\text{流動負債}}$高いほど短期の支払能力が高い
当座比率$\dfrac{\text{当座資産}}{\text{流動負債}}$棚卸資産を除くため、より厳格な短期支払能力
自己資本比率$\dfrac{\text{自己資本}}{\text{総資産}}$高いほど財務基盤が安定
固定比率$\dfrac{\text{固定資産}}{\text{自己資本}}$固定資産を自己資本でどれだけ賄えているか
固定長期適合率$\dfrac{\text{固定資産}}{\text{自己資本}+\text{固定負債}}$長期資金による固定資産の調達状況

効率性の指標

指標意味
総資産回転率$\dfrac{\text{売上高}}{\text{総資産}}$総資産がどれだけ売上を生んだか(回)
売上債権回転期間$\dfrac{\text{売上債権}}{\text{売上高}} \times 12$代金回収までの月数
棚卸資産回転期間$\dfrac{\text{棚卸資産}}{\text{売上原価}} \times 12$在庫の滞留月数

計算例:一組の財務データから主要指標を出す

次の資料(単位:百万円)から指標を計算します。

項目金額項目金額
売上高5,000総資産4,000
営業利益400自己資本1,600
経常利益350流動資産1,200
当期純利益240流動負債800
$$\text{売上高営業利益率} = \frac{400}{5{,}000} = 8.0\%$$
$$ROA(\text{経常利益ベース}) = \frac{350}{4{,}000} = 8.75\%$$
$$ROE = \frac{240}{1{,}600} = 15.0\%$$
$$\text{自己資本比率} = \frac{1{,}600}{4{,}000} = 40.0\%$$
$$\text{流動比率} = \frac{1{,}200}{800} = 150.0\%$$
$$\text{総資産回転率} = \frac{5{,}000}{4{,}000} = 1.25 \text{回}$$

デュポン分解で検算します。売上高当期純利益率は$240 \div 5{,}000 = 4.8\%$、総資産回転率1.25回、財務レバレッジは$4{,}000 \div 1{,}600 = 2.5$倍。

$$4.8\% \times 1.25 \times 2.5 = 15.0\%$$

ROEと一致しました。検算できる分解を1つ持っておくと、計算ミスに気づけます。

鑑定実務との接点

財務諸表分析は、鑑定評価の実務でも次の場面で使われます。

  • 賃借人の信用力評価:賃貸用不動産の純収益の安定性は、テナントの支払能力に左右されます。自己資本比率や営業CFの動向は、賃料の継続性を判断する材料になります。
  • 事業用不動産の収益分析:ホテル・商業施設等は売上高に基づいて純収益を把握する場合があり、損益計算書の構造理解がそのまま必要になります。純収益の考え方は純収益とはにまとめています。
  • 投資判断指標との対応:不動産投資におけるNOI利回りやDSCR、LTVは、企業財務における収益性・安全性の指標と発想が共通しています。

財務諸表そのものの読み方をより深く整理したい場合は会計学の財務諸表分析を参照してください。


論点10: 連結会計と税効果会計の基礎

いずれも深入りすると際限がない論点なので、基礎概念と理由づけだけを確実に押さえます。

連結会計の基礎

連結財務諸表は、支配従属関係にある2つ以上の企業からなる企業集団を単一の組織体とみなして作成する財務諸表です。企業実体の公準を、法的実体ではなく経済的実体に適用したものと位置づけられます。

  • 連結の範囲:他の企業の意思決定機関を支配しているかどうかで判定する支配力基準によります。議決権の過半数所有だけで判定する持株基準ではありません。
  • のれん:投資と資本の相殺消去にあたり生じた差額。日本基準では、20年以内の合理的な期間で定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します(国際的な会計基準では非償却で減損テストを行うものがあり、対比として問われます)。
  • 非支配株主持分:親会社以外の株主に帰属する子会社の資本部分。純資産の部に表示されます。
  • 未実現利益の消去:企業集団内部の取引から生じた未実現利益は消去します。親会社から子会社への販売(ダウンストリーム)では全額を親会社が負担し、子会社から親会社への販売(アップストリーム)では全額消去したうえで、非支配株主持分にも按分負担させます。
  • 持分法:非連結子会社・関連会社に適用する、投資勘定を一行で修正していく方法。「一行連結」とも呼ばれます。

答案の核となる理由づけは、「法的に別会社であっても、経済的に一体として運営される企業集団の実態を示さなければ、投資者の意思決定に有用な情報とはならない」という点です。

税効果会計の基礎

税効果会計とは、企業会計上の資産・負債の額と課税所得計算上の資産・負債の額に相違がある場合において、法人税等の額を適切に期間配分することにより、税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させる手続をいいます。

  • 一時差異:会計と税務の差異のうち、将来解消するもの。将来減算一時差異(貸倒引当金の損金算入限度超過額、減価償却の限度超過額など)からは繰延税金資産が、将来加算一時差異(その他有価証券評価差額金のうち評価益部分など)からは繰延税金負債が生じます。
  • 永久差異:交際費の損金不算入額、受取配当金の益金不算入額など、将来にわたって解消しないもの。税効果会計の対象になりません。
  • 繰延税金資産の回収可能性:将来の課税所得の見込みなどに基づき判断し、回収が見込めない部分は計上できません。将来の税負担を軽減する効果が実際に得られる見込みがなければ、資産としての性格を欠くからです。

計算は「一時差異 × 法定実効税率」で税効果額を求めるだけなので、差異が一時差異か永久差異かの判別さえできれば得点できます。

$$\text{繰延税金資産} = \text{将来減算一時差異} \times \text{法定実効税率}$$

計算が問われる場合の頻出パターン

理論中心とはいえ、計算が出れば確実に取りたいところです。頻出は次の3系統に集約されます。

パターン出題形式押さえどころ
減価償却定額法・定率法の償却額、期中取得の月割計算期中取得は月割。定率法は期首簿価に率を掛ける
減損認識判定+回収可能価額の算定認識は割引前、測定は高い方。係数の使い分け
財務指標与えられたB/S・P/Lから指標算定分母が「総資産」か「自己資本」かを取り違えない

補足として、有価証券の期末評価(売買目的=評価差額を損益、その他有価証券=評価差額を純資産直入)、償却原価法(取得差額を償還までの期間で配分)、引当金の設定(貸倒実績率法)あたりが続きます。この層は会計学の演習問題10選で手を動かすのが最短です。

計算問題での失点防止

  • 期中取得は月割。「×1年10月1日取得、決算日3月31日」なら6ヶ月分。ここを年額で書く事故が非常に多いです。
  • 単位を最後まで揃える。千円と百万円の混在は致命的です。問題文の単位に答案も合わせます。
  • 係数は与えられたものを使う。自分で$(1+r)^{-n}$を計算し直すと時間を失います。
  • 計算過程を必ず書く。答えが違っても過程が正しければ部分点が入ります。
  • 端数処理の指示を読む。「円未満四捨五入」「小数第2位まで」の指示に従わないだけで減点されます。

計算のスピードそのものを鍛えるなら、演習の計算スピードの考え方が会計学にもそのまま応用できます。


学習の順序と時間配分

会計学は「やみくもに全部やる」と沈みます。次の順序が最も費用対効果が高い順です。

優先度論点理由
S会計公準・一般原則出題可能性が高く、覚える量が少なく、答案が型で書ける
S減損会計出題頻度が高く、鑑定理論とも接続する。理論・計算の両方で使える
A減価償却/取得原価主義と時価評価理論と計算の両面。鑑定の減価修正との対比も問われうる
A発生主義・実現主義・費用収益対応他の論点の理由づけに繰り返し使える
B財務諸表の体系/財務諸表分析表示区分と主要指標だけで足りる
B税効果・リース・資産除去債務・棚卸資産基礎概念と理由づけを1つずつ
C連結会計基礎概念(支配力基準・のれん・非支配株主持分)まで
C原価計算出れば取る。基本パターンのみ

時間配分の目安

会計学は教養科目のなかでも投下時間を絞りやすい科目です。鑑定理論に時間を割くべきことは論を俟たないので、会計学は「短時間で安定した点を取る」設計にします。

時期やること目安時間
基礎期(3〜4ヶ月)S・Aランク論点の定義暗記と答案例の書き写し週3〜5時間
応用期(2〜3ヶ月)B・Cランクへ拡張、計算パターンの反復週3〜5時間
直前期(1〜2ヶ月)答案例の再現、過去問形式の演習、計算のミス潰し週2〜4時間

具体的な学習ステップとスケジュール設計は会計学の勉強法が詳しいので、そちらとあわせて計画を立ててください。同じ教養科目の経済学の要点民法の重要論点と並べて、3科目の時間配分を先に決めておくのが安全です。

答案例の「書き写し→再現」サイクル

本記事の答案例の使い方を具体的に示します。

  1. 1周目:書き写す。答案例を見ながら手で書く。定型句のリズムを手に覚えさせる。
  2. 2周目:骨子だけ見て書く。「定義→根拠→処理→理由づけ」の4語だけを見て、400字を再現する。
  3. 3周目:問いだけ見て書く。設問文だけを見て、10分で400字を書く。時間を計る。
  4. 4周目以降:削る・足す。同じ論点を200字版と600字版で書き分ける。

3周目まで到達した論点は、本試験で確実に書けます。S・Aランクの論点だけでも3周目まで持っていけば、会計学は安定します。


答案でやりがちな失点パターン

最後に、会計学の答案で頻発する失点を潰しておきます。

失点パターン何が起きているか対策
定義を書かずに説明を始める採点者が「定義を知らない」と判断する何を問われても第1文は定義から
用語を言い換えてしまう「回収可能価額」を「回収できる金額」等と書き、キーワードが拾われない基準の用語をそのまま使う
理由づけがない処理の説明だけで終わり、上位の論点まで戻らない最後の1文を必ず「〜の趣旨による」で締める
対比を書かない「AとBの違いを述べよ」に対しAとBを別々に説明して終わる違いの軸を先に宣言してから対比する
曖昧な基準番号を書く番号を誤り、印象を悪くする迷ったら名称で書く
時間切れで最後の小問が白紙前半に書きすぎている各小問に時間の上限を設定し、超えたら次へ
計算過程を消す部分点が入らない過程は残す。誤りに気づいたら二重線で訂正し、正しい過程を併記

とりわけ「用語をそのまま使う」は効果が大きい対策です。会計学の採点は、定義とキーワードの拾い上げが基礎になります。自分の言葉で言い換えるのは、キーワードを正確に書いたあとに行うべきことです。

今日から演習で仕上げる

鑑定士試験ブートラボでは、短答式の過去問を1問単位で解ける肢別演習、鑑定評価基準のビューア、論証の想起に使える論証カード、分野別の正答率にもとづく弱点の可視化を提供しています。本記事の「答案の型」は、会計学だけでなく鑑定理論の論述にもそのまま応用できます。まずは減損会計と接続する収益還元法の条文を基準ビューアで確認し、論証カードで想起の練習に移してみてください。


まとめ

不動産鑑定士試験の会計学は、範囲を絞り、論点ごとに「答案の型」を持てば、短い学習時間でも安定した得点源になります。本記事の要点を再掲します。

  • 会計学の答案はすべて4ステップで書ける。定義→根拠→処理→理由づけ。冒頭に定義を置くことが最大の失点防止策になる。
  • 会計公準は最優先論点。企業実体・継続企業(会計期間)・貨幣的評価の三公準を、範囲・時間・尺度という3軸で理解する。ギルマンの三公準として紹介される整理は真ん中が「会計期間」になることがあるが、継続企業が原因・会計期間が結果という関係なので、「継続企業(会計期間)」と併記すれば両方に対応できる
  • 公準・原則・基準・手続の4層構造を1行の図として書けるようにする。「◯◯の理論的根拠を述べよ」には、必ず上の層を指し示す。
  • 企業会計原則の一般原則7つは、意味と違反例をセットで覚える。真実性=相対的真実、継続性=利益操作の排除と期間比較可能性、保守主義=過度は不可。
  • 減損会計は最重要。兆候→認識(割引前)→測定(回収可能価額=正味売却価額と使用価値の高い方)。減損は時価評価ではなく、取得原価基準の下での帳簿価額の修正である。
  • 使用価値とDCF法は数式としては同型だが、前者は企業固有の価値、後者は市場価値を求めるもの。この違いを1文で書けると、会計学と鑑定理論をまたぐ設問で差がつく。
  • 会計の減価償却と鑑定の減価修正は目的が違う。前者は費用配分、後者は積算価格の算定。だから鑑定では観察減価法を併用し、経済的要因まで減価に取り込む。
  • 答案例は3周目(設問文だけで再現)まで持っていく。S・Aランク論点だけでも到達すれば、会計学は崩れない。

会計学は、鑑定理論に投下すべき時間を奪わずに得点を作れる科目です。まずは会計公準と減損会計の答案例を手で書き写すところから始めてください。関連記事として、出題範囲の全体像は会計学の重要論点、学習手順は会計学の勉強法、会計と鑑定の価格概念の違いは正常価格と公正価値の違いをあわせてご覧ください。

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