不動産鑑定の比準価格とは?求め方と活用場面
比準価格は取引事例比較法により市場性に着目して求める試算価格。多数の事例を収集し、事情補正・時点修正・地域要因の比較・個別的要因の比較の4ステップで算定します。事例選択の4要件(所在・事情・時点・比較)、配分法の活用、住宅地やマンションで高い有効性を持つ理由まで解説します。
比準価格とは
不動産鑑定評価における比準価格とは、取引事例比較法を適用して求められる試算価格です。不動産鑑定士試験では、三方式の中でも取引事例比較法の適用手順が最も詳細に問われるため、比準価格の理解は合格のために不可欠です。
取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を比準価格という。)。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
比準価格が着目する性格
比準価格は、不動産の市場性に着目し、類似の不動産の実際の取引価格を手掛かりにして対象不動産の価格を求めるものです。市場における実際の取引データに基づくため、市場の実態を反映した説得力の高い試算価格が得られます。
取引事例比較法の適用手順
手順の全体像
- 事例の収集 ― 多数の取引事例を幅広く収集
- 事例の選択 ― 4つの要件を満たす適切な事例を選択
- 事情補正 ― 特殊な事情が取引価格に影響している場合の補正
- 時点修正 ― 取引時点と価格時点の価格水準の変動の修正
- 地域要因の比較 ― 事例の存する地域と近隣地域の比較
- 個別的要因の比較 ― 事例に係る不動産と対象不動産の比較
- 比準価格の算定 ― 比較考量して試算価格を求める
取引事例の選択要件
取引事例は、次の要件の全部を備えるもののうちから選択します。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 所在の要件 | 近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等に存する不動産に係るもの |
| 事情の要件 | 取引事情が正常なもの、又は正常なものに補正できるもの |
| 時点の要件 | 時点修正をすることが可能なもの |
| 比較の要件 | 地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なもの |
事情補正
取引事例に特殊な事情が含まれ、取引価格に影響を及ぼしている場合には、適切な補正が必要です。
| 補正の方向 | 特殊な事情の例 |
|---|---|
| 減額すべき場合 | 営業上の場所的限定、特異な市場条件下の取引、中間利益目的の取引等 |
| 増額すべき場合 | 売主の知識・情報不足による過少取引、売り急ぎ等 |
| 減額又は増額 | 恩恵的取引、不相応な造成費の考慮、競売・公売等 |
時点修正
取引時点と価格時点の間に価格水準の変動がある場合には、時点修正が必要です。時点修正率は、取引事例の分析、一般的要因の動向、地価公示等の資料を総合的に勘案して求めます。
地域要因の比較と個別的要因の比較
取引事例に係る不動産が近隣地域に存する場合には個別的要因の比較のみを行い、類似地域等に存する場合には地域要因の比較と個別的要因の比較の双方を行います。
取引事例比較法が有効な場合
取引事例比較法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不動産の取引が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の取引が行われている場合に有効である。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
| 不動産の類型 | 比準価格の有効性 | 理由 |
|---|---|---|
| 住宅地の更地 | 高い | 取引事例が豊富 |
| 分譲マンション | 高い | 取引事例が豊富で比較が容易 |
| 商業地 | 中〜高 | 事例が得られれば有効 |
| 特殊用途不動産 | 低い | 類似事例が乏しい |
| 賃貸用不動産 | 中程度 | 市場性の検証として有効 |
配分法による比準価格
配分法は、取引事例が対象不動産と異なる類型の不動産(複合不動産等)である場合に、その取引価格から対象不動産と同類型の部分の価格を抽出する方法です。
例えば、更地の比準価格を求める場合に、建物及びその敷地の取引事例から土地部分の価格を配分して取引事例資料とすることができます。
比準価格が効く市場・効かない市場
取引事例比較法は「似た不動産がいくらで取引されたか」を基礎にする手法ですから、その基礎が存在するかどうかで信頼性が決まります。ここを意識せずに適用すると、形の上では比準価格が出ていても、中身が伴いません。
力を発揮する条件
| 条件 | なぜ効くのか |
|---|---|
| 取引が継続的に発生している | 価格時点に近い事例が得られ、時点修正の負担が小さい |
| 同種・同規模の不動産が多い | 個別的要因の補正が小さくて済む |
| 取引当事者が多様で市場が競争的 | 個々の取引の特殊事情が価格に反映されにくい |
| 取引条件の情報が得られる | 事情補正の要否を判断できる |
住宅地の標準的な戸建用地や、区分所有マンションの一室は、この条件をよく満たします。比準価格が最も信頼できるのはこの領域です。
機能しにくい場面
逆に、次のような場面では比準価格の精度が落ちます。
| 場面 | 何が起きるか | 対応 |
|---|---|---|
| 取引が極端に少ない地域 | 事例が古くなり、時点修正の幅が大きくなる。修正が大きいほど不確実性が増す | 同一需給圏内の類似地域まで範囲を広げる。他手法の比重を上げる |
| 特殊な用途の不動産(工場、病院、ホテル等) | 類似事例がほぼ存在せず、あっても個別性が強すぎて比較できない | 収益還元法・原価法を主とする。代替競争不動産の検討 |
| 大規模な画地 | 取引の絶対数が少なく、規模による格差の把握も難しい | 開発法の併用。規模格差の根拠づけを厚くする |
| 市場が急変した局面 | 過去の事例が現在の市場を反映しない。時点修正で埋めきれない | 価格時点直近の事例を優先。市場参加者の動向を直接確認 |
共通する原則は一つです。 補正が大きくなるほど、比準価格の信頼性は下がります。事例が古ければ時点修正が大きくなり、離れた地域なら地域要因の比較が大きくなり、性格が違えば個別的要因の比較が大きくなる。どの補正であっても、大きいことは弱点の表明です。
事例が集まらないときにやってはいけないこと
事例が乏しい場合に起こりがちな誤りを挙げておきます。
- 無理に事例数を揃えるために、代替関係のない事例を採用する――同一需給圏の外の事例は、そもそも比較の前提を欠いています
- 著しく古い事例を大きな時点修正で使う――修正が大きいほど、修正率そのものの誤差が価格に効いてきます
- 特殊な事情のある取引を、事情補正で押し込んで使う――事情補正は「正常な価格に引き直せる」場合にのみ可能であり、引き直せない事例はそもそも採用しないのが原則です
3つ目が最も重要です。競売、親族間売買、売り急ぎといった事情のある取引は、補正の余地がある場合に限って使えるにすぎません。補正できない事例は、採用しないという判断が正しい対応です。事情補正の考え方は事情補正の具体例で扱っています。
結局どう判断するか
比準価格を求めたあと、次の3点を自分に確認してください。
- 採用した事例は、対象と代替関係にあるか(同一需給圏の内側か)
- 補正の合計はどの程度か。大きい場合、その根拠を説明できるか
- 補正後の単価は事例間で収束しているか。していないなら、何が原因か
この3つに答えられない比準価格は、試算価格の調整の場面で重みを置くべきではありません。手法を適用したことと、その結果を信頼できることは別です。
比準価格と試算価格の調整
試算価格の調整において、比準価格の説明力は事例の質と量に大きく左右されます。
| 説明力を高める要素 | 説明力を低下させる要素 |
|---|---|
| 信頼性の高い事例が複数得られた | 事例数が少ない |
| 対象不動産との類似性が高い | 事情補正の精度が低い |
| 時点修正の根拠が明確 | 取引時点が古い |
| 地域要因・個別的要因の比較が精緻 | 要因比較の根拠が不十分 |
比準価格を最初から最後まで計算する
手順を覚えても、数値を入れて通しで解けなければ演習で得点になりません。3事例から比準価格を求める例を示します。
前提
対象不動産:近隣地域に存する住宅地の更地・150㎡
| 事例 | 取引価格 | 面積 | 単価 | 所在 | 事情 | 取引時点 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A | 45,000千円 | 150㎡ | 300千円/㎡ | 近隣地域 | 正常 | 1年前 |
| B | 55,200千円 | 160㎡ | 345千円/㎡ | 類似地域 | 買い進み15% | 6ヶ月前 |
| C | 40,000千円 | 160㎡ | 250千円/㎡ | 類似地域 | 正常 | 2年前 |
補正・修正の条件:年間の地価変動率 +4%、類似地域の地域要因は近隣地域を100として事例B=105・事例C=95、個別的要因は対象を100として事例A=98・事例B=102・事例C=96。
事例Aの比準
事例Aは近隣地域に存するため、地域要因の比較は不要(100/100)です。ここは頻出の引っかけです。
事例Bの比準
買い進み15%のため事情補正は100/115(減額)、6ヶ月なので時点修正は年4%の半分=2%です。
事例Cの比準
2年経過なので時点修正は 1.04 × 1.04 = 1.0816。単純に8%とするのは誤りです。
比較考量して比準価格を決定する
| 事例 | 比準単価 | 評価 |
|---|---|---|
| A | 318千円/㎡ | 近隣地域・正常事情・時点も新しく、最も信頼性が高い |
| B | 285千円/㎡ | 事情補正が大きく、精度に不安 |
| C | 296千円/㎡ | 取引時点が2年前で修正幅が大きい |
3つの試算値を単純平均するのではなく、各事例の信頼性を考慮して比較考量します。ここでは事例Aを重視して310千円/㎡と判定すると、
「比較考量」は平均を取ることではない、という点が基準の求めるところです。信頼性の低い事例を同じ重みで扱うと、かえって精度が落ちます。
取引事例が近隣地域に存する場合であっても、地域要因の比較を行う必要がある。
誤りやすいポイント
| 誤り | 何が正しいか |
|---|---|
| 近隣地域の事例にも地域要因の比較を行う | 近隣地域内なら個別的要因の比較のみ |
| 事情補正と時点修正の順序は任意 | 事情補正が先、時点修正が後 |
| 複数年の時点修正は変動率を足す | 掛け合わせる(複利) |
| 各事例の比準価格を単純平均する | 信頼性を考慮して比較考量する |
| 事例は多いほどよい | 要件を満たさない事例は数に関係なく採用しない |
| 配分法は個別的要因の比較の一種 | 異なる類型の事例から同類型部分の価格を抽出する方法 |
| 比準価格は常に最も信頼できる | 事例が乏しい類型(特殊用途等)では説明力が落ちる |
このうち「近隣地域の事例には地域要因の比較を行わない」と「時点修正は複利」の2点は、計算問題・択一問題の双方で繰り返し問われています。
よくある質問(FAQ)
Q. 比準価格と積算価格・収益価格はどう使い分けますか
基準は原則として三方式を併用することを求めています。比準価格は市場性、積算価格は費用性、収益価格は収益性に着目しており、どれか1つが常に優れているわけではありません。対象不動産の類型と資料の得られ方によって、どの試算価格を重視するかが変わります。
Q. 事例はいくつ必要ですか
基準は「多数の取引事例を収集」としており、具体的な数は定めていません。実務上は3事例以上を用いるのが一般的です。ただし、要件を満たさない事例を数合わせで加えるのは誤りです。
Q. 事例の取引時点はどこまで古くてよいですか
時点修正が可能であることが選択要件なので、価格水準の変動を把握できる範囲に限られます。価格変動の激しい局面では1年程度、安定局面でも3年程度が実務上の目安とされます。
Q. 比較考量とは平均を取ることですか
違います。各事例の信頼性(事情補正の大きさ、時点修正の幅、対象との類似性)を評価したうえで、説得力のある試算値に重みを置いて判断します。単純平均は基準の求める方法ではありません。
Q. 配分法はどのような場面で使いますか
更地の比準価格を求めたいが、更地の取引事例が乏しく、建物及びその敷地の事例しかない場合などです。複合不動産の取引価格から土地部分の価格を抽出して事例資料とします。詳細は配分法とはを参照してください。
Q. 代替競争不動産の事例も使えますか
使えます。対象不動産の最有効使用が近隣地域の標準的使用と異なる場合など、近隣地域・類似地域の事例では適切に比較できない場合に、同一需給圏内の代替競争不動産に係る事例を用います。詳しくは同一需給圏とはを参照してください。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 比準価格の定義と取引事例比較法の基本的な考え方
- 取引事例の選択の4要件
- 事情補正・時点修正の意義と具体例
- 取引事例比較法が有効な場合の条件
論文式試験
- 取引事例比較法の適用手順の体系的な論述
- 事情補正の具体的な場面と補正の考え方
- 地域要因の比較と個別的要因の比較の方法
- 比準価格の説明力と試算価格の調整における位置づけ
暗記のポイント
- 着目する性格:「市場性」
- 適用手順:事例収集→選択→事情補正→時点修正→地域要因の比較→個別的要因の比較→比準価格
- 選択の4要件:所在、事情、時点、比較
- 有効な場合:「類似の不動産の取引が行われている場合」
まとめ
比準価格は、取引事例比較法を適用して求められる試算価格であり、不動産の市場性に着目して、実際の取引データから対象不動産の価格を導くものです。多数の取引事例を収集・選択し、事情補正・時点修正・地域要因の比較・個別的要因の比較を経て算定されます。
取引事例が豊富な住宅地やマンションでは特に有効性が高く、市場の実態を反映した説得力のある試算価格が得られます。一方、特殊な用途の不動産では事例の収集が困難となるため、積算価格や収益価格を中心に評価を行うことになります。
関連記事として、取引事例の4つの要件、事情補正とは、時点修正とは、鑑定評価の3手法の比較もあわせて参照してください。
押さえるべき6点
- 比準価格=取引事例比較法による試算価格。着目するのは市場性
- 手順は 収集 → 選択 → 事情補正 → 時点修正 → 地域要因 → 個別的要因 → 比較考量
- 近隣地域の事例には地域要因の比較を行わない(個別的要因のみ)
- 時点修正は複数年なら掛け合わせる(複利)
- 「比較考量」は単純平均ではない。事例の信頼性で重みを置く
- 事例が乏しい類型(特殊用途等)では説明力が落ちる
取引事例比較法を演習で固める
比準価格の計算は、補正の順序・地域要因の要否・複利の扱いという3か所で失点が集中します。実際に数値を動かして手順を体に入れてください。
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