不動産鑑定における賃料増減額請求と鑑定評価
借地借家法第11条(地代)・第32条(家賃)に基づく賃料増減額請求と鑑定評価の関係を解説。請求の要件(公課の増減・地価変動等)、価格時点の設定方法、直近合意時点の重要性、継続賃料の4手法、裁判における暫定賃料の取扱いを整理。
賃料増減額請求とは
賃料増減額請求とは、借地借家法に基づき、地代又は家賃が不相当となった場合に、当事者が相手方に対して賃料の増額又は減額を請求することをいいます。
不動産鑑定評価は、賃料増減額請求において適正な賃料水準を判断するための重要な根拠資料として活用されます。
借地借家法の規定
地代の増減額請求(第11条第1項)
借地借家法第11条第1項は、地代について以下の場合に増減額請求ができることを規定しています。
| 請求の根拠 | 内容 |
|---|---|
| 土地に対する租税その他の公課の増減 | 固定資産税・都市計画税の変動 |
| 土地の価格の上昇又は低下 | 地価変動 |
| 近傍類似の土地の地代等に比較して不相当 | 周辺の地代水準との比較 |
ただし、一定の期間地代を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従います。
家賃の増減額請求(第32条第1項)
借地借家法第32条第1項は、家賃について以下の場合に増減額請求ができることを規定しています。
| 請求の根拠 | 内容 |
|---|---|
| 建物に対する租税その他の公課の増減 | 固定資産税等の変動 |
| 土地又は建物の価格の上昇又は低下 | 不動産価格の変動 |
| 近傍同種の建物の家賃に比較して不相当 | 周辺の家賃水準との比較 |
| その他の経済事情の変動 | 物価変動等 |
鑑定評価における継続賃料
継続賃料の位置づけ
賃料増減額請求における適正な賃料水準は、継続賃料として鑑定評価により求めます。継続賃料の特殊性を踏まえ、新規賃料とは異なるアプローチが必要です。
継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合の鑑定評価額は、差額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料及び比準賃料を関連づけて決定するものとする。
― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節
継続賃料の4手法
| 手法 | 概要 |
|---|---|
| 差額配分法 | 新規賃料と現行賃料の差額を適切に配分 |
| 利回り法 | 基礎価格に継続賃料利回りを乗じ、必要諸経費を加算 |
| スライド法 | 直近合意時点の純賃料に変動率を乗じ、必要諸経費を加算 |
| 賃貸事例比較法 | 継続中の賃貸借の事例から比準 |
価格時点の設定
賃料改定の基準日
賃料増減額請求における価格時点は、賃料増減請求に係る賃料改定の基準日となります。
借地借家法第11条第1項又は第32条第1項に基づき賃料の増減が請求される場合における価格時点は、賃料増減請求に係る賃料改定の基準日となることに留意する必要がある。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第2節(留意事項)
| 場面 | 価格時点 |
|---|---|
| 増額請求 | 増額を請求した日(意思表示の到達日) |
| 減額請求 | 減額を請求した日(意思表示の到達日) |
| 契約で定めた改定日 | 契約で定められた賃料改定の基準日 |
直近合意時点の重要性
直近合意時点とは
直近合意時点とは、現行の賃料水準が合意された時点のことです。継続賃料の評価においては、直近合意時点から価格時点までの期間における要因変動が分析の中心となります。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 直近合意時点 | 現行賃料が合意された時点 |
| 価格時点 | 賃料改定の基準日 |
| 分析期間 | 直近合意時点 → 価格時点の間の変動 |
考慮すべき事項
直近合意時点から価格時点までの期間を中心に、以下の事項を総合的に勘案します。
- 近隣地域等における賃料の推移及び改定の程度
- 土地・建物価格の推移
- 賃料に占める純賃料の推移
- 底地に対する利回りの推移
- 公租公課の推移
- 新規賃料と現行賃料の乖離の程度
- 契約の内容及びそれに関する経緯
- 契約上の経過期間
- 賃料改定の経緯
裁判における鑑定評価の役割
鑑定評価の位置づけ
賃料増減額請求に関する裁判において、不動産鑑定評価書は適正な賃料水準を示す重要な証拠資料として提出されます。
| 場面 | 鑑定評価の役割 |
|---|---|
| 調停 | 当事者双方が鑑定評価書を提出し、調停の参考とする |
| 訴訟 | 裁判所が鑑定人を選任し、鑑定を嘱託することがある |
| 裁判所鑑定 | 裁判所が選任した鑑定人による鑑定評価 |
複数の鑑定評価書がある場合
賃料増減額請求の裁判では、原告側・被告側からそれぞれ異なる鑑定評価書が提出されることがあります。裁判所は、これらの鑑定評価書の内容を検討し、適正と考える賃料水準を判断します。
暫定賃料の取扱い
増額請求の場合
借地借家法は、賃料増額請求があった場合の暫定的な取扱いを規定しています。
| 段階 | 取扱い |
|---|---|
| 請求から判決確定まで | 賃借人は相当と認める額の賃料を支払えばよい |
| 判決確定後 | 判決で定められた額との差額に年1割の利息を付して支払う |
減額請求の場合
| 段階 | 取扱い |
|---|---|
| 請求から判決確定まで | 賃貸人は相当と認める額の賃料を請求できる |
| 判決確定後 | 受領した額と判決で定められた額との差額に年1割の利息を付して返還する |
試験での出題ポイント
短答式試験
| 出題パターン | 正しい理解 |
|---|---|
| 地代の増減額請求の根拠 | 公課の増減、地価の変動、近傍類似地の地代との比較 |
| 家賃の増減額請求の根拠 | 公課の増減、不動産価格の変動、近傍同種建物の家賃との比較、経済事情の変動 |
| 価格時点 | 賃料増減請求に係る賃料改定の基準日 |
| 暫定賃料 | 増額の場合は賃借人が相当と認める額を支払う |
論文式試験
論点1:賃料増減額請求における継続賃料の評価方法。 4手法の適用と総合的勘案事項を論述する問題です。
論点2:価格時点と直近合意時点の関係。 両者の設定方法と分析期間の考え方を論じる問題です。
まとめ
賃料増減額請求は、借地借家法に基づき地代又は家賃が不相当となった場合に認められる制度であり、不動産鑑定評価は適正な賃料水準の判断根拠として重要な役割を果たします。継続賃料の4手法を適用し、直近合意時点から価格時点までの要因変動を総合的に勘案して適正な賃料を求めます。