不動産鑑定における価格時点とは?設定の考え方
鑑定評価の基準日となる「価格時点」はどう決まる?相続は死亡日、地価公示は1月1日、賃料は期首など、依頼目的別の設定ルールを一覧で整理。過去時点の2つの条件や将来時点が原則禁止される理由も、鑑定評価基準の規定に沿って解説します。
この記事の位置づけ
本記事は価格時点をどう設定するかという実務的な判断に絞って解説します。価格時点の意義・過去時点/将来時点の扱い・鑑定評価を行った年月日との区別といった基礎から全体像は 価格時点とは?意義と過去・将来時点の選択方法 を先にご覧ください。
価格時点の設定とは
価格時点は鑑定評価の基本的事項の一つであり、不動産の価格の判定の基準日です。価格時点をいつに設定するかは、鑑定評価の依頼目的や利用目的に応じて決定されます。
本記事では、価格時点の意義を解説した価格時点の意義と選択方法を補完し、実務的な設定の考え方に焦点を当てて解説します。
本記事の役割
本記事は価格時点の設定の実務を扱います。価格時点の意義と、過去時点・将来時点を選択する場合の考え方は 価格時点とは?意義と過去・将来時点の選択方法 を参照してください。
依頼目的に応じた価格時点の設定
主な依頼目的と価格時点
| 依頼目的 | 価格時点の設定 | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| 売買の参考 | 鑑定評価日又は依頼日 | 現時点の市場価格を把握するため |
| 相続税申告 | 被相続人の死亡日 | 相続税法上の課税時点 |
| 離婚の財産分与 | 離婚時又は別居開始時 | 財産分与の基準時 |
| 損害賠償訴訟 | 損害発生時又は裁判所指定日 | 損害額算定の基準時 |
| 担保評価 | 鑑定評価日 | 融資判断時点の価格 |
| 地価公示 | 毎年1月1日 | 法定の基準日 |
| 都道府県地価調査 | 毎年7月1日 | 法定の基準日 |
| 固定資産税評価 | 賦課期日(1月1日) | 法定の基準日 |
| 会計上の時価評価 | 決算日 | 会計基準に基づく |
| 賃料増減請求 | 賃料改定の基準日 | 借地借家法の規定 |
現在時点の設定
現在時点とは
現在時点とは、鑑定評価を行った年月日と一致又は近接する価格時点です。最も一般的な価格時点の設定です。
設定の実務
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設定日 | 鑑定評価日、依頼日、実地調査日のいずれかが多い |
| 資料の入手 | 価格時点における最新の資料を入手可能 |
| 対象不動産の確認 | 直接的な確認が可能 |
| 信頼性 | 最も信頼性の高い評価が可能 |
過去時点の設定
過去時点が必要な場面
過去時点の鑑定評価が必要となる主な場面は以下のとおりです。
| 場面 | 過去時点の例 |
|---|---|
| 相続 | 相続開始日(死亡日)が過去の場合 |
| 損害賠償 | 損害発生日が過去の場合 |
| 税務更正 | 申告時点の不動産価格の再評価 |
| 裁判 | 係争の基準日が過去の場合 |
過去時点の制約
過去時点の鑑定評価は、対象不動産の確認等が可能であり、かつ、鑑定評価に必要な要因資料及び事例資料の収集が可能な場合に限り行うことができる。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第2節(留意事項)
| 制約条件 | 内容 |
|---|---|
| 対象不動産の確認 | 過去時点における対象不動産の状態を把握できるか |
| 要因資料 | 過去時点における価格形成要因の資料が入手できるか |
| 事例資料 | 過去時点における取引事例等が収集できるか |
事情変更のある場合
価格時点から鑑定評価を行う時点までの間に対象不動産やその近隣地域等に変化がある場合は、価格時点に近い時点の確認資料等をできる限り収集し、それを基礎に判断すべきとされています。
将来時点の設定
将来時点の原則禁止
将来時点の鑑定評価は、対象不動産の確定、価格形成要因の把握、分析及び最有効使用の判定についてすべて想定し、又は予測することとなり、また、収集する資料についても鑑定評価を行う時点までのものに限られ、不確実にならざるを得ないので、原則として、このような鑑定評価は行うべきではない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第2節(留意事項)
例外的に認められる場合
特に必要がある場合で、鑑定評価上妥当性を欠くことがないと認められるときは、将来の価格時点を設定することができます。
| 例外が考えられる場面 | 内容 |
|---|---|
| 開発事業の完了時 | 造成完了後の土地の価格 |
| 建築完了時 | 竣工後の建物及びその敷地の価格 |
| 計画的な利用変更 | 用途変更後の価格 |
ただし、これらの場合でも不確実性は避けられないため、その旨を鑑定評価報告書に記載する必要があります。
賃料の価格時点
賃料特有の設定方法
賃料の価格時点は、賃料の算定の期間の収益性を反映するものとしてその期間の期首となる。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第2節
賃料は一定期間の使用収益の対価であるため、その算定期間の期首が価格時点となります。
継続賃料の価格時点
借地借家法に基づく賃料増減額請求の場合、価格時点は賃料増減請求に係る賃料改定の基準日です。
価格時点の設定における留意点
依頼者との合意
価格時点の設定は、依頼者との間で合意したうえで行います。依頼者が特定の価格時点を指定する場合には、その妥当性を確認する必要があります。
資料の時間的整合性
鑑定評価に用いる各種資料は、価格時点における状態を反映したものでなければなりません。
依頼目的別・価格時点の設定早見表
価格時点は鑑定士が任意に決めるものではなく、依頼目的から自動的に決まるのが実務です。代表的な目的と対応する価格時点を整理します。
| 依頼目的 | 価格時点 | 分類 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 売買の参考 | 実地調査完了日など | 現在時点 | 現時点の市場価値を知りたい |
| 担保評価 | 調査日 | 現在時点 | 現在の担保価値を把握する |
| 相続税申告・遺産分割 | 被相続人の死亡日 | 過去時点 | 相続開始日の財産価額が課税対象 |
| 離婚に伴う財産分与 | 別居日・調停日など | 過去時点 | 財産関係を確定する時点 |
| 訴訟における損害額の算定 | 損害発生日 | 過去時点 | その時点の価値が損害の基礎 |
| 現物出資 | 出資日 | 現在時点 | 出資時の財産価額 |
| 減損会計・時価開示 | 決算日 | 過去時点 | 会計基準上の基準日 |
| 借地借家の賃料改定 | 改定を求める時点 | 現在時点 | 継続賃料は直近合意時点も併せて重要 |
| 開発事業の採算検討 | 開発完了予定日 | 将来時点(例外的) | 完成後の価値が判断材料 |
過去時点の設定が実務では非常に多いという点が実感しにくいところです。相続・離婚・訴訟といった法律関係が絡む案件では、法律上の基準日がそのまま価格時点になります。
過去時点を設定する場合の実務上の制約
過去時点の評価は「昔の価格を調べる」ことではなく、その時点に立ち戻って評価を組み立て直す作業です。次の制約が生じます。
1. 価格形成要因は価格時点のものを把握する
現在の要因ではなく、価格時点における一般的要因・地域要因・個別的要因を把握します。当時の地価水準、当時の用途地域、当時の建物の状態がすべて対象です。
2. 取引事例も価格時点前後のものを用いる
価格時点より後の取引事例は、原則として用いることができません。価格時点の時点では存在しなかった情報だからです。
3. 事後的に判明した事実を織り込まない
価格時点より後に起きた出来事(地価の急騰、災害、法改正など)を評価に反映してはなりません。「結果的にこうなった」という後知恵を持ち込むと、価格時点の意味が失われます。
4. 対象不動産の状態も価格時点で確定する
価格時点より後に行われた増改築、用途変更、権利関係の変動は考慮しません。相続税申告のための評価で、相続開始後に建物を取り壊していた場合でも、相続開始日には建物が存在していた前提で評価します。
この4点は、実務上も試験上も混同されやすい部分です。過去時点評価では現在の情報を遮断するという意識が必要になります。
過去時点の鑑定評価では、価格時点より後に発生した取引事例も参考資料として用いることができる。
現在時点における「調査日」と価格時点の関係
現在時点の評価であっても、価格時点を具体的にいつに置くかは確定が必要です。実務上は実地調査を完了した日を価格時点とすることが多くあります。
ただし、次の点に注意が必要です。
- 調査から鑑定評価書の作成までに期間が空く場合、その間の市場変動は評価に反映されない
- 価格時点以降に生じた事象は、鑑定評価書に記載する場合でも価格には織り込まない
- 依頼者が特定の日を価格時点として指定する場合、それが現在時点として妥当かを検討する
「鑑定評価書を作成した日」と「価格時点」は別のものです。両者を混同する選択肢は誤りになります。
よくある質問(FAQ)
Q. 価格時点は依頼者が指定できますか
依頼目的に応じて協議のうえ確定します。多くの場合、相続開始日や損害発生日のように法律関係から自動的に決まります。依頼者の希望だけで恣意的に設定できるものではありません。
Q. 過去時点はどこまで遡れますか
制度上の上限はありませんが、遡るほど価格形成要因の把握と資料収集が困難になり、精度が落ちます。取引事例も価格時点前後のものが必要なため、極端に古い時点では信頼性が下がります。
Q. 将来時点はどのような場合に設定できますか
「特に必要がある場合」で、かつ「鑑定評価上妥当性を欠くことがないと認められるとき」の両方を満たす場合に限られます。原則として行うべきではないとされている点を押さえてください。
Q. 相続開始後に建物を取り壊した場合はどう評価しますか
相続開始日(価格時点)には建物が存在していた前提で評価します。価格時点より後の事情は考慮しません。過去時点評価の基本原則です。
Q. 価格時点と時点修正の違いは何ですか
価格時点は「いつの価格を求めるか」という基準日、時点修正は「取引事例の価格を価格時点の水準へ引き直す手続き」です。前者は総論第5章(基本的事項)、後者は総論第7章(方式)の論点です。詳しくは時点修正とはを参照してください。
Q. 賃料の場合も価格時点といいますか
賃料の場合も基準日の確定は必要です。加えて継続賃料では、当事者が現行賃料について合意した直近合意時点が重要な基準時になります。詳しくは差額配分法とはを参照してください。
試験での出題ポイント
短答式試験
| 出題パターン | 正しい理解 |
|---|---|
| 相続の価格時点 | 被相続人の死亡日 |
| 地価公示の価格時点 | 毎年1月1日 |
| 賃料の価格時点 | 賃料算定期間の期首 |
| 過去時点の条件 | 確認と資料収集が可能な場合に限り行える |
| 将来時点の原則 | 原則として行うべきではない |
論文式試験
論点:依頼目的に応じた価格時点の設定。 各依頼目的における適切な価格時点の設定方法を論述する問題です。
まとめ
価格時点の設定は、鑑定評価の依頼目的に応じて適切に行う必要があります。現在時点が最も一般的ですが、相続や裁判では過去時点の設定が必要となり、賃料増減請求では賃料改定の基準日が価格時点となります。将来時点は原則禁止ですが、例外的に認められる場合もあります。
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